オープンデータ社会(9)総務省などの取り組み(情報流通連携基盤事業、オープンデータ流通推進コンソーシアム)
今回は、総務省のオープンデータ戦略に関する総務省を中心とした取り組みについて紹介していきたいと思います。
総務省では、急速に進展してきたブロードバンド環境を活かし、組織や業界内で利用されているデータを社会でオープンに利用できるオープンデータ流通環境の整備が必要としています。
2012年度の総務省の具体的な施策は、分野を超えたデータの流通・連携・利活用を効果的に行うための情報流通連携基盤の構築のために、公共交通、地盤、災害、青果物・水産物の各分野のデータについて、実証実験を行っています。
http://www.opendata.gr.jp/committee/docs/20121024/siryo1-5.pdf
4つの実証実験の取り組み概要
●公共交通関連情報
運行情報、気象データ(雨、温度等)、車両や駅の混雑データなど共通APIを通じて、複数の公共交通機関の運行情報をスマホ向けにリアルタイムに提供し、遅延情報なども勘案した最適ルートや終電乗り継ぎ案内する環境の検証を行なっています。
●ポーリング(地盤)データ
国や自治体のポーリング(地盤)データをオープンデータ化し共通APIを通じて、精密ハザードマップや3D地下構造図、災害予測シミュレーションなどの新サービスを提供するための環境検証を行なっています。
●災害関連情報
気象情報、震度・震源情報、津波警報・注意報、大雨警報・注意報、指定河川洪水予報、土砂災害警戒情報、大雪警報・注意報などの「気象庁が提供する情報」や、ハザードマップ、浸水エリア、氾濫危険箇所、地すべり危険個所、避難所情報、除雪関連データ、除雪計画道路、除雪済経路など「自治体が提供する情報」を共通APIを通じて、避難準備の促進や避難勧告の判断、雪害時の行動判断ができる環境の検証を行なっています。
●青果物・水産物の安全安心情報
農薬、肥料、放射線量などを含んだ農場の栽培情報や品質情報、流通業者の流通情報、消費者の評価情報などを共通APIを通じて、タグにcodeをつけ生産者、生産地、品目、取引時刻、龍つ場所、業者名、購入場所、購入日時などを提供するトレーサビリティサービスの環境の検証を行なっています。
これらの実証実験を通じて、
①情報流通連携基盤共通APIの確立・国際標準化
②データの2次利用に関するルール(データガバナンス方式)の策定
③オープンデータ化のメリットの可視化等のための実証実験を推進
など取り組みを進めています。
標準化に関しては、ITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)やW3C(World Wide Web Consortium)への標準化提案を行い、2015年まで国際標準化を目指しています。
情報流通連携基盤事業などの総務省のオープンデータ流通環境の普及や展開には、IT戦略本部など各省庁との連携に加えて、「オープンデータ流通コンソーシアム」の取り組みが鍵となります。
オープンデータ流通推進コンソーシアム
総務省は2012年7月27日、産官学が共同でオープンデータ流通環境の実現に向けた基盤整備の推進を目的として「オープンデータ流通推進コンソーシアム」の設立を発表しました(リリース記事)。
本コンソーシアムでは、公共情報や民間情報も含む様々なデータのオープン化や共有化を進め、分野横断的なデータ連携を推進し、公共サービスの向上や透明性向上、企業活動の効率化、新たなサービスやビジネスの創出などを進めていくための仕組みづくりを目指しています。
本コンソーシアムでの主な活動目的は以下のとおりとなります。
(1) オープンデータ推進に向けた課題解決に関する研究活動
・オープンデータ推進に必要な技術標準、およびライセンスのあり方等の検討(2) オープンデータ推進の普及・啓発活動
・オープンデータ推進に関する情報発信、情報共有
・オープンデータ推進による、新たなサービス等の検討
本コンソーシアムの推進体制は、三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏を会長とする理事会のもとに、「技術委員会」「データガバナンス委員会」「利活用・普及委員会」の3委員会を設置し、具体的な活動を進めています。自治体では、オープンデータに積極的な取り組みをしている横浜市や鯖江市も参加しています。
http://www.mri.co.jp/NEWS/press/2012/2040014_2212.html
3つの委員会の取り組みについてご紹介しましょう。
●技術委員会
技術委員会では、公共機関や民間の保持するさまざまなオープンデータを流通させる環境を実現するための標準的な技術仕様の検討を第一のミッションとし、オープンデータを活用する主体者が使いやすい技術の確立を目指しています。
技術仕様の検討にあたっては、オープンデータの表現モデル(オープンデータはメタデータとして表現され、それを表現するモデル)やオープンデータを表現するためのボキャブラリ(メタデータを理解するための標準的な辞書)となる「標準データ規格」、オープンデータを取得・交換するための標準的な手法を規定した「標準API」の2つの検討が中心となります。
オープンデータのデータ形式では、Web上にあるメタデータを記述するためのW3Cにて策定された標準フレームワークである「RDF(Resource Descriptive Format)」の採用が進んでいます。RDFは、機械可読かつリンク形式の共通データフォーマットにもとづきデータを公開する「Linked Open Data (LOD)」で採用されています。LODでは、あらゆる情報・事象のIDとしてURLを活用し、情報はRDFで記述・提供し、他のURL(情報・事象)とリンクを確立、さらには、LODクラウドで相互の運用性を確保することができます。
ボキャブラリでは、組織間での意思疎通を行うために必要となる用語レベルの意味を統一することで、個別調整ではなくデータがオープンに流通できる環境を整えることができるようになります。
ボキャブラリに関しては、米国では米国政府が公共情報の交換に活用しているデータ交換体系「NIEM(National Information Exchange Model)」、欧州では相互運用性確保のためのデータ交換体系「joinup」を積極的に推進しています。
また、技術委員会では、オープンデータに関して主に「動的なリアルタイムオープンデータ」を対象としています。オープンデータには、政府の統計データや行政データなどの「静的なオープンデータ」とセンサーデータやメーターデータなどの「動的なリアルタイムオープンデータ」の2種類があります。
「静的なオープンデータ」の場合は、データを丸ごとGETさえすることができればよいため、APIへの要求はシンプルで行えます。一方、「動的なリアルタイムオープンデータ」の場合は、現在データを取り出すAPIが必要となり、リアルタイムで情報を取得するためAPIへの要求も複雑となります。さらに、ビッグデータでは、APIで選択的データ取得ができることが重要となります。
技術委員会で検討対象とする主なオープンデータは、
■ センサデータ(リアルタイムデータ)
・環境情報(温度・湿度等)・エネルギー情報・生体情報・公共交通機関の位置/障害情報など
■ 物流・トレーサビリティ情報
・ RFID等を利用した商品の通過・検品履歴
・複数の事業者にまたがる商品の入出荷履歴情報など
■ 防災関連情報
・ 気象情報・河川や公物の監視状況など
などリアルタイム性の高い、データサイズの大きなビッグデータを対象としています。たとえば、100戸のガス・水道・電気の使用料を5分おきにモニタすると、1ヶ月で100GB程度のデータが蓄積されると算出しています。
総務省で進めている「情報流通連携基盤事業」において公共交通、地盤、災害、青果物、水産物の各分野の「動的なリアルタイムオープンデータ」をつなぐための「標準API仕様」をたたき台として、技術仕様の議論を進めています。
技術委員会の活動としての最終的なアウトプットとして期待されているのが、ITU-TやW3Cへの国際標準化への対応です。1年目は、米国NIEMや欧州ISAや気象メタデータ(気象庁)、CKAN/LOV (Linked Open Vocabulary) など、類似する既存規格などと整合性を図り、2年目以降はデータガバナンスのライセンス表現や、それに基づくデータ処理に関する技術的な検討を行なっていく予定となっています。
●データガバナンス委員会
データガバナンス委員会は、公的機関の保有する情報の利活用を推進するため、
その公開の条件や利用条件のあり方についての検討し、法制度面の環境整備を図ることを目的としています。
オープンデータの利用にあたっては、権利関係の整理や、利用規約の標準化、などできるかぎり自由な利用条件の整理、個別法等による制約がある情報の扱い、データの信頼性に対する責任の所在など、既存の利用規約を整理しつつ、利用条件に関する諸課題を解決していく必要があります。
データガバナンス委員会では、今年度は国の保有する既公表情報の類型化から始めています。
国の保有する情報では、
・情報通信白書など著作権が確実にある文章や写真等からなる情報
→引用などの利用を想定
・統計情報など著作権のない事実データからなる情報
→主としてデータの加工による利用を想定
・電子国土基本図など二次利用等については測量法上の承認が必要となるデータ
→著作権としてグレーゾーン、二次利用の態様も多様、さらに二次利用等に関する個別法などが存在
などがあります。
今年度は類型化とともに、権利関係・法律関係等の前提条件の整理、ベースとなる標準規約の検討、標準規約に付加すべき個別事項の検討、対価設定などの検討を実施する予定となっています。
また、オープンデータのライセンス検討にあたっては、
Open government License (英国政府独自)
Open License (フランス政府独自)
Open Database License (OKFN)
Creative Commons (CC)
Public Domain (OKFN、米国政府)
など現在利用されているオープンデータライセンスの利用状況を踏まえ、利用者の使いやすさや提供しやすさの観点から日本が利用するのに適したオープンデータライセンスのあり方を検討していく予定となっています。
2013年度以降の検討としては、公開可能ではあるが、現時点で何らかの理由で公開されていない情報の公開・二次利用を促進するための方策の検討や、地方公共団体、独立行政法人等、国以外の公的機関の保有する情報、さらには、その他の公共性の高い情報の二次利用の促進に検討の範囲を拡げることを視野にいれています。
●利活用・普及委員会
利活用・普及委員会では、「オープンデータ推進のための普及啓発」が主な活動目的となっており、具体的には、オープンデータに関する情報発信やオープンデータ利活用事例の開発、オープンデータの利活用推進における課題の検討などを行なっています。
これまでの委員会では、海外におけるオープンデータビジネスの動向や、横浜市でのオープンデータや鯖江市のオープンデータの取り組みなどが紹介されています。
2012年12月1日には、本委員会が中心となり「気象データハッカソン」を開催しています。公開されている気象データや他のデータを組み合わせて活用することにより、新たなサービスに関するアイデアを得て、試作品を開発することで、広くオープンデータの意義や可能性を世の中にPRすることを目的として実施しています。
ハッカソンの実施にあたって、2012年11月5日より2012年12月1日のハッカソン直前まで、オンラインイベントの気象データアイデアソンを行い、フェイスブックグループで実現性の高いサービスの提供にあたってアイデアを出し合っています。
12月1日のハッカソンでは、約50名が参加し、6のテーマ別にチームを分けて実施し、最優秀賞には体調と天候の関係を可視化する「体質ナビゲーション」が受賞しています。
オープンデータ社会(1)オープンデータとは? 2013/01/21
オープンデータ社会(2)米政府におけるオープンガバメントの取り組み 2013/01/22
オープンデータ社会(3)世界の政府におけるオープンデータ戦略の取り組み 2013/01/23
オープンデータ社会(4)民間事業者の参入 2013/01/25
オープンデータ社会(5)米国政府におけるビッグデータ関連政策 2013/01/28
オープンデータ社会(6)日本におけるオープンガバメントの取り組み 2013/01/29
オープンデータ社会(7)公共データへの産業界からの期待 2013/01/31
オープンデータ社会(8)電子行政オープンデータ戦略 2013/02/1
オープンデータ社会(9)総務省などの取り組み(情報流通連携基盤事業、オープンデータ流通推進コンソーシアム) 2013/02/4