経営者がCES2026に行くべき理由【モビリティ編】―ホンダの出展スタイルからインサイトを得る
経営者の方に【CESを生で見る意味】をご説明する投稿として、これまで以下の3本を上げました。今回はもっと「展示の中身」に迫って、「経営者がCES2026に行かなければいけない理由」を記してみます。
【経営者のためのCES2026案内】サムスンがCESで5年間、緻密に行ってきたブランド戦略を分析。(2025/9/26)(note版)
【経営者のためのCES2026案内】社長が英語で世界最大のテック見本市CESで語る意味(2025/9/18)
【経営者のためのCES2026案内】そもそもCES(家電見本市)とは何か?(2025/9/17)(note版)
経営者がCES2026に行くべき理由【モビリティ編】
――ホンダの出展スタイルからインサイトを得る
ラスベガスで行われたCES 2025。
この場でホンダが発表したのは、新しいEVアーキテクチャ「Honda 0(ゼロ)シリーズ」でした。
展示されたのは、フラッグシップの Honda 0 Saloon と、量販を想定した Honda 0 SUV。
しかし注目すべきは、単なる車両の完成度ではなく、「CESという舞台の使い方」そのものにあります。
モーターショーではなく、テクノロジーショーで語る
ホンダがあえてモーターショーではなく、CESを選んだ理由。
それは「EVをハードの進化ではなく、ソフトウェア産業の文脈で語る」ためです。
0シリーズには、ホンダ独自の車両OS「ASIMO OS」が搭載され、OTAアップデートによる機能拡張が可能になっています。
AIがドライバーの好みや運転傾向を学び、常に進化するソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)としての姿を示しました。
同時に、ホンダが世界初のレベル3自動運転を"量産化の現実"として打ち出したことは、
「安全基準」「規制」「責任」という経営課題を、ど真ん中に据える動きでもあります。
つまり、ホンダはCESというテック業界の祭典を、自動車を超えた「知性産業」としての再定義の場に変えたのです。
コンセプトからプロトタイプへ──12か月のスピード感
前年のCES 2024でホンダは、Saloon(セダン)とSpace-Hub(多目的MPV)という2つのコンセプトモデルを披露していました。
そしてわずか12か月後のCES 2025では、それを量産に近いプロトタイプへと進化させて見せたのです。
このサイクルの短さこそ、経営スピードの象徴です。
市場からの期待を受け止め、開発現場に圧縮したスケジュールで応える。
それが「Thin, Light, and Wise(薄く、軽く、賢く)」という開発哲学に直結しています。
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Thin:低床で空力効率を最大化したプラットフォーム設計
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Light:モーターとインバーターを一体化した軽量e-Axle
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Wise:ASIMO OSによる知能化と進化型UX
経営者がCESを見る価値は、こうした「プロトタイプのスピードと完成度」を現場で肌で感じ取ることにあります。
PowerPointの資料ではなく、"動くビジョン"を持つ企業がどう市場を牽引しているかを、その目で確かめるためにラスベガスのCES2026に行く必要があるのです。
CES2025でHonda 0 Saloonを展示していたホンダのレポートをしているYouTube動画。20 Coolest Tech at CES 2025。ホンダのレポートは17:00頃から。
"Wise"の真意──AIと自動運転の融合
ホンダの0シリーズは、「賢く進化する車」というコンセプトを、単なるスローガンではなく、明確な技術構造として提示しました。
ASIMO OSは、数百万台のハイブリッド車から収集した走行データを基盤に、AIによる最適制御とユーザー行動の学習を実装します。
自動運転の展開も段階的です。
まずは高速道路渋滞時のEyes-Off(視線オフ)から始まり、OTAによって利用領域を拡大。
段階的に「どこまで人間の操作をAIに任せられるか」という限界を押し上げていきます。
経営的に見れば、これは法規制との協調的イノベーション。
リスクを最小化しながら市場データを蓄積し、規制対応と技術進化を同時に進める戦略です。
参考投稿:
【自動運転】やっとわかった!レベル2 / 2+ / 3 / 4 の違いと代表的な車種の例
経営者が得るべき視点:CESは「業界のルールが変わる場所」
ホンダの展示は、EVそのものではなく、経営の新しい文法を示していました。
製品を完成させてから市場に出すのではなく、「技術の方向性」そのものを公開し、対話を通じて市場を形づくる。
CESとは、まさにその「対話の舞台」です。
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コンセプトで未来を宣言する(2024年)
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プロトタイプで実現可能性を証明する(2025年)
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市場投入の準備を投資家と共有する(2026年)
この3年スパンの展示サイクルは、未来を先に語り、そこに向かって経営資源を集める「見せる経営」の最良の実例です。
経営者への提案:CESは"製品"ではなく"未来"を見に行く場
CESに行く経営者が得られる最大の価値は、「現在の競争」を見ることではありません。
そこに集う企業が、どの未来を共有しているのかを読むことです。
ホンダがCESで示したのは、
「自動車とは何か?」ではなく、
「モビリティがどこへ向かうのか?」という問いそのもの。
CESは、製品展示の場ではなく、産業構造が更新される瞬間を体感する場なのです。
2026年、あなたがそこに立つとき、見えるのは新しい車ではなく、新しい経営の速度でしょう。