オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

生成AIの調達業務への適用は「幻滅期」に

»

ガートナーは2025年7月30日、「調達・購買ソリューションに関するハイプ・サイクル(Hype Cycle for Procurement and Sourcing Solutions)」の最新版を発表しました。この中で、生成AIの調達業務への適用が「幻滅期(Trough of Disillusionment)」に差しかかっていると指摘しました。

Gartner Says Generative AI for Procurement Has Entered the Trough of Disillusionment

企業の間では、生成AIの導入によって業務効率の向上やコスト削減、データ活用の高度化への期待が高まっていました。しかし、実際にはROI(投資対効果)のばらつきや、既存システムとの統合の難しさが顕在化しており、導入初期の過度な期待と現実のギャップが課題となっています。

今回は、生成AIによる調達業務の変革可能性とその限界、導入を阻む要因、そして今後の展望について取り上げたいと思います。

業務効率とデータ活用を可能にする生成AIの力

ガートナーの調査によると、生成AIは調達業務において「ナレッジの発見」「情報の要約」「文脈づけ」「ワークフローの生成」「業務実行の自動化」など、反復的で時間のかかる業務に強みを発揮しています。たとえば、自然言語による業務指示(Text-to-process)や自動ワークフロー生成は、契約書作成やプロジェクトスコープ定義、サプライヤー選定、RFx(提案依頼書等)作成などのプロセスを簡略化します。

これにより、担当者が戦略的な意思決定やサプライヤーマネジメントといった付加価値の高い業務に専念できるようになり、コスト削減と生産性向上の両立が期待されています。すでに一部の先進企業では、これらの適用により競合優位性を確保しつつある状況です。

導入障壁として立ちはだかる現実

一方で、生成AIの導入には複数の障壁が存在しています。最大の課題は、調達システムにおけるデータの断片化と品質のばらつきです。データの正確性が担保されなければ、AIの出力精度は著しく低下し、業務判断の信頼性にも影響を及ぼします。

また、生成AIツールは往々にして既存のERPやeProcurementシステムと仕様が異なり、技術的な統合が難しいケースが目立ちます。導入コストの不確実性、AIに対する懐疑的な姿勢、従業員の仕事の安全性に対する不安、組織文化の変革への抵抗感なども無視できません。

さらに、規制や法的枠組みの不明確さが信頼性やプライバシーの懸念を生んでおり、企業が積極的に投資判断を下すには慎重な検討が必要となっています。

他の技術の成熟度と生成AIの位置づけ

ガートナーの「ハイプ・サイクル」によると、生成AIのほかにも持続可能な調達アプリケーション、予測分析、サプライヤー・ダイバーシティ支援ツール、高度な契約分析などが「幻滅期」に位置づけられています。一方で、会話型AIによる調達支援は生産性段階に到達する前に市場から消滅する可能性が高いと評価されています。

こうした動向は、調達分野におけるイノベーションの難しさと、技術導入に伴う期待と現実のギャップの存在を浮き彫りにしています。

今後の展望

ガートナーは、生成AIが今後5年以内に生産性の高い技術として定着すると予測しています。そのためには、企業は拙速な導入ではなく、段階的かつ戦略的な取り組みが求められています。

調達部門の責任者であるCPO(Chief Procurement Officer)は、次のような対応が求められています。

  • 調達システム間の情報統合と標準化により、信頼できるデータ基盤を整備すること

  • 生成AIをネイティブに組み込んだベンダーのソリューションを調査・評価し、全社戦略と整合性の取れた導入方針を策定すること

  • ソーシングや契約管理、サプライヤーリスクといった重点領域ごとに導入可能なAIツールを見極めること

  • 業務変革における学習と適応を促進するため、チェンジマネジメントの実行を強化すること

  • 規制の動向をモニターし、専門家の助言を得ながらコンプライアンスを確保すること

  • AI活用を前提とした「デジタル・デクステリティ(俊敏性)」やプロンプト設計の能力を備えた人材育成を進めること

スクリーンショット 2025-07-31 5.24.38.png

出典:ガートナー 2025.7

Comment(0)