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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

日本の自動車業界が中国を代替できるレアアース磁石・モーター・資源の最新動向レポート【Gemini 3調査活用術】

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ここ1年近く、ChatGPTやGoogle Geminiを活用した海外市場調査、海外産業調査など様々な調査系ユースケースの開発に勤しんできています。

先日、Gemini 3がリリースされたということをXで知りました。(私はAIやロボティクスの最新情報はXで入手しています。専門家の方でXを使っていない方はぜひ今日から活用すべきです。誰をフォローすればいいかはXの中のAIであるGrokに推薦してもらうと効率的です)それも物凄いというGoogle DeepMindの触れ込み。

実はこの数日の間に上げた1本の投稿はGemini 3に1から10まで書かせています。それがあまりに「人間的な」文章であるので、私も驚きました。

そのGemini 3に、毎日多くのアクセスのあるレアアース代替磁石レポートを刷新する、よりコンパクトで、よりビジネスパーソンのニーズに適合したレポートを書かせました。お読みになると情報の濃密さと語り口の的確さに驚かれると思います。(全てのテキストは何らかの文献を参照しています。参照文献は末尾をご覧下さい)

今年6月の報告書(これを刷新する報告書として以下が作成されています):

米国が喉から手が出るほど欲しいレアアース代替磁石は日本と海外のどの会社が開発しているのか?(2025/6/6)

こうした AIを駆使した海外市場調査のノウハウは、以下のセミナーで徹底解説します。


【セミナー告知】外注コストを年間1,000万円節減できる!ChatGPT5を駆使した海外市場調査

【主催】一般社団法人 企業研究会
【講師】
インフラコモンズ代表 リサーチャー AI×経営ストラテジスト 今泉大輔(当ブログ運営者・執筆者)
【開催にあたって】
最新版のChatGPT 5(有料版)の調査能力と報告書執筆能力は、長年海外調査業務に携わってきた小職の目から見て群を抜きます。わかりやすい比喩で言えば特定の技術分野に精通した博士号取得のシンクタンク主任研究員をかなり上回る程度にまでなっています。彼らの人件費は1,200万円超。それ以上の能力を持つAIがあなたのそばにいる...ということになります。
ChatGPT 5(有料版)の活用ノウハウを知れば、1本300万円~500万円程度の海外市場調査をラクにこなすことができるようになります。しかもかかる時間は最大で1時間。無料版と有料版の違い、社内で利用するにはどうすればいいか?など実践的なノウハウを含めてお伝えします。

調査レポートの見本は以下のブログカテゴリーをご覧下さい。

「AI海外市場調査」カテゴリーの投稿

「AI調査術」カテゴリーの投稿

【対象】
経営企画部門、新規事業開発部門、マーケティング部門、グローバル事業部門の方など
【日時】
2025年 12月 1日(月) 13:30~16:00  
【受講形態】
オンラインZoomで受講していただけます。会場開催はありません。
【詳細/料金/お申し込み】
一般社団法人 企業研究会サイトをご覧下さい。
【内容】
調査の切り口に着目した分類
A.言語
 その国の媒体。新聞等ネットでアクセスできる中国語資料(政府資料含む)、
 ドイツ語資料、フランス語資料、ロシア語資料、ウクライナ語資料、など 
 ◆例題:「台湾華語」の新聞・資料により世界最大の半導体製造会社TSMCの過去1年の動きを知る

B.期間
 直近1週間、過去3ヶ月、過去1年、過去5年 
 ◆例題:国内半導体製造装置メーカーの競合として、米国アプライドマテリアルズの過去5年の動きを知る 
 ◆例題:米国株式市場の昨日の動きを知る

C.細分化された市場
 マレーシアの飲料市場、英国のラーメン店出店状況、東アフリカ諸国の自動車流通、アジアのイスラム諸国におけるハラル化粧品市場など
 ◆例題:マレーシアにおける非アルコール飲料の市場 
 ◆例題:英国におけるコールドチェーンの現況

D.制度 EU規制の個別制度調査
 ◆例題:EU AI法は現在どうなっているか? 
 ◆例題:ガソリンエンジン車を2035年までに全廃するEU規制の大枠を知る

E.個別の企業に関する調査、自社にとっての競合 
 ◆例題:欧州の民生用健康機器市場、主なプレイヤー
 ◆例題:米国の木造住宅建設の主なプレイヤー

F.潜在提携先及びM&A候補
 ◆例題:ドイツのロボティクス企業のうちM&A対象になる企業をスクリーニング 
 ◆例題:欧州の半導体製造装置会社のうちM&A対象になりうる技術を特定した上で、その企業の買収金額を試算

G.海外進出準備、海外の工業団地
 ◆例題:インドの工業団地進出、インド政府の生産連動型優遇策(PLI)政策の概要を知る

【本セミナーはZoomを利用して開催いたします】


調査報告書:2025年 自動車産業における「脱・中国レアアース」戦略の全貌 ---- 資源・磁石・モーター技術の地政学的・技術的総括

1. 序論:資源戦争から技術封鎖へ ---- 2025年の新たな地平

2025年現在、世界の自動車産業は、かつてない規模の構造転換の渦中にあります。それは単なる電動化(EV化)への移行という技術的な課題にとどまらず、その心臓部である「モーター」と、それを構成する「磁石」のサプライチェーンを巡る、極めて政治的かつ軍事的な色彩を帯びた攻防です。

かつて2010年の「レアアースショック」において、世界は中国による資源供給の遮断というリスクに震え上がりました。しかし、2023年末から2025年にかけて顕在化した危機は、当時とは質が異なります。中国政府が打ち出したのは、資源そのものの輸出管理に加え、レアアースを高性能磁石へと昇華させる「製造技術」そのものの輸出禁止措置でした1。これは、西側諸国がいくら鉱山を開発しようとも、それを高付加価値な製品に加工する手足を縛ることを意味し、日本の自動車産業にとって極めて深刻な「技術封鎖」の時代が到来したことを示唆しています。

本報告書では、こうした地政学的緊張の高まりを背景に、日本および欧米の企業がいかにしてこの「中国依存」からの脱却を図っているのか、その最前線を詳述します。特に、日本のプロテリアルやデンソーによる革新的な磁石材料の開発、米国Niron Magneticsによる完全レアアースフリー磁石の量産化、そして日産やホンダが進めるモーター構造そのものの変革など、多層的なアプローチを網羅的に分析します。また、資源供給源として注目されるオーストラリアとトルコの現状についても、地質学的・技術的な観点からその真価を問い直します。

ビジネスパーソンの皆様には、本報告書を通じて、単なる「代替品の探索」ではない、より強靭で戦略的なサプライチェーン構築のためのビジョンを共有できれば幸いです。

2. 中国による「技術輸出規制」の深層とサプライチェーンへの衝撃

2.1. 「カタログ改訂」が意味するもの

2023年12月、中国商務省は「中国輸出禁止・輸出制限技術カタログ」を改定し、レアアースの抽出・分離技術に加え、ネオジム鉄ボロン(NdFeB)磁石などの高性能磁石の製造技術を輸出禁止項目に追加しました2。さらに2024年から2025年にかけて、その規制範囲はサマリウムコバルト磁石や、特定の重希土類加工プロセスにまで拡大されています1

この規制強化が持つ意味は甚大です。これまで日本や欧米の企業は、コスト競争力の高い中国国内で磁石の素形材を製造し、それを輸入して加工・着磁するという分業体制を採ることが一般的でした。しかし、製造技術そのものが禁輸対象となったことで、中国国外に新たな生産拠点を建設する際、中国製の最新鋭製造装置やプロセスノウハウを持ち出すことが不可能になりました。これにより、西側諸国は自力で、あるいは同盟国間での技術供与のみで、ゼロから効率的な磁石サプライチェーンを再構築しなければならないという、時間とコストの壁に直面しています5

2.2. 「外国直接産品ルール(FDPR)」の影

さらに懸念されるのは、中国版「外国直接産品ルール(FDPR)」の適用可能性です。これは、中国由来の技術や微量な材料が含まれている製品であれば、たとえ中国国外で製造されたものであっても、その輸出を管理できるとする概念です1。

2025年10月には、中国商務省がレアアース関連製品のサプライチェーン追跡を強化する通知を出しており、中国産の重希土類(ジスプロシウムやテルビウム)を0.1%でも含む製品や、中国の分離技術を用いて精製された鉱石を使用する磁石メーカーに対し、輸出ライセンスの取得を義務付ける動きを見せています1。

この措置により、日本の自動車メーカーやティア1サプライヤーは、自社のサプライチェーンの最上流まで遡り、「どの鉱山で掘られ、どの技術で精製されたか」を完全に把握し、証明責任を負う必要に迫られています。これは調達コストの上昇のみならず、コンプライアンスリスクの増大を招き、従来の「安ければ買う」という調達モデルの終焉を告げるものです。

規制対象カテゴリー 具体的な規制内容(2025年時点) 自動車産業への影響
抽出・分離技術 イオン吸着鉱からの希土類抽出技術の輸出禁止 中国外での重希土類(Dy/Tb)精錬プラント建設の遅延・高コスト化
磁石製造技術 高性能NdFeB磁石、SmCo磁石の製造プロセス・設備の輸出禁止 欧米やASEANでの磁石工場新設時に、中国製高効率設備の導入が不可に
加工・合金化 特定の希土類合金化技術の制限 EVモーター用磁石の保磁力向上に必要な添加剤技術の囲い込み

3. 日本企業の反撃:素材技術による「ブレイクスルー」の現在地

中国による技術封鎖に対抗するため、日本の素材メーカーは「資源を使わない」「使用量を減らす」という技術的解決策において、世界をリードする成果を上げています。ここでは、プロテリアル、デンソー、東芝といった主要プレイヤーの2025年時点での到達点を詳述します。

3.1. プロテリアル(旧:日立金属):フェライトとネオジムの二刀流

株式会社プロテリアルは、レアアース磁石のパイオニアとしての地位を活かし、現実的かつ即効性のあるソリューションを展開しています。

【技術1:高性能フェライト磁石(NMF15)】

フェライト磁石は、主成分が酸化鉄であり、レアアースを一切使用しません。従来は磁力が弱く、EVの駆動モーターには不向きとされてきましたが、プロテリアルは世界最高レベルの磁気特性を持つ「NMF15」を開発し、実用化に成功しています8。

2025年現在、この高性能フェライト磁石は、普及価格帯のBEV(電気自動車)やHEV(ハイブリッド車)の駆動用モーターとして、一部の車種で採用が始まっています。同社は、磁石の配置を最適化するローター設計技術と組み合わせることで、従来のネオジム磁石モーターに近い出力を、大幅な低コストで実現する提案を行っており、資源リスクを回避したい自動車メーカーからの引き合いが急増しています9。

【技術2:重希土類フリー・ネオジム磁石】

一方、ハイエンドEV向けには、ネオジム磁石の進化形である「重希土類フリー」技術を確立しました。従来、高温環境下での減磁を防ぐために必須とされていた重希土類(ジスプロシウム、テルビウム)を使用せず、独自の結晶組織制御技術(M拡散技術の改良版等)を用いることで、高い耐熱性と保磁力を実現しています10。

2025年7月には、EV駆動モーター用として、重希土類を完全に使用しないネオジム焼結磁石の量産化技術を確立したと発表しており、中国が支配する重希土類供給網に依存しない高性能磁石の供給が可能となりました10。

3.2. デンソー:宇宙の構造を再現する「鉄ニッケル超格子磁石」

株式会社デンソーが開発を進める「鉄ニッケル(Fe-Ni)超格子磁石」は、レアアースを全く使わずに、ネオジム磁石に匹敵する性能を目指すという、野心的なプロジェクトです。

【技術の核心】

この磁石は、鉄とニッケルというありふれた金属を使用しますが、その原子配列を「L10型規則合金」と呼ばれる特殊な秩序構造(超格子構造)に組み上げます。自然界では、数十億年かけて冷却された隕石の中にしか存在しないとされるこの構造を、デンソーは東北大学などとの連携により、人工的に短時間で合成するプロセスを開発しました11。

【2025年の進捗】

2025年時点での報告では、デンソーのFe-Ni磁石は、ネオジム磁石と同等以上の磁気特性(高い飽和磁化)を示すデータが得られており、保磁力に関しても実用レベル(87.5 kA/m以上、規則度0.4以上)に達しつつあることが示されています11。

現在は、実験室レベルでの成功から、自動車部品としての信頼性を担保するための量産プロセスの確立フェーズに移行しており、数年以内の実用化を目指して開発が加速しています。これが実用化されれば、資源コストと地政学リスクを同時に解消する「ゲームチェンジャー」となる可能性があります9。

4. 北米の「ムーンショット」:Niron Magneticsと完全脱レアアースへの挑戦

米国では、スタートアップ企業が政府や大手自動車メーカーの支援を受け、ディープテックによる素材革命を推進しています。その筆頭が、ミネソタ州に拠点を置く Niron Magnetics です。

4.1. 「窒化鉄(Fe16N2)」の実用化

Niron社が開発する「Clean Earth Magnet®」は、鉄と窒素からなる「窒化鉄(Fe16N2)」をベースとしています。この物質は理論上、現在最強とされるネオジム磁石をも上回る磁束密度を持つことが知られていましたが、熱的に不安定で分解しやすいため、長らく「幻の磁石」とされてきました14。

Niron社は、ナノ粒子技術を用いることでこの熱安定性の問題を克服し、世界で初めて窒化鉄磁石の商業化に道筋をつけました15。

4.2. 2025年の量産化に向けた動き

2025年、Niron社はミネソタ州Sartellに、190,000平方フィート(約17,600平方メートル)の大規模な量産工場の建設を開始しました15。この工場は2027年の稼働開始を予定しており、年間1,500トンの磁石生産能力を持つ計画です。

このプロジェクトには、ミネソタ州政府からの1,000万ドルの助成金(Minnesota Forward Fund)に加え、GM(ゼネラルモーターズ)、Stellantis、Volvo Carsといった欧米の主要自動車メーカーが出資・提携を行っています8。

特にGMとは、EV用モーターへの搭載を見据えた共同開発が進んでおり、従来の希土類磁石と比較して、原材料コストを大幅に削減しつつ、環境負荷を低減できる点が評価されています。米国の戦略として、中国の特許網やサプライチェーンに抵触しない独自の磁石技術を確立することは、経済安全保障上の最重要課題であり、Niron社への期待は極めて大きいと言えます。

5. 資源供給の「地質学的」多角化:豪州の安定とトルコの未知数

技術的な代替手段と並行して、不可欠なのが「非中国圏」での資源確保です。ここでは、日本の長年のパートナーであるオーストラリアと、新たな供給源として浮上したトルコの実情を分析します。

5.1. オーストラリア:日本の生命線としてのLynasとJOGMEC

オーストラリアは、日本にとって唯一無二の「安定したレアアース供給基地」です。特に Lynas Rare Earths(ライナス) との関係は、日本の官民が一体となって築き上げてきた成果と言えます。

  • 重希土類サプライチェーンの開通: 双日は2011年からLynasの軽希土類を日本に輸入してきましたが、特筆すべきは2025年に開始された「重希土類(ジスプロシウム、テルビウム)」の輸入です18。これは、Lynasが西オーストラリア州のMt. Weld鉱山で採掘した鉱石を、マレーシアの工場で分離・精製し、日本へ供給するというルートであり、中国を経由しない重希土類の商用サプライチェーンとしては世界初に近い事例です19

  • JOGMECの継続的支援: 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、Lynasに対し2億豪ドル規模の追加出資と技術支援を行い、2025年以降の探査・増産計画(Lynas 2025 growth plan)を強力に後押ししています20

  • 日米豪の連携: 2025年10月には、日米両政府が重要鉱物のサプライチェーン強化に関する新たな枠組みを発表し、豪州を含む同盟国間での資源融通と備蓄の相互補完を確認しました。これにより、有事の際の供給途絶リスクは大幅に低減されています21

5.2. トルコ:ベイリコヴァ(Beylikova)鉱床の「虚」と「実」

近年、トルコ中部のエスキシェヒル県ベイリコヴァで発見されたレアアース鉱床が、「世界第2位の埋蔵量」としてセンセーショナルに報じられました。しかし、ビジネスインテリジェンスとしては、その数字の裏にある実態を冷静に見極める必要があります。

【埋蔵量と品位の現実】

トルコ政府は「6億9400万トンの鉱石埋蔵量」と発表していますが、これはあくまで「鉱石(土砂を含む岩石)」の総量です。専門家の分析によれば、実際に抽出可能なレアアース酸化物(REO)に換算すると約1,250万トン程度と推計されています22。これは依然として世界有数の規模(中国のバイユンオボ鉱床に次ぐ規模の可能性)ではありますが、平均品位(濃度)は1〜4%程度であり、採掘・精錬コストが見合うかどうかは慎重な評価が必要です24。

【技術的・政治的障壁】

最大の問題は、この鉱床がトリウム(放射性物質)を含んでいる点です。レアアースの分離・精製過程でトリウムを安全に除去・処理するには高度な技術と厳格な環境管理が必要ですが、トルコ国内には商業規模での分離プラントが未完成です25。

また、トルコ政府は当初、中国との技術提携を模索しましたが、中国側が技術移転を拒否したため交渉が難航しました。その結果、現在は米国との共同開発に舵を切っていますが、本格的な生産開始までにはまだ時間を要すると見られます26。

現時点(2025年)ではパイロットプラントが稼働している段階であり、日本の自動車メーカーが即座に依存できる供給源となるには、まだ数年のリードタイムが必要でしょう28。

6. モーター構造の「システム革新」:磁石に頼らない選択肢

磁石そのものを代替するだけでなく、そもそも「磁石を使わないモーター」へのシフトも、欧州勢や日産を中心に進んでいます。

6.1. EESM(巻線界磁式同期モーター)の復権

永久磁石同期モーター(PMSM)が主流の現在において、あえて磁石を使わない「EESM」が見直されています。これは、ローター(回転子)に永久磁石を埋め込む代わりに、銅線を巻いて電流を流し、電磁石とする方式です。

  • 日産自動車の戦略: 日産はEV「アリア」においてEESMを採用しています。EESMはレアアースを使わないだけでなく、高速巡航時に磁力を制御(弱め界磁制御)することで、PMSMよりも効率よく走行できるというメリットがあります。日産の「Ambition 2030」戦略においても、レアアース依存度の低減とEESMの技術革新は中核的な位置を占めています29

  • 欧州勢(Renault / Valeo / ZF): ルノーはヴァレオと共同で、次世代のEESM開発を進めています。2027年には、レアアースフリーかつカーボンフットプリントを30%削減した、200kW級の高出力EESM(E7Aモーター)の量産を開始する計画です30。また、ドイツのZFは、EESMの弱点であった「ブラシの摩耗」や「粉塵」の問題を解消するため、ローターへの電力供給を非接触(誘導)で行う「I2SM(In-Rotor Inductive-Excited Synchronous Motor)」技術を開発し、磁石レスモーターのコンパクト化とメンテナンスフリー化を実現しました32

6.2. ホンダの独自路線:SRMへの投資

ホンダは、さらに構造が単純な「スイッチトリラクタンスモーター(SRM)」に注目しています。SRMは、ローターに磁石も巻線も使わず、鉄の塊(突極)だけを使用する究極のレアアースフリーモーターですが、振動や騒音が大きいという課題がありました。

ホンダは、カナダのスタートアップ Enedym に投資を行い、独自の制御技術と設計によってSRMの静音化と高性能化を実現しようとしています34。これは、将来の小型モビリティや特定の用途において、低コストかつ堅牢な駆動システムとしての採用が期待されています。

6.3. 日立Astemoのインホイールモーター

日立Astemoは、フェライト磁石を用いたモーターや、さらに進化した「インホイールモーター」の開発を加速しています。特に、油冷システムと組み合わせることで、フェライト磁石の弱点である減磁や出力不足を補い、小型EV向けに現実的なソリューションを提供しています36

7. 結論:日本の自動車産業への戦略的提言 ---- 「3つの分散」による強靭化

2025年の地平において、日本の自動車産業が持つべきビジョンは、もはや「中国以外の鉱山を探す」という単純なものではありません。「資源」「素材」「構造」の3つのレイヤーでリスクを分散し、中国の技術封鎖を無効化する多層的なエコシステムを構築することこそが求められます。

提言1:調達地の分散(マルチ・ソース)

豪州(Lynas)との関係維持・強化は最優先事項ですが、それだけに依存するのもリスクです。北米(MP Materials)や欧州(Neo Performance Materials)といった西側諸国のサプライチェーンとの接続を強化し、調達ルートを複線化する必要があります。トルコに関しては、即戦力として期待するのではなく、日本の精錬技術をテコにした長期的パートナーシップ(技術と資源のバーター)を模索すべきです。

提言2:材料の分散(マルチ・マテリアル)

全車種に最高級のネオジム磁石を使う時代は終わりました。

  • 普及車・商用車: プロテリアル等の「高性能フェライト磁石」や、Niron等の「窒化鉄磁石」を積極採用し、コストと資源リスクを低減する。

  • 高性能車: 依然としてネオジム磁石が必要な領域では、重希土類フリー技術や、デンソーのFe-Ni超格子磁石の実用化を急ぐ。

提言3:構造の分散(マルチ・アーキテクチャ)

モーター設計の多様化は、そのままリスクヘッジになります。日産や欧州勢のように、用途(特に高速巡航が多い欧米市場向け)に応じてEESMをポートフォリオに組み込むことは、レアアース価格の乱高下に対する強力な保険となります。

米国が「喉から手が出るほど欲しい」のは、単なる磁石の代替品ではなく、**「中国のサプライチェーンを介さずに、自国および同盟国の技術だけで完結できる高性能モーターの製造能力」**です。

日本企業は、プロテリアルやデンソーといった世界最高峰の材料技術と、双日・JOGMECによる堅実な資源外交、そして日産・ホンダ・日立Astemoによる独創的なモーター技術という、極めて強力な手札を持っています。これらを統合し、戦略的に展開することで、日本は「脱・中国レアアース」競争において、単なるフォロワーではなく、ルールメーカーとしての地位を確立できるはずです。

補足データ:主なレアアース代替・削減技術比較 (2025年版)

以下の表は、本報告書で取り上げた主要技術の特性と実用化状況を整理したものです。

技術名称 主要開発企業・機関 特徴・メリット 課題・デメリット レアアース使用量 実用化状況 (2025時点)
高性能フェライト磁石 プロテリアル (日) 安価、資源無尽蔵、耐食性 ネオジムに比べ磁力が弱い、重量増 0 量産中 (普及価格帯EV、HEV向け)
省/重希土類フリーNdFeB プロテリアル, 信越化学 (日) 既存製造ライン活用可、高磁力維持 コストは依然高い、軽希土類は必要 削減 (Dy/Tbフリー) 量産中 (主力EV向け)
Fe-Ni超格子磁石 デンソー (日) ネオジム並みの高磁力、低コスト材料 量産プロセス(秩序化)の難易度が高い 0 開発段階 (実用化に向けたプロセス確立中)
窒化鉄 (Fe16N2) Niron Magnetics (米) 理論上最強の磁力、レアアース不要 熱安定性、製造難易度(ナノ技術必須) 0 2027年量産開始予定(MN州工場建設中)
EESM (巻線界磁モーター) 日産, Renault, Valeo, ZF 磁石不要、高速域効率良、レアアースゼロ ブラシ摩耗(I2SMで解決可)、大型化 0 量産中 (Ariya, Renault車など)
SRM (スイッチトリラクタンス) Enedym (加/Honda出資) 構造単純、堅牢、極めて安価 振動・騒音、トルクリップル制御 0 特定用途で実用化、EV向け開発加速

参照ソース一覧:2025年 脱・中国レアアース戦略

I. 規制・地政学リスク(中国の輸出管理)

II. 日本企業の技術革新(磁石・素材)

III. 北米・欧州の動向(レアアースフリー・モーター構造)

IV. 資源供給(オーストラリア・トルコ)

V. 自動車メーカーの戦略レポート

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