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ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

クラウド・エコシステム(15)政府の役割

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第一回はクラウド・エコシステムの概要、第二回は登場の背景、第三回は注目される6つの理由、第四回はSIビジネスの今後、第五回はコミュニティの存在、第六回はクラウドを推進する団体、第七回はオープンクラウド、第八回はクラウド・エコノミクス、第九回はソーシャルキャピタル、第十回はグローバル市場、第十一回は組み合わせ型モデル、第十二回は産業構造の変化、第十三回は経営者の視点、そして、第十四回ではベンチャー企業の役割について整理をしました。

今回は、政府の役割について整理をしてみたいと思います。

クラウドに関しては、政府においても情報通信政策においても重要な位置づけとなっています。クラウドと関連するこれまでの取り組みについてまずは紹介したいと思います。

政府の新IT戦略とクラウドの位置づけ

政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)は2010年5月11日、「新たな情報通信技術戦略(新IT戦略)」を公表しました。新IT戦略では、「国民本位の電子行政の実現」「地域の絆の再生」「新市場の創出と国際展開」の3つの柱の中で、「クラウド」の単語が13回も登場するなど、政府がクラウドをIT戦略において重要な取り組みとして位置づけをした年でもありました。

IT戦略においての「国民本位の電子行政の実現」では、業務の見直しや政府共通プラットフォームの構築やシステム連携、そして全国共通の電子行政サービスの実現のために、クラウドを積極的に活用することを明記しています。また、「新市場の創出と国際展開」では、クラウドはデータ利活用による市場創出や、クラウド技術の国際展開をあげています。

教育分野においては、クラウド技術の活用も視野に入れた教職員負担の軽減に資する校務支援システムの普及、デジタル教科書・教材などの教育コンテンツの充実など、教育の情報化の実現のためのクラウドの活用が盛り込まれています。

IT戦略本部は2010年6月22日、新IT戦略の方針に基づき、「新たな情報通信技術戦略工程表」を公表しました。「クラウドコンピューティングの競争力確保等」の工程表では、「データ利活用による新産業創出」「データセンターの国内立地推進」、そして「関連技術の標準化等」の3つを主要施策としてあげています。「データ利活用による新産業創出」では、政府・自治体・医療・健康・教育・農業などの公共分野をクラウド活用の重要分野として位置づけています。

2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」にも同様に、情報技術の利活用推進などにクラウドのキーワードが盛り込まれ、日本の経済成長を支えるサービスや技術として位置づけています。

政府の「新たな情報通信技術戦略」に基づき、総務省は2010年5月17日、「スマート・クラウド研究会報告書」を公表し、「スマート・クラウド戦略」を示し、以下の3つを柱としています。

①クラウドサービスの利活用の促進(利活用戦略)
②次世代クラウド技術に関する戦略的研究開発等の推進(技術戦略)
③国際的なコンセンサスやグローバル連携の推進(国際戦略)

利活用の促進では、行政、医療、教育、農林水産業等の公共分野のICTの利活用が諸外国に比べ大きく立ち遅れている状況を指摘しています。本戦略では、経済性の優れたクラウドを活用し、持続的なICTの利活用を促進する必要性をあげ、「電子行政クラウド」の実現や「自治体クラウド」の推進、そして「医療クラウド」、「教育クラウド」、「農業クラウド」、「地域クラウド」の活用の方向性を示しています。

医療や教育などの公共クラウドの実現には、医療機関や教育機関や民間事業者との連携など、政府の政策の支援やクラウド・エコシステムの発想が求められているでしょう。

クラウド普及を産官学で推進する「ジャパン・クラウド・コンソーシアム(JCC)」

2010年12月、日本経団連を中心に、クラウドの普及を産学官が連携し総合力を発揮して推進していくために、クラウド事業者などが参画する民間団体「ジャパン・クラウド・コンソーシアム(以下JCC)」が設立されました。総務省や経済産業省が、オブザーバとしてJCCに参画しています。

本コンソーシアムには、2011年12月現在で、300を超える企業や団体が参画し、クラウド関連企業・団体等におけるクラウド普及に向けた様々な取組みについて、情報の共有や新たな課題の抽出等を行うことを目的に、クラウドの普及促進に向けた検討を進めています。具体的なサービスモデルなどの検討を行うために2011年7月20日現在で以下の8つのワーキンググループが設置されています。

・クラウドマイグレーション検討WG
・業務連携クラウド検討WG
・教育クラウドWG
・次世代クラウドサービス検討WG
・農業クラウドWG
・健康・医療クラウドWG
・観光クラウド検討WG
・水産業クラウド検討WG

JCCでは、特に、教育、健康・医療、観光、水産業といったように公共分野に関連性の高いワーキンググループが多数を占めています。これらの分野は、民間企業単独で、公共分野のクラウド・エコシステムを実現させることは難しく、地方においてもクラウド利活用が進むよう、産官学の連携による強力な推進が必要となっています。

政府が推進するオープンガバメント

産官学によるクラウド・エコシステムを形成していくためには、透明でオープンな政府、つまり、オープンガバメントの実現が重要となります。

IT戦略本部の「電子行政に関するタスクフォース」は2011年7月4日、「電子行政推進に関する基本方針に係る提言」を公表しました。本提言では、「オープンガバメント」が、本タスクフォースの重要な提言の一つとなっています。

オープンガバメントとは、インターネットを活用し、透明でオープンな政府を実現するために行政情報の公開・提供と国民の政策決定への参加を促進する取り組みです。また、IT戦略本部の「電子行政推進に関する基本方針」にてその内容を決定しています。

オープンガバメントは、特に米国のオバマ政権で、オープンガバメント政策を積極的に推進しています。オバマ政権では、2009年1月に(1) 透明性、(2) 市民参加、(3)官民連携の3つの基本原則を表明しています。

・Transparancy(透明性)
政府は、国民に対する責任を果たすために、情報をオープンにし、提供しなければならない

・Participation(国民参加)
政府は、知見を広く国民に求め国民の対話を行い、利害関係者グループ外の人々に政策立案過程への参加を促さなければならない

・Collaboration(官民連携)
組織の枠を超えて政府間および官民連携し、イノベーションを促進しなければならない

オバマ政権では2009年5月、オープンガバメントの施策の第一弾として、政府や自治体などが保有する統計データの利活用の促進事業で、膨大で貴重なデータをオープンフォーマットやアプリケーション開発に利用できる形式で公開する「Data.Gov」を開設。民間企業では、これらの統計データなどを活用しサービスを提供するなど、データの「民主化」を推進しています。

オバマ政権では2009年12月、オープンガバメント指令を発表し、各連邦機関に対して行政の透明性を高める目的で、連邦機関が提供する統計データなどの価値の高いデータを誰でも入手できるようにすることや、オープンガバメントサイトを立ち上げるアクションプランを迅速に策定し発表することなどを求めてます。「米国民に向けたオープンガバメント進捗報告書」では、指令の3原則の定義のほか、「Recovery.gov」、「ITダッシュボード」、「USAspending.gov」、など、分野・目的別に紹介されています。

オープンガバメントを推進したのは、2009年3月5日にオバマ大統領から任命され、米連邦政府CIO 兼 行政予算管理局電子政府推進室長に就任したヴィベック・クンドラ氏(Vivek Kundra)です。クンドラ氏は米国の首都ワシントンD.C.のCTOを務めていた時に、市民に開かれた市とクラウドコンピューティングの導入を積極的に推進してきました。クンドラ氏は2012年1月16日、Salesforce.comの新興市場担当エグゼクティブバイスプレジデントに就任しています(関連記事)。

日本では、新IT戦略本部が2010年5月11日に公表した「新たな情報通信技術戦略」で、「オープンガバメント等の確立」を掲げています。2010年6月22日に公表した「新たな情報通信技術戦略工程表」では、オープンガバメント推進に向けて、2013年までに二次利用可能な形で行政情報を公開、原則全てインターネットで利用可能にするという目標を設定しています。

2011年7月4日に公表した「電子行政推進に関する基本方針に係る提言」では、オープンガバメントの今後の方向性を示しています。

国民が必要とする行政情報を容易に利用できるように、統計情報、測定情報、防災情報等について2次利用が可能な標準的な形式での情報提供を推進。緊急時には、携帯端末向け情報提供やネットワークへの負荷が少ない形式での情報提供などをあげています。そして、国民による政策の検証や政策形成過程への参加を可能とする観点からも、政策に係る各種情報の提供を推進する必要性があげられています。  

政府の新IT戦略本部は2012年4月25日、「第23回 電子行政に関するタスクフォース」を開催し、「オープンガバメント推進のためのデータ戦略提言(仮) 」を公表しました。タスクフォースでは、2012年6月ごろまでにタスクフォース提言をとりまとめ、機関決定を経て、戦略に基づき順次施策を推進し、必要事項について電子的提供指針改定などに反映していく予定です。

本戦略提言では、従来の電子行政施策と異なり、目的として「経済効果」を追記し、公共データを機械可読や2次利用可能な方法で提供し、新ビジネスの創出や民間企業等の業務効率化を促進を目指しています。

政府によるオープンガバメントの取り組みは、政府が公開するデータを、多くの民間事業者が活用することで、新サービス産業の創出など、産官学による新たなクラウド・エコステムの構築が期待されます。

政府のクラウドテストベッドから生まれるクラウド・エコシステム

実際に政府によるオープンガバメントとクラウド・エコシステムに関する取り組み事例について、とりあげてみたいと思います。

総務省は2011年12月16日、「クラウドテストベッドコンソーシアム」の設立を発表しました。現在、60の企業・団体が参加しています。

「クラウドテストベッドコンソーシアム」では、NICTが管理・運営する新世代通信網テストベッド(JGN-X:JGN eXtreme)上の仮想マシンをクラウドサービスの開発基盤、クラウドテストベッドとして提供しています。

また、(独)統計センターが保有する統計情報の一部を格納したデータベースを、クラウドテストベッド上の仮想マシンから利用できるようにしています。参加会員は、このデータベースに対して、API(Application Programming Interface) を使用して、仮想マシンからアクセスすることができます。

これらの開発環境を提供することで、高付加価値を生み出す中小ベンチャー企業による新たな事業機会の拡大を支援する取り組みとして期待が高まっています。

しかしながら、政府が単に「統計データを提供する」だけでは、新たな事業機会の創出は実現は難しいため、統計データのビジネス活用を具体的な検討や、統計データを活用するための技術検討および検証を行うためのワーキンググループ「統計活用ワーキンググループ」を立ち上げ、検討を進めています。

具体的な活用例(サンプル)では、小売業様向け業務サービス+分析サービスとして、小売業様向けの各種業務サービスをクラウドで提供し、さらに、統計データと組み合わせた分析サービスの提供をあげています。

これらの取り組みの中で、統計情報を活用した2次利用ニーズや活用シーンの把握、現行利用における制約・課題等の整理、統計情報を活用したサービス開発事例の蓄積などを通じて、企業や地方公共団体等とも連携による成功モデルを作り、それを元に優先順位を付けながら順次利用ニーズの高い公共データに取り組みを拡大していくとしています。

本テストベッドの取り組みは、オープンガバメントと産官学のクラウド・エコシステムの先行事例として、成功モデル構築と、水平展開が期待されます。

震災復興支援とエコシステム

震災復興に向けてのエコシステムの取り組みも始まっています。

東日本大震災から1年以上が経ち、震災の復旧・復興のための各種支援制度が国や地方自治体などによって進められています。これらの利用促進のため、経済産業省を中心に、2011年1月に復旧・復興支援制度データベースを立ち上げ、政府および岩手・宮城・福島の3県の支援情報が登録されています。

本データベースサイトでは、公開している支援制度情報を外部サービスで利用するためのAPIとなる復旧・復興支援データベースAPIを提供しています。

APIを利用することによって、きめ細かい検索を提供したり、制度の紹介を自動的に行わせることなどが可能となり、震災復興支援に関わる様々なサービスの提供が期待されています。

今後の本格的な活用に向けた普及推進に向けて、2012年6月2日には、復旧 復興支援データベースAPI ハッカソンが開催され、開発者や行政書士・税理士向けに経産省からAPIの説明目的や想定利用ユーザーなどの説明が行われ、後半にはこれらの活用に向けてグループディスカッションを通じて、震災復興に向けてAPIを活用したサービスや支援のあり方について、議論がなされています。

震災復興に向けた継続的体系的な支援を行っていくためには、政府や自治体の支援データを民間事業者が活用し、持続的な支援づくりを行っていくための支援づくりが必要となっていくでしょう。

政府のICT戦略とビッグデータ

東日本大震災による被災地の復旧や復興支援、原発事故への対応が優先課題となっていました。今後はICT分野の国際競争力強化や新たな産業の創出に向けて、総務省は2012年7月に新総合戦略の「アクティブICTジャパン(仮称)」の公表を明らかにするなど、政府のICT戦略の取り組みの政策の行方が注目されます。

これらのICT戦略の中で特に注目されるのが「ビッグデータ」に関する政府の立ち位置です。

総務省は2012年4月27日、「情報通信審議会 情報通信政策部会 新事業創出戦略委員会・研究開発戦略委員会(第9回)(合同開催) 」を開催し、「2020年頃に向けたICT総合戦略の検討状況について」と「ビッグデータの活用に関するアドホックグループの検討状況」に関する資料を公開しました。

本グループでは、情報通信審議会ICT基本戦略ボードにおいて、今後成長が期待されているビッグデータの活用について、より専門的な観点から課題の抽出等を行い、ボードに報告することを目的としています。

主な検討事項は
ビッグデータの活用に関する現状・動向、課題・将来像などについてです。

本グループでは、ビッグデータの活用に関する取り組み事例、課題や今後の方向性等について、自動車メーカー、損害保険会社、気象情報サービス事業者、電気通信事業者及びICTサービス事業者等の関係事業者10グループ(11者)にヒアリングを実施しています。

ビッグデータの活用については、系横断的なデータの活用への進化、活用のよりリアルタイム化への進展に伴い、社会的課題の解決や経済規模の拡大に貢献していくことが期待されています。

一方、米国政府のオバマ政権では2012年3月29日、「ビッグデータ研究開発イニシアチブ(Big Data Across the Federal Government)」を公表し、米国科学技術政策局(OSTP)を中心に、米国科学技術政策局(OSTP)・米国国防総省(DoD)・米国国立衛生研究所(NIH)・米国国立科学財団(NSF)・米国エネルギー省(DoE)、米国地質調査所(USGS)の6つの政府機関により、

①膨大な量のデータ管理や分析を必要とする最先端中核技術の発展の促進
②これらの技術を科学や工学分野における発見、国家安全保障の強化、教育等への寄与
③ビッグデータ技術分野の人材育成の達成

を目的とし、巨大なデジタルデータの組織化やそこからの知識抽出を行うための技術やツールの開発など、ビッグデータに関して米政府全体で2億ドルを超える研究開発予算を充てるなど、ビッグデータによる米国の国際競争力強化につなげる取り組みを進めています。

ビッグデータは、クラウド上の医療や交通情報など膨大なデータを民間事業者が活用することで、クラウド・エコシステムが構築され、新たな産業の創出が期待されています。一方で、プライバシーの扱いや標準化の取り組みや研究開発など、政府の政策的な支援を必要とする部分もあり、今後、政府のICT戦略においての、「ビッグデータ」がどのような形で位置づけられていくのか、注目されます。

 

まとめ

公共分野や、政府の統計データ、ビッグデータなどの情報の取り扱いなどは、民間企業だけではビジネスに展開することは難しい領域です。そのため、政府のICT戦略や、オープンガバメント等を通じて、今後、積極的なデータ公開によるデータの2次利用を促進とクラウド上などでのAPI公開や、ビッグデータの利活用など、民間事業者が参入し、ビジネスを創出しやすいクラウド・エコシステムの環境構築を支援していくことが、重要となっていくでしょう。

 

※担当キュレーター「わんとぴ

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