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オープンデータ社会(86)パブリックデータを活用した新たな街づくり

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医療や教育、老朽化するインフラ対策、電力需給への対応、地域活性化など、社会における課題が山積しています。これらの社会課題を解決し社会インフラの高度化や新たな街づくりにつながるパブリックデータの活用のあり方について、注目が集まっています。

パブリックビッグデータとは何か

パブリックデータとは、政府や自治体などが保有する行政情報、医療や教育データ、センサーデータやスマートメータデータなど、行政機関や民間企業などが保有する公共性の高い社会基盤となるデータをここではパブリックデータと定義します。

●行政機関の保有する行政データ

政府や自治体などの公共機関が保有する行政データで、自治体の場合では、住民記録、国民年金などの「住民記録データ」や、個人住民税・固定資産税などの「税に関するデータ」、介護保健・後期高齢者医療・子育て支援医療・児童手当などの「医療・福祉データ」などがあります。

公共機関が保有する情報の多くは非公開のクローズドデータとなり、海外ではPublic Sector Informationと呼ばれています。これらのデータがインターネットを通じて一般に公開され二次利用が可能となれば、オープンデータとなります。

政府や自治体が保有するオープンデータは、民間事業者が提供するオープンデータと区別するために、「オープンガバメントデータ」と呼ばれることもあります。

●医療・健康、教育、農業データ

医療・健康、教育、農業などの公共性の高いデータにも注目が集まっています。これらのデータには、患者の健診・医療データなどの医療・健康データ、学校データや研究データなどの教育データ、そして、農業データなどがあげられます。

農業データの活用では、農産物の生育において、気温、降水量、日照量などの気象条件や土壌と肥料などの農作物の生産環境が影響するため、センサーを農場に配置し、後述するセンサーデータを一定時間ごとに収集・蓄積します。スマートフォンやタブレットなどを使い、農作業履歴の記録・管理、肥料の種類・使用量などの投入資材の記録・管理や、農作物の収穫量の記録・管理などをデータ化すします。

これらのデータを活用することで、生産管理の見直しや生産環境の定量化を行い、ノウハウの共有や農作業における適切な手法の確立により、農産物の生産効率や農産物の品質向上にもつなげていくことができます。気象異常などに異常事態の発生した際にもリスク軽減にも活かすことができると期待されています。

●社会インフラを管理するためのリアルタイムデータ

社会インフラを管理するためのセンサーデータ、スマートメータデータ、プローブデータといった非構造化データされたデータのリアルタイムデータがあげられます。

(センサーデータ)

社会基盤となる公共性の高いデータには、温度・湿度センサー、CO2・花粉センサーといった動的でリアルタイム性の高いストリームデータであるセンサーデータがあげられる。センサーデータは、その他にも加速度・振動センサー、湿度・温度センサー、水分・流量センサー、熱量センサー、濃度・粘度センサー、圧力センサー、ひずみセンサー、光(赤外線)センサー、磁気センサーなどがあります。

センサー技術とワイヤレスネットワークの進展により、ネットワークに繋がる設備や機器が人間を介在せずに相互に情報交換を行う M2M (Machine to Machine) や IoT (Internet of Things) と呼ばれるサービスの利用が様々な分野で進んでいます。

これらの大量のストリームデータを収集しデータを分析することによって、起きている事象をリアルタイムに把握し、農業や都市計画、環境対策、防災、資源管理、危機保全、気象・大気観測、医療、国土保全といった分野において、異常発生予測などの事象予測や新サービスの創出が期待されています。

全国の橋や道路、水道といった社会インフラが一斉に寿命を迎える国土基盤ストックの維持管理や更新費用は今後増加を続け、2020 年には約12 兆円になると予測されており、センサーデータを用いて効率的にインフラの維持管理を行うことが期待されています。

(スマートメータデータ)

家庭内の通信機能を持ったスマートメータ(次世代電力計)がネットワークで電力会社のセンターと接続することによって使用電力の見える化などを実現するスマートグリッド(次世代送電網)も注目されています。スマートメーターは、各家庭に設置された通信機能を備えた電力メーターで、使用電力量の見える化や電力制御ができる。スマートメーターでは通信機能を備えており、電力会社側に使用電力量のデータを一定時間ごとに送信でき、そのデータを消費者が閲覧することができます。

(プローブデータ)

走行中の自動車の位置や速度などのデータである運行情報(プローブデータ)をカーナビなどの車載端末からクラウドを通じて蓄積して解析することで、渋滞や混雑情報のほか、ワイパーから天候情報、ブレーキから渋滞や燃費情報など様々な情報を収集することができます。これらの自動車の移動情報を分析し、例えばおすすめの店舗の案内や、近くの充電スタンドを案内するといったことができるようになるなど、走行支援をするサービスが提供されています。

パブリックデータ活用のための都市オペレーティングシステム

都市部への人口集中が進み、地方においては生活圏を縮小させ規模の経済から街全体を最適化する都市空間のあり方が議論されています。さらに、気候条件や地勢条件、人口分布、産業構造、交通システム、地域のニーズや制約要件など社会における相互の関係性を最大限考慮し、時代の変化にあわせ、住民ニーズと利便性や安全性を高めた街全体の最適化の視点に立った都市設計が求められています。

都市設計にあたっては、標準化された都市インフラの共通プラットフォームとなる「都市オペレーティングシステム:以下都市OS」を整備し、地域の特性に応じた様々なソフトやサービスを提供し、自治体や民間企業、そして住民がこれらを共同利用することで、街の機能の全体最適化を進め、住民の利便性向上や、産業や経済発展につなげていくことが期待されています。

都市空間において、アプリケーションが密接に都市OS上で連携させ、蓄積されたパブリックデータを分析・活用することで、新たな都市機能や都市サービスが享受できるようになるでしょう。

これらのデータ活用のためには、都市OSの共通プラットフォームとして統合のキーとなる人に紐付けられるマイナンバー、企業に紐付けられる企業 ID、さらには「もの」、「場所」、「時間」などの共通化された地域データとしてデータをマネジメントするともにオープン化し、APIなどを通じて二次利用でき、地域の発展や競争力につながる独自のアプリケーションサービスとして展開できる仕組みづくりが重要となっている。

分野別のアプリケーションやサービスでは、防災、エネルギー、医療・教育、農業、交通などが想定されます。これらのサービス創出のためには、地図データや住民データなどの基本となるデータは共通化し、たとえば、防災ではポーリングデータや自治体のハザードマップなど目的別に地域における様々なオープンデータをアドオンしていけるように、効率的なオープンデータによる公開の仕組みづくりも千葉県流山市など一部の自治体では進められています。

さらに、地理情報システム(GIS: geographic information system)や衛星測位などを利用してG空間(地理空間情報)の様々なパブリックデータと連携させた高度利用により、新産業・新サービスの創出や、防災などの活用などの政府が推進するG空間シティ(仮称)への期待も高まっています。

政府が進めるICT街づくり

総務省は2013年6月28日、東日本大震災を踏まえた防災・減災対策、少子高齢化社会への対応、コミュニティの再生などの様々な課題の解決に向けて、センサーやクラウドなどのICTを活用した災害に強く成長するICTスマートタウンの実現に向けた「ICT街づくり推進会議」報告書を公表しました。

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出所:総務省 「ICT街づくり推進会議」報告書 2013.6.28

総務省では、東日本大震災の経験などからICT1を活用した災害に強い街づくりや地域コミュニティ再生のためのICTスマートタウンの実現に向けて、共通IDや地理空間情報、センサーなどのリアルタイムデータやオープンデータの活用、そして、共通プラットフォームの環境整備の重要性を示しています。

総務省が推進する共通プラットフォームとは、行政機関が保有する住基、税、介護などのデータ、病院、交通機関などが保有する医療、交通などのデータ、各種センサーから収集されるリアルタイムデータなどを出来るだけオープンにし、民産学公官が利活用、相互連携するための情報連携基盤と位置づけています。

総務省は2013年6月7日、「平成24年度補正予算「ICT街づくり推進事業」に係る委託先候補の決定」を公表し、北海道から沖縄までの21件が採択されています。

今回の採択事業で特徴的なのは、ICT街づくりにおいて、共通IDなどと連携をしながら、オープンデータや公共分野のビッグデータであるパブリックデータを活用していこうという動きです。

ブロック

代表提案団体

事業名

1

北海道

北海道北見市

地域実証プロジェクト:北見市G空間情報とICTの連携活用事業

2

東北

宮城県大崎市

みちのくの架け橋 人とまち、絆と共にまちなか創生事業~住民サービスIDとM2Mビッグデータを用いたまちなかコミュニティ、暮らし再生~

3

東北

福島県
会津若松市

会津若松市 地域公共ネットワーク基盤構築事業

4

関東

群馬県前橋市

ICTを活用した学びの場の創造と健康を支える環境づくり 「前橋ICTしるくプロジェクト」

5

関東

山梨県
市川三郷町

産学官民協働のICT街づくり -歴史ある地方の街のプラス成長への挑戦-

6

北陸

富山県富山市

コンパクトシティを実現する「富山まちあるきICTコンシェルジュ事業」

7

北陸

石川県七尾市

ななおICT利活用の高齢者・来訪者などに優しく住みたい街づくり事業

8

東海

三重県玉城町

ICTを利活用した安心・元気な町づくり事業

9

近畿

大阪府箕面市

ICTを通じた地域と教育の再生事業

10

近畿

兵庫県淡路市

地域住民の生活利便性を向上する淡路ICTスマートアイランドプロジェクト

11

近畿

奈良県葛城市

新時代葛城クリエーション推進事業

12

中国

鳥取県米子市

よなごスマートライフ・プロジェクト推進事業

13

中国

岡山県真庭市

真庭の森林を生かすICT地域づくりプロジェクト

14

四国

徳島県

放送と通信の融合による、地域力・地域連携を活かした災害に強い徳島プロジェクト

15

四国

愛媛県松山市

松山市 健康・観光街づくり
「スマイル 松山プロジェクト」

16

四国

愛媛県新居浜市

IDを利活用したバリアフリー観光・移動、避難・救護システム

17

九州

福岡県糸島市

ICTを活用した見守りの街糸島

18

九州

佐賀県唐津市

唐津ブランド戦略支援型、防災・減災システム

19

九州

佐賀県武雄市

オープンデータシティ武雄の見える化とエコシステムによる農業活性化

20

沖縄

沖縄県名護市

おきなわICT Smart Hub タウンモデル構築及びASEAN地域への展開事業

21

沖縄

沖縄県久米島町

豊麗のしま - 久米島地域経済活性化プロジェクト

出所:総務省報道発表資料 2013.6.7

新たな街づくりのためのニーズ、価値の高いデータの活用

日本経団連が2013年3月に公表した「公共データの産業利用に関する調査結果」では、公共データの種別のニーズでは、地図・地下(59件)、交通(43件)、防災・保安・安全(38件)に関するデータ、医療・介護(30件)、統計・調査(30件)が上位となっています。

また、2013年6月に英国で開催されたG8サミットにおいて、「オープンデータ憲章」への合意が発表され、G8各国が公開すべき「価値の高いデータ」として、地球観測、教育、エネルギーと環境、地理空間、健康、統計、科学と研究など14分野のデータが明記されています。

これらのニーズの高い、価値の高いデータを地域の街づくりのどのように利活用し、社会問題の解決、地域活性化や地域経済の発展、さらには新たな付加価値の創出(コトづくり)につなげていけるのか、今後の街づくりにおいて、パブリックデータ活用は重要なテーマの一つとなっていくでしょう。

 

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