通信市場、6GとAIが牽引する次の成長領域
Omdiaは2025年10月29日、グローバル通信産業の収益および設備投資(capex)の最新予測を公表しました。
6G and AI investment to drive global communications industry growth, Omdia forecasts
本調査は67カ国の過去データ、各地域の市場構造、規制動向、技術移行のパターンを踏まえ、2030年までの成長軌道を分析しています。報告書によると、通信事業者の世界市場は2030年に5.6兆ドルへ拡大し、2025年以降は年平均6.2%の成長が見込まれます。
背景には、6Gに向けたモバイルインフラ更新、AIインフラ需要の急速な拡大、そしてハイパースケーラーによるデジタルサービス領域の伸長があります。既存の通信収益が緩やかな伸びにとどまる一方、技術セグメントは高い成長率を維持し、2030年には通信市場全体の半分以上を占めると予測されています。
通信産業がこれまでの「回線数の拡大」に依存する構造から、「付加価値サービスとインフラ高度化」で差別化を図る段階へ移行する中、世界的な投資の重点も変わりつつあります。今回は、通信市場の成長見通し、投資動向、そして今後の展望について取り上げたいと思います。
市場成長を支える6GとAIの構造変化
Omdiaの予測によると、通信市場の成長を牽引する中心要因は、6Gの準備加速とAIインフラ需要の拡大です。5Gネットワークが商用化から数年を経て広く普及するなか、通信事業者は次の世代を見据えた投資の再配分を進めています。2028年以降、Tier1市場を中心にモバイル向け設備投資が再び増勢に転じる見込みであり、これは6G導入の前段階にあたるネットワーク刷新の動きと一致します。
同時に、AIの急速な高度化が世界の通信インフラに新たな負荷をもたらしています。生成AIおよびエージェント型AIの普及に伴い、演算負荷、データ流量、低遅延要求が飛躍的に拡大し、通信事業者はデータセンターの増設、電力設備強化、専用ハードウェアの導入を迫られています。これらの投資は従来のネットワーク整備とは性質が異なり、ハイパースケーラーとの競争と協調が同時に進む複雑な構造を帯びています。
一方、テレコム収益そのものは2025〜2030年で年平均2.7%と緩やかな成長にとどまります。これに対して、技術セグメントは9.4%の力強い伸びを維持し、2030年には全体の55.9%を占める見通しです。収益構造の転換が明確に進み、通信業界はもはやネットワーク事業だけでは成長を確保できない段階に入ったことが示されています。
設備投資が示す戦略転換:モバイル強化と固定系縮小
通信事業者の設備投資は、2030年にテレコム分野で3950億ドル、技術分野で5450億ドルに達する見込みです。年平均成長率はそれぞれ3.6%と9.3%で、特に技術分野が急速に拡大します。これはクラウドサービス、AIプラットフォーム、データセンター強化などの需要が通信領域を上回る成長を見せていることを意味します。
固定系通信のcapexは、市場成熟に伴って緩やかに縮小すると予測されています。光ファイバー敷設が多くの国で進み、ユーザー獲得余地が限定的になるためです。その一方、モバイル系は2028年以降に再成長局面へ入り、6G導入を見据えたネットワークアップグレードが投資を押し上げます。多層化、超低遅延化、周波数高度化といった要件が、これまで以上に高密度な基地局配置と大規模設備更新につながります。
また、AIインフラ対応がcapexの質的変化をもたらしています。サーバー、HPCクラスタ、高性能GPUへの投資、冷却技術の強化、電力供給の最適化は通信キャリアにとって新しい領域であり、これまでデータセンター専業やハイパースケーラーが主導してきた領域への本格参入を加速させています。デジタル主権の潮流が強まる欧州やアジアでは、国内データ処理能力強化のため、通信事業者が国家政策と連動する形で役割を拡大しています。
収益構造の再編と通信事業者のビジネスモデル変革
全体の成長率が6.2%と堅調である一方、図表が示すように通信(Telecom)の成長が鈍化し、技術(Technology)が比重を増す構造的変化が続いています。2030年に向け、通信業界は「回線の提供者」から「デジタルサービスの基盤提供者」へと役割を移しています。
まず、ハイパースケーラーが技術セグメントの大半を占める中、通信事業者もクラウド、AI、セキュリティ領域に積極投資する動きが加速しています。AIを活用したネットワーク運用やエージェント型サービス、企業向けデータ分析サービスなどが新たな収益源となりつつあります。
また、AIを用いたネットワーク自動化やトラフィック予測は運用コストを減らし、粗利率の改善をもたらします。生成AIを使ったカスタマーサポート、エージェント型サービスによるB2B支援など、顧客接点の高度化も進んでいます。
Omdiaの分析では、通信事業者が価値創造を拡大するためには、AIインフラ、ローカルデータセンター、6G向けモバイル基盤への投資を同時並行で進める必要があるとされています。従来の「ネットワーク投資中心」ではなく、「デジタルエコシステムを構築する企業」へ変わる時期が到来しています。
今後の展望
今後、通信産業は6G時代の幕開けとAIの爆発的普及によって、かつてない規模のネットワーク需要とデジタルサービス需要を同時に抱えることになります。収益の中心は明らかに「技術セグメント」へ移り、通信事業者はネットワークの進化に加えて、AIサービス企業としての側面も強める必要があります。
まず、6Gは高周波対応、超低遅延、空間コンピューティング対応など、多様な機能が求められ、基地局密度、消費電力、クラウド連携の全てが高度化します。これにより投資負担は増すものの、産業用途の拡大や高度化した法人需要が新たな収益機会につながることが期待されます。

出典:Omdia 2025.10.29

※Google Geminiにて編集