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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

【SDV】欧米中5つの代表的SDV事例の成功要因を分析→日本のOEMが学ぶべき点を抽出した小レポートを無料公開

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SDVの世界的な展望を得たいとずっと考えてきました。今回、SDVの成功事例を欧米中に求め、5つの事例を特定しました。その個々について概要を掴むことで、世界的なSDVのトレンドをマップとして得ます。コンパクトですが極めて鮮明に各社の戦略が浮き彫りにされています。ぜひご活用下さい。

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ソフトウェア・デファインド革命:日本の自動車産業に向けた戦略的分析

エグゼクティブサマリー

自動車産業は、過去1世紀で最も重大な変革の渦中にある。その核心は、ハードウェア中心からソフトウェア中心のモデルへの移行である。ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)は単なる進化ではなく、コネクテッドで、アップデート可能で、インテリジェントなプラットフォームとしての自動車の根本的な再定義を意味する。

本レポートでは、世界市場をリードする5つのSDVモデルを詳細に分析し、それぞれが示す異なる戦略的アーキタイプを明らかにする。すなわち、テスラの徹底した垂直統合、BMWのアーキテクチャ革命、ボルボのエコシステム活用、ヒョンデのスマートフォンとの共生、そしてBYDによる先進技術の破壊的な民主化である。これらの事例は、SDVがもたらす付加価値の多様な側面を浮き彫りにしている。

この分析から導き出される日本の自動車産業への戦略的インペラティブは明確である。第一に、分散型から集中型のE/Eアーキテクチャへの移行を加速させること。第二に、ソフトウェアファーストの組織文化を醸成すること。第三に、伝統的な「系列」モデルを進化させ、グローバルなテクノロジーパートナーシップという新たなパラダイムを受け入れること。そして第四に、緒に就いたばかりだが困難を伴う継続的な収益モデル(FaaS)の世界を航海することである。これらの課題への対応が、次世代の自動車産業における日本の競争力を左右するであろう。

第1部 SDVをリードするモデルのケーススタディ

本セクションでは、それぞれが異なるSDV戦略のアーキタイプとなる5つの重要なモデルを詳細に分析する。

表1:主要SDVモデルの比較分析

モデル/プラットフォーム 地域 中核となるSDV戦略 E/Eアーキテクチャ 主要ソフトウェア/OS 主な収益化モデル 主要ADAS機能
Tesla Model Y 米・グローバル 垂直統合エコシステム 集中型(HW3/HW4搭載) Tesla OS ハードウェア+FaaS(FSD) FSD (Supervised)
BMW Neue Klasse 欧州 集中型アーキテクチャ革命 集中型(4つの「スーパーブレイン」) BMW Operating System X ハードウェア+FaaS(予定) 高度自動運転(AWS連携)
Volvo EX30 欧州 テックエコシステムの活用 ドメイン集中型 Android Automotive OS ハードウェア Pilot Assist
Hyundai Ioniq Series 韓国・グローバル スマートフォンとの共生深化 ドメイン集中型 Bluelink / ccNC ハードウェア Highway Driving Assist ll
BYD Models 中国 先進技術の民主化 統合ドメイン制御(e-Platform 3.0) BYD OS / DiLink ハードウェア God's Eye

1.1 Tesla Model Y:垂直統合のパイオニア

SDVの価値提案:シームレスなハードウェア・ソフトウェアエコシステム

テスラの戦略の根幹は、シリコンからユーザーインターフェースに至るまで、テクノロジースタック全体を自社でコントロールする垂直統合にある 。これには、テスラのニューラルネットワークを稼働させるために専用設計された「FSDチップ」(HW3/HW4)が含まれる。このチップは、旧世代のHW2.5が毎秒110フレームであったのに対し、毎秒2,300フレームという圧倒的な画像処理能力を誇り、AIモデルの実行に最適化されている 。この緊密な統合は、AIトレーニング用のスーパーコンピュータ「Dojo」にまで及び、データ収集から開発までを内製化したクローズドループのエコシステムを構築している

業界の常識を覆したのが、OTA(Over-the-Air)アップデートである。テスラのOTAは、単なるバグ修正ではなく、AutopilotやFSDの性能向上、IVI(車載インフォテインメント)アプリ(シアター、アーケード)の追加、空調制御、さらには車両の基本的な運動性能に至るまで、広範な機能展開を可能にする 1 。これにより、自動車は購入後に価値が下がるだけの「減価償却資産」から、機能が向上し続ける「進化する製品」へと変貌した。これは顧客との関係性を根本的に変え、車両のライフサイクル価値を拡張するものである 2

このソフトウェア基盤の上に構築されたのが、自動運転機能の収益化モデル「FSD (Supervised)」である。高速道路でのナビゲートや自動車線変更、市街地での自動操舵といった機能群を、8,000ドルの一括購入、または月額99ドルのサブスクリプションという形で提供している 。これは、自動車業界においてソフトウェアから大規模な継続的収益を生み出そうとする、最も野心的な試みである。

日本の業界への教訓(Lessons and Learned)

テスラの事例は、日本の自動車メーカーに二つの重要な示唆を与える。第一に、垂直統合がもたらす戦略的優位性と、それが伝統的なビジネスモデルに突きつける課題である。テスラがハードウェアとソフトウェアのスタックを自社で管理することにより、他に類を見ない開発スピードとシステム最適化を実現していることは明らかである 。これは、専門サプライヤーの分散ネットワークに依存する日本の伝統的な「系列」モデルへの直接的な挑戦状と言える。系列モデルはハードウェアの品質と効率性において卓越しているが、ソフトウェア中心の世界では、システム間の深い統合が不可欠であり、分散型モデルは開発の足かせとなり得る。SDVはセンサーやコンピュータといったハードウェアと、AIモデルやOSといったソフトウェアの緊密な連携を必要とする。テスラが自社でチップ(FSDチップ)とソフトウェアを設計することでこれを実現しているのに対し 、系列モデルではこれらの機能が異なる企業に分散され、統合の課題や開発サイクルの長期化を招きやすい。したがって、日本のOEMは、重要なソフトウェアやコンピューティング開発を内製化するか、あるいは主要サプライヤーとより深く統合されたパートナーシップを築き、従来の責任分担の境界線を曖昧にする必要がある。

第二に、FaaS(Function-as-a-Service)における消費者価値のギャップである。テスラは技術的リーダーシップと意欲的な価格設定にもかかわらず、FSDサブスクリプションの利用率(テイクレート)は極めて低いと報告されており、トライアルからの転換率はわずか2%とのデータもある 。これは、技術的に可能なことと、マスマーケットの消費者が継続的に支払う意思のある価値との間に、大きな隔たりがあることを示している。FSDは業界で最も注目されるFaaS製品であるが 、この低い利用率は、ほとんどのユーザーにとって、その日常的な有用性が月額99ドルというコストをまだ正当化できていないことを示唆している。これは、FaaSによる収益化の初期の波は、高価な自動運転サブスクリプションよりも、ニッチな機能やより低価格な利便性向上アイテムに限定される可能性を示唆する。日本のOEMは、FaaS戦略において慎重であるべきであり、レベル4/5の自動運転サブスクリプションにビジネスケースの全てを賭けるのではなく、明確で即時的な価値を持つ機能(例えば、高度なナビゲーションやリモートサービス)に焦点を当てるべきである。

1.2 BMW Neue Klasse:レガシーOEMのアーキテクチャ革命

SDVの価値提案:「クリーンシート」の集中型アーキテクチャ

BMWは、複雑に絡み合った分散型ECUの構造から脱却し、走行性能、自動運転、インフォテインメント、そして車両の基本機能をそれぞれ管理する4つの高性能コンピュータ(「スーパーブレイン」)に演算能力を集約する、集中型アーキテクチャへの移行を宣言した 。このアプローチは、従来比で20倍以上の演算能力を提供し、配線を削減して軽量化を実現するだけでなく、ハードウェアとソフトウェアの開発サイクルを分離することで、より迅速でアジャイルなソフトウェア更新を可能にする

この新しいアーキテクチャの上に構築されるのが、人間中心のUX(ユーザーエクスペリエンス)を追求した「BMW Panoramic iDrive」と「BMW Operating System X」である。このシステムは、フロントガラス下部全幅に情報を投影する「BMW Panoramic Vision」を特徴とし、穏やかでミニマルながらも高度にパーソナライズされた体験を目指している 。その設計思想は、BMW特有のドライバー中心の感覚を維持しつつ、「複雑さを取り除く」ことにある

さらにBMWは、次世代ADASプラットフォームの構築において、Amazon Web Services(AWS)との戦略的パートナーシップを締結した。データ処理、シミュレーション、機械学習(Amazon SageMaker)にクラウドを活用することで、開発を加速し、組織内のサイロを打破し、サプライヤーとのグローバルな協業を促進することを目指している 。これは、テスラや中国のEVメーカーが持つデータ中心の開発モデルに対抗するための重要な一手である。

日本の業界への教訓(Lessons and Learned)

BMWの数千億円規模の投資を伴うNeue Klasseへの賭けは 、レガシーなE/Eアーキテクチャへの漸進的な改良では不十分であることを示している。真のSDVが持つ能力を解放するためには、集中型、ドメインベース、あるいはゾーンアーキテクチャへの完全な「クリーンシート」での再設計が必要不可欠である。100個以上のECUが分散する従来のアーキテクチャは、複雑なソフトウェアの統合やOTAアップデートのボトルネックとなる。BMWはこの問題を認識し、4つの「スーパーブレイン」への全面的な刷新に踏み切った 。これは痛みを伴うが、ソフトウェアのアジリティと将来性を確保するためには避けて通れないステップである。多くが依然として高度に分散化されたアーキテクチャに依存している日本のOEMは、同様の根本的な移行を計画する必要があり、それには莫大な研究開発投資と組織変革が求められる。

また、BMWがクラウドインフラでAWSと 、中国市場のADASでMomentaと提携したことは 、従来のサプライヤー関係から、テクノロジー企業との深く戦略的なパートナーシップへの移行を象徴している。これは、単一のOEMがSDVスタックの全て(クラウド、AI、半導体など)を習得することは不可能であるという現実的な認識に基づいている。競争力のあるADASスタックの開発には、膨大なデータ処理能力とAIトレーニング基盤が必要であり、これをゼロから構築するのは非常にコストと時間がかかる。BMWは、クラウドコンピューティングのリーダーであるAWSと提携することで、このプロセスを加速させる道を選んだ 。このモデルにより、BMWは自社のコアコンピタンス(車両ダイナミクス、ブランドUX)に集中しつつ、パートナーが持つクラス最高の技術を活用することができる。日本の企業は、系列を超えてこれらのグローバルなテックジャイアントを含むパートナーシップ戦略へと進化させる必要があり、それにはデータ共有、IP、共同開発に関する新たな考え方が求められる。

1.3 Volvo EX30:プレミアムなソフトウェア体験のメインストリーム化

SDVの価値提案:成熟したテックエコシステムの活用

EX30のIVIシステムは、GoogleのAndroid Automotive OSを基盤としており、ユーザーに馴染み深いインターフェースと、GoogleマップやGoogleアシスタントといった強力なアプリエコシステムへの即時アクセスを提供する 。この戦略は、自社でのソフトウェア開発コストと市場投入までの時間を大幅に削減する。

このユーザーエクスペリエンスの滑らかさと応答性は、Qualcomm社のSnapdragon Cockpit Platformによって支えられている 。これは、現代的でグラフィカルなIVIシステムを遅延なく動作させるために、高性能な車載グレードの半導体がいかに重要であるかを浮き彫りにしている。他のメーカーがソフトウェアの不具合に苦しむ中 、ボルボはこの点で優位性を確保している。

安全性と運転支援機能もソフトウェアによって進化する。EX30は、ステアリング、速度、車間距離を管理する高度な「Pilot Assist」を含む包括的なADASスイートを搭載している 。そして重要なことに、これらのシステムはOTAによってアップデート可能であり、車両のライフサイクルを通じて安全性と利便性の継続的な向上が可能となっている

日本の業界への教訓(Lessons and Learned)

ボルボがAndroid Automotiveで成功を収めている事実は、サードパーティ製OSをライセンス供与するという戦略の有効性を示している。これにより、比較的小規模なOEMでも、OSをゼロから構築するために必要な莫大な投資をすることなく、世界クラスのデジタル体験を提供できる。このOS開発という課題は、フォルクスワーゲンのCariad部門のような巨大企業でさえも苦しめてきた 。競争力があり、アプリが豊富な車載OSの開発は、専門的な人材と数十億ドルの投資を要する壮大なタスクである。GoogleはAndroid Automotiveで既にこの投資を行っており、ボルボはこれを採用することで開発プロセスを飛び越え、成熟したエコシステムを手に入れた 。その代償は、ある程度のコントロールとブランドの希薄化の可能性である。日本のOEMは、OSに関して厳密な「バイ・オア・ビルド(購入か自社開発か)」の分析を行う必要がある。多くの企業にとって、AndroidやAGL(Automotive Grade Linux)のようなベースOSを採用し 、その上に独自のブランドUXレイヤーを構築するハイブリッドアプローチが、最も現実的な道筋かもしれない。

また、ユーザーが知覚する車両の「性能」は、ますますデジタルインターフェースの速度と応答性によって定義されるようになっている。EX30におけるSnapdragonチップの選択は、その現代的なフィーリングにとって電気モーターと同じくらい重要である 。性能の低いハードウェアは劣悪なユーザーエクスペリエンスにつながり、車両の機械的な品質に関わらずブランドイメージを損なう可能性がある。消費者はスマートフォンの即時的な応答性に慣れており、新車のインフォテインメントシステムが遅いと、時代遅れで不満を感じる。ボルボはQualcommとの提携により高性能なチップセットを確保し、プレミアムな体験を保証した 。伝統的に機械的信頼性に重点を置いてきた日本のOEMは、自社の車両が現代的で競争力があると感じられるように、最先端のコンピューティングハードウェアの仕様決定と統合に、今や同等の戦略的重要性を置かなければならない。

1.4 Hyundai Ioniq Series:スマートフォンと車両の共生関係の深化

SDVの価値提案:スマートフォン・プラットフォームとしての車

ヒョンデのSDV戦略の基盤は、リモートサービス(空調、施錠・解錠)、車両状態監視、コネクテッドルーティングなどを提供する既存のコネクテッドカープラットフォーム「Bluelink」である

そして次なるフロンティアとして計画されているのが、次期モデルIoniq 3での「Apple CarPlay Ultra」の採用である 。これは単なる画面ミラーリングではない。iPhoneのOSがインストルメントクラスターや他の主要な車両ディスプレイを制御し、ユーザーのAppleエコシステムに深くパーソナライズされた、シームレスで統一された体験を創出する、パラダイムシフトを意味する

もちろん、ADAS機能も継続的に進化している。Ioniq 5は既に、レベル2の自動運転を実現する「Highway Driving Assist II」や、「死角衝突回避支援」、「リモートスマートパーキングアシスト」など、堅牢なADAS機能を備えている 。SDVアーキテクチャは、これらのシステムが将来にわたってアップデートされ、強化されることを可能にする。

日本の業界への教訓(Lessons and Learned)

ヒョンデがCarPlay Ultraを受け入れたことは、顧客が求める優れた、そして使い慣れた体験を提供するため、主要なユーザーインターフェースのコントロールをテックジャイアントに譲るという戦略的決断を示している。これは、独自のIVIシステムが重要なブランド差別化要因であるという、OEMが長年抱いてきた信念に疑問を投げかけるものである。消費者はAppleかGoogleのどちらかのエコシステムに深く根ざしており、OEMは何年もの間、スマートフォンの使いやすさやアプリの豊富さに匹敵するIVIシステムを開発するのに苦労してきた。CarPlay Ultraのような技術は解決策を提供する。すなわち、UI/UXはテックジャイアントに任せ、OEMはその体験のための最高のハードウェアプラットフォームを提供することに専念するという道である。これは、将来の競争優位性が、より良い独自OSを構築することではなく、ユーザーのデジタルライフにとって最高の「ドッキングステーション」になることにある可能性を示唆している。日本のOEMは、自社の長期的なIVI戦略を問い直し、この戦いを続けることがリソースの賢明な使い方であるかどうかを検討する必要がある。

CarPlay Ultraのようなより深い統合への移行は、柔軟で強力な基盤となるE/Eアーキテクチャを必要とする。車両は、サードパーティのエコシステムが安全に車両機能にアクセスし制御できるように、十分な演算能力、高帯域幅のネットワーク、そして安全なAPIを備えて、最初から設計されなければならない。CarPlay Ultraは、速度やタイヤ空気圧といった車両データにアクセスし、インストルメントクラスターの表示を制御する必要がある 。これは、これらのシステムがサイロ化されている古い分散型E/Eアーキテクチャでは不可能である。それは、信頼できるサードパーティアプリケーションに車両データと機能を安全に公開できる、堅牢なミドルウェア層を備えた最新の集中型アーキテクチャを必要とする。したがって、日本のOEMは、次世代アーキテクチャを自社のソフトウェアのためだけでなく、将来的にテクノロジー界から登場するであろう、これらのより深い統合に対応可能な、オープンで拡張性のあるプラットフォームとして設計しなければならない。

1.5 BYD Models:先進技術の民主化と規模の経済

SDVの価値提案:ソフトウェア主導の破壊的革新

BYDの最も破壊的な動きは、先進的なADAS「God's Eye」を、1万ドル以下のエントリーモデルであるSeagullにさえ標準装備として提供していることである 。この戦略は、高度な安全性と利便性機能をプレミアムな追加オプションとしてではなく、基本的な期待値として再定義し、マスマーケットにおける価値の方程式を根本的に変えるものである

「God's Eye」システムは、スケーラブルなアーキテクチャ(Xuanji)上に構築され、3つの階層で提供される。量販モデル向けのGod's Eye C(カメラ/レーダーベース)、プレミアムモデル向けのGod's Eye B(LiDARを1基追加)、そして高級モデル向けのGod's Eye A(LiDARを3基追加)である 。これにより、BYDは低価格帯から高級車まで、全製品ポートフォリオにわたって共通のソフトウェア基盤を活用することができる。

BYDのSDV能力は、統合ドメイン制御アーキテクチャ、ブレードバッテリーによるセル・トゥ・ボディ設計、そして8-in-1電動パワートレインを特徴とする「e-Platform 3.0」によって実現されている。このハードウェアの深い垂直統合が、同社のソフトウェアへの野心の効率的かつ知的な基盤を提供している

さらに、世界の競合他社とは一線を画す大胆な動きとして、BYDは自社の自動駐車システムが原因で発生した事故に対する責任を負うことを公約した。これは消費者信頼を構築するために設計された、自社技術への強力な自信の表明である

日本の業界への教訓(Lessons and Learned)

BYDの戦略は、特に中国からの次なる競争の波が、単なる低コスト製造ではなく、ソフトウェア主導の価値によって定義されることを示している。1万ドルの車に高度なADASパッケージを標準装備することで、BYDは競合他社が4万ドルの車で同様の機能にプレミアム価格を課すことを困難にする。伝統的に、先進機能は高級モデルから量販モデルへと何年もかけて段階的に普及してきた。BYDは、その規模と垂直統合を活用して先進ソフトウェアを全ラインナップに同時に展開することで、このプロセスを短縮している 。これは、機能ベースのトリムレベルやオプションパッケージにビジネスモデルを依存している既存OEMに、計り知れない価格圧力を生み出す。日本のOEMは、標準装備のソフトウェアとコネクティビティの価値で競争する準備をしなければならない。なぜなら、それが主要な購買動機になるからである。

また、「God's Eye」を搭載した数百万台の車両が路上を走ることで、BYDは大規模なデータ収集フリートを構築し、推定で毎日7,200万キロメートルもの走行データを収集している 。この膨大なデータセットは、AIおよび自動運転アルゴリズムのトレーニングと改良において、強力かつ複利的に作用するアドバンテージをもたらす。これは、より小規模な競合他社が乗り越えるのが困難なデータの「堀」を築くことになる。AIベースのADASの性能は、トレーニングデータの量と質に正比例する。BYDの高い販売台数 とADASの標準装備化は、前例のない規模のデータフィードバックループを生み出す。これにより、フリートが小さい、あるいはADASの利用率が低い競合他社よりも速いアルゴリズムの改善と検証が可能になる。日本のOEMは、AI開発競争で競争力を維持するために、自社の販売台数を通じて、あるいはデータ共有パートナーシップを通じて、大規模なデータ収集戦略を緊急に策定する必要がある。


今泉注:以下の第2部、第3部については後日作成して公開する予定です。

第2部 SDVがもたらす価値創造の戦略的分析

本セクションでは、ケーススタディから得られた知見を統合し、SDV時代を定義する包括的なテーマを分析する。

2.1 車両ライフサイクルと顧客関係の再定義

2.2 デジタルハブとしてのコックピット:UX/IVIの戦場

2.3 自動運転への道:ADAS進化における多様な戦略

2.4 新たな経済モデル:Function-as-a-Service (FaaS) の可能性と課題

第3部 日本の自動車産業へのインペラティブ

未来を見据え、具体的かつ戦略的な提言を行う。

3.1 漸進的改善からアーキテクチャ革命へ
3.2 ソフトウェアファーストの文化と人材パイプラインの育成
3.3 エコシステムの技術を習得する:新たなパートナーシップのパラダイム
3.4 総括的展望:ソフトウェア・デファインドの未来を航海する

参考文献

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  2. Tesla Energy Software - tesla.com
  3. Tesla Autopilot hardware - en.wikipedia.org
  4. AI & Robotics - tesla.com
  5. Software Updates - Tesla Model Y Owner's Manual
  6. Software Updates - tesla.com/support
  7. Full Self-Driving (Supervised) - tesla.com/support
  8. Tesla is overhauling its Full Self-Driving subscription for easier access - teslarati.com
  9. Full Self-Driving (Supervised) Subscriptions - tesla.com/support
  10. Tesla FSD Trial Convinced Just 2% Of Users To Pay For It, Credit Card Data Shows - insideevs.com
  11. Neue Klasse Will Feature Four "Superbrains" - bimmerlife.com
  12. BMW Neue Klasse To Feature New Digital Architecture With Four "Superbrains" - bmwblog.com
  13. BMW's New Vision Driving Experience Prototype Has Four Electric Motors - motor1.com
  14. Inside the Neue Klasse: BMW Panoramic iDrive - bmw.com
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  17. The BMW Group selects AWS to power next-generation automated driving platform - press.bmwgroup.com
  18. BMW's 'Neue Klasse' EV strategy is a billion-euro bet with no room for error - news.dealershipguy.com
  19. BMW picks China's Momenta as Neue Klasse ADAS supplier - automotiveworld.com
  20. Volvo EX30 Features - volvocars.com
  21. Volvo EX30 - Apps on Google Play
  22. Setting up your EX30 - volvocars.com
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  24. VW Group's Cariad Lost Billions In 2024, But A Turnaround Is Coming - insideevs.com
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  33. Hyundai Ioniq 3 Could Get Apple CarPlay Ultra - insideevs.com
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  36. BYD's "God's Eye" Pledge: A Strategic Masterstroke in the EV Autonomous Driving Wars - ainvest.com
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  38. BYD God's Eye Brings ADAS To The Masses - cleantechnica.com
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  50. 2024 (Full Year) Global: BYD Worldwide Car Sales and Productions - best-selling-cars.com
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  53. Mercedes Me Connect Store - smailmercedesbenz.com
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  60. Honda signs multi-year partnership with Helm.ai on autonomous driving tech - automotivedive.com
  61. Automotive Industry Driven by Partnerships - jvalchemist.ankura.com

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