アジア太平洋のパブリッククラウド市場、2029年に1,310億ドル規模へ ― 金融、通信、小売が成長を牽引、AI統合とデジタルインフラ刷新が加速
米調査会社IDCは2025年8月12日、アジア太平洋(日本・中国を除く)地域におけるパブリッククラウドサービス(PCS)市場の成長予測を発表しました。
IDC: AI and Digital Transformation Drive Asia/Pacific* Public Cloud Market to $131 Billion by 2029
2024年の市場規模530億ドルから、2029年には1,310億ドルへと拡大し、2025年から2029年の年平均成長率(CAGR)は19.8%に達する見通しです。背景には、IaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)の採用拡大と、人工知能(AI)・機械学習(ML)の本格統合、そしてITインフラの急速なモダナイゼーションがあります。
政府、医療、銀行といった主要セクターはインフラ刷新を加速させ、クラウド活用の広がりを牽引しています。クラウドファースト戦略へのシフトが進むなか、企業はクラウド投資においてセキュリティ、稼働率、レジリエンスを重視。AIの組み込みに伴う複雑化に対応するため、マネージドサービスや専門性を備えたベンダーとの連携も強化されています。SaaS市場は予測期間中に規模が倍増するとみられ、パーソナライズや顧客体験、業務効率化の分野でAI活用が進む見通しです。
金融と通信が先導、リテールや公共サービスも急伸
IDCの分析によると、業種別の成長率では通信(前年比22.7%)と金融サービス(22.5%)がトップを争っています。通信分野ではネットワークの高度化、金融分野ではデジタルバンキングへの急速な移行が成長要因です。小売(22.3%)、ビジネス・パーソナルサービス(22.2%)、政府(22.3%)も高成長を記録しており、Eコマース拡大や行政のデジタル化施策が寄与しています。
一方、耐久消費財や医療分野の成長率はそれぞれ21.8%、20.8%とやや緩やかで、採用スピードやマージン構造の違いが影響している可能性があります。全体としては、多様な産業でクラウド化の加速が確認されており、パートナーエコシステムが業種特化のユースケースやROI重視のソリューションを提供する動きも広がっています。
マクロ環境と技術課題への対応
市場の追い風は強いものの、レガシーシステム移行の難しさやクラウド人材不足は依然として課題です。また、輸入技術製品への関税導入といったマクロ要因は、サーバーやネットワーク機器などクラウド基盤構築に必要なハードウェアのコスト増につながる可能性があります。これにより、一部の企業は自社構築ではなく既存パブリッククラウドサービスの利用にシフトする動きが強まり、大手クラウド事業者にとっては需要増の追い風となることも考えられます。
さらに、インフレや地政学的緊張が短期的な投資判断に影響を与えているものの、オーストラリア、インド、シンガポールなどでは主権クラウドやデータレジデンシーの規制対応を背景に投資が拡大。ハイブリッドクラウドやマルチクラウド戦略の採用が、柔軟なアプリケーション移行や相互運用性の確保に寄与しています。
今後の展望
IDCのマリオ・アレン・クレメント氏は「アジア太平洋市場は、クラウドネイティブ技術とデータモダナイゼーションへの強いコミットメントを示しており、世界のクラウド市場における存在感を長期的に高めていく」と述べています。
今後は、AI統合型SaaSの普及、産業ごとのクラウド特化モデルの拡大、ソブリンクラウドソリューションの進化が市場成長を後押しすると見込まれます。
出典:IDC 2025.8