セキュリティソフト市場、AIとクラウドで急成長
IDCが2025年7月22日に発表した「Worldwide Semiannual Software Tracker(2024年下半期)」によると、アジア太平洋地域(日本と中国を除く、以下APeJC)のセキュリティソフト市場は2024年に前年比17.2%増の75億ドルに達しました。
成長の背景には、AIによる革新の加速、統合型セキュリティプラットフォームへの移行、そして各国のデータ保護規制の強化があります。IDC Asia/Pacificのシニアリサーチマネージャーであるグルパル・シン氏は、「生成AIの登場によりサイバー攻撃が高度化する中、CISO(最高情報セキュリティ責任者)はリアルタイムでの可視化と即応性を求めて、AIを組み込んだ統合型プラットフォームへの移行を急いでいます」と述べています。
今回は、急成長を遂げるAPeJC地域のセキュリティ市場の背景にある要因、主要セグメントの動向、そして中長期的な展望について取り上げたいと思います。
AIとプラットフォーム化が市場成長を牽引
APeJC市場では、AI主導によるソフトウェアの機能強化が進み、「AIネイティブ」なアップグレードが既存の製品群に新たな価値をもたらしています。生成AIは、高度な分析機能の民主化、自動化の推進、生産性の向上といった形で、セキュリティ分野の変革を支えています。
この影響は金融業界やITサービス業界で特に顕著であり、すでにセキュリティオペレーションセンター(SOC)内にAIコパイロットを導入する企業も増えています。生成AIの活用により、業務効率が向上し、企業のレジリエンス(回復力)も強化されています。
こうした動向は、セキュリティベンダーにとっても新たな収益源となっており、今後もAI関連機能の高度化を軸にした製品・サービスの刷新が進むとみられています。
クラウド化とマルチクラウド戦略が新たなセキュリティ需要を創出
ハイブリッドかつマルチクラウド環境が標準となる中、従来型のセキュリティモデルでは対応が難しい複雑なワークロードが増加しています。これにより、Cloud Native Application Protection Platform(CNAPP)、Endpoint Detection and Response(EDR)、さらには拡張検知対応(XDR)といった新世代セキュリティソリューションの採用が広がっています。
特に金融やデジタルネイティブな小売業では、これらの技術の導入が進んでおり、市場全体の成長を牽引しています。また、インドや東南アジアにおいては、大規模なマーケットプレイスやスーパーアプリを支えるCustomer Identity and Access Management(CIAM)の需要も高まっています。
このように、クラウドを前提としたセキュリティ戦略への転換が、製品カテゴリごとの成長性にも直接影響を与えています。
地政学リスクと規制強化が投資戦略に変化をもたらす
2024年以降、米国の対中関税引き上げによって、ハードウェアコストの上昇や調達リスクが顕在化し、企業はクラウド型・マネージド型セキュリティへのシフトを加速させています。これにより、オンプレミス機器のリプレース周期が長期化しつつも、統合型脅威管理(UTM)や次世代ファイアウォールといった基幹製品への需要は底堅さを維持しています。
オーストラリア、インド、ベトナム、マレーシアなどではサイバーセキュリティ規制の改正・新設が進行しており、各国の法制度を実行可能な対策に落とし込む技術パートナーの役割が増しています。
グルパル・シン氏は「先進的な企業ほど、単なるコンプライアンス対応にとどまらず、定量的なリスク低減とレジリエンス確保に注力しています」と述べており、今後も規制対応から戦略的なセキュリティ投資への転換が進むと見られます。
今後の展望:2029年には134億ドル規模へ、戦略的パートナーシップが鍵
IDCの予測によれば、APeJCのセキュリティソフト市場は2024年から2029年にかけて年平均成長率(CAGR)12.4%で成長し、2029年には134億ドルに達すると見込まれています。この成長はAI技術の進化とクラウドシフトに支えられ、セキュリティの高度化が企業競争力の一部として不可欠になっていることを示しています。
一方で、各国の規制動向、インフラ更新への対応、コスト圧力など、複数の変動要因が存在するため、企業にとっては技術選定だけでなく、信頼できる戦略的パートナーとの連携がこれまで以上に重要となるでしょう。
出典:IDC 2025.7