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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

豊田自動織機、フォークリフトが物流現場の主役AIになる日:NVIDIAフィジカルAI大全集(第4回)

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インフラコモンズ代表の今泉です。

NVIDIA CEOジェンセン・フアンが今年のCES2025の基調講演で、世界で初めて「フィジカルAI」の概念を提唱してからまだ1年弱。

調査報告書:NVIDIA CEOジェンセン・フアンの50兆ドル規模「フィジカルAI市場」が製造業に与えるインパクト(noteの弊ブログ)

フィジカルAIが具体的にどのようなものとして具現化するか、日本を含めて世界の産業人はほとんど知りません。ヒューマノイドなどのロボットも高度な自律性を備えればそれはフィジカルAIであると言えますし、中国でも「具身智脳」(Embodied AI)と言っています。

しかしジェンセン・フアンが見据えている「50兆ドル市場」は、「動いて意味のある『機械』が全て感覚器官を持ち、脳を持つ...」というメカニカル系製造業全体がAI化へ邁進する世界です。それだから「50兆ドル」という途方もない数字になるのです。

そのフィジカルAI、まだまだ形になっていませんから、一種の思考実験として、現存するメーカーさんの主要な製品を例に取り、NVIDIAの最新AIエッジコンピュータ Jetson Thorを組み合わせると何が起こるか?を優秀なAIであるChatGPT 5.1に分析させます。

この回では豊田自動織機が誇るフォークリフトがフィジカルAIになるとどうなるか?を述べます。

豊田自動織機:フォークリフトが"考えて動く"現場知能へ進化する

豊田自動織機は世界最大のフォークリフトメーカーであり、同時にトヨタグループの「生産・物流の神経中枢」とも言える存在です。
同社はこれまで、電動化・自動搬送・群制御を通じて「物流現場の自動化」を推進してきましたが、
NVIDIAのJetson AGX Thor(以下、Jetson Thor)の登場によって、
その次のステージ――「知能化物流」=フィジカルAI物流が現実のものとなろうとしています。

1. 現在の自動搬送の限界:シナリオ依存の「自動」止まり

現在のAGV/自動フォークリフトは、あらかじめ設定されたルートとルールに従って動きます。
しかし、現場では以下のような「予期せぬ変化」が頻発します。

  • 通路上にパレットがはみ出して置かれている

  • 作業者や他車両が突発的に進路に割り込む

  • 梱包サイズや形状がロットごとに微妙に違う

  • 一時的な床の反射や照度変化でセンサー誤検知

これらはAIの「推論」ではなく、ルールの「例外処理」で対応する仕組みが多く、
結果として「止まる」「人が解除する」「再スタートする」という非効率が発生していました。
Jetson Thorの登場は、この"停止する自動化"を"判断する自動化"へと変える転換点になります。

2. Jetson Thorがもたらす現場の3つの変化

Jetson Thorは、サーバークラスのAI演算性能を産業機器内部に搭載できる新世代エッジプラットフォームです。
豊田自動織機のフォークリフトに搭載された場合、現場は次のように変わります。

(1)視覚・言語・動作を融合した「判断するフォークリフト」

Jetson Thorが実行できるVision-Language-Action(VLA)モデルにより、
フォークリフトは人間が与えた指示や状況を"意味的に理解"して行動できるようになります。

たとえば:

  • 作業員が「Aラインのパレットを先に運んで」と指示 → 自然言語処理で理解

  • 視覚認識でAライン・パレット・通路混雑を解析 → 経路を即時再計算

  • 動作制御AIが荷重・バランス・速度を調整して最適動作

これらをクラウドではなくフォークリフト内部のJetson Thorが即時処理するため、
通信遅延なしに現場で自律判断が行われます。

(2)"周囲と協働する"群制御(Swarm Logistics)

豊田自動織機はすでに群制御AGVシステムを展開しています。
Jetson Thorを搭載することで、ローカル通信による分散推論が可能となり、
以下のような"協働型物流AI"が現場で実現します。

  • 各フォークリフトが周囲の状況を共有し、最適な搬送順序を自己決定

  • 渋滞やボトルネックを検知して、経路を動的に再配分

  • 混在する人・AGV・フォークリフト間で安全距離をAIが調整

これは、工場物流における「スワーム・オペレーション(群知能搬送)」の第一歩です。

(3)Sim2Realによる"実機学習"が短縮

NVIDIA Isaac Simとの連携により、フォークリフトの動作学習を仮想空間で再現・最適化し、
Jetson Thor搭載機に即座に反映できるようになります。
この仕組みによって――

  • 「荷物サイズ・重心の異なる持ち上げ方」

  • 「傾斜路・段差での安定制御」
    といった複雑動作のチューニングをシミュレーションで事前完了できるようになります。

結果として、学習コスト・現場調整時間を大幅に削減し、
物流現場への新モデル導入が格段に速くなります。

3. フィジカルAIがもたらす"現場知能"の構図

Jetson Thorによってフォークリフトは単なる運搬機ではなく、
センサーと意思決定を備えた"知能ノード"として機能するようになります。

ローカル知能層

現場の各フォークリフトが、カメラ・LIDAR・音響・加速度センサーから入力を受け、
Jetson Thorで「安全・効率・優先度」をリアルタイム推論。

統合知能層

複数のフォークリフトが5G/Wi-Fi 6Eネットワークで接続され、
倉庫管理システム(WMS)やトヨタ自動織機の「T-HIVE」クラウドに逐次学習データを共有。

経営知能層

クラウド上で「工程別AI分析」や「経路最適AI」が再学習され、
再びJetson Thorに更新される――Sim2Real-Real2Simの連携ループが構築されます。

4. 日本の物流・製造業に与えるインパクト

領域 Jetson Thor導入によるインパクト
倉庫オペレーション ピッキングと搬送を完全自律化、ライン変更即対応
製造ライン供給 生産計画変動に合わせてフォークリフトが自己最適経路を計算
安全・監査対応 AI推論による自動記録・接触リスク予測・再発防止分析
労働力不足対応 オペレータが「教示」ではなく「監督」に役割転換

これにより、人材不足でも生産性を落とさない知能型物流モデルが日本国内で実現可能になります。

5. トヨタグループ全体への波及

豊田自動織機がJetson Thorを導入すれば、その成果はトヨタグループ全体のサプライチェーンに波及します。
組立ラインでの自動搬送車、完成車出荷ヤードの物流、さらにはトヨタ自動車のWoven City実証都市まで、
「ロボット×AI×リアルタイム推論」の構図が貫かれるでしょう。

特にWoven Cityでは、
フォークリフト・自律配送車・建設ロボットが同一基盤(Isaac Sim/Omniverse)で連携する可能性が高く、Jetson Thorは"現場で動くAIの分散型基盤"として機能します。

6. まとめ:フォークリフトが「現場の意思決定者」になる時代

フォークリフトが単なる"運搬機械"だった時代は終わりつつあります。
Jetson Thorの導入により、豊田自動織機のフォークリフトは――

自ら環境を理解し、タスクを最適化し、人と協働しながら安全に動く。

というフィジカルAIロボットへと進化します。

その知能は倉庫の隅々まで浸透し、
やがて"現場そのものが意思決定する"――そんな世界が現実になろうとしています。


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「フィジカルAI」という言葉は2025年1月のコンシューマエレクトロニクスショー(ラスベガスのCES2025)におけるNVIDIA CEOジェンセン・フアンの基調講演をきっかけに世の中に広まり始めました。このセミナーでは時価総額でも世界有数の企業になったNVIDIAのCEOによるフィジカルAIの定義を基礎として、先ごろ発売されたロボット用エッジコンピュータJetson Thorによって初めて明確になった「日本の製造業が開発販売できるフィジカルAI」の全体像をご説明します。自律的なロボット、ドローン、農業機械、建設機械、検査保全ロボットなど、具体的な応用形は様々あり、日本の製造業にとって新しい時代が来ることを予感させます。

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1.イントロダクション:AIの進化の三段階

 ・知覚AI → 生成AI → フィジカルAI

 ・ジェンセン・フアンのフィジカルAIの定義は「知覚し、推論し、計画し、行動するAI」

  (AI which Perceive, Reason, Plan, and Act)

2.技術解説:ジェンセン・フアンの定義を技術的に翻訳すると...

 ・センサー&センサーフュージョン

 ・Vision-Language-Action (VLA) モデル

 ・リアルタイム推論とオンボード処理

 ・簡素化される学習プロセス:事前学習+現場適応

3.日本の製造業が開発に使えるツール:Jetson ThorとNVIDIAスタック

 ・Jetson Thorの特徴(オフライン/オンボードで動作、高度なリーゾニング、センサーフュージョンとの接続、

  ChatGPT的なLLMを搭載し人間の言葉による指示ができる等)

 ・Omniverse、Isaac SimなどNVIDIAスタックとの連携により高速開発ができる

4.ユースケース

 ・ヒト型ロボット//四足歩行ロボット

 ・自律走行ドローン

 ・農業機械(自律トラクター、収穫ロボット)

 ・物流倉庫ロボット

 ・建設機械(自律重機、搬送ロボット)

 ・外観検査ロボット

 ・サービスロボット

5.まとめと質疑

 ・「日本企業が参入すべき領域」

 ・「部品メーカーのビジネス機会」

 ・Q&A

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