オープンデータ社会(41)公共インフラの維持管理とデータ活用
今回は、データを活用した公共インフラの維持管理について焦点をあててみたいと思います。
深刻化する公共インフラの老朽化
政府や自治体などが管理する全国の道路・鉄道・橋などの公共インフラは、1995年からの高度経済成長期に建設されたものが多く、2029年には道路橋や河川管理施設の約51%が建設後50年を超える状況となります。
社会資本整備重点計画の見直し 2010年8月
http://www.mlit.go.jp/common/000121192.pdf
2012年12月の笹子トンネル天井大崩落事故のように、老朽化に伴うインフラ事故が目立ってきており、安全性を維持するために更新投資を行う必要が出ています。安全性に不安があり通行止めになっている道路橋は、2012年4月時点で、全国で217ヶ所、通行規制されている道路橋は1161ヶ所となっており、4年前と比べて7割以上も増えています。
国土交通基盤のストックの維持管理や更新費用はこの先増加を続け、2020年には約12兆円、2030年には現在の約2倍となる18兆円近くに達すると予測しています。国土交通省では、今後50年間に必要なインフラの更新費用は190兆円に達すると推計しています。
「国土の長期展望」中間とりまとめ 2011年2月21日
http://www.mlit.go.jp/common/000135837.pdf
現在の政府や自治体の財政状況を考えると、財源には限りがあり、公的部門のインフラ投資は抑制傾向にある中で、増加する更新投資への対応は極めて厳しい状況といえます。
日本の場合、山の多い国土条件のため、道路整備を行う場合の橋梁やトンネルなどの構造物比率はフランスが2.6%に対して、日本は24.6%となっているように極めて高い状況となっています。
第7回経済財政諮問会議 2013.3.26 地域の活性化
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2013/0326/shiryo_04.pdf
公共インフラの予防保全
国土交通省では、予防保全の取組みを行うことで、2060までに必要とされる更新費190兆円のうち、約30兆円が約6兆円まで削減できるように、従来通りの維持管理・更新をした場合とくらべて、インフラ更新投資の延長が可能であると試算しています。
社会資本整備重点計画の見直し 2010年8月
http://www.mlit.go.jp/common/000121192.pdf
予防保全のためのデータ活用
国土交通省は2013年3月21日、「社会資本の維持管理・更新に関し当面講ずべき措置」を公表し、維持管理・更新に係る情報の整備として、地理空間情報を活用したプラットフォームの活用や、道路(橋梁)や河川、ダムといった運用中のデータベースの改善、充実、活用・共有化、道路(トンネル)や中小鉄道事業者などの新規データベースの構築などに関する工程表を示しています。
国土交通省では自治体など協力して、道路や下水道、湾岸などを2014年3月までに総点検し、その結果をデータベースにまとめ、定期点検する際の新たな基準も作成する予定です。
国土交通省 社会資本の維持管理・更新に関し 当面講ずべき措置 2013年3月21日
http://www.mlit.go.jp/common/000991905.pdf
また、新技術の開発・導入などにおいては、IT等を活用したインフラ維持管理のイノベーションの推進として、モニタリング技術等の維持管理システムについて、社会資本管理ニーズを踏まえたIT等の先端的技術の適用性等の検討を行い、インフラでの実証等により検証するとしています。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai6/siryou04.pdf
国土交通省では、「国道(国管理)の維持管理等に関する検討会」を開催し、点検・診断・計画策定・予防保全といったサイクル全体を技術開発やデータベースを活用することで機能させていくことの必要性を示しています。
国道(国管理)の維持管理等に関する検討会 2013.3.14
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/road_maintenance/pdf/38.pdf
国土交通省では、橋梁の効率的な維持管理を行うために自治体と連携して「全国道路橋データベースシステム」の構築を進めています。
国道(国管理)の維持管理等に関する検討会 2013.3.14
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/road_maintenance/pdf/38.pdf
データベースシステムの特徴は、国内におけるすべての道路橋を対象とし、橋梁に個別IDを付与し、橋長や橋梁形式といった橋梁諸元情報の他、点検結果なども登録・閲覧ができるようになっています。
このデータベースの活用例としては、災害発生時に支援者が橋梁の基礎的データを容易に入手したり、ある形式の橋梁に不具合が発生した場合に、類似の橋梁に関する情報が検索するといったことができるようになります。
公共インフラ維持管理のためのセンサーデータの活用
公共インフラは、センサーなどで常時監視とデータ収集を行い、蓄積したインフラデータベースをデータマイニングやパターンと照合し、設備損傷度判定や損傷個所詳細分析といった評価を行うことで、構造物の劣化状況などの問題点や危険度を割り出します。これらの評価をもとに、最適な更新投資を行うことで、社会インフラを効率的に維持し、財源コストを低減させることが期待されています。
センサデータやオープンデータを活用したインフラ維持管理の事例をご紹介します。
事例①:東京ゲートブリッジの維持管理
2012年2月に開通した東京港臨海道路にかかる「東京ゲートブリッジ」の橋梁には48個のセンサーが取り付けられ、一秒あたり約2800のデータを測定しています。これにより、橋のひずみや振動、そして傾斜などを常時検出し、リアルタイムに異動自動検知することができ、事故発生前などに補修維持管理が可能となります。
東京ゲートブリッジ 《写真提供》東京都港湾局
http://www.kouwan.metro.tokyo.jp/photogallery/gatebridge_photo/gate2.JPG
また、構造物劣化診断(ヘルスモニタリング)など橋の状況や経年変化の予測を行うことができ、点検保守など保守計画の策定にも活用することができます。被害が発生した場合でも、異常箇所を検知していため、スムーズな復旧が可能となり、国民にも適切に情報を通知することで、混乱も低減することができます。
橋梁の点検は、これまで経験の積んだ点検者の目視確認や監視者などの判断による暗黙知などが、データ化されることでノウハウとして共有できるようになります。
さらに、橋を追加する車両の重さを算出し、過集積のトラックを遠隔監視することも可能となります。
センサーによるインフラの維持管理は、事故の未然防止や、インフラの長寿命化、保安要員不足の解消、コストの軽減などインフラ管理の安全性、信頼性、効率性の向上につながります。
事例② EYE on EARTH
EUでは32カ国がセンサーで測定している水質情報や大気情報をマップに表示すし市民に情報を提供するとともに、市民が5段階でその場所の環境を評価してレポートし共有できる「EYE on EARTH」を提供しています。
EYE on EARTHは、こういった環境に関する情報をオープンに共有することで、環境問題を共有し、環境を政策立案などを通じて改善していくことを目的としています。
EYE on EARTHでは、マップの作成やデータベースへのアクセス、空間情報のコンテンツ管理などを行うことができ、個人での利用からグループ、そしてオープンな情報公開など、利用用途に応じて様々な範囲で共有をすることができます。
事例:地域の問題を共有する「fix my street」
公共インフラの維持管理にあたっては、市民の目による情報提供も重要な役割を担うようになっています。
英国では、チャリティ団体My Societyの運営により、落書きや不法投棄、壊れた舗装などの情報を地域住民がオンライン地図に登録し行政に知らせる「fix my street」の取り組みが行われています。周辺地域で起こっている他の問題、解決された問題などを閲覧することができます。
日本では、Fix MyStreetJapanが運営し、不法投棄、落書き、違法ポスター、道路の陥没、街灯の故障といった情報が市民により投稿されています。
千葉では、Internationak Open Data Day 2013のプレイベント(2013.2.21)において、千葉駅周辺で3チームに分かれて、54件の投稿を行っています。
こういった状況の流れを受け、千葉市では、市のホームページにおいて、Fix My Street と同様なICTの仕組みを活用する手法を体制づくりも踏まえ検討中であることを明記しています(市ホームページ)。
こういった市民の目が広がれば、より効率的な維持管理ができるようになるでしょう。
公共インフラ維持管理のためのオープンデータ活用
地域の公共インフラの維持管理のためには、データの公開も重要となります。たとえば、地方自治体などの行政機関では、道路・橋梁・公共施設などの公共インフラの仕様や寿命などを示す工学データ、資産・負債などの財務データ、保守保全情報、稼働実績、公共インフラに設置されたセンサーデータなどを保有しています。
これらのデータを公開することで、民間事業者が公共施設の維持管理や運営権取得時においての事業採算性の検討、公共施設のリニューアル需要の予測や真意事業の提案といったように、民間事業者や保険会社の参入による公共インフラ維持に関する市場も生まれてくると考えられます。
公共インフラは、政府や自治体が運営するだけでなく、民間事業者のノウハウを活用し、運営権などを民間企業に委託し、その収入をインフラ更新費用に積み立てるといったことも必要となります。そのためには、政府や自治体が公共インフラの維持管理に関するデータを積極的に公開し、民間企業が積極的に事業に参画できるようにし、サービス品質の向上と経費抑制につなげていくといったことが重要となっていくでしょう。
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