なぜゲーム用画像ボードを作る会社だったNVIDIAが巨額の「AI市場」の中心にいるのか?
NVIDIAの名前を初めて見たのは、自作PCをやっていた頃です。私はゲームをやらないので高性能の画像処理ボードは必要ないのですが、それでも何台か作った自作PCには画像処理ボードを買って装着した記憶があります。画像処理ボードと言えばNVIDIAと決まっていましたから、たぶんNVIDIAを買っていたと思います。秋葉原の自作PCパーツ屋にも時々行ったりしていましたが、多くは自作PCに強い通販のショップで買っていました。2000年代から2010年代にかけてです。
あの時期のNVIDIAは確かに画像処理ボード(GPU)屋でした。それが今はAIワールドの中心にいて、GTC(NVIDIAの世界開発者会議)の基調講演ではジェンセン・フアンが時代の中心にいる存在として、非常に重みのある発言をしています。
以下ではNVIDIAがなぜAIの中心に立つことができたのかを歴史的にざっくりと見てみます。
市場が何もなかった時代、ジェンセン・フアンはCUDA搭載を決断
NVIDIAの大転換点は、いまから19年前の2006年に始まります。
当時のNVIDIAは、ゲーム向けグラフィックボードを作るメーカーでした。いわば「ゲーマーのための会社」であり、AIとは全く無関係です。
そんな中で、ジェンスン・フアンCEOは驚くべき決断をします。
"GPUを画像処理だけでなく、汎用計算に使えるようにする"
つまり、"ゲーム以外の用途"に賭ける
これが CUDA(クーダ) という技術です。
しかしこの決断は、誰にも理解されませんでした。
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ゲーマー:
「科学計算なんていらない。値段が上がるだけだ」 -
投資家:
「需要のない機能にチップ面積を割くのは愚策だ」 -
アナリスト:
「市場規模はゼロ。利益を削るだけ」
実際、2006〜2011年ごろまで、CUDAはほとんど使われません。
どれほど高度な技術でも、使う人がいなければ価値はゼロです。
ジェンスンが賭けたのは、誰も存在を知らない「未来の市場」でした。
この時点でのビジネス的価値は、まさに "ゼロ億ドル市場" に過ぎません。
2012年:AIが突然「GPUの正体」に気づいた日(AlexNet)
転機は2012年。
画像認識コンテスト「ILSVRC」で、トロント大学のチームが歴史的な勝利を収めます。
モデル名は AlexNet。
このAIは、世界中を震撼させました。
なぜなら圧倒的な正確性で他チームを置き去りにしたからです。
しかし、それ以上に衝撃だったのが その裏側 です。
使われたのは、秋葉原やベストバイで売っていた"ゲーム用グラフィックボード(GTX 580)"だった。
AI研究者たちは気づきました。
「GPUは"大量の掛け算"が異常に速い。
AIの学習にぴったりではないか。」
AIの学習は、「膨大な量の掛け算をひたすら繰り返す」作業です。
ゲームでも、ピクセルの描画のために同じような大量計算を行います。
つまり、ゲームGPUの本質は"物量戦に強い計算マシン"だった。
AIの研究者たちは、これまで高価なスーパーコンピュータを使っていた処理を、
家庭用のGPUで代替できることに気づき、一斉に飛びつきました。
ここから、世界中の研究所・大学でNVIDIAのGPU争奪戦が始まります。
なぜNVIDIAが勝ち残ったのか?--「エコシステムの城壁」CUDA
2012年以降、GoogleやIntel、AMDなど多くの企業がAI向けチップに参入しました。
しかし、誰もNVIDIAを超えられませんでした。
理由は性能だけではありません。もっと大きな要因が存在します。
それが CUDAという城壁 です。
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世界中のAI研究者が、CUDAベースのプログラムを書いた
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深層学習フレームワーク(PyTorchやTensorFlow)もCUDA依存で進化した
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研究コミュニティのノウハウがCUDA前提で積み上がった
結果として、
「他社チップに乗り換えるには、すべてのコードを書き直す必要がある」
という状態を、NVIDIAは10年以上かけて築き上げました。
これは単なる技術ではなく、
巨大な"参入障壁=Moat" です。
(今泉注:Moatとは、"投資の神様"であるウォーレン・バフェットが投資先を決める際に見る最重要ポイント。解説はこちらの投稿を。ウォーレン・バフェットがAppleを評価する最大のポイント"Economic moats"(経済的な堀)を理解するための英文プロンプト )
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NVIDIAが示したフィジカルAIの衝撃
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[講義内容]
「フィジカルAI」という言葉は2025年1月のコンシューマエレクトロニクスショー(ラスベガスのCES2025)におけるNVIDIA CEOジェンセン・フアンの基調講演をきっかけに世の中に広まり始めました。このセミナーでは時価総額でも世界有数の企業になったNVIDIAのCEOによるフィジカルAIの定義を基礎として、先ごろ発売されたロボット用エッジコンピュータJetson Thorによって初めて明確になった「日本の製造業が開発販売できるフィジカルAI」の全体像をご説明します。自律的なロボット、ドローン、農業機械、建設機械、検査保全ロボットなど、具体的な応用形は様々あり、日本の製造業にとって新しい時代が来ることを予感させます。
1.イントロダクション:AIの進化の三段階
・知覚AI → 生成AI → フィジカルAI
・ジェンセン・フアンのフィジカルAIの定義は「知覚し、推論し、計画し、行動するAI」
(AI which Perceive, Reason, Plan, and Act)
2.技術解説:ジェンセン・フアンの定義を技術的に翻訳すると...
・センサー&センサーフュージョン
・Vision-Language-Action (VLA) モデル
・リアルタイム推論とオンボード処理
・簡素化される学習プロセス:事前学習+現場適応
3.日本の製造業が開発に使えるツール:Jetson ThorとNVIDIAスタック
・Jetson Thorの特徴(オフライン/オンボードで動作、高度なリーゾニング、センサーフュージョンとの接続、
ChatGPT的なLLMを搭載し人間の言葉による指示ができる等)
・Omniverse、Isaac SimなどNVIDIAスタックとの連携により高速開発ができる
4.ユースケース
・ヒト型ロボット//四足歩行ロボット
・自律走行ドローン
・農業機械(自律トラクター、収穫ロボット)
・物流倉庫ロボット
・建設機械(自律重機、搬送ロボット)
・外観検査ロボット
・サービスロボット
5.まとめと質疑
・「日本企業が参入すべき領域」
・「部品メーカーのビジネス機会」
・Q&A