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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

オムロン、フィジカルAIとしての生産ラインが安全を高度化する未来:NVIDIAフィジカルAI大全集(第5回)

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NVIDIA CEOのジェンセン・フアンが「フィジカルAIは50兆ドル市場」と明言したことにはそれなりの意味があります。彼は先端AI半導体の開発設計の最前線にいる訳ですし、このブログでも多数の投稿をしてきたようにロボティクス開発スタックの全体像も見えています。そういう「見えている技術」の延長線に全製造業がフィジカルAIの恩恵を被るポテンシャルを見ているのだと思います。

製造業と言えば日本のお家芸です。フィジカルAIこそが日本の製造業の未来だと言っていいでしょう。

調査報告書:NVIDIA CEOジェンセン・フアンの50兆ドル規模「フィジカルAI市場」が製造業に与えるインパクト(noteの弊ブログ)

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そういう彼が今年8月、「時代を変えるAIエッジコンピュータ・デバイスだよ」という含みを持たせたティーザーをまずXで拡散し、その後、世界にお披露目したデバイスがJetson Thorです。

【大解説】NVIDIA Jetson Thorとは何か ― フィジカルAIを動かす"現場の脳" ―

このシリーズでは、現存するメーカーの主要な製品や技術にJetson Thorを組み合わせてフィジカルAIを具現化すると、どのような姿・形になるかを、一種の思考実験として展開しています。

現代は「AIのことはAIに聞け」という時代ですから、技術的な正確性を担保するために、フィジカルAIの技術詳細について知らないものはないAI ChatGPT 5.1(A4技術文書で数万ページを学習済み)に分析させ、書かせます。

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オムロン × NVIDIA Jetson Thor

「安全」「検査」「現場連携」を統合するフィジカルAIユースケース

NVIDIA Jetson Thorを現在の主要メーカーの製品や技術に組み合わせると、どのようなフィジカルAIが形になるのか?これまで、ヤマハ発動機の産業ドローン、村田製作所のセンサー群、豊田自動織機のフォークリフトの例で見てきました。

今回は "日本で最もフィジカルAIとの親和性が高い企業のひとつ=オムロン(OMRON)" を取り上げます。

結論から言えば、オムロンの

  • セーフティ(安全機器・制御)

  • マシンビジョン(画像検査)

  • FA制御(PLC/産業制御)

は、Jetson Thor の「世界モデル × 自律判断」の概念と極めて相性がいいのです。

1. なぜオムロンはフィジカルAIと相性が良いのか

オムロンの強みは、単なるセンサーや検査装置ではありません。
本質は 「人と機械が安全に協働する現場OSの思想を持っていること」 です。

たとえば:

  • 危険区域検知

  • 作業者の動作追跡

  • 外観検査

  • 不良品の自動排除

  • PLCによる装置間連携

  • 工場全体の安全設計

これらはすべて「現場の状態」を把握し、「行動を制御する」仕組みです。

そこに Jetson Thor が持つ "高次の推論・自律判断" を乗せると何が起きるか?

私の結論はこうです。(今泉注:フィジカルAIを知り尽くしているChatGPT 5.1が語っています。ChatGPT 5.1がフィジカルAIやロボティクスについて学習している米国最新技術文書のA4ページ換算については、別途、このブログで上げます。最新技術を含む数万ページを学習済みです。)

フィジカルAIを搭載した"次世代オムロンOS"が、
工場・物流・建設など、あらゆる現場の安全と生産性を一気に底上げする。

これは単なる自動化ではありません。
「現場の意思決定」をAIが肩代わりする世界です。

2. Jetson Thor:現場で"判断するAI"への進化

NVIDIAのJetsonシリーズは、2025年のThorで大きな進化を遂げました。

  • 800 TFLOPS超のAI性能

  • トランスフォーマーモデルの高速処理

  • マルチセンサーフュージョン対応

  • Isaac Perceptor / Manipulator との統合

  • Omniverse シミュレーション対応

  • LTE/5Gを使わず"完全エッジでの自律動作"が可能

(今泉注:これに加えてオープンソースのLLMを丸ごと搭載し、インターフェースを介して人間の自然言語で応答させることも可能。小さなChatGPTを実装するイメージ)

つまり、

現場のあらゆるセンサー(Vision、距離、環境、安全)を統合し、
AIがリアルタイムに判断して動けるようになる。

この「リアルタイムの自律判断」が、まさにオムロンの思想と融合します。

3. フィジカルAI × オムロンのユースケース

以下、私が考える「刺さるユースケース」を3つ示します。
いずれも、すでに現場に存在する課題であり、かつJetson × オムロンで"解像度高く"解決可能です。

【ユースケース①】

AI安全監視:作業者の行動×ロボット動作の統合判断

■現状の限界

  • 危険区域への侵入はセンサーで検知できる

  • しかし「作業者の姿勢」「不自然な動き」「疲労」「転倒リスク」などは検知が難しい

■Jetson Thorで可能になること

Jetson Thorが以下のデータを統合:

  • カメラによる姿勢推論

  • キーエンス/オムロンの距離センサー

  • 作業者の動線トラッキング

  • ロボットの速度・関節角度・軌跡予測

  • 周囲の危険要因(搬送物・フォークリフト)

例えば、"危険発生の2秒前に、自動的にロボット動作を停止"できるようになります。

これは安全工学的にも非常に強力な改善で、
労災の8割が「予兆の見逃し」で起きている現実を変える技術です。

【ユースケース②】

AI外観検査 × 現場自律改善

(Jetsonによる「不良の原因推定・最適設定自動化」)

■従来の外観検査の弱点

  • 画像検査装置が"不良そのもの"は検出できる

  • しかし"不良の原因"は検査装置が把握できない

  • 設備側の調整(焦点、照明、搬送速度)は人が行う

■Jetson Thorで何が変わるか

Jetson Thor が

  • 不良パターンのクラスタリング

  • 搬送ラインの振動推定

  • 変動要因(温度・湿度・光量)の解析

  • PLCからのパラメータ取得

  • 直近の履歴を含む推論

などを統合し、以下を実現します。

「外観検査 → 原因推定 → 最適設定の自動調整」
という現場OS(自律制御)

外観検査は単なるAI検出から、
"ライン全体の自律最適化"へ進化します。

【ユースケース③】

フィジカルAIによる「現場の意思決定支援OS」

(設備保全 × 安全 × 生産性の統合判断の支援)

■課題:

  • 現場では「安全」と「生産性」が常にトレードオフ

  • 設備保全・作業手順・ロボット動作がバラバラ

■Jetson Thorが統合するもの

  • 設備の異音・振動解析

  • 作業者の動線

  • ロボットの稼働率

  • 製品の出来栄え

  • 安全監視カメラ

  • 温湿度・環境センサー

  • PLCデータ

これをリアルタイムで統合し、

「この作業を今やるべきか?」
「このロボット動作は安全か?」
「このラインの設定は最適か?」

についての意思決定をAIがリアルタイムで支援する世界になります。

安全に問題がない領域については、Jetson Thorに自動的な意思決定を任せることも可能です。

4. オムロン × Jetson Thor の本質:

「Safety × Vision × Control」の統合OS

オムロンには、もともと"現場全体を俯瞰するセーフティ思想"があります。
Jetson Thor は、これに「推論力」「世界モデル」「自律行動」を加えます。

組み合わせると、以下が実現します。

  • 事故ゼロの生産ライン

  • 停止時間ゼロを目指す自律保全

  • 不良を生まないフィジカルAI最適化

  • 協働ロボットの安全な動作領域管理

  • 工場全体をOmniverseでデジタルツイン化

これは、2025年のCESでNVIDIA CEOジェンセン・フアンが語った
「Physical AI is the next platform shift」
の本質そのものです。

5. 日本製造業にとっての意味

オムロンのような現場密着型企業は、
フィジカルAIによって世界市場で存在感を大きく飛躍させる可能性があります。

日本が得意とする

  • 精密機器

  • センサー

  • 現場改善

  • 制御技術

  • 安全設計

これらの技術が、
Jetson Thor という"行動するAI"と融合すると、
世界市場における新しい価値領域が生まれます。


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[講義内容]

「フィジカルAI」という言葉は2025年1月のコンシューマエレクトロニクスショー(ラスベガスのCES2025)におけるNVIDIA CEOジェンセン・フアンの基調講演をきっかけに世の中に広まり始めました。このセミナーでは時価総額でも世界有数の企業になったNVIDIAのCEOによるフィジカルAIの定義を基礎として、先ごろ発売されたロボット用エッジコンピュータJetson Thorによって初めて明確になった「日本の製造業が開発販売できるフィジカルAI」の全体像をご説明します。自律的なロボット、ドローン、農業機械、建設機械、検査保全ロボットなど、具体的な応用形は様々あり、日本の製造業にとって新しい時代が来ることを予感させます。

【参加申込はこちら/セミナー提供形態等の詳細はこちら】

1.イントロダクション:AIの進化の三段階

 ・知覚AI → 生成AI → フィジカルAI

 ・ジェンセン・フアンのフィジカルAIの定義は「知覚し、推論し、計画し、行動するAI」

  (AI which Perceive, Reason, Plan, and Act)

2.技術解説:ジェンセン・フアンの定義を技術的に翻訳すると...

 ・センサー&センサーフュージョン

 ・Vision-Language-Action (VLA) モデル

 ・リアルタイム推論とオンボード処理

 ・簡素化される学習プロセス:事前学習+現場適応

3.日本の製造業が開発に使えるツール:Jetson ThorとNVIDIAスタック

 ・Jetson Thorの特徴(オフライン/オンボードで動作、高度なリーゾニング、センサーフュージョンとの接続、

  ChatGPT的なLLMを搭載し人間の言葉による指示ができる等)

 ・Omniverse、Isaac SimなどNVIDIAスタックとの連携により高速開発ができる

4.ユースケース

 ・ヒト型ロボット//四足歩行ロボット

 ・自律走行ドローン

 ・農業機械(自律トラクター、収穫ロボット)

 ・物流倉庫ロボット

 ・建設機械(自律重機、搬送ロボット)

 ・外観検査ロボット

 ・サービスロボット

5.まとめと質疑

 ・「日本企業が参入すべき領域」

 ・「部品メーカーのビジネス機会」

 ・Q&A

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