従業員エンゲージメント市場、離職率低減と人材管理高度化を追い風に成長加速
アイ・ティ・アール(ITR)は2025年8月5日、国内従業員エンゲージメント市場の規模推移と予測を発表しました。ITRの発表によると、2024年度の市場規模は161億2,000万円となり、前年度比で21.7%の大幅な伸びを記録しました。
背景には、従業員のモチベーション向上による離職率低減の重要性や、人的資本経営・ウェルビーイングの重視、従業員の健康・心理状態を早期に把握する必要性が挙げられます。加えて、AIを活用した分析機能やコンサルティングを含む周辺サービスの拡充が、市場拡大を後押ししています。ITRは2024~2029年度の年平均成長率(CAGR)を16.0%と予測し、2029年度には市場規模が2024年度の約2倍に達すると見込んでいます。
今回は、市場成長の背景、製品・サービスの進化、そして今後の展望について取り上げます。
市場成長を支える背景
国内の従業員エンゲージメント市場は、2023年3月期から義務化された人的資本情報の開示制度を契機に注目度が高まりました。企業は財務指標だけでなく、従業員の満足度や働きがいを測るエンゲージメント・スコアを重要な経営指標として位置づけています。離職率の上昇や人材不足が慢性化する中、従業員の定着と生産性向上は経営の最優先課題となりつつあります。こうした環境下で、エンゲージメント向上に向けたデータ活用や組織改善のニーズが急速に高まっています。
2024年度の市場動向と成長要因
2024年度はトップベンダーおよび中位層の一部企業が大きく売上を伸ばし、市場全体で21.7%成長しました。AIを活用したエンゲージメント診断や行動分析機能を搭載する製品が増え、導入企業は組織課題の可視化と施策実行のスピード向上を実現しています。また、コンサルティングや施策運用支援などのサービス型提供も拡充され、導入ハードルの低下と成果の早期化につながっています。こうした多面的なサービス展開が、新規導入と既存顧客の利用拡大を同時に促進しました。
技術進化と製品・サービスの高度化
従来のエンゲージメントツールはアンケートや簡易診断にとどまるケースが多かったものの、近年は人事・人材管理システム、従業員エクスペリエンス・プラットフォームとの統合が進んでいます。これにより、調査結果から具体的な改善アクションを導き出し、日常の業務フローに組み込むことが可能になっています。さらに、AIによる予測分析や異常検知を活用し、メンタルヘルスや業務パフォーマンス低下の兆候を早期に把握する取り組みも拡大しています。
2029年度に向けた市場予測
ITRの予測では、2025年度も前年比21.2%の成長が見込まれ、その後も高い成長率を維持するとされています。CAGRは16.0%で推移し、2029年度には市場規模が2024年度比で2倍に拡大する見通しです。この背景には、企業の人材戦略においてエンゲージメント施策が不可欠な要素として定着していく流れがあります。また、生成AIによるパーソナライズ施策提案や、自動フィードバック生成などの新機能が導入加速の一因になると考えられます。
今後の展望
今後の従業員エンゲージメント市場は、診断ツールから経営戦略の実行基盤へと進化していくことが予想されます。企業はエンゲージメントデータを活用し、採用・配置・評価・育成といった人事施策全般に連動させることで、従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大化させていくアプローチが期待されるところです。
出典:ITR 2025.8