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不確実性の連鎖を断つ:2026年の新興リスク・マネジメント

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ガートナーは2026年2月11日、全世界の367名のシニアリスク幹部を対象とした調査結果を発表し、2025年第4四半期において「低成長の経済環境」が依然として最大のリスク懸念事項であることを明らかにしました。

Gartner Survey Finds Low-Growth Economic Environment Remained Top Concern Among Risk Leaders in Fourth Quarter of 2025

世界的な貿易摩擦や金融市場の変動性が、投資家や消費者の信頼を長期にわたり損なっている状況が浮き彫りになっています。ここで看過できない点は、経済的な停滞感の背後で「情報の完全性」や「Agentic AI(自律型AI)」といったテクノロジー領域のリスクが急浮上し、従来の地政学的リスクや自然災害リスクと複雑に絡み合っていることです。テクノロジーの進化が解決策ではなく、新たな混乱の火種となり得る現状が示唆されています。

今回は、経済停滞の構造的要因、自律型AIがもたらすガバナンスの課題、情報の信頼性と米国政策の影響、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。スクリーンショット 2026-02-12 19.02.04.png

出典:ガートナー 2026.2を基に編集

低成長経済の長期化と構造的要因

2025年第4四半期の調査において、リスクリーダーたちが最も懸念を示したのは、前期に引き続き「低成長の経済環境」でした。これは単一の景気循環の問題ではなく、グローバルな貿易摩擦の常態化や金融市場の不安定さ、そして高止まりするインフレと失業率が複合的に作用した結果といえます。消費意欲の減退と投資の手控えが負のスパイラルを生み出しており、企業は持続的な成長シナリオを描くことが困難な状況です。

従来の経済対策が功を奏しにくい背景には、市場の予測可能性が著しく低下している点があげられます。地政学的な緊張がサプライチェーンを分断し、コスト構造を硬直化させています。企業は効率性の追求よりも、冗長性の確保にリソースを割かざるを得ず、これが生産性の向上を阻害する一因となっています。低成長は一時的な現象ではなく、長期的な経営前提として組み込む必要性が高まっています。

信頼を蝕む情報の完全性リスク

経済活動の基盤となる「情報」そのものの信頼性が揺らいでいる点も、今回の調査で上位にランクインしました。信頼性の低い公開データセットの拡散や、AIによって大量生成されたコンテンツ、さらには政治的に偏向したデータが氾濫することで、企業の意思決定プロセスが脅かされています。正確な情報へのアクセスが困難になれば、経営戦略の立案自体が砂上の楼閣となりかねません。

誤ったデータに基づく意思決定は、高コストな戦略ミスを招くだけでなく、ステークホルダーからの信頼失墜に直結します。外部環境を分析するためのデータ自体が汚染されている場合、従来のリスク管理手法では対応しきれません。企業はデータの収集元を厳格に選別するだけでなく、入力データの「質」を検証する新たなプロセスを構築することが求められています。情報の真偽を見極める能力が、競争優位の源泉となる時代に入ったといえるでしょう。

Agentic AIの台頭とガバナンスの欠如

技術面で新たな脅威として浮上しているのが「Agentic AI(自律型AI)」です。従来の人間がプロンプトを入力して回答を得る対話型AIとは異なり、Agentic AIは自律的に判断し、行動を起こす能力を持ちます。ガートナーの分析によると、今後2年間で組織内での導入が急速に進むと予測されていますが、これは同時に既存のリスクを増幅させる可能性を内包しています。

組織の方針や倫理規定、法的要件と整合しない行動をAIが自律的にとるリスクは、オペレーションの混乱やコンプライアンス違反を招く恐れがあります。人間の介入なしにシステムが複雑なタスクを遂行する場合、その判断プロセスはブラックボックス化しやすく、問題発生時の責任の所在が不明確になりがちです。自律性の高さは業務効率を飛躍的に高める一方で、ガバナンスの効かない「暴走」のリスクと隣り合わせの状態にあります。

米国政策の変動と投資の不確実性

第5位に挙げられた「米国政策に起因する投資の不確実性」は、グローバル経済における米国の影響力の大きさを改めて示しています。予測不能な政策転換、政府機関の閉鎖、あるいは突発的な貿易措置の発動は、外国市場からの資本逃避(キャピタルフライト)を誘発する引き金となり得ます。これは現地経済を不安定化させるだけでなく、企業のグローバルな投資戦略を根底から揺るがす要因となります。

政策リスクが高まる中、企業は特定の市場や通貨への過度な依存を見直す必要に迫られています。政治的な決定が経済合理性を超えて市場を動かす場面が増えており、各国の政治情勢を織り込んだ精緻なシナリオプランニングが不可欠です。安定していると見なされていた市場が一夜にしてリスクオフの対象となる可能性を、常に考慮に入れておく必要があります。

頻発する災害と金融露出の拡大

サイバー攻撃、地政学的紛争、そして山火事などの自然災害が「頻発」することで、企業の財務的な露出が増大しています。これらは突発的な事象としてではなく、継続的なコスト圧迫要因として認識され始めています。損害保険料の高騰や、場合によっては保険引き受けそのものが拒否されるケースも想定され、従来のリスク転嫁モデルが機能不全に陥る懸念があります。

物理的な資産を持つ企業にとって、保険によるヘッジが困難になることは、バランスシート上のリスクが直接的に増大することを意味します。サイバーセキュリティ対策や気候変動適応への投資は、もはやコンプライアンス対応ではなく、財務的な存続をかけた必須の防衛策となります。自社でリスクを保有し、管理する能力そのものが問われる局面に差し掛かっています。

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出典:ガートナー 2026.2を基に編集

今後の展望

2026年以降、企業は「成長」と「防御」のバランスを再定義する必要に迫られるでしょう。低成長が常態化し、情報の信頼性が揺らぐ中で、AIによる自律化を推進することは、アクセルとブレーキを同時に踏むような高度な制御が求められます。Agentic AIの導入にあたっては、技術的な実装以上に、AIの行動原理を監視・監督する「AIガバナンス」の専門組織やルールの策定が急務となります。

また、リスクマネジメントは「発生確率の低い事象への備え」から、「常態化する危機への適応」へとその性質を変えていくと考えられます。外部データの検証コストを予算化し、保険市場の機能不全を前提とした内部留保や分散投資を行うなど、財務戦略とIT戦略の融合がより一層重要となります。不確実な世界において確実なのは、変化への即応力を持つ組織だけが生き残るという原則であり、テクノロジーと地政学を俯瞰する高い視座が求められています。

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出典:ガートナー 2026.2を基に編集

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