2030年に向け拡大する衛星IoT市場
調査会社Omdiaは2025年7月31日、「Satellite IoT Market Landscape - 2025」を発表しました。報告によると、衛星通信は地上ネットワークを補完する形で、IoTネットワークにおける戦略的価値を高めつつあります。技術進化とコスト低下、標準化の進展が追い風となり、企業の遠隔地・洋上エリアでのIoT活用に新たな可能性が広がっています。
現時点で衛星IoT市場は比較的小規模ながらも、2023年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)23.8%での拡大が見込まれています。2021年から2030年にかけて各産業分野での接続数が着実に増加しており、特にエネルギー・ユーティリティ、輸送・物流、産業用IoT領域における伸びが顕著となっています。
今回は、この衛星IoTの成長背景、期待されるビジネス価値、業界動向、そして今後の展望について取り上げたいと思います。
成長を後押しする技術進化と標準化
近年、衛星通信技術は大きな進化を遂げています。特に低軌道衛星(LEO)による低遅延・高信頼通信や、スマートフォンへの直接接続(Direct-to-Device: D2D)機能の普及が、衛星IoTの実用性を高めています。加えて、ハードウェアの小型化や通信モジュールの低価格化が進み、従来は導入障壁となっていたコスト面の課題も大きく緩和されつつあります。
Omdiaは、これまでコストや既存ネットワークとの統合に課題を感じていた企業の10%が、今後衛星接続を前提としたIoT展開を検討していると指摘しています。これは、ハイブリッドな接続手段を確保することで、企業がより信頼性の高いインフラ運用を実現しようとする動きと捉えられます。
衛星IoTがもたらす産業別インパクト
衛星IoT接続の用途は年々広がりを見せています。2021年には限定的だった接続数が、2030年には5倍以上に拡大すると予測されています。
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エネルギー・ユーティリティ分野では、遠隔地での設備監視やインフラ保守に不可欠な通信手段として利用が進んでいます。
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輸送・物流分野では、船舶や航空機などグローバルな移動体の追跡・監視に活用されており、リアルタイムなステータス取得が事業効率に直結しています。
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産業用IoT(IIoT)は、鉱山や油田など地上ネットワークが届かない地域におけるセンサー連携やリモート制御に対応する手段として注目されています。
一方、スマートシティやヘルスケア分野でも将来的な応用の余地があり、特に災害時のバックアップ通信インフラとしての期待が高まっています。
通信事業者に求められる連携戦略
Omdiaは、通信事業者(CSP)をはじめとするIoT関連企業に対して、衛星運用企業との連携強化を促しています。これは、単なる接続手段の多様化にとどまらず、サービスとしてのIoT(IoTaaS)やデータプラットフォームとの統合を視野に入れたものです。
ローミングやAPIレベルでの連携設計、複数衛星ネットワークを統合管理するネットワークスライシング技術の導入が、今後の競争力の源泉となる可能性があります。
今後の展望:衛星×IoTの新たな成長モデル
衛星IoTは、従来の「通信の限界を補完する手段」から、「データドリブンな社会を支える基盤」への役割が期待されます。
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規模の経済の進展:大量接続とクラウド基盤との統合により、衛星IoTのTCO(総保有コスト)は低価格化
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災害対応・BCP用途の拡大:地震や洪水などで地上網が断たれた際の緊急通信手段として、自治体やインフラ事業者の導入が進む可能性
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生成AIとの連携:遠隔地のセンサーから収集したデータをリアルタイムでAI処理し、予測保守や自律制御に反映させるユースケースが広がっていくと予測
今後、衛星運用事業者とクラウド事業者、通信インフラ事業者による連携が進むことで、従来の通信市場とは異なる成長曲線を描いていくことも期待されます。
出典:Omdia:Satellite IoT Market Landscape - 2025