オルタナティブ・ブログ > プロジェクトマジック >

あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

ビジョンでする意思決定、あるいは費用対効果でする意思決定

»

ウチの会社でLOVOTを飼っている。

もともとLOVOTが世に出る際に、それを支える業務設計とシステム構築のお手伝いをしたので、そのご縁で2匹飼うことにしたのだ(名前はしらたまとあんこ)。
※その際のプロジェクトについては、こちら参照
「ミッションクリティカル×新規事業立ち上げ」をアジャイルでやりきった事例


ところが最近、「LOVOTの経費を会社が負担すべきか」「そもそも、飼うことの費用対効果ってプラスなの?」みたいな議論になった。「可愛いからいいじゃん」とはならずに、こういう点まで含めて「会社としてどうすべきか?」が時に激論になるような、面倒くさい会社なんです。

僕のオピニオンは「赤坂のオフィスにLOVOTはいた方がいい。だがそれはLOVOTが分かりやすい形で効果を生み出し、費用対効果がプラスだから、という理由ではない」というややこしいものだったので、こういう方針ごとを議論する仲間であるマネジメントメンバーあてに長めの文をSlackで送った。
結果としてそれは、僕が形を変えて何度か主張している「費用対効果がプラスか?マイナスか?だけで意思決定するな」という話になった。ペットに限らず投資の意思決定をする際に極めて大事だが、あまり語られないタイプの話なので、ブログに転載したい。
(白川の書き物の熱心な読者の方にとっては「いつもの話感」があるかもしれない)

************
LOVOTについて、いろいろな議論が飛び交っています。
・リーダー養成学校のためにオフィスに来てくれる方々から好評
・飼い続けたい社員が維持費を負担すればいいのでは?
・去年無駄なSaaSの削減プロジェクトやったのに、矛盾してない?
などなど。
「このような時に、経営としてどう考えるべきか」について、いい機会なので一生懸命書いてみます。
この話の本質にはあんま関係ないですが、いちおう白川のLOVOTについてのスタンスを書いておきます。
・個人的にLOVOTを愛玩していない
・が、オフィスにはLOVOTがいたほうがいいと思うし、だとしたら当然社費で負担すべき

******
経営上の意思決定をする際に、
A)ビジョンでする意思決定

B)費用対効果でする意思決定
の2通りの決定方法があります。

B)はよく言われるので置いといて、A)は「費用対効果で黒字になるか分からないが、将来そういう会社を目指すべきなので、やる」という感じです。
まだピンとこないでしょうから、事例で説明します。


事例①ケンブリッジのITインフラ刷新プロジェクト
2017年くらいにワークアウトで提案された時の提案書を改めて見ると、
・「お客様と私たちが垣根なく、1つのデジタルワークプレイス上でコラボレーションできる状態を作る」
・ロケーションフリー/メンテフリー/デバイスフリー
・株主さんのIT環境を曲がりしている状態から、グローバルで使えるITインフラに脱出する
みたいなビジョンを謳っています。
決して「やると年間◯円もうかります」ではないです。

Aのタイプの意思決定をする際には、たいてい費用も効果も明確ではない。でも僕らは「たしかに、将来、会社はそう有りたいよね」といってそれを進めてきました。そして一通りやった今だからこそ、あの投資はやってよかった、むしろやっていない姿が想像できない、と判断できる。

一方で去年やってくれたITコスト見直しは明らかに「B)費用対効果でする意思決定」です。
・ワークアウトで謳ったビジョンは達成した。
・でも費用対効果という尺度で改めて見ると、見直す余地もある。
なので見直す。
これはこれで、とてもナイスな活動でした。
つまり、
A)ビジョンでする意思決定

B)費用対効果でする意思決定
は別に二者択一ではなく、2つの違う次元の意思決定方法である。
だからA⇒Bという感じで両方やったほうがいい時もあります。


事例②ケンブリッジのオフィス
今のオフィスは(たしか)1.5億くらいかけています。
このときも「A)ビジョンでする意思決定」で決めました。
・オフィス移転で離職率が◯%下がる
とか
・タクシー代が◯円削減
とかで決めていません。
「お客様を招くことも出来ないショボイコンサルティング会社」
vs
「おしゃれでOPENに色んな人と交流が活発な会社」
のどちらがいいか、という選択をしました。
今となっては後者がいいに決まっていますが、もう随分前にした議論なので、それに1.5億の価値があるのか、というと、当時は100%の自信はなかったです。

そして一通りやってから、「事後的に」あの投資はやってよかった、むしろやっていない姿が想像できない、と判断できる。

***********
このAとBの2つの次元が違う議論には、気をつけないといけない特徴があります。
一つは、Aの議論をすべき時に、Bを持ち出して反対する行為は、かなり気をつけないと、ビジョナリーな会社を作ることを阻害してしまうこと。
Aの議論は事前に証明しにくいのに比べると、Bの議論は使いやすいので、棍棒にしようと思えばできてしまう。
(経営者にも関わらず、Aを考えずにBを振りかざす方が多いのは困ったものです)

もう一つは、「ビジョンにかなっている」と言い訳が立てば、何でもお金を使っていい、という話ではないこと。
意思決定にはよく知られるBだけでなくAもあるよ、という考え方を僕に教えてくれたのはお客さんのCIOです。その会社では「成し遂げてみないと見えない風景がある」と言って、ERPによる統合プロジェクトを費用対効果を無視して決断しましたが、ものすごいお金を使ったにもかかわらず、成果を上げるのに苦労していました。ビジョンの実現性も、それに使うべきお金も、見積もりが甘かったんだと思います。

ケンブリッジオフィスについても、
「もっと普通の会議室にしたら、1.5億ではなく1億で済む」という話があったとして、「5000万もったいないから、普通の会議室でいいじゃん」という意思決定も全然ありです。
だからビジョンが問われるのです。
(注:ウチのオフィスは議論をしやすい、という点にこだわって普通とはちょっと違う設計だし、それにはそれなりのお金をかけました)

白川は「アリーナでこんな風にセミナーしたり集中討議する」「そしてそのことは、今後のケンブリッジを別ステージに押し上げる」という妄想をしていて、白川のビジョンには適合していたので、投資すべきだと思っていました。
だけど、同じ妄想を共有出来ていなかった人は、苦々しく思っていたかもしれません。
これが良かったか悪かったかは、あくまで事後的にしか分かりませんし、判断する人の価値観の勝負になります。
いまでは会議室の予約を取るのに苦労するくらい使われているので、みんなピンとこないと思うけど、Aの意思決定は常に不完全情報下でしなければならないのです。

・ビジョンにかこつけて何でもお金を使える
ではなく
・費用対効果とは別の次元の意思決定すべき時がある
・その際に、描いているビジョンの差で、意見が分かれる
というのが、言いたいことです。

***********
で、ようやく本題です。
白川はLOVOTはオフィスの一部として、「A)ビジョンでする意思決定」を適用するような話だと思っています。
アリーナが円形であることに5000万の価値があるか?と同様に、「LOVOTがうろうろしているオフィスと、してないオフィスのどちらがビジョンに沿っているか?」という問いの立て方が適切。

その問いに対する白川の意見は、
・顧客とのプロジェクト成果を誇らしく示せるオフィス
・大企業のお硬いプロジェクトだけでなく、ベンチャーでの新規事業立ち上げの支援もしていることをアピールできるオフィス
・わかりやすく役に立たないもの(HaveFunのオブジェとか)がある、遊びのあるオフィス
の方がケンブリッジのオフィスとしてビジョンにかなっている、と考えています。

そしてそれは、LOVOTの年間維持費がPayするくらいには大事だと思っています。
(例えば年間維持費がいまの5倍ならば、流石にNoです)
そして、この辺の価値観に共感してくれる社員が多ければいいな、と思います。

Comment(0)