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オープンデータ社会(6)日本におけるオープンガバメントの取り組み

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日本でのオープンガバメントの取り組みをご紹介します。

高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)は2010年5月11日、「新たな情報通信技術戦略」を発表し、「オープンガバメント等の確立」を掲げています。2010年6月22日に公表した「新たな情報通信技術戦略工程表」では、オープンガバメント推進に向けて、2013年までに二次利用可能な形で行政情報を公開、原則全てインターネットで利用可能にするという目標を設定しました。

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http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/100622.pdf

政府のこれまでのオープンガバメントに関する取り組みの一例を紹介しましょう。

事例:ハトミミ.com

IT戦略本が、「新たな情報通信技術戦略」を公表される前の取り組みとなりますが、内閣府は2010年1月18日、当時の民主党政権の鳩山総理大臣の時期に、国民からの提案を受け付ける 「ハトミミ.com『国民の声』」を開始しました(第1回の集中受け付け期間は1月18日から2月17日正午まで)。予算や国の制度などに関する意見を専用フォームで受け付け、行政刷新会議の議論に反映させています。

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事例:経済産業省の『アイデアボックス』と他省庁への展開

経済産業省は2009年10月14日から11月14日まで、電子政府の取組に  
関して、国民から広く意見を募る「電子経済産業省アイディアボックス」を開設し、ネットを通じた意見募集システムの可能性についての実証実験を実施しました。

投稿されたアイデアは、参加者で共有し、賛成票を投じて応援や、コメントなどによって、サイトを盛り上げてきました。投稿アイデアやアイデアに対するコメントの全データをオープンデータ化しています。

2010年2月23日から2010年3月15には「経済産業省アイデアボックス」を実施。「経済産業省アイデアボックス」終了に伴い、オープンビジネスソフトウェア協会がそのアイディアを再掲載するサイト『アフターアイディアボックス』の第2弾を開始しています。

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http://201002.openlabs.go.jp/

経済産業省のアイデアボックスの取り組みは、様々な省庁でも採用する動きが見られました。

観光庁と経済産業省は2010年6月22日から7月22日の期間、「アイディアボックス」の仕組みを活用し、休暇取得の分散化に関する国民の意見を募集する「休暇分散化アイデアボックス」を実施しました(報道発表資料)。参加登録者数は3278人で、延べ意見・アイデア数は1万793件にも上りました。

休暇分散化の効果に関する設問では「春の大型連休の分散化、秋の大型連休の創設のいずれも効果がないと思う」が64%を占め、休暇分散化のメリットを選ぶ設問でも「メリットは特にない」が68%に上っています。

また、内閣府の行政刷新会議は2010年9月24日、経済産業省の「オープンガバメントラボ」環境を利用し、「国民の声アイデアボックス」を開設。2010年9月24日から10月14日までアイデアを受け付けました。

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http://koe.openlabs.go.jp/

新成長戦略の実現に向けた規制・制度に関するアイデアを環境・エネルギーや健康、観光立国・地域活性化、科学・技術・情報通信など、8つのカテゴリに分けて募集を実施。ツイッター(@kokumin_koe)でもアカウントも開設し、意見を募集しました。

国民の声アイデアボックスでは、すでに募集の受付は終了していますが、これまで約1,500のアイデアと9,000のコメント、20,500の投票が寄せられています。集まったアイデアなどについては、行政刷新会議の下に設けられている規制・制度改革に関する分科会等の議論にも活用されています。

事例:文部科学省の『熟議カケアイ』

文部科学省では、2010年4月17日、「文科省政策創造エンジン 熟議カケアイ」 を開設しました。「熟議」とは、多くの当事者による「熟慮」と「討議」を重ねながら政策を形成していくという考え方です。教育というテーマには多くの国民が関心を持ち、2011年4月28日に公表された「教育の情報化ビジョン」の策定にあたっては、様々な意見が書き込まれました。オフラインでの会合も積極的に開催されました。

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http://jukugi.mext.go.jp/

事例:経済産業省の『オープンガバメントラボ』

そして、経済産業省は2010年7月29日、オープンガバメントの実現に向けての実証環境として「オープンガバメントラボ」を正式に開設しました。

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http://www.openlabs.go.jp/

2012年2月16日にはGoogleサイト上にリニューアルし、サイトインフラに係るコストを不要にしています。

日本におけるオープンガバメントの実現を目指し、さまざまな実証を行っているサイトで、オープンガバメントに関するさまざまな情報の収集、提供も行っています。また、「アイデアボックス」のほか、国内外のオープンガバメントに関する情報を集めた「オープンガバメント Wiki」、2010年9月には行政統計利活用サイト「データボックス」などを開設しています。「データボックス」は、統計情報の公開だけでなく、統計情報の利活用のために、データグラフ化機能やファイル形式の多様化に対応しています。

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http://databox.openlabs.go.jp/

事例:経済産業省の『情報分析ツール活用ガイド』の公開

国民から集められた情報について、分析し政策に反映させる取り組みも行われました。経済産業省は2011年4月11日、テキストマイニングなどの分析ツールを活用するための「行政機関における情報分析ツール活用ガイド」を公開しました。政府や自治体にはこれまで多くの意見や要望が寄せられてきており、情報の収集と分析には膨大な時間がかかっていました。今回、情報分析ツールを利用することで、これまでの声を効率的に収集・分析し、政策立案の高度化が期待できるとしています。

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https://docs.google.com/viewer?a=v&pid=sites&srcid=b3BlbmxhYnMuZ28uanB8d3d3fGd4OjRjY2Q0ZDk5OGFlZGQ3YzQ

国民からの意見を収集・分析し、政策立案の高度化の実現していくためには、ネット上の意見を収集することが効率的であるとし、意見募集のサイトやソーシャルメディアからの情報の収集と分析、政策立案と政策の公開。そして、パブリックコメントやソーシャルメディアで課題や効果や評判などの検証などのフィードバックを収集し、政策への意見を反映するといったように、政策立案に向けた情報のライフサイクル管理の必要性があげられています。その結果、国民のニーズに応じて適切な政策立案や、行政機関の職員の業務の効率化、そして行政の透明化に結びつけることができるとしています。

意見の収集と分析の方法としては、文章を単語単位に分解してその関係性を自動で分析するテキストマイニング、様々な意見の構造化をするマインドマップなどをあげています。

これまでの活用例として、経済産業省のアイデアボックスや行政刷新会議の国民アイデアボックスや文部科学省の熟議カケアイ、そして災害時での取り組みが紹介されています。

国民の声アイデアボックスでは、投稿されたアイデアが膨大であったため、様々な観点から分析が行われた。テキストマイニングのほか、ポイントランキングでどんな意見が上位にきているかを分析し、自動文書分析で全体をマッピングし意見の全体像の把握、属性別の分析なども実施した。集められた情報を客観的に分析した結果を最終報告書でとりまとめるなど、政策検討に活用しています。

情報分析のツールの活用については、国民の意見を収集するだけでなく、政府が能動的に情報を分析することによって、政策への反映かつ業務の効率化に結びつけることができるとしています。

震災後に意識の高まるオープンガバメント

2011年7月4日に公表した「電子行政推進に関する基本方針に係る提言」ではオープンガバメントの今後の方向性を示しています。本提言では、国民が必要とする行政情報を容易に利用できるように、統計情報、測定情報、防災情報等について2次利用が可能な標準的な形式での情報提供を推進。緊急時には、携帯端末向け情報提供やネットワークへの負荷が少ない形式での情報提供などをあげてます。また、今回の震災での有効性や留意点を検証しつつ、ソーシャルメディアの効果的な活用方策について検討。そして、国民による政策の検証や政策形成過程への参加を可能とする観点からも、政策に係る各種情報の提供を推進する必要があるとしています。

本提言でポイントとなるのは、2次利用が可能な標準的な形式での情報提供、そして、ソーシャルメディアの効果的な活用方策を盛り込んだ点にあります。震災を機に、オープンガバメントの動きは一気に加速することになりました。

地方自治情報センター(LASDEC)は2011年3月18日、全国の地方自治体に対して、国民に発信する重要情報のファイル形式について、CSVやHTMLで掲載するよう通知。内閣広報官は3月22日、各府省に対して、被災地での情報手段として、携帯電話の重要性が増すことから、携帯電話のホームページを用意するとともに、ホームページをHTML形式に変更するよう通知しました。その後、総務省が3月29日に各府省に、経済産業省が3月30日に社団法人日本経済団体連合会へ通知するなど、政府・自治体・経済界で、CSV、HTML形式での利用を推奨する動きが広がりを見せています。

事例:経済産業省の電力データの公開『節電.go.jp』

経済産業省は、2011年7月4日、内閣官房IT室、総務省、文部科学省他関係府省と連携し、インターネットを通じて民間の創意工夫を集めることで、東日本大震災からの復旧・復興につなげていく国民運動「ネットアクション2011」の呼び掛けを開始したことを発表。公共データを収集・公開し、民間企業がこれらのデータを活用し、震災からの復旧、復興や節電のためのアプリケーションやコンテンツの開発、創作の呼びかけを推進しました。

また、節電ポータルサイト「節電.go.jp」を開設し、東京電力の電力受給・予測データ(CSV形式)を公開することで、各種アプリケーションの開発を促しています。

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http://setsuden.go.jp/

事例:資源エネルギー庁の『節電スマートフォンアプリ大賞』

資源エネルギー庁は、電力事業者が提供する電力データをベースに、節電のためのアプリケーションを開発する開発者を応援するとともに、節電アプリをスマートフォンユーザに啓蒙していくために、2011年7月4日から7月31日まで2011節電スマートフォンアプリ大賞」を実施しました。

事例:復旧・復興支援データベース

経済産業省のほか、復興庁、内閣官房情報通信技術(IT)担当室、内閣府防災担当、総務省が事務局となって、2011年1月に被災地の住民や事業者が、復旧・復興の支援制度を効果的に活用することを目的に「復旧・復興支援制度データベース」を立ち上げました。

国や地方自治体等が東日本大震災の復旧・復興のために整備している支援制度を利用者がワンストップで地域別や条件にあった制度のデータを検索できる環境を構築しています。各府省・自治体が個別にばらばらに情報提供を行なっていた震災復旧・復興支援制度の情報フォーマットを標準化しています。

本データベースサイトは、Windows Azureをプラットフォームに採用し、短期間でプロトタイプを構築し、各省庁への提案活動を重ねサービス化にこぎつけています。2012年1月17日にサービス開始をした翌日の18日には、3万ページビューを超えましたが、クラウドを活用することで急激なアクセス増にも耐えられる環境を構築しています。

復旧・復興支援制度データベースに登録されている情報は、政府の「生活再建ハンドブック」、「事業再建ハンドブック」をはじめ、岩手・宮城・福島など、510を網羅する支援制度情報が登録されており、日本初の省庁・自治体横断型サービスとなっています。

提供されるデータを収集する際に、データの二次利用を認める扱いとすることを明示的に確認できるようにし、外部サービスで利用するためのAPIを提供しています。

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http://www.r-assistance.go.jp/

本格的な活用に向けた普及推進に向けて、2012年6月2日には、開発者が一同に集まりアイデアを出しあいながらアプリケーションを開発する「復旧復興支援データベースAPI ハッカソン」を開催しています。開発者や行政書士・税理士など44名が参加し、経産省からAPIの説明目的や想定利用ユーザーなどの説明が行われています。

後半にはこれらの活用に向けてグループディスカッションを通じて、震災復興に向けてAPIを活用したサービスや支援のあり方について、意見交換が行われ、以下のようなサービスのアイデアが提案されています。

・中身検索ビジュアライズ
・検索ノーマライズ
・ダッシュボード
・地理情報
・Facebookプッシュ
・復旧復興支援ナビ
・カレンダー

オープンガバメントに関するTF提言

IT戦略本部は2012年1月31日、「第19回 電子行政に関するタスクフォース」を開催し、構成員から「オープンガバメントに関するTF提言構成案」が示されました。

オープンガバメントに関するTF提言構成案

1.全体のビジョン・方針

・時代の変化、新たな技術・サービスの登場
・行政(国)における情報提供の対応の遅れ、課題
・東日本大震災の教訓
・今後目指すべき方向
※海外動向なども参考に。

2.電子的に提供する情報の内容(現状評価を行い、課題等を抽出する)

(1)行政の諸活動に関する情報
 ・行政組織、制度等に関する基礎的な情報
 ・行政活動の現状等に関する情報
 ・予算及び決算に関する情報
 ・評価等に関する情報
(2)社会的な有効活用に資する情報
(3)法令により公表等が義務付けられている情報
(4)その他
 ・情報公開請求が反復的に行われるものなど。

3.電子的提供に関する留意事項等(検討テーマ)

(1)ホームページの改善
 ・各府省サイトのカテゴリやデータ項目の標準化
 ・人が読む場合のユーザビリティ向上など
(2)機械可読式情報提供
 ・タグなどの標準化
 ・データ形式など
※別途、時間をかけて検討する必要あり(例:オープンデータ戦略としてTF
で検討など)
(3)多様な端末への対応
(4)民間が提供するサービスの活用
・対象:ソーシャルメディア、民間サイトへの情報提供など
・検討項目:活用ルール、基準(システムを保有する場合との違い)、API
公開方法など 
(5)著作権
(6)セキュリティ、プライバシー
(7)統合的・横断的情報提供方法

本タスクフォースにて、2012年2月に骨子案を提示し、総務省や民間事業者や関連団体へのヒアリング、5月にタスクフォースの提言とりまとめを実施し、6月以降にオープンガバメント取り組み方針を示すことを明らかにし、2012年7月にIT戦略本部決定の電子行政推進に関する基本方針の『電子行政オープンデータ戦略』へとつながっています。

オープンデータ社会(1)オープンデータとは? 2013/01/21

オープンデータ社会(2)米政府におけるオープンガバメントの取り組み 2013/01/22

オープンデータ社会(3)世界の政府におけるオープンデータ戦略の取り組み 2013/01/23

オープンデータ社会(4)民間事業者の参入 2013/01/25

オープンデータ社会(5)米国政府におけるビッグデータ関連政策 2013/01/28

オープンデータ社会(6)日本におけるオープンガバメントの取り組み 2013/01/29

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