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マーケティング責任者に求められる変革:プロモーションから価格・製品戦略への回帰

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米ガートナーは2026年2月12日、マーケティング最高責任者(CMO)の今後の影響力に関する予測を発表しました。

Gartner Predicts Over 40% of CMOs Who Push for Larger Brand Budgets Will Lose Influence With the C‑Suite

同社の分析によると、ブランド予算の増額を要求しながら、その投資対効果(ROI)を十分に証明できないCMOの40%以上が、2027年までに経営幹部(C-Suite)内での影響力を失う可能性があるとしています。

多くの企業において、ブランドへの投資とその成果測定の間には乖離が生じており、測定予算の不足が成果の不明瞭さを招き、それが経営陣の懐疑心を生み、結果としてさらなる予算削減につながるという「負のループ(Doom Loop)」が発生している状況です。調査対象となった企業の84%がこの悪循環に陥っているとされ、企業の成長戦略における深刻なボトルネックとなっていることが示唆されました。

今回は、ガートナーが指摘する「負のループ」の構造、CMOに対する経営陣の期待と現実のギャップ、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。

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出典:ガートナー 2026.2 を基に編集

「負のループ」が招く組織的停滞のメカニズム

ガートナーの調査結果で浮き彫りになったのは、ブランド価値測定への投資不足が、企業成長を阻害する根本原因になっているという点です。「負のループ」と呼ばれるこの現象は、測定リソースの不足から始まります。適切なデータや分析ツールを持たないままブランド投資を行うことで、市場へのインパクトが不明確となり、財務部門やCEOからの信頼が低下します。その結果、次期の予算が縮小され、さらに測定が困難になるという悪循環が形成されます。

この循環に陥っている企業は、ブランド価値を適切に評価・管理できている企業と比較して、組織の成長目標を達成できる確率が半減するとされています。つまり、マーケティング部門の予算管理能力の欠如は、部門内の問題にとどまらず、全社的な業績低迷に直結するリスクを含んでいます。定量的な根拠に基づかない予算要求は、経営資源の配分を歪める要因となり得るのです。

経営陣がCMOに抱く不満と期待のズレ

CMOが直面している課題は、予算獲得の難易度だけではありません。経営陣がCMOに期待する役割と、実際にCMOが果たしている役割の間には大きな認識の隔たりが存在します。調査によると、CMOが市場や顧客データに基づき説得力のある事業戦略を提言できていると回答した経営幹部は全体の32%にとどまりました。また、会社の成長に最も寄与するマーケティング施策を特定できていると評価されたのは34%に過ぎません。

多くのCMOは、ブランドの認知向上やメッセージの発信といったコミュニケーション領域に注力する傾向があります。一方で、CEOやCFOは、製品開発、価格設定、市場投入戦略(Go-to-Market)といった、より事業の根幹に関わる意思決定への参画を求めています。この期待値のズレが解消されない限り、CMOの発言力は低下の一途をたどることが想定されます。

プロモーションから事業設計への役割拡張

ブランド戦略を企業の成長エンジンとして機能させるためには、CMOの役割を再定義することが必要となります。ガートナーのアナリストは、CMOが影響力を獲得するためには、単に予算増額を求めるのではなく、提供価値(バリュープロポジション)の形成そのものを主導する必要があると指摘しています。これは、広告宣伝の枠を超え、製品そのものの競争力や価格戦略の妥当性にまで責任を持つことを意味します。

実際に、マーケティング部門がこれらの事業活動を主導している組織では、ブランド戦略のパフォーマンスが高い傾向にあります。ブランドが事業戦略と完全に整合し、部門横断的に実行され、過去および将来の成長にとって不可欠であると経営陣から認識されるためには、マーケティングを「伝える機能」から「売れる仕組みを作る機能」へと昇華させることが求められています。

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出典:ガートナー 2026.2 を基に編集

投資対効果の説明責任とデータ活用

信頼回復の鍵となるのは、意思決定に資する明確なROIの提示です。「負のループ」を断ち切るためには、測定への投資をコストではなく、将来の予算を確保するための必要経費として捉え直すことが重要となります。デジタル技術の進展により、顧客の行動データや購買履歴、ブランド接触の相関関係を可視化することは技術的に容易になりつつあります。

しかし、データを単に収集するだけでは不十分です。そのデータがいかに事業目標(売上、利益、市場シェアなど)に貢献したかを論理的に説明する能力が不可欠です。感情や直感に訴えるブランド論ではなく、財務諸表に連動した成果指標を示すことで初めて、CMOは経営のパートナーとしての地位を確立できると考えられます。ROIの証明なき予算要求は、経営陣にとって投資ではなく「浪費」と受け取られかねない状況です。

今後の展望

2027年に向けて、CMOという職種の淘汰と進化が同時に進行することが予想されます。従来の広告・宣伝に特化したCMOの役割は縮小し、代わってCRO(最高収益責任者)やCGO(最高成長責任者)といった、より直接的に収益責任を負うポジションへと権限が移行していく可能性があります。

企業においては、マーケティング部門と製品開発・営業部門の境界線がより曖昧になり、統合的なデータ基盤に基づく意思決定が標準化するでしょう。これに伴い、マーケティング人材には、クリエイティビティに加え、財務リテラシーやデータ解析能力が一層強く求められるようになるでしょう。

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出典:ガートナー 2026.2 を基に編集

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