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SMR(小型モジュール炉)は2040年の主力電源になり得るのか?

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ABIリサーチは2025年10月27日、世界的な電力需要の急増に対応するため、2040年までに計262基の小型モジュール炉(SMR:Small Modular Reactor)が設置され、総発電容量は42ギガワット(GW)に達するとの予測を発表しました。

Energy Demands Fuel Global Nuclear Revival, With 262 Small Modular Reactors to Be Deployed by 2040

産業の電化加速、再生可能エネルギーの導入拡大、データセンターの急増、そして送配電網の能力制約が複雑に絡み合い、エネルギー構成の見直しが求められています。これらの要因により、従来の大規模原子炉とは異なる柔軟性と迅速な導入性を兼ね備えたSMRが、次世代の電力インフラとして注目を集めています。

報告書では、SMRが産業施設やデータセンターなどの拠点分散型エネルギー供給に適している点が強調され、社会の電化を支える基盤として期待が高まっています。一方、規制審査の長期化といった課題も残り、普及に向けた制度整備が重要な論点となります。

今回は、SMRへの期待が高まる背景、技術的優位性、導入を阻む課題、そしてエネルギー政策やビジネスへの含意について取り上げたいと思います。

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※Google Gemini

分散化する電力需要とSMRが求められる背景

世界各地で産業の電化が進むなか、電力需要の増加ペースは従来の予測を大きく上回っています。とりわけAI時代のデータセンター需要は急伸し、数ギガワット級の電力を1拠点で消費するケースが増えています。これにより、再生可能エネルギー単独では季節・天候に左右される変動性を克服しにくく、安定した電源の確保が急務となっています。

さらに、多くの国で送配電網の容量不足が顕在化し、新たな電源接続まで長期間を要する状況が広がっています。こうした「系統制約」がボトルネックとなり、産業の成長や新規投資を阻害する懸念が高まっています。そのなかで、敷地内や近接地に設置できるオンサイト型の電源が注目され、SMRは迅速な導入性と安定供給を兼ね備えた有力候補となっています。

SMRは小規模で安全性が高く、多様な導入シナリオに対応しやすい設計が特長です。特に、建設期間の短縮や場所の選択肢が広がる点は、従来の大型原子炉では実現が難しいもので、電力需要が局所的に集中するデータセンター集積地などで強い関心を集めています。

SMRの技術的優位性と安全性の進化

SMRが注目される理由の一つは、従来型原子炉に比べて安全性が向上している点です。最新のSMRは、外部電源に依存しない「受動的安全機構」を採用し、緊急時でも自然循環などの物理法則を利用して炉心冷却を行います。この仕組みにより、事故リスクが大幅に低減され、周囲に広い防護区域を必要としない設計が可能になりました。

加えて、SMRは工場で製造したモジュールを現地に運ぶ方式を採用しています。生産の標準化により品質の均一化が進み、建設コストや期間の削減が見込まれます。また、小規模であるがゆえに拡張性が高く、段階的にユニットを追加して出力を増やせる柔軟性も備えています。

環境負荷低減も見逃せません。新世代のSMRでは、核廃棄物の削減やリサイクル技術が進み、ライフサイクル全体での環境性能が向上しつつあります。これらの特性は、原子力に対する社会的受容性の改善に寄与し、クリーンエネルギーとしての位置づけを強めています。

エコシステムの広がりと投資マネーの流入

SMR市場の形成が進むなか、国際的な企業群がエコシステムを築きつつあります。ロールスロイス(Rolls-Royce SMR)やGE Vernova・日立の協業体制は技術開発とスケール化に強みを持ち、一方でX-energy、NuScale Power、Oklo、Moltex Energyなどスタートアップが革新的な設計で存在感を示しています。

とりわけ米国や英国は政策支援を強めており、国立研究機関との協力、補助金制度、迅速審査枠など導入加速に向けた枠組みを整備しています。民間投資家からの資金流入も活発で、X-energyへのアマゾンによる出資やNuScaleの上場など、資本市場における期待の高さがうかがえます。

こうした新旧プレイヤーの競争が技術革新を後押しし、標準化の進展やサプライチェーン強化につながる見通しです。市場の拡大とともに、各国のエネルギー政策におけるSMRの位置づけは一段と重みを増し、次の成長フェーズに向けた基盤が整いつつあります。

普及に向けた最大の障壁:規制・審査プロセス

SMRの潜在力が広く認識される一方、普及には依然として大きな壁が存在します。とりわけ新規原子炉設計に対する規制審査は長期化する傾向にあり、安全評価、環境影響調査、地域合意形成など、多層的なプロセスを経る必要があります。

審査の遅れは導入コストの増大につながり、投資判断を難しくします。また、標準化が進んでいない段階では設計ごとに審査が必要となり、規制当局の負荷も高まります。国際的な相互承認制度の検討も始まりつつあるものの、制度統一には時間がかかるでしょう。

エネルギー危機が深刻化する国では、迅速な電源の確保が求められますが、現行制度のままでは需要の伸びに追いつかない可能性があります。報告書でも、将来のクリーンエネルギー需要に短期間で対応できる代替手段は見つかりにくく、SMRの選択は政策的にも避けられない局面を迎えると指摘されています。経済成長を支える電力供給をいかに確保するかが、今後の産業競争力を左右することになります。 

今後の展望

今後、SMRの成長曲線は2030年以降に大きく立ち上がるとみられています。建設期間の短縮や標準化が進むことで、コスト面と導入スピードの両面で競争力が高まり、電力の分散化ニーズと合致する形で導入領域が広がるでしょう。

特に注目されるのは、AI時代の中核インフラとなるデータセンターとの連携です。電力供給の安定性は運営コストと可用性に直結し、国レベルの投資誘致にも影響します。SMRを近接設置するモデルは、電力系統の混雑を緩和し、持続的なAIインフラ構築に貢献する可能性があります。

一方、社会的受容性の向上、透明性ある規制制度、地域との対話など、非技術的な取り組みも重要です。さらに、国際標準の整備や安全評価モデルの共有化など、越境的な協調も求められる局面が増えるでしょう。

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※Google Geminiを活用して編集

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