オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

クラウド特区・データセンター特区の創設はどのような結果となったのか

»

 

政府は、データセンターの国内立地推進に向けて、クラウド特区やデータセンター特区の創設も視野にいれて、コンテナ型データセンター設置に係る規制緩和や、国内立地推進に向けた取り組みを進めてきました。

これまでの取り組みを整理し、結局データセンター、クラウド特区の創設はどのような結果となったのか、整理をしてみたいと思います。

 

クラウド特区・データセンター特区とは?

クラウド特区、データセンター特区が一躍注目されるようになったのは、日経新聞の2010年4月10日の日経一面に掲載された『 「クラウド」普及へ特区』という記事です。

image

ここで書かれていた内容の趣旨は、

・総務省は2011年春に北海道や東北にデータセンター「特区」を創設
・国内最大級のデータセンターの構築を目指し、建築基準法や消防法の適用除外などで設置コストを軽減(規制緩和を実施)
・最大で約10万台のサーバ、投資額は最大で500億円前後を想定
・国内での情報関連投資を増やす狙いに加え、機密保持の加点からも国内データセンター構築が重要だと判断

となっています。

 

特区創設も視野に入れ、データセンターの国内立地を推進の方針を示す政府

その後、政府は、「新たな情報通信技術戦略(新IT戦略)」をはじめとして、各種戦略において、データセンター特区、クラウド特区を戦略の柱の大きな一つとしてきました。

新たな情報通信技術戦略【新IT戦略】 」(平成22年5月11日高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)においては、以下のとおりの内容が記載されています。

【重点施策】
国民利便性向上及びユーザー産業の高次化に資するクラウドコンピューティングサービスの競争力の確保のため、(中略)データセンターの国内立地の推進(中略)等の環境整備を集中的に実施する。

【具体的取組】
特に、高効率なデータセンターの国内立地促進のため、特区制度の創設も視野にコンテナ型データセンターの設置に係る規制の緩和などを2010年度中に検討する。

政府が、2010年6月22日に公表した「新たな情報通信技術戦略 工程表」の「クラウドコンピューティングの競争力確保等」において、「データセンターの国内立地推進」が3つの重点分野のうちの一つになっています。

image

そして、データセンターの国内立地推進及び特区的手法を検討することが、各種の政府の方針に盛り込まれています。

【内閣府など】

【総務省】

【経済産業省】

これらの政府方針もあり、データセンターの誘致に向けて、地方公共団体の動きも積極的な動きが見られるようになりました。

 

データセンターの国内立地推進に向けて動きだす自治体

内閣官房 地域活性化統合事務局では、「新成長戦略」(H22.6.18閣議決定)に基づき創設を予定している「総合特区制度」について、平成22年7月20日(火)から平成22年9月21日(火)まで、新たな提案(アイデア)の募集が実施されました。

公表可とされた提案の中には、データセンター特区やクラウドコンピューティングに関する提案も目につきました。関連する提案をリスト化したものが以下のとおりです。

提案団体名 プロジェクト名 提案様式リンク
北海道 環境配慮型データセンター特区  [1]  [2]
石狩市 グリーン・コミュニティ・スマートグリッド特区  [1]  [2]
岩見沢市、、(株)はまなすインフォメーションなど 環境配慮型コンテナデータセンターによるグリーンIT地域特区  [1]  [2]
青森県、六ヶ所村、新むつ小川原株式会社  戦略的グリーンITパーク設立構想 [1]  [2]
宮城県 みやぎデータセンター立地推進特区  [1]  [2]
福島県 地域多層型データセンター・総合特区 非公開
茨城県 いばらきデータセンター 特区  非公開
宇都宮市、日本オラクル㈱、飛島建設㈱、㈱東芝  大規模地下空間を利用したクラウドパーク・プロジェクト  [1] [2]
山梨県大月市、慶応義塾大学SFC研究所、NTTコムウェア  大月地下空間クラウドデーターセンター・プロジェク [1] [2]
岐阜県飛騨市 地底空間トラステッド・エコ・データセンター・プロジェクト [1] [2]

 

コンテナ型データセンタに係る建築基準法の取扱い

コンテナ型データセンターの規制緩和については、国土交通省が2011年3月25日、稼働時に無人となるコンテナ型データセンターが建築基準法上の建築物に該当しない旨の方針を発表しました(報道発表資料)。

発表資料からの内容を抜粋します。

土地に自立して設置するコンテナ型データセンタのうち、サーバ機器本体その他のデータサーバとしての機能を果たすため必要となる設備及び空調の風道その他のデータサーバとしての機能を果たすため必要となる最小限の空間のみを内部に有し、稼働時は無人で、機器の重大な障害発生時等を除いて内部に人が立ち入らないものについては、法第2条第1号に規定する貯蔵槽その他これらに類する施設として、建築物に該当しないものとする。

 

事業仕分けによる特区の見直し

その後、2010年11月の事業仕分けにより、特区に関しての見直しもされました。

A-19: 総合特区推進調整費 (内閣府)

事業概要:
総合特区推進調整費は、地域の責任ある戦略、民間の知恵と資金、国の施策の「選択と集中」の観点を最大限活かし、規制の特例措置や税制・財政・金融上の支援措置等を一体として実施する「総合特区」の推進調整に必要な経費である。
総合特区の目標達成のための様々な事業に活用できる経費とすることで、地域の知恵と工夫を活かした意欲的な取組を支援する。

平成23年度予算要求:
82,000百万円

結果概要:
来年度の予算計上は見送り
(・しっかりとした説明ができるようにならない限り見送り)

 

震災の影響などで遅れる特区創設

そして、震災の影響により、当初2011年7月を目処に予定をしていた特区創設も遅れることになりました。

2011年7月11日に開催された「第11回 新成長戦略実現会議」では、当時の地域活性化担当大臣が片山 善博氏が特区創設に関する概要と今後の予定などを示しました(関連ブログ)。2011年6月22日に法案が成立し、7月に基本方針の決定・公表。その後総合特区の指定申請を受付け、12月に総合特区の一次指定、そして2012年から総合特区計画の認定というスケジュールとなっています。

image

特区創設に向けた法案の制定の動きは「こちら」から確認できます。

 

特区創設で、クラウド特区・データセンター特区は?

そして、政府は2011年12月22日、「総合特別区域の第一次指定申請の結果について」を公表し、

(1) 国際戦略総合特区 7地域
(2) 地域活性化総合特区 26地域

の指定地域の決定を公表しました。該当の地域は「こちら」から確認できます。

image

政府が2011年11月14日に公表した「総合特別区域の第一次指定申請に関するヒアリング対象等の公表について」に一次評価・二次評価についての結果が掲載されています。

本特区でデータセンター特区、クラウド特区で提案したのは、青森県、青森県上北、郡野辺地町、横浜町、六ヶ所村による「戦略的グリーンITパーク設立構想特区」と北海道岩見沢市による「環境配慮型コンテナデータセンターによるグリーンIT地域特区

の2件となり、いずれも特区としては指定されませんでした。その評価について、引用してみたいと思います。

「戦略的グリーンITパーク設立構想特区」
青森県、青森県上北、郡野辺地町、横浜町、六ヶ所村

目標の達成が我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展に相当程度寄与することが見込まれるか

・データセンター隣接地域にプラスの効果が期待できることは伺えるが、それが青森県全体へと波及する効果があるか、ひいては我が国の持続的発展に相当程度寄与するかについては、目標の規模・内容からは疑問が残る。また、費用対効果という視点で考えると、税制、財政措置に見合う目標になっているかについて説明があると望ましい。
・コンテナ型データセンターの集積による分散型ネットワークの拠点を目指す方法論は,現在の企業のリスク分散のトレンドとも整合しており、十分戦略的な提案である。また、災害の多いわが国の中にあって、重要な企業データの分散管理は必須であり、その意味でわが国の経済発展に寄与すると考えられる。
・目標の達成は、地域活性化には寄与するが、我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展への寄与は見えない。
・コンテナ型データーセンターは環境対応で多くの地方都市が関心を示しており、一定の競争に残るには地場企業の参加やサービスの売り込み先など事業を包括的戦略的に展開して行く必要がある。地方経済活性化という点ではその意味で地元企業の参加がカギであり、青森ならではの環境との連携や東北地方の行政サービスクラウド化などに対応しなければ新たなニーズを生み出せないのではないか。

⑦事業実施による目標達成の蓋然性が相当程度高く、当該事業を含む取組が政策課題の解決に相当程度有効かつ先駆的で実現可能性が高いものか

・想定している事業実施主体が未確定であることから、関係者間の合意形成が調っていることに若干の不安が残る。また、目標値の根拠は不明。
・データセンターの維持に必要な電力に関して(津軽などで実際に行われている)風力発電を前面に出した点で、非常にユニーク且つ戦略的である.他のアジアの都市の先進事例になり得ると期待される。ただし、関連産業の集積がまだこれからであり、データセンター維持に不可欠のR&D機能については触れられていないので、この点に関して実現性に疑問符がつく。
・事業実施による目標達成の蓋然性は相当程度高いが、当該事業を含む取組が政策課題の解決に相当程度有効かつ先駆的とは言い難い。
・設置目標に対する熱意、成功への蓋然性は見られるが、事業内容に未確定部分や曖昧な部分が残り、現状ではすぐに先駆的事業になることは困難ではないか。

 

環境配慮型コンテナデータセンターによるグリーンIT地域特区
北海道岩見沢市

目標の達成が我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展に相当程度寄与することが見込まれるか

データセンター隣接地域にプラスの効果が期待できることは伺えるが、それが岩見沢市全体、また北海道全体へと波及する効果、ひいては我が国の持続的発展に相当程度寄与するかについては、目標の規模・内容からは疑問が残る。
また、費用対効果という視点で考えると、税制、財政措置に見合う目標になっているかについて説明があると望ましい。
・コンテナ型データセンターの集積による分散型ネットワークの拠点を目指す方法論は、現在の企業のリスク分散のトレンドとも整合しており、十分戦略的な提案である.わが国の産業のBCPを考える上で,重要な視点である。しかし、規模的にそれほど大きくはないので、効果は限定的な可能性がある。
・データセンターの事業そのものは地域活性化案件である。 地域独自のCO2
排出権取引制度はダーバン会議における2012年以降の京都議定書の取扱次第であるが、日本政府は同議定書の延長に反対しており、実効性は疑問である。
・コンパクトな地方都市が周辺大都市などの伝統的集積形態をとらず、むしろ遠く離れた東京とITCで結びついて価値創造を試みている点は目新しく、地方再生への新しいモデルを提示する可能性を秘めているように見える。ただし、官民協働利用促進のガイドライン構築など次第に一般化されたビジネスモデルを展開して行く場合、追随者の台頭をどう振り切り、行政に関する知見など、追加の事業資源をどう調達して行くのか、説得力ある展望を示すことが不可欠とみえる。

⑦事業実施による目標達成の蓋然性が相当程度高く、当該事業を含む取組が政策課題の解決に相当程度有効かつ先駆的で実現可能性が高いものか

・関係者間の合意形成が調っていることは伺えるが、目標値の根拠は不明。ま
た、産業集積からベネフィットを得るためには、規模の経済性が働くことが必要だが、現時点で岩見沢市で(他の地域と比べて)集積が進んでいるかどうかは、申請資料からは伺うことができない。
・提案は非常に先駆的ではあるものの、地域資源やインフラの集積に不安が伴う。
・データセンター事業のPUE1.2達成の方法論は提案書を見る限りでは不明確である。
・政策課題と事業支援ニーズがシンクロナイズされているため、規制緩和などの点では目標達成は可能であり、事業の先駆性は高いと考えられる。しかしながら、その他の官民協働モデル構築などに向けてはより幅の広い知的資源が必要であり、これをどう補って行くのか、が展望されないと解決策全体の蓋然性は明快さを損なわれるのではないか。

と、地域活性化への貢献などいずれも厳しい評価となっています。最終的にクラウド特区・データセンター特区の創設のデータセンターを提案する自治体は2地域となってしまいました。政策的なデータセンターの国内立地推進の取り組みは、国土交通省によりコンテナ型データセンターの建築基準法の取り扱いは緩和されたものの、自治体の立地推進に向けては、地域活性化や雇用への寄与など、その他のテーマの提案と比べて、特区の意義を見出すのは厳しい状況となりました。

 

クラウド普及でアジアにおけるデータセンターの誘致合戦が進む

データセンターは、アジア市場において、シンガポールや香港、そして、最近では台湾や韓国などでも外資系事業者の立地が進んでいます。日本は、データセンター特区やクラウド特区などの創設で、外資系事業者のデータセンターの国内立地の推進が期待されたところですが、政府と外資系事業者の立地検討時期、そして、誘致を進める自治体など、需要と供給、政策など連携による立地推進の機運が高まらず、さらに、震災が追い討ちをかけ、結果尻すぼみになってしまったというのが、個人的な印象です。

今後、さらに、クラウドコンピューティングの市場成長とアジアをはじめとしたグローバル化が進んでいく中で、アジア市場を見据えた日本におけるデータセンター戦略をどうしていくべきなのか、政府と民間が知恵を絞って、改めて考えていく時期にきているのかもしれません。

 

AppStore image

「クラウド・ビジネス」入門
電子書籍版刊行記念 定価700円→350円

※担当キュレーター「わんとぴ

OneTopi「クラウド」@cloud_1topi(クラウド)   OneTopi「情報通信政策」@ict_1topi(情報通信政策) OneTopi「電子書籍」@ebook_1topi(電子書籍)

OneTopi「モバイル」@mobile_1topi(モバイル) OneTopi「SmartTV」@smarttv_1topi(スマートテレビ)

OneTopi「地域活性化」@localict_1tp(地域活性化)OneTopi「スマートシティ」@smartcity_1tp(スマートシティ)

Comment(0)