AI特需で北米IT流通市場が過去最高
IDCは2025年7月29日、北米における2025年第2四半期(Q2)のIT流通市場に関する最新データを発表しました。IDCとGTDC(Global Technology Distribution Council)の共同トラッカー「North America Distribution Tracker」によると、北米IT流通チャネルにおける売上高は218億ドルに達し、前年同期比7.4%増と過去最高を記録しました。
背景には、生成AIの普及に伴うGPU需要の爆発的増加や、AI対応PCの出荷拡大、さらにはAI処理に最適化されたネットワークインフラへの投資が挙げられます。従来のソフトウェアやサービスの成長は堅調に留まったものの、ハードウェアカテゴリ全体が市場を牽引する結果となりました。
今回の記事では、AI関連需要がIT流通市場にもたらしている変化を、GPUとAI PCの急成長、ネットワーク機器への再投資動向、そしてソフトウェア・サービスチャネルの役割の変化という観点から分析し、今後の展望を考察していきます。
AI需要が牽引するハードウェア分野の成長
2025年第2四半期のハードウェアカテゴリは軒並み2桁成長を遂げました。中でも個人向けコンピューティング(Personal Computing)は前年同期比12.1%増、ネットワークインフラは13.3%増と、いずれも大幅な伸びを記録しました。最も注目すべきは、コンポーネントおよび半導体カテゴリで、前年同期比22.9%増という急成長を遂げ、初めて上位5製品群に名を連ねました。
急伸の背景には、生成AIへの期待と投資拡大によるGPU販売の爆発的な増加があります。IDCのリサーチバイスプレジデントであるルース・フリン氏は、「GPU販売は前年比575%以上の伸びを示し、供給制約の緩和とともに、クラウド大手だけでなく大規模企業によるAIインフラ投資が加速している」と指摘しています。
AI PCの普及が製品構成を大きく転換
個人向けコンピューティングカテゴリにおいても、AIの影響は顕著です。2025年第2四半期には、AI PCの売上が20億ドル近くに達し、全PC売上の構成比が1年で10%未満から25%以上に上昇しました。
AI PCとは、ローカルでAIモデルを処理できるNPU(Neural Processing Unit)などを搭載した次世代PCであり、企業の業務効率化やエッジAI用途での導入が進んでいます。こうした高度な性能を要するAI PCへの需要は今後さらに高まると見られ、PC市場における製品構成の転換が進行中です。
ネットワークインフラ需要も回復傾向に
生成AIの活用が進む中、ネットワーク機器への再投資も加速しています。2025年第2四半期には、ネットワークインフラの売上が23億ドルとなり、前四半期の停滞から回復傾向を示しました。
パンデミック期に積み上がったバックログの解消に加え、AIワークロードに対応可能な最新アーキテクチャを備えたハードウェアへの買い替えが進んでいることが背景にあります。企業は、AI処理を高速かつ安定的に実行するため、ネットワーク基盤の見直しを進めています。
ソフトウェア・サービスは安定成長、チャネルの高度化が進展
一方で、ハードウェアほどではないものの、ソフトウェアとサービスも安定的な成長を維持しています。ソフトウェアの売上は前年同期比5.9%増、サービスは2.3%増となり、依然として市場全体の約40%を占める重要な構成要素です。
IDCによれば、ディストリビューターは単なる物流機能を超え、マルチベンダー製品を統合し、パートナー企業に提供する「ハブ」としての機能を強めています。こうした専門性の高い支援が、クラウド移行やスクリプションモデルの導入を支える基盤となっています。
今後の展望
今後のIT流通市場では、生成AIを起点としたエコシステム構築が進み、ディストリビューターの役割も質的転換を求められる局面に入ると考えられます。AI PCやGPU、AI対応ネットワークといった製品群が新たな成長ドライバーとして台頭しており、チャネル戦略もこれに対応する柔軟性が求められています。
出典:IDC 2025.7