まず「何を守るのか?」を考える。保護対象領域/Protect Surfaceの明確化【ランサムウェア被害に遭わない米国最新DX】
第2回|何を守るのかを知らなければ、守れない ― ゼロトラストの核心「Protect Surface」(保護対象領域)の思想
「ゼロトラストの父」が伝えた単純な真理
ゼロトラストという言葉は、今や多くの企業で聞かれるようになりました。
しかし、「ゼロトラストとは何か」を正しく理解しているIT関係者は、まだ多くありません。
この概念を提唱したのは、アメリカのセキュリティ専門家 ジョン・キンダーバーグ(John Kindervag) 氏です。
彼の言葉は驚くほどシンプルで、しかし本質を突いています。
"You cannot protect what you don't know."
(何を守るべきかを知らなければ、守ることはできない)
この言葉に、ゼロトラスト・アーキテクチャの核心が凝縮されています。
彼が提唱したのが、「Protect Surface(保護対象領域)」という考え方です。
Protect Surface(保護対象領域) ― 「守るべき最小領域」を定義する
従来の情報セキュリティは、境界防御(Perimeter Defense) という考え方が中心でした。
つまり、「社内ネットワーク=安全」「外部=危険」と仮定し、その境界をファイアウォールなどで守るという発想です。
しかし、クラウド・SaaS・テレワーク・生成AIが当たり前になった今、
その境界線はすでに消えています。
ここで登場するのが、Protect Surface(保護対象領域) です。
キンダーバーグ氏は、「守るべき範囲を最小限に特定し、そこだけを徹底的に防御する」というアプローチを示しました。
たとえば次のような単位です。
-
顧客の信頼を失えば企業が終わる情報
例:顧客のクレジットカード番号、銀行口座情報、本人確認書類、購買履歴、社員のマイナンバー情報など。
→ 一度流出すればブランド価値が失われ、金融庁・個人情報保護委員会対応で数十億円規模の損失につながる。 -
競争優位を支える企業秘密
例:自社独自の生産プロセス、配合レシピ、機械制御アルゴリズム、価格設定ロジック、AIモデルの学習データ。
→ 外部流出=競合にノウハウを渡すことと同義。DX化が進むほどこの資産は「データの形」で存在する。 -
サイバー攻撃の設計図になり得る内部情報
例:社内システムのアーキテクチャ図、ネットワーク構成、VPN設定ファイル、認証サーバの構成情報。
→ 攻撃者にとって"攻撃マップ"になるため、最初に守るべきは「防御の構造」そのもの。 -
経営判断が漏洩すれば市場を動かす情報
例:役員間のメール・議事録、M&A検討資料、株主還元策や新規事業計画。
→ 流出は株価・IR・訴訟に直結する。攻撃者はこれらを「人質データ」として狙う。 -
パートナー企業・取引先の信頼を左右する共有情報
例:サプライチェーン連携で共有される在庫・生産データ、ベンダー契約書、輸出管理資料。
→ 自社よりも"取引先経由で攻撃を受ける"ケース(サプライチェーン攻撃)が増加中。
企業全体を防御対象とするのではなく、"本当に守るべき領域を小さく定義し、深く守る"。
これがゼロトラストの第一歩です。
DX推進と「防御対象の不明確化」
DXを進めた企業ほど、防御が難しくなります。
なぜなら、システムが増え、SaaSが増え、APIがつながりすぎて、
「どこに何があり、誰がどの権限で触っているのか」を誰も完全には把握していないからです。
キンダーバーグ氏の言葉に従えば、まさにこの状態が「守れない状態」です。
経営者がDX推進を評価しても、Protect Surfaceの定義がなければ、
それは「守る範囲が不明なままネットを広げている」ことになります。
つまり、DX推進の第一工程は「効率化」ではなく、
"何を守るのかを定義する"ことから始めるべきなのです。
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