IT/SIビジネスにおける「失われた30年」からの脱却 〜「計算」を超えた「熱量」こそが変革の原動力 〜
沈滞する業界に漂う「負け癖」の正体
日本のIT/SIビジネスは、長らく「失われた30年」ともいえる構造的な課題の只中で、停滞を余儀なくされています。技術的負債として積み上がったレガシーシステム、イノベーションを阻害する多重下請け構造、そしてグローバルなプラットフォーマーに市場を席巻され、いつしか業界全体に「どうせ我々には無理だ」という諦めにも似た「負け癖」が蔓延しているのではないでしょうか。
かつての成功体験である大規模なウォーターフォール開発や、安定した収益源であった人月積算モデルは、もはや現代のビジネススピードに対応できず、変革を妨げる足枷となっています。顧客の要求通りにシステムを構築する「御用聞き」に徹するあまり、ビジネスの価値創造という本来の目的を見失い、技術者たちは疲弊し、業界の魅力は色褪せつつあります。さらに、生成AIの台頭がこの構造変化を決定的なものにしています。AIがコードを生成し、システムを自律的に運用する時代が到来しつつある今、人の工数をベースとしたビジネスモデルは、その存在意義そのものが問われているのです。この沈滞した状況を打破するために必要なのは、小手先の改善策ではなく、根源的なマインドセットの変革です。
「計算」の限界と「熱量」の必要性
なぜ変革は進まないのでしょうか。その一因は、あらゆる意思決定が「計算」、すなわち短期的な採算性やROI(投資対効果)のみで判断されることにあります。もちろん、ビジネスである以上、合理的な計算は不可欠です。しかし、真に困難な課題や破壊的なイノベーションは、緻密な計算の先にはありません。
「これを実現すれば、顧客のビジネスは飛躍的に成長する」「この技術で、社会はもっと良くなるはずだ」。こうした、採算度外視とも思えるほどの純粋な「熱量」や「情熱」こそが、前例のない挑戦を可能にし、周囲を巻き込み、不可能を可能に変える原動力となります。
今日のIT/SIビジネスに最も欠けているのは、この「何のためにやるのか」という大義であり、魂を揺ぶるような目的意識ではないでしょうか。システム開発が単なる「作業」と化したとき、組織の活力は失われます。我々は、ビジネスの根幹に再び「熱量」を取り戻さなければなりません。
AIが破壊する「常識」と、創造すべき新たな価値
変革を加速するためには、私たちが「常識」としてきたビジネスモデルそのものにメスを入れる覚悟が求められます。特に、AIはITビジネスの「前提」を根底から覆そうとしています。
AIがコーディングやテストを自律的に行うAI駆動開発(AI-Driven Development)が現実のものとなり、開発の生産性が飛躍的に向上する中で、もはや「人の時間」を価値の基準とする人月単価モデルは成り立ちません。また、システムの監視・運用をAIが担うAIOpsが普及すれば、従来の運用業務の多くは不要となります。
このような時代において、IT/SIベンダーの存在意義は、「要望に応えて労働力を提供できること」から、「共創で未来を切り拓くための技術力を提供すること」へと根本的に変わります。 そもそも、IT/SIベンダーは本来、お客様の課題を技術力で解決するプロフェッショナル集団ではなかったのでしょうか。それは、単に言われた通りのシステムを開発することではなく、技術の未来を先読みし、変化の本質を深く考え、それを武器にしてお客様をリードできなくてはならないはずです。
これに伴い、エンジニアの役割もまた、決定的な変革を迫られます。彼らはもはや、工数を満たすための労働力、つまり機械の歯車ではなく、AIを駆使して新たな価値を創造するための技術力、すなわち知的創造を牽引するドライバーなのです。 価値の源泉が「労働力」から「技術力」へとシフトする中で、エンジニア一人ひとりに求められるのは、ビジネス課題を解決する創造性や、より高度なアーキテクチャ設計能力です。
これまで「労働力」の価値を支えてきた経験則や個別具体的なノウハウは、AIの登場によりその価値が急速に陳腐化しています。一方で、これからの「技術力」の価値を支えるのは、コンピューターサイエンスやソフトウェアエンジニアリングといった、時代を超えて通用する不変の原理・原則なのです。この基礎や基本に立ち返り、その本質的な価値を提供できる能力こそが、これからのプロフェッショナルの条件となります。そのためには、現場でのたたき上げといった従来の方法だけではなく、人材の育成のあり方を根本的に見直す必要があるのです。
覚悟を持ったリーダーシップが未来を拓く
結局のところ、変革の成否はトップの「覚悟」に懸かっています。短期的な利益の減少や、既存事業からの反発といったリスクを恐れず、未来への投資を決断できるでしょうか。AIという不可逆的な変化と真摯に向き合い、自社の存在価値そのものを再定義し、その明確なビジョンと情熱を組織の隅々にまで浸透させ続けること。
経営者の方々へひとこと。あなた方が築き上げた会社の成功体験は、もはや過去のものです。成功のルールが変わってしまった今、求められるのは過去の延長ではなく、新たな起業に等しい挑戦です。この変革期に起業家精神を持てない経営者は、自分たちの会社の存続を危機に陥れることを自覚すべきです。
失敗を許容し、挑戦する者を称賛する文化を醸成することも、現代のリーダーに課せられた最も重要な責務なのです。
IT/SI業界は今、大きな岐路に立たされています。過去の延長線上で緩やかに衰退していくのか、それとも、痛みを伴う変革を経て、社会や顧客から真に必要とされる価値創造集団へと生まれ変わるのか。その答えは、合理的な「計算」の中にはありません。業界の未来を信じ、変革へ踏み出す一人ひとりの『熱量』を結集すること。そこにしか、進むべき道はありません。
8月8日!新著・「システムインテグレーション革命」発刊!
AI前提の世の中になろうとしている今、SIビジネスもまたAI前提に舵を切らなくてはなりません。しかし、どこに向かって、どのように舵を切ればいいのでしょうか。
本書は、「システムインテグレーション崩壊」、「システムインテグレーション再生の戦略」に続く第三弾としてとして。AIの大波を乗り越えるシナリオを描いています。是非、手に取ってご覧下さい。
【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版
生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
ご紹介
【正式告知/最終視察内容決定】上海・北京トップ大学新卒IT高度人材獲得ツアー
私たちインフラコモンズ株式会社では、先日ご紹介の「シリコンバレー最先端ヒューマノイド企業視察ツアー」に続いて、上海と北京のIT人材教育に積極的なトップ大学を訪問し、日本企業が各大学の優秀なIT新卒人材を獲得できるパスづくりの視察ツアーを実施します。
【視察日程】
◉9月22日月曜日〜9月26日金曜日 申込締切8月26日火曜日
【視察設計のポイント】
- IT人材教育を積極的に行なっている上海と北京のトップ大学における新卒人材窓口を訪問し、御社と各大学とのパスが構築できる機会を目指します。
- ベテランの日本人中国語通訳が付きます。
- 旅行会社はJTBになります。参加申込はJTBの予約申込ページOASYSから行っていただきます。8月上旬に開通したURLを告知、正式なお申し込みができるようになります。
- 月曜出発、金曜日帰国。最少催行人数10名。最大20名。(20名になった時点で締め切ります)
- 中国における視察コーディネート会社:CARETTA WORKS。視察実施後の個別企業様と各大学との交渉等を個別のコンサルティングサービスとして請け負うことも可能です。
- 視察代金は80万円(航空サーチャージおよび空港使用料別)
【対象となる企業】
- 日本の大手IT企業。特にAIやクラウド人材を求めている大手IT企業
- 日本の自動車メーカー及びティア1企業でSDV(Software Defined Vehicle)開発人材を求めている企業、及び、ADAS開発人材を求めている企業
- 日本の大手企業において、業務部門内でアプリケーションを内製するチームの充実を図りたいとお考えの企業
- 日本のIT人材企業で中国IT人材企業とのパイプを作りたいとお考えの企業
【視察スケジュール】
【Day 1】東京 → 上海
- 午前:東京(羽田/成田)発
- 午後:上海浦東空港着
- 夕方以降:自由行動/休憩→歓迎会・オリエンテーション
- 宿泊:上海市内ホテル
【Day 2】上海市内訪問(午前+午後で2大学) → 夜に北京へ移動
- 上海交通大学、復旦大学の2校のIT新卒人材にアクセス可能な窓口を訪問
- 夜便:上海 → 北京移動(例:19〜21時台便)
- 宿泊:北京市内ホテル
【Day 3】北京訪問(午前+午後で2大学)
- 清華大学、北京大学、北京航空航天大学、北京郵電大学、北京理工大学のいずれかのうち、2校のIT新卒人材にアクセス可能な窓口を訪問
- 宿泊:北京市内ホテル
【Day 4】北京訪問(午前+午後で2大学)
- 清華大学、北京大学、北京航空航天大学、北京郵電大学、北京理工大学のいずれかのうち、2校のIT新卒人材にアクセス可能な窓口を訪問
- 宿泊:北京市内ホテル
【Day 5】北京 → 東京
- 午前:自由時間/チェックアウト
- 午後:北京首都空港または大興空港へ送迎
- 夜便:北京発 → 東京着
【資料請求および旅行について】
株式会社JTB
https://www.jtbcorp.jp/jp/
ビジネスソリューション事業本部 第六事業部 営業第二課内 JTB事務局
TEL: 03-6737-9362
MAIL: jtbdesk_bs6@jtb.com
営業時間:月~金/09:30~17:30 (土日祝/年末年始 休業)
担当: 稲葉・野田
総合旅行業務取扱管理者: 島田 翔
お問い合わせは、株式会社インフラコモンズ (ホームページ下端の問い合わせ欄よりお送りください)まで
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。