オープンデータ社会(36)健康・医療データの活用
政府のIT戦略における「情報資源/データ立国」の実現にあたって「医療・健康データ」、「交通データ・保守データ」、「電力需給データ」、「気候データ、地域・観光データ」の4つのデータが、4つの課題に対して、ITの利活用は課題解決の横串ツールとして、情報資源/データの活用が鍵としています。
その医療・健康データの活用について、国内外の事例をもとに整理をしてみたいと思います。
健康・医療などの公共分野のデータは、政府や自治体などの公共機関だけでなく、民間事業者がその利活用や分析の検討も進められています。
臨床試験データのオープンデータ化
欧州の欧州医薬品庁(European Medicines Agency, EMA)では、臨床試験データを公共性の高いデータとして、2014年1月の公開に向け、検討を進めています。これまでEMAは、製薬業界の費用で実施されてきた臨床試験データは企業秘密であるという立場をとってきましたが、欧州オンブズマンでは、データを秘密にし、選別した報告をすることは公共の利益に反するとの査定によって、公開に踏み切る判断をしています。EMAでは、アドバイザリグループを設置し、患者情報の匿名性確保、臨床試験のデータ形式、参加規則、公開ルールなどの検討を進めています。
これらの流れを受け、2013年2月に製薬大手グラクソ・スミスクライン社が、自社が開発した薬の臨床試験の詳細データを研究者に公開する方針を発表し、研究者が匿名化された患者レベルの詳細なデータにアクセスでいるためのシステムも開発しています。さらに、2013年4月にはスイスの大手製薬メーカのロシュは自社が承認済みのタミフルなどの薬剤に関する臨床試験データを公開すると発表しています。
臨床試験データの公開は賛否両論の声があるものの、良質な薬が選別されるようになり、副作用の削減や創薬のプロセスの改善されるなど、医療分野でのさまざまな改善やイノベーションが加速されることが期待されています。
医療福祉分野データの公開
イギリスでは、主要17省庁がオープンデータに関するアクションプランをすでに策定しています。2013年1月現在で、政府統計局の各種統計データや医療福祉分野のデータ等、データセット数は9,400、登録アプリ数は200を超えています。
特に注目度が高いのが、保健省が計画を進めている医療福祉分野のデータ公開で、データ公開が医療や福祉の質を高め、医療福祉サービス向上につながるとしています。
医療のオープンデータ化を進める米国の「Health Data Initiative」
米国政府では2010年6月より、ワシントンの米国医学研究所(Institute of Medicine:IOM)において、The Community Health Data Initiativeを立ち上げ、官民共同によるデータを活用して医療の改善を図るthe Health Data Initiativeという取組を進めています。
the Health Data Initiativeでは、マシンリーダブルで使いやすいフォーマットでデータを提供し、ソフトウェア開発者などがこれらの医療データを活用し、健康増進など医療分野に有効なサービスを開発するための環境をづくりを目指しています。
the Health Data Initiativeは、「HealthData.gov」という医療データの公開サイトを開設しています。
公開されているデータは、公共機関から提供されるデータだけでなく、民間の医療機関から提供されるデータなど、200以上のデータセットが公開されています。
医療データの活用例では、市民や民間企業などにより医療データの利活用の検討が進められています。たとえば、市民が医療サービスの充実度をモニタリングできるダッシュボードや、地図との医療データとのマッピングなどが行われています。
About the Health Data Initiative
http://www.hhs.gov/open/initiatives/hdi/about.html
患者の健診・医療データ分析と予防医療などの研究開発
日立製作所は2013年4月18日、英国マンチェスター地域の病院など公的医療制度全般を管理する国営医療制度(NHS)などと、ITを活用したヘルスケアサービス向上のための共同開発に向けた検討を行うことで合意したことを発表しました(報道発表資料)。
6,000万人以上の患者を抱えるNHSの検診・医療ビッグデータを分析することで、病気の予防や医療費の削減などにつなげていくことが期待されています(関連記事)。
開発分野分野は、
(1)糖尿病など生活習慣病患者の健診・医療データを解析し、重症化や合併症を抑える予防医療の開発
(2)かかりつけ医と他の病院を結ぶネットワークが扱うデータの範囲や量の拡大
(3)検診・医療データ解析による効率の高い治療方法などの開発
の3つとなっており、2013年10月までに計画をまとめ開発に着手する予定となっています。
健康医療分野のビッグデータ分析
みずほ情報総研は2013年1月17日、健康・医療分野のビッグデータ分析手法開発に向け研究会を発足し、社員の健康増進・医療費適正化に向け、生活習慣と15万人の健診・医療データを分析などの取り組みを行なっています。
社員の健康に対する関心が高まりを見せている一方で、医療保険財政が急速に逼迫しており、健診・医療の大量のデータを集計し、組織全体の健康増進・医療費適正化に向けたPDCAサイクルを回すなどの、医療費の適正化に向けた取り組みが重要となっていくでしょう。
また、富士通グループでは、グループ社員10万人を対象に健康診断データと一部の社員から収集した血糖値・運動量・食事データを解析し、糖尿病になるリスク解析などの実証実験を行なっているなど、医療データを分析し、健康管理につなげる取り組みは広がっていくでしょう。
徳島大学病院では、健康保険鳴門病院と共同でDPC(診断群分類包括評価)方式の匿名化されたレセプトデータを収集し、診療所で糖尿病と診断されてから最終的に人工透析などの治療を行うまでの期間の検証や、検査データと照合してその経過状況などを分析を行なっています(関連記事)。これらのデータ収集や分析には、「Cassandra」、「Hadoop」「Map Reduce」などを併用しています。
共通IDと医療健康データとの連携
千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」では、総務省の「平成24年度ICT街作り推進事業」を通じて公・民・学が連携し、住民参加型の共創・持続可能な新しい街づくりが進められています。住民個々の共通IDと、活動量計、体組成計、血圧計などのPHR(Personal Health Record」となる医療健康データと連携させることで、自発的な健康増進と・疾病予防につなげています。
ICT街づくり推進会議(第1回会合)配付資料 2013.1.18
http://www.soumu.go.jp/main_content/000203171.pdf
参考文献
オープンデータ社会(1)オープンデータとは? 2013/01/21
オープンデータ社会(2)米政府におけるオープンガバメントの取り組み 2013/01/22
オープンデータ社会(3)世界の政府におけるオープンデータ戦略の取り組み 2013/01/23
オープンデータ社会(4)民間事業者の参入 2013/01/25
オープンデータ社会(5)米国政府におけるビッグデータ関連政策 2013/01/28
オープンデータ社会(6)日本におけるオープンガバメントの取り組み 2013/01/29
オープンデータ社会(7)公共データへの産業界からの期待 2013/01/31
オープンデータ社会(8)電子行政オープンデータ戦略 2013/02/1
オープンデータ社会(9)総務省などの取り組み(情報流通連携基盤事業、オープンデータ流通推進コンソーシアム) 2013/02/4
オープンデータ社会(10)総務省などの取り組み(クラウドテストベッドコンソーシアム) 2013/02/5
オープンデータ社会(11)経済産業省などの取り組み(DATA METI構想など) 2013/02/13
オープンデータ社会(12)オープンデータアイディアボックス 2013/02/14
オープンデータ社会(13)自治体のオープンデータの取り組み 2013/02/15
オープンデータ社会(14)パブリックデータとは? 2013/02/18
オープンデータ社会(15)オープンデータによる市場創出のためのプレイヤー相関 2013/02/19
オープンデータ社会(16)政府、自治体のオープンガバメント、オープンデータの主な取り組みのまとめ 2013/02/20
オープンデータ社会(17)International Open Data Day in Japanのまとめ 2013/02/25
オープンデータ社会(18)日本におけるビッグデータ関連政策 2013/02/27
オープンデータ社会(19)震災ビッグデータ 2013/03/4
オープンデータ社会(20)オープンデータマーケットプレイス 2013/03/5
オープンデータ社会(21)オープンデータの需要と供給 2013/03/6
オープンデータ社会(22)オープンデータ8つのビジネスモデル 2013/03/7
オープンデータ社会(23)パブリックデータを整理する 2013/3/8
オープンデータ社会(24)電子行政オープンデータ推進のためのロードマップ(仮称)(案) 2013/4/3
オープンデータ社会(25)情報資源/データ立国に向けて 2013/4/5
オープンデータ社会(26)オープンデータにおけるライセンスのあり方 2013/4/9
オープンデータ社会(27)二次利用の促進のための 府省のデータ公開に関する基本的考え方(ガイドライン) (仮称) (案) 2013/4/10
オープンデータ社会(28)オープンデータ推進における情報リスク 2013/4/11
オープンデータ社会(29)総務省の実証事業の取り組み(公共交通分野) 2013/4/12
オープンデータ社会(30)総務省の実証事業の取り組み(地盤情報) 2013/4/15
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オープンデータ社会(32)IT戦略におけるオープンデータ/ビッグデータの位置づけ 2013/4/17
オープンデータ社会(33)日本版ITダッシュボードについて 2013/4/19
オープンデータ社会(34)スマートシティとデータ活用 2013/4/22
オープンデータ社会(35)オープンデータ・アプリケーション 2013/4/23
オープンデータ社会(36)健康・医療データの活用 2013/4/24