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光トランシーバーの800G移行はデータセンターの電力を救えるか?

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TrendForceは2026年2月10日、グローバルな光トランシーバー市場の出荷予測を発表しました。

Google's High-Speed Interconnect Architecture to Push 800G+ Optical Transceiver Share Past 60% by 2026, Says TrendForce

これによると、800G以上の高速光モジュールの出荷シェアが、2024年の19.5%から2026年には60%を超える見通しを示しています。生成AIの普及と大規模言語モデルの進化により、データセンター内のトラフィックはかつてない規模で増大し、従来の電気通信やスイッチング技術では消費電力と帯域幅の限界に直面している状況です。Googleが次世代TPU「Ironwood」で採用したオール光ネットワーク技術であるApollo OCSは、こうした課題を克服するインフラ設計として関心を集めています。

今回は、次世代AI半導体とネットワークの統合設計、急拡大する800G以上の光トランシーバー市場やオール光ネットワークによる電力効率の大幅な改善、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。

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次世代AIインフラとオール光ネットワークの台頭

生成AIの計算需要が飛躍的に増大する中、データセンターのネットワーク設計は根本的な見直しが求められています。TrendForceの報告によると、Googleは次世代TPUである「Ironwood」において、3D TorusネットワークトポロジーとApollo OCS(光回線スイッチ)オール光ネットワークを統合したアーキテクチャを採用すると示しています。この設計は、大規模なAIワークロードが引き起こす急激な計算能力と帯域幅の需要に直接対処する試みと考えられます。

従来型のデータセンターでは、ラック間やクラスター間のデータ転送において、電気信号と光信号の変換が頻繁に行われていました。この光電変換のプロセスは、遅延の発生や消費電力の増大を招く要因となっていました。GoogleのApollo OCSは、MEMS(微小電気機械システム)によるマイクロミラーを活用することで、光ファイバー同士を直接接続する手法を採用しています。これにより、繰り返される光電変換を回避し、信号の劣化を防ぎながら高速なデータ転送を実現します。

新しいアーキテクチャでは、TPU間の近距離接続には高速な銅線ケーブルを使用し、ラック間の長距離データ転送にはオール光ネットワークを割り当てるという役割分担がなされています。このようなAIクラスターの設計は、システム全体のスループットを最大化するために初期段階から計算能力と通信能力のバランスを考慮して構築されています。ネットワークのボトルネックを解消することは、高価なAI半導体の稼働率を向上させるためにも必要となります。

800G超光トランシーバー市場の急拡大

次世代アーキテクチャの導入に伴い、データ通信の要となる光トランシーバーの需要構造にも大きな変化が起きています。TrendForceの予測によると、800Gおよびそれ以上の通信速度を持つ光モジュールの世界出荷シェアは、2024年の19.5%から2026年には60%以上にまで急増すると想定されています。このデータは、高速光モジュールがAIに特化したデータセンターにおいて標準的なコンポーネントとしての地位を確立していく過程を示しています。

Googleの次世代TPUの出荷計画は、この市場拡大を後押しすると考えられます。2026年には約400万個のGoogle TPUが出荷されると予測されており、これに伴う800G以上の光モジュールの需要は600万個を突破すると見込まれています。データセンター事業者は、増大する学習データとパラメータを効率的に処理するため、大容量かつ低遅延の通信インフラへの投資を優先する状況です。

需要の急激なシフトは、通信インフラ市場における製品ライフサイクルの短縮も意味します。かつて主流であった100Gや400Gの製品群は、一般向けのクラウドサービスや小規模なデータ処理へと用途が移行しつつあります。最先端のAI開発競争において優位性を保つためには、1.6Tといったさらに高速な光通信プラットフォームへの早期対応が求められています。各企業は、技術開発のスピードアップと量産体制の構築という両面での競争に直面しています。

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出典:TrendForce 2026.2

電力効率の劇的な改善と運用コストの最適化

AIデータセンターにおける最大の制約要因は、電力供給の限界と冷却システムにかかる運用コストです。Googleが推進するApollo OCSアーキテクチャの利点は、通信の高速化だけでなく、エネルギー効率の大幅な向上と長期的なコスト削減にあります。従来の電気式スイッチが1台あたり約3,000ワットの電力を消費するのに対し、Apollo OCSスイッチの消費電力はわずか約100ワットに抑えられています。これは約95%の電力削減を意味し、データセンター全体のPUE(電力使用効率)の改善に大きく寄与するといいます。

オール光ネットワークの採用は、設備のアップグレードに伴うシステム全体の再構築コストも削減します。従来のアーキテクチャでは、ネットワークの帯域幅を拡張する際に、スイッチやルーターなどの高価な中継機器を含めたシステム全体の大規模な入れ替えが必要でした。オール光ネットワーク環境では、800Gから1.6Tへと通信速度を引き上げる際にも、末端の光モジュールを高速なものに交換するだけで対応が可能となります。

この柔軟なアップグレードパスは、将来の技術進化に対する初期投資の保護に直面する企業にとって魅力的な選択肢となります。データセンターの耐用年数を通じて、追加投資を抑制しながら最新の通信帯域を確保できる設計は、インフラの総所有コスト(TCO)の最適化において重要となります。電力消費の削減とアップグレードの容易さは、環境負荷の低減と持続可能な事業運営を目指す方針とも合致します。

サプライチェーンの再編と投資の焦点

高速光トランシーバー需要の急拡大は、関連するサプライチェーンにおけるパワーバランスの変化を引き起こしています。TrendForceの分析によると、Googleとの強固な協力関係を持つInnolightや、それに次ぐEoptolinkといった企業が、Google向け800G以上光モジュールの受注の約80%を獲得すると予測されています。シリコンフォトニクス技術や1.6Tプラットフォームの開発において先行する企業が、市場シェアを独占しやすい状況です。

一方で、オール光ネットワークの心臓部となるOCSシステムやMEMSコンポーネントの供給においては、Lumentumのような専門技術を持つ企業が中心的な役割を果たしています。こうした高度な光学部品の製造には高度な技術力と厳格な品質管理が求められるため、新規参入の障壁は高く保たれています。サプライヤーの生産能力の拡大ペースが、Apollo OCSのような次世代ネットワークの導入スケジュールを決定づける要因になると考えられます。

投資家や政策立案者は、GPUや広帯域メモリといった半導体だけでなく、光通信コンポーネントの安定供給網の構築に関心を向ける必要となります。特定のサプライヤーへの依存度が高まることは、地政学的なリスクや部品不足によるサプライチェーンの分断リスクを高める要因となります。今後は、光学部品の製造拠点の分散化や、代替技術の開発に対する支援策の策定が求められています。

今後の展望

次世代AIデータセンターにおける計算密度の向上に伴い、ラック間およびクラスター間のデータトラフィックは加速度的に増大していくと予想されます。この流れの中で、高速な光モジュールや半導体レーザーといった光学コンポーネントの技術進化と供給能力は、将来のコンピューティングインフラの拡張ペースとコスト競争力を決定づける中核的な要因となります。電気から光へのパラダイムシフトは、IT産業全体のインフラアーキテクチャを再定義する動きといえるでしょう。

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