上司や会社が変わらない!と嘆くあなたへのアドバイス
「どうすれば、上司や経営者の考えや行動を変えさせることができるでしょうか?」
DXに関する講義や講演を行うと、こうした質問をいただくことがよくあります。
確かに、DXは単なるツール導入ではなく、デジタル前提の社会に適応するために会社そのものを作り変えることです。そのためには、従来のアナログ前提の組織や経営のあり方、そして上司の行動習慣を変えなくてはなりません。
しかし、もしあなたが「他人を変えよう」と苦闘しているのであれば、そこには少しボタンの掛け違いがあるかもしれません。
今回は、現状を打破するために必要な「3つの視点の転換」について、古人の知恵を借りながら考えてみたいと思います。
1. 「他人は変えられない」という真実
まず一つ目は、「他人は変えられる」という思い込みを手放すことです。
胸に手を当てて考えてみてください。あなたは他人から「変わりなさい」と命令されて、素直に自分を変えることができるでしょうか? おそらく、多くの人が「変わりたいとは思うけれど、他人には変えられたくない」と感じるはずです。経営者や上司も同じ人間です。
中国の古典『論語』に、孔子の次のような言葉があります。
「その身正しければ、令せずして行わる。その身正しからざれば、令すとも従わず」
(自分自身の行いが正しければ、命令しなくても人はついてくる。自分が正しくなければ、いくら命令しても人は従わない)
他人をどうこうしようと策を練る前に、まずは自分自身が変わり、行動で示すことです。
あなたの行動を見て「なるほど」と共感した人は、自然と動き始めます。その共感の輪が広がったとき、はじめてあなたが変えたいと願っていた人たちも、自発的に変わり始めるのです。
2. 「客」ではなく「主人」として振る舞う
二つ目は、「誰かが変えてくれる」という依存心を捨て、当事者としての自覚を持つことです。
「上司がわかってくれない」「会社が動かない」と嘆くとき、あなたは無意識のうちに自分を安全な外野に置き、組織を批判するだけの「評論家」や「客」になってはいないでしょうか。
しかし、あなたもまたその会社の社員であり、現状の組織を構成している当事者の一人です。
唐代の禅僧・臨済義玄の言葉を集めた『臨済録』に、次のような一節があります。
「随処(ずいしょ)に主(しゅ)となれば、立処(りっしょ)皆(みな)真(しん)なり」
(どのような場所、どのような状況であっても、周りに流されず自分が主体(主人)となって行動すれば、その場が真実の道となる)
組織の問題を他人のせいにするのは簡単です。しかし、それでは何も変わりません。
「会社が何をしてくれるか」を待つのではなく、「自分もこの会社の変革を担う当事者である」という覚悟を持つことです。上司の顔色を伺うのではなく、主体的に考え、自ら状況を切り拓こうとする姿勢。そうして「主人」として振る舞うあなたの姿こそが、周囲に影響を与え、組織を変える起点となるのです。
3. 「努力」よりも「楽しむ」ことの強さ
三つ目は、「頑張れば報われる」という精神論を見直すことです。
例えば、プロゲーマーの多くは「努力して」その地位に就いたわけではありません。ゲームが大好きで、夢中で没頭していたら、いつの間にか達人になっていたという人がほとんどです。
ITスキルの高い人も同様です。勉強だと思って取り組んでいるのではなく、知ることが楽しいから、四六時中情報を追いかけているのです。
これもまた、『論語』に本質を突いた言葉があります。
「これを知る者はこれを好む者に如(し)かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」
(ある事を知っているだけの人は、それを好きな人にはかなわない。それを好きな人は、それを楽しんでいる人にはかなわない)
「会社を良くしなければ」という義務感で眉間に皺を寄せて「頑張る」よりも、自分の仕事に成長の機会を見出し、それを「楽しむ」ことの方がはるかに重要です。
自分が楽しみ、幸せそうに働いている人の周りには、自然と人が集まり、共感が生まれます。
世界を変えたいなら、まずは自分から
ロシアの文豪トルストイは、こう言いました。
「誰もが世界を変えたいと思うが、誰も自分自身を変えようとは思わない」
「上司が変わらなければ会社は変わらない」と嘆くのは、今日で終わりにしませんか。
他人の行動を変えようとする報われない努力にエネルギーを費やすのではなく、自分の行動を変えることを楽しんでみてください。
最初は孤独かもしれません。会社から評価されず、針のむしろに座るような思いをするかもしれません。しかし、成功も失敗も正直に発信し、楽しみながら行動を続けていれば、必ず共感者が現れます。
仲間が増え、その熱量が一定を超えたとき、初めて組織は変わります。
上司や経営者の考えを変えることができるのは、言葉巧みな説得ではなく、変化を恐れず楽しみながら成長し続ける、あなたの「後ろ姿」だけなのです。