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国内企業のエコシステム連携、共創型へのシフトが加速

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IDC Japanは2025年8月7日、国内ITバイヤー企業を対象に、「エコシステム内での企業間システムおよびデータ連携の実態を調査した結果」を発表しました。今回の調査では、連携先として「ビジネス/ITコンサルティングファーム」が最も多く、次いで「主要なサプライヤー」「メジャーテクノロジーパートナー」が上位に入りました。この結果は、従来のバリューチェーン上の最適化や効率化にとどまらず、異業種を含むパートナーとの共創や、付加価値を生み出す戦略的連携へと重心が移っていることを示唆しています。

背景には、複雑化する経営環境や急速に進化するデジタル技術があります。医療、製造、運輸など幅広い分野で、企業や組織がデータやシステムを共有し、新たなサービス創出や競争力強化を図る取り組みが加速しています。今回は、こうした連携の現状と目的の多様化、技術活用の進展、そして直面する課題と今後の方向性について整理します。

連携先はコンサルからサプライヤー、テクノロジーパートナーまで多様化

IDC Japanの調査によると、国内企業が連携している、または検討しているパートナーとして最も多かったのは「ビジネス/ITコンサルティングファーム」(25.7%)でした。これに「主要なサプライヤー(23.7%)」、「メジャーテクノロジーパートナー(20.7%)」が続きます。

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出典:IDC Japan 2025.8

この傾向は、IT戦略や業務プロセス改革を外部の専門知見とともに進める企業が増えていることを反映しています。また、基幹システムやクラウド、AI、データ分析などの技術基盤を持つテクノロジーパートナーとの連携は、IT導入支援にとどまらず、新規事業の共創やサービス高度化を目的としています。さらに、販売パートナーや物流パートナー、金融機関、官公庁、学術機関など、多様な連携先が存在し、エコシステムが産業横断的に広がっている様子がうかがえます。

共創型エコシステムへの移行とその背景

従来、企業間連携はサプライチェーン上の最適化や納期短縮、コスト削減といった効率化を目的としてきました。しかし現在は、異業種連携を含む共創型エコシステムへの移行が進んでいます。背景には、単一企業では対応しきれない複雑化した社会課題や、市場変化への迅速な対応が求められていることがあります。

例えば製造業では、AIとIoTによるスマートファクトリー化を進める際、データ分析企業や通信事業者との連携が不可欠です。医療分野では、患者データの共有や解析を通じた新しい診断・治療法の開発が進み、運輸分野では物流パートナーや販売事業者とのリアルタイム情報共有によって配送効率が向上しています。このように、エコシステム連携は単なる業務効率化にとどまらず、新しい価値を生む源泉としての役割を強めています。

技術活用の拡大と課題の顕在化

エコシステム連携を支える技術としては、API、クラウドサービス、AI、IoTなどの利用が進んでいます。これらはリアルタイムなデータ共有や分析、複数拠点間での協働を容易にし、ビジネスモデルの変革を後押しします。一方で、セキュリティや法規制、利害調整といった課題が顕在化しています。

特に、業界間でのデータ連携においては、情報漏洩や不正アクセスへの懸念が根強く、ガバナンス体制の整備が急務です。また、法規制や契約条件の違いが国際的な連携を難しくするケースもあります。さらに、利害関係者間での目的や優先順位の不一致が、連携プロジェクトの停滞や中断につながることも少なくありません。こうした課題を克服するには、技術的なセキュリティ対策と並行して、パートナー間の信頼醸成が求められます。

企業間の温度差と戦略的意義

今回の調査では、約3分の1の企業がすでにエコシステム連携を実施しており、これから連携を検討している企業を含めると全体の約3分の2が意欲を示しています。しかし一方で、連携の必要性を感じていない企業も約4分の1存在します。これは、業種や企業規模、事業の成熟度によって、連携の優先度や期待効果が異なることを示しています。

連携目的も多様化しており、「業務効率の向上」が最多である一方、「データ活用」「サステナビリティ対応」「新規ビジネス創出」といった中長期的な視点の回答も目立ちます。こうした目的の変化は、エコシステム連携が単なるコスト削減施策から、企業の成長戦略に不可欠な手段へと進化していることを示しています。

今後の展望

今後、国内企業のエコシステム連携はさらに拡大し、より高度で複雑なパートナーシップが求められるでしょう。特に、生成AIやマルチクラウド環境、エッジコンピューティングといった先端技術の進展により、リアルタイムな意思決定や高度なデータ活用が可能になります。これに伴い、連携のスピードと柔軟性は競争力の源泉となり、単独では到達できない市場やサービス領域への進出が可能になります。

一方で、データ主権や国際的な規制対応、サイバーセキュリティなどの課題は引き続き重要です。特に異業種・国際間の連携では、共通ルールや標準化の整備が進むか否かが成否を分ける可能性があります。IDC が指摘するように、CIOをはじめとする経営層は、パートナー企業を「共創者」と位置づけ、価値創出のための長期的な関係構築に注力することが求められています。

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