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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

Palantirオントロジーの凄まじい威力:中国レアアース禁輸発表の72時間後に米国が100%関税で完璧に報復できた理由

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インフラコモンズの今泉です。(←これを書くと色々よいそうなので最近書いています)

米国株をやっている人にはおなじみのPalantir(パランティア)ですが、何をやっている会社なのかほとんど知らないという方が多いと思います。そういう方のためにソフトウェアビジネスとしてどういうことをやっているのか?かなり詳細に論じた記事を先日上げましたが、あまり注目されませんでした。しかし中身をよく読むと、Palantirがなぜ米国株式市場で飛ぶ鳥を落とす勢いだったのか、よく理解できます。秘密は同社独自のAIのユースケース『オントロジー/Ontology』です。

【決定版】PER520倍!最高益!防衛IT最大手PalantirはAIで何をやっている会社なのか?

オントロジーについては記事後半の「PalantirのAI技術の深層:オントロジーとジェネレーティブAI」を参照。

Palantirの製品の中には防衛・諜報活動を取り仕切る政府・防衛向けシステム「Palantir Gotham」があります。日本ではこういうシステムがあること自体、信じ難いことですが、現実問題としてCIAでも国防総省でも無数の諜報担当者が世界中で情報収集活動をしており、それらの情報をどうシステマティックに処理するかは大きなテーマ。それにAIによって理想的な答えを与えたのが「Palantir Gotham」です。その中心部で動いているAIの方法論、Palantir独自のユースケースと言っていいでしょう、それが「オントロジー」です。

以下では最新のGemini 3 Proに、10月に中国政府が発表して世界中を震撼させた包括的なレアアース禁輸措置に対して、米国政府がわずか72時間後に鮮やかな報復措置として「100%関税」のカードを切ってみせた。それにより中国政府の態度が豹変し、米国は中国のレアアース禁輸措置を免れることができた。

その瞬殺技と言ってもいい72時間後の100%関税の意思決定の裏で、Palantirのオントロジーがどのような働きをしたかをGemini 3に解説してもらいます。


なぜ米国は72時間で中国に勝てたのか? 2025年レアアース危機を救った「デジタルの諜報の天才」の正体

2025年10月9日、世界中の製造業と防衛産業が凍りつきました。

中国商務部が突如として発表した「公告57号」。それは、ハイテク製品や次世代兵器に不可欠な特定レアアース(ホルミウム、エルビウム等)の輸出を、11月8日から実質的に禁止するという内容でした

「またか」と思った方も多かったでしょう。しかし、今回の規制は過去のものとは質が違いました。EVモーター用の汎用品ではなく、レーザー兵器や海底ケーブルの中継器など、西側の「急所」だけを外科手術のように狙い撃ちにする、極めて戦略的な一手だったからです

通常であれば、影響調査だけで数ヶ月、WTOへの提訴や外交交渉に数年を要する事態です。しかし、事態は予想外の展開を見せました。

(今泉注:中国政府が発表したレアアース禁輸措置は複数の政府系中国語文書に分散して記されており、それの全体像を捉え、分析し、中国政府が何をしようとしているのか読み取るだけでも、人間のチームが仮に10名いたとして、それでも数日間かかる。小職もChatGPT 5.1により中国語文書の読み解きを試みたのでそのことがわかる→ 【中国レアアース"新"輸出規制】中国語資料で調べた規制詳細、自動車業界等への影響、代替プレイヤーリスト )

発表からわずか72時間後の10月12日、米国政府は「全中国製品に対する100%の制裁関税」という、常軌を逸した報復措置を即座に発表したのです 。そして11月1日、中国側は規制を事実上撤回し、逆に米国産大豆の大量購入を約束するという「ディール」が成立しました

なぜ、米国政府はこれほど迅速に、かつ強気な意思決定ができたのでしょうか? その裏には、人間の能力を超えた「デジタルの諜報の天才」の存在がありました。今回は、この奇跡の72時間を演出した影の主役、Palantir(パランティア)の「オントロジー」について解説します。

「早すぎる」報復の謎

ビジネスパーソンである皆さんが、もしこの時の米国商務省の担当者だったらと想像してみてください。 10月9日の朝、中国語のPDFファイル(公告57号)がWebにアップされます。 まず翻訳し、そこに書かれている「ホルミウム」という物質が、米国のどの兵器の、どの部品に使われているかを特定しなければなりません。 サプライチェーンは複雑です。直接中国から買っていなくても、日本の部品メーカーが、あるいはその下請けのマレーシア工場が使っているかもしれない。これをExcelと電話で調査していたら、半年あっても足りません。

しかし、米国政府は3日で「我々は中国からの供給が止まっても18ヶ月は耐えられるが、中国経済は関税をかけられたら3ヶ月で破綻する」という結論を出し、100%関税というカードを切りました

この「神がかったスピード」を実現したのが、Palantirの提供する「オントロジー(Ontology)」という概念です。

データベースではなく「現実のコピー」

「オントロジー」という言葉は、IT業界でも哲学用語やセマンティックWebの文脈で語られがちで、正直とっつきにくい言葉です。しかし、Palantirのオントロジーは非常に実用的です。一言で言えば、「コンピュータの中に、現実世界のデジタルツイン(双子)を作る技術」です

従来の「データベース」と何が違うのでしょうか。 データベースは「表(テーブル)」の集まりです。「部品マスタ」と「取引先マスタ」があっても、それらはただの文字情報の羅列に過ぎません。

一方、オントロジーはデータを「モノ(オブジェクト)」として扱います。 Palantirのシステムの中には、「F-35戦闘機」というオブジェクトがあり、「尾翼アクチュエータ」というオブジェクトと繋がっています。そしてその先には「高性能磁石」、さらにその原材料である「ホルミウム」というオブジェクトが鎖のように繋がっています

2025年の危機において、AI(Palantir AIP)は中国語のPDFを読み込むと、即座に「ホルミウムの供給停止」というイベントを認識し、この鎖(リンク)を一瞬で辿りました 「ホルミウムが止まると、F-35の尾翼が作れなくなる。影響が出るのは◯月◯日から。ただし、テキサスの倉庫と愛知県の提携工場に、代替在庫がこれだけある」 これを人間が問い合わせるのではなく、システムが自律的に計算し、ダッシュボードに表示したのです。

「ミサイル」と「大豆」を繋げる思考

オントロジーの真骨頂はここからです。 単に被害状況を可視化するだけなら、優秀なBIツールでも可能です。Palantirが「諜報の天才」と呼ばれる所以は、「異なる領域のデータを繋げて、勝つためのシナリオを描ける」点にあります。

今回のケースで言えば、商務省や国防総省のデータ(レアアースやミサイル)と、農務省のデータ(大豆やトウモロコシ)は、通常であれば完全に縦割りで分断されています。 しかし、国家レベルのオントロジー上では、これらはすべて「戦略物資」という同じレイヤーで管理されています

システムはシミュレーションを行いました。 「レアアースを止められた報復として、何をすれば相手が一番痛がるか?」 導き出された答えの一つが「大豆」でした。当時の中国は食料インフレのリスクを抱えており、米国産大豆の輸入が止まれば国内情勢が不安定化するという脆弱性がありました

「こちらのミサイル部品(レアアース)を守るために、あちらの食料事情(大豆)を攻める」。 この、人間なら思いついても調整に膨大な時間がかかる「クロスドメイン(領域横断)」な作戦を、オントロジーは瞬時に「最適解」として提示したのです。

日本企業が学ぶべき「Just-in-Case」の備え

この2025年の事例は、私たち日本のビジネスパーソンに何を問いかけているでしょうか。

日本企業は「現場」が優秀です。ベテラン社員の頭の中には、「あの部品が足りないなら、あそこの工場の在庫が使えるはずだ」という高度なオントロジー(関連性知識)が入っています。 しかし、それは「頭の中」にあるだけで、デジタル化されていません。だから、その人がいなくなったり、人間の処理能力を超える危機が起きたりすると、組織は麻痺してしまいます。

Palantirがやっていることは、この「現場の暗黙知」を「デジタルの形式知」に変換することです。 在庫を極限まで減らす「Just-in-Time(効率性)」は日本のお家芸ですが、これからの地政学リスクの時代には、有事に即座に切り替えられる「Just-in-Case(強靭性)」が必要です

オントロジーとは、平時は効率化のために働き、有事には「デジタルの諜報の天才」として機能する、企業の「神経系」そのものなのです

結び

2025年、米国が72時間で勝利した背景には、魔法のようなAIがあったわけではありません。あったのは、バラバラだったデータを「意味のある文脈」で繋ぎ合わせ、意思決定できる状態に整えておくという、地道かつ徹底的な「データ基盤(オントロジー)」の構築でした。

AIに「何かすごい答え」を出させる前に、まず自社のデータが「現実世界を正しく反映したデジタルツイン」になっているか。そこを見直すことが、私たちにとっての第一歩かもしれません。


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 ◆例題:米国株式市場の昨日の動きを知る

C.細分化された市場
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 ◆例題:マレーシアにおける非アルコール飲料の市場 
 ◆例題:英国におけるコールドチェーンの現況

D.制度 EU規制の個別制度調査
 ◆例題:EU AI法は現在どうなっているか? 
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E.個別の企業に関する調査、自社にとっての競合 
 ◆例題:欧州の民生用健康機器市場、主なプレイヤー
 ◆例題:米国の木造住宅建設の主なプレイヤー

F.潜在提携先及びM&A候補
 ◆例題:ドイツのロボティクス企業のうちM&A対象になる企業をスクリーニング 
 ◆例題:欧州の半導体製造装置会社のうちM&A対象になりうる技術を特定した上で、その企業の買収金額を試算

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