クラウド・エコシステム(41)国内の郊外型データセンターの動向
クラウドサービスの市場拡大と競争激化に伴い、クラウド事業者やデータセンター事業者はより競争力のある価格設定と収益向上のため、クラウドに対応した安価で柔軟に拡張できる郊外型データセンターや海外データセンターの事業展開を急いでいます。
データセンター需要が伸びている背景には、企業のプライベートクラウドの構築ニーズのほか、ECサイトやソーシャルゲームなどのコンシューマ向け市場においても利用が拡大していることがあげられます。
さらに、大量のデータを蓄積し処理するビッグデータの動きも、データセンター需要を後押ししているといえるでしょう。
では、ここで、国内における郊外型と首都圏データセンターの動向について整理をしたいと思います。
国内における郊外型データセンター動向
■IIJ
IIJは2011年4月、島根県松江市に「松江データセンターパーク」を開設しました。外気冷却による低消費電力を実現した空調モジュールとITモジュール「IZmo」で構成されています。各種機能モジュールを組み合わせることで、データセンターファシリティのコストを大幅に削減し、クラウドサービスにも対応した競争優位と環境対策を実現しています(関連記事)。
IIJが松江市にデータセンターを立地した背景には、島根県、松江市電力助成制度をはじめとした優遇政策など、IT企業誘致に力を入れていたことがあげられます。また、松江市はプログラミング言語「Ruby」を開発したまつもとゆきひろ氏が在住のソフト産業の集積地として注目を集めている場所でもあります。今後は、国内の他の地域にも拡大し、SI事業者やクラウド事業者のサービス基盤としての提供も行うことで、クラウドの集積拠点として発展を目指しています。
■さくらインターネット
さくらインターネットは2011年11月15日、北海道石狩市にクラウドに最適化した郊外型大規模データセンター「石狩データセンター」を開設し、同日、業界最安値水準のクラウドサービス「さくらのクラウド」を提供開始しました。
石狩市にデータセンターを建設したのは、郊外の低価格な事業用地があり、(土地を除く)固定資産税及び都市計画税を5年間免除されるは「石狩市グリーンエナジーデータセンター立地促進条例」などの自治体の優遇助成制度が利用できる点や、寒冷地特有の冷涼な外気を活用することで空調コストの約4割削減、地震発生確率や台風や雷などの自然災害が少ない環境も評価のポイントとなっています。
さくらインターネットは、石狩データセンターであれば、数百ラックにも対応できる規模と広大な土地にデータセンター自体を増設できる拡張性を備えており、ユーザーの個別の要望にも対応できるようになっています。
■NEC、日本ユニシス、IDCフロンティア
2012年に入ってからは、NECとNECフィールディングは2012年3月27日、札幌市内の「NEC北海道データセンター」が竣工したと発表した。NEC北海道データセンターによるクラウドサービスの提供を4月2日から開始しています(関連記事)。
日本ユニシスは2012年4月11日に、福井県小浜市に「日本ユニシス小浜データセンター」を開設、日本ヒューレット・パッカードは2012年5月24日、福岡県北九州地区に「北九州データセンター」開設し、25日から運用を開始しています(関連記事)。
2012年9月には、東日本エリアではIDCフロンティアが福島県白河市に外気空調システムなどを採用した新白河データセンター(仮称、以下「新白河」)が竣工予定となっているなど、全国各地で郊外型データセンターの建設も始まっています。
■日本HP
国内においては、外資系のクラウド事業者が多く存在していますが、外資系事業者の国内データセンターの新設の動きは必ずしも多いとはいえません。
日本ヒューレット・パッカードは2012年5月24日、福岡県北九州地区に「北九州データセンター」開設し、25日から運用を始めると発表しています(関連記事)。
■沖縄県
沖縄県は、内閣府が2002年4月に施行した「沖縄振興特別措置法」等によって、国内初の本格的な公設民営型データセンターの「宜野座村IDC」など、多くのデータセンターを誘致してきています。2012年3月にはこの措置法が一部改正がされ、沖縄県が一定程度使途を自由に決められる地方交付金「沖縄振興特別交付金」(一括交付金)を導入しています(関連記事)。
特に、震災の影響もあり、BCP対策として首都圏から遠く離れた沖縄にデータをバックアップするといった需要も増えています。
沖縄県は、今後自らがデータセンターの立ち上げを行うことで、沖縄県をデータセンターの集積地としての推進を進めています。
■コンテナデータセンター
郊外型データセンターの需要拡大に伴って、各社コンテナ型データセンターの販売も強化しています。
NTTファシリティーズは2012年2月、青森県の協力を得て、青森県六ヶ所村(むつ小川原開発地区)に、コンテナ型データセンター実証実験サイトを構築し、日本初となる風力発電を利用した実証実験を2012年1月31日から開始しています(関連記事)。
日本フルハーフは2012年3月26日、、コンテナデータセンターを開発し、IT業界での需要に対応すると発表しました(関連記事)。日本フルハーフのコンテナデータセンターは、CBAなどと連携した取り組みを行っています(関連記事)。
富士通は2012年5月15日、外気を吸気して間接的に内部を冷却する間接外気冷却方式を採用したコンテナ型データセンターを開発したことを発表しました(関連記事)。
日立製作所は2012年7月4日、屋外設置式のコンテナ型データセンター「フレキシブルデザインコンテナ」を6日に発売すると発表しました(関連記事)。
政府の国内データセンター立地推進はどうなったのか?
クラウド特区・データセンター特区の創設はどのような結果となったのか(2012.1.18)のブログでご紹介をさせていただきましたが、「新たな情報通信技術戦略【新IT戦略】 」(平成22年5月11日高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)にて国内データセンター立地の推進を大きな柱の一つとしていました。
国内立地推進に向けて特区創設の検討などの様々な誘致策の検討を進めてきましたが、国土交通省が2011年3月25日、稼働時に無人となるコンテナ型データセンターが建築基準法上の建築物に該当しない旨の方針を発表するなどの対応を行っています。
この間、グーグルやマイクロソフトなどの多くの外資系事業者が、シンガポール、香港、台湾など、アジア各地でデータセンターの建設を進めています。データセンター立地政策においては、「アジアのクラウドの中心地はシンガポールと香港」の記事にもあるように、シンガポールや香港が政策的にも大きくリードしているのが現状です。
まとめ
国内における郊外型データセンターは震災の影響や、クラウドの普及に伴い、引き続き、顕著な伸びを見せることが予想されますが、その過程の中で外資系事業者の誘致をできるか、また国内のデータセンターからアジアにサービスを展開できるかという点も重要なテーマとなるでしょう。日本の郊外型データセンターの動きは、今後のパブリッククラウドの展開を占う上でも重要な位置づけとなっていくでしょう。
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※担当キュレーター「わんとぴ」
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