オープンデータ社会(5)米国政府におけるビッグデータ関連政策
米国政府におけるビッグデータの取り組みについて紹介します。米国政府は2012年3月29日、政府機関におけるビッグデータの活用を促進するため、「ビッグデータ研究開発イニシアティブ(Big Data Across the Federal Government)」を公表しました。
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/microsites/ostp/big_data_press_release_final_2.pdf
本イニシアティブは、昨年の大統領科学技術諮問委員会(President’s Council of Advisors on Science and Technology、PCAST)のビッグデータ関連技術に対する政府投資への投資を強化すべきであるという提言に応える形で策定されています。
本イニシアティブの発表時に、大統領補佐官でホワイトハウス科学技術政策室(OSTP)室長のジョン P.ホルドレン博士は「過去に連邦政府が実施した情報技術分野の研究開発投資は、スーパーコンピュータの発展やインターネットの開発に大きく貢献した。今回のイニシアティブも同様に、科学的発見や環境および生物医学研究、教育、国家安全保障におけるビッグデータの活用を大きく進展させるだろう」と述べ、ビッグデータ関連の研究開発を、インターネットのスーパーハイウェイ構想と同様に革命的な効果を持つとし、さらに、米国の国際競争力強化につながる重要な戦略として位置づけています。
本イニシアティブは米国科学技術政策局(OSTP)を中心に、米国国防総省(DoD)・米国国立衛生研究所(NIH)・米国国立科学財団(NSF)・米国エネルギー省(DoE)、米国地質調査所(USGS)の6つの政府機関により、
①膨大な量のデータ管理や分析を必要とする最先端中核技術の発展の促進
②これらの技術を科学や工学分野における発見、国家安全保障の強化、教育等への寄与
③ビッグデータ技術分野の人材育成の達成
を目的とし、巨大なデジタルデータの組織化やそこからの知識抽出を行うための技術やツールの開発など、ビッグデータに関して米政府全体で2億ドル(185億円相当)を超える研究開発予算を充てています。
米国科学技術政策局(OSTP)はイニシアティブ発表の同日、米国連邦政府のビッグデータに関する「ファクトシート」を公表しました。
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/microsites/ostp/big_data_fact_sheet_final.pdf
OSTPは、この公表資料で、現在進行中である政府関連プロジェクトを一覧化しています。各政府機関の主なビッグデータに関するプロジェクトは以下のとおりとなります。
国立科学財団(National Science Foundation、NSF)
・カリフォルニア大学バークレイ校を拠点とする1,000万ドルの研究プロジェクト
・地球科学者が地球についての情報にアクセスし、分析し、情報を共有するための「Earth Cube」のプロジェクト支援のための助成金
・データサイエンティスト育成のための大学プログラム
国立衛生研究所(National Institutes of Heath、NIH)
Amazon.comとの共同により、200テラバイトにものぼる1,000のゲノムプロジェクトの世界最大規模のデータがAmazon Web Services(AWS)のクラウド上で研究者は自由にアクセスできる。世界の75以上の大学や企業が参加する、遺伝子調査プロジェクト
エネルギー省(Department of Energy、DOE)
2,500万ドルかけて、「SDAV」(Scalable Data Management,Analysis and Visualization)という研究機関を設立。科学者がデータの管理・解析・可視化の行えるツールを開発する。
国防総省(Department of Defense、DOD)
ビッグデータの新規研究プロジェクトに6,000万ドルを投資
ビッグデータを利活用し、自立型ロボットシステムを構築することを目標の1つにビッグデータに関するオープンコンテストを継続的に開催
国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency、DARPA)
年間2,500万ドルを4年かけて投資予定の「XDATA program」を実施し、テキスト文書やメッセージ・トラフィックなど非構造データを含めた大規模データを解析するためのプログラムツールを開発
アメリカ地質調査所(US Geological Survey、USGS)
地球システム科学に関するビッグデータを分析ができる場を科学者に提供する
OSTPの政策担当副ディレクターのTom Kalil 氏は、各政府機関のビッグデータの取り組みに対して、たとえば、NIHのゲノムプロジェクトではAmazonが協力しているように、民間企業や大学、非営利団体への積極的参画を呼びかけています。
政府機関での課題解決におけるビッグデータ活用
米国ではその他の政府機関においてもビッグデータの活用の取り組みを進めています。米エンタープライズ向けIT情報サイトのCTO Labsは2012年11月20日、政府機関において、直近の課題の解決に重点を置き、新しいビジネスプロセスや技術、分析機能の強化による新たなアプローチなど、革新的なビッグデータに関する取り組みを表彰する「Government Big Data Solutions Award」に、米国立がん研究所(NCI)のフレデリック国立研究所が受賞したことを発表しました。
受賞の理由は、フレデリック国立研究所では、遺伝子とがんとの関連に関する研究のために「Cloudera Distribution of Apache Hadoop」(CDH)と「Oracle Big Data Appliance」をベースとした先端システムの研究とワーキングプロトタイプを構築した点や、生物情報学においてほかの分野においても課題解決に活用できると評価されています。
今回の受賞候補にはNCIのほかに、米退役軍人健康局、航空宇宙局(NASA)、造幣局、陸軍資材体系解析局(AMSAA)がノミネートされているなど、政府機関においてもビッグデータ活用が始まっています。
米国政府機関のビッグデータ活用は十分ではない
米国政府がビッグデータに関する研究開発に予算を投じ、一部の政府機関でも活用が始まる一方で、各政府機関のビッグデータの活用が十分になされていないという結果も出ています。
政府におけるIT活用について議論するコミュニティネットワークのメリトーク(MeriTalk)が2012年5月7日に発表した「The Big Data Gap」によると、ビッグデータの活用におけるデータの保存やアクセスに関する技術、コンピューティングの処理、そして人材不足により、ほとんどの連邦政府機関はビッグデータを活用できない状況にあると指摘しています。
http://www.meritalk.com/bigdatagap
政府機関はビッグデータ活用により、意思決定や予測の効率性、スピード、精度の大幅な向上が期待業務を変革する可能性を秘めています。しかしながら、その大きな潜在的メリットにもかかわらず、ほとんどの米連邦政府機関はビッグデータを活用できずにいるのが現状となっています。
現在、各政府機関が保有するデータ量は平均1.6ペタバイトとされており、今後2年以内に2.6ペタバイト程度まで膨れあがると見込まれています。データの内訳は、政府機関の報告書や、業務処理データ、科学調査データ、画像・動画、Webなどがあります。
政府では、膨大な量のデータを収集しているものの、各連邦政府機関ではこれらのデータを分析していると回答したITプロフェッショナルは60%、データを戦略的な意思決定に利用していると答えたのは40%にも満たない状況にあるとメリトークのリポートでは分析しています。
米国政府においてもビッグデータに関する研究開発は国家戦略としての取り組みが始まっているものの、政府機関の意思決定や予測の効率化など、業務を変革するためのビッグデータ活用や、ビッグデータ活用のための体制整備や人材育成はこれからの段階にあるといえるでしょう。
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