リモートワークは時代遅れか?日本企業で進む"出社回帰"の波
ガートナージャパンは2025年7月31日、「日本企業におけるリモートワークの実施状況に関する調査結果」を発表しました。今回の調査は2025年4月に実施されたもので、企業の働き方の再編が進む中で、リモートワークの取り扱いに変化が見られる実態を明らかにしています。
コロナ禍において急速に浸透したリモートワークですが、経済活動の正常化にともない、外資系大手をはじめ一部企業でオフィス回帰の動きが加速しています。こうした潮流に合わせて、リモートワークから出社へと方針転換を図るべきか、各社の判断が問われる局面に入っています。
今回の調査では、「リモートワークをまったく実施していない/実施予定もない」と回答した企業の割合が、2020年〜2022年の12.6%から、2025年には22.6%へと約10ポイント上昇しました。一方で、「全社員の50~80%がリモートワークを実施している」とした企業の割合は、49.3%から32.3%へと大きく減少しています。
出典:ガートナー 2025.7.31
このような傾向は、リモートワークが一定の成果を上げてきたにもかかわらず、その活用が限定的になりつつある現状を示しています。今回はこの調査をもとに、企業の働き方再定義の重要性、リモートワークの価値、課題と可能性、そして今後の展望について取り上げたいと思います。
出社回帰の裏側にある企業の課題と戸惑い
リモートワークから出社への移行が進む背景には、トレンドの変化以上に、企業が直面しているさまざまな課題が存在しています。感染症拡大への緊急対応として導入されたリモートワークは、急造の仕組みであったがゆえに、制度設計やコミュニケーション面での課題も多く指摘されてきました。
たとえば、部門間の連携不足、ナレッジ共有の非効率化、組織文化の希薄化などが挙げられます。こうした問題を克服するためには、対面によるコミュニケーションの必要性も一定程度存在します。
一方で、外資系大手などが先導するオフィス回帰の動きに対して、国内企業が「他社に倣うべきか」と模索する姿勢も垣間見えます。Gartnerでは、こうした一律の出社回帰には慎重な検討が必要だと指摘しています。
リモートワークの価値は一過性のものではない
リモートワークには、通勤負担の軽減や柔軟な働き方の実現、さらにはワーク・ライフ・バランスの向上など、多くの利点が存在します。実際、Gartnerが実施した別の調査では、従業員が勤務先に求めるものとして、「報酬」「仕事の充実」に次いで「ワーク・ライフ・バランス」が上位に挙げられました。
リモートワークは、こうした価値観の変化に柔軟に対応できる手段であり、従業員満足度の向上や離職率の低下に貢献します。さらに、地理的な制約を超えて人材を採用できることで、企業にとっても戦略的メリットをもたらします。
ディレクター アナリストの針生恵理氏は、「リモートワークを完全に廃止することは、人材獲得の機会を狭め、社会の求める多様性に逆行するリスクがある」と警鐘を鳴らしています。
課題の克服こそ、経営とデジタル部門の役割
リモートワークには課題も存在します。孤独感の増加やモチベーション低下、情報共有の難しさ、企業文化の醸成の困難さなどが挙げられます。
しかし、針生氏は「こうした課題の克服こそが、経営層とデジタル部門の腕の見せどころ」と語ります。適切なITツールの選定と導入、オンラインとオフラインを組み合わせたコミュニケーション戦略、マネジメントの在り方の見直しによって、リモート環境でも生産性とエンゲージメントを維持することが可能になります。
企業は、リモートワークを「非常時の代替手段」ではなく、「恒常的な働き方の一つ」として位置付け、制度としての完成度を高めていくことが求められています。
今後の展望
今後の働き方においては、出社とリモートの二項対立ではなく、より柔軟で戦略的な「ハイブリッドワーク」への移行が重要となります。
全社一律の出社ルールではなく、職種やチームの特性、個人のライフスタイルに応じた制度設計が不可欠です。Gartnerは、以下のような観点からの制度見直しを提案しています。
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自律性を尊重した柔軟な制度設計と選択肢の拡充
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従業員の声を継続的に反映し、エンゲージメントとパフォーマンスの最適化を図ること
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ライフステージや家庭環境に応じて誰もが選択できる制度としての構築
針生氏は「今こそ、出社とリモートワークの本質的な意義を見直し、快適かつ高生産性な働き方の実現に向けた環境整備を推進すべきだ」と指摘しています。
ハイブリッドワークを妥協案ではなく、「戦略的な経営資源」と捉える視点が、企業の競争力と持続的成長に直結していくことが期待されます。