【AI活用海外市場調査】ウェスチングハウス原子炉案件は米AIデータセンターの電源対策:日米間の投資に関する共同ファクトシート
追記:初回に出した投稿の内容には事実誤認があったため、全面的に書き直しました。
昨日のトランプ大統領と高市首相の会談及びその前後の歓迎式典や横須賀基地訪問などのプログラムは大成功でした。日本の歴史に残る非常に輝かしい1ページになったと思います。
経済界にとっても、先の赤沢大臣の日米関税交渉によって決まった80兆円の対米投融資に加えて、AIや重要鉱物の大きな事業機会が明らかとなり、どの経営者も大きな関心を持って動向を見守っていると思います。
昨日明らかとなった「日米間の投資に関する共同ファクトシート」(経産省サイト)。これについて、まとめ的に記します。
また、ある程度の詳細がわかったウェスチングハウス原子炉案件については、判明した内容を下半分に記しました。
ファクトシートの米側原文について。これは米国の組織/企業でよくある、粒度の細かい事項も粒度の粗い事項もざっくりと一緒にして列挙した式の文書です。急いで作ったものでしょう。米人の特性として、日本人には考えられないことですが、カテゴリー的に同列に入れられないものを無理くり一つの枠に収めて列挙する...といったことがよくあります。従って行間を読み込むことが必要ですが、残念なことに行間がほとんどない文書となっています。
そこで日本側が事業の参考にするためにはその案件の固有名詞を拾って、英語資料を精査する式の調査を行います。下半分にあるウェスチングハウス案件のレポートはそのようにして作成したものです。
参考投稿:
【AI調査術】高市首相の「危機管理投資」日本最速のまとめ(2025/10/27)
日米間の投資に関する共同ファクトシート
セクション1.エネルギー
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Westinghouse
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AP1000原子炉およびSMR(Small Modular Reactors)の建設
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三菱重工業、東芝、IHI等の日本企業の関与を検討
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【最大 1000億ドル】
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GEベルノバ日立
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SMR(Small Modular Reactors)(BWRX-300)の建設
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日立GEベルノバ等の日本企業の関与を検討
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【最大 1000億ドル】
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ベクテル(Bechtel)
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発電所・変電所・送電システム等の大規模な電力/産業インフラに対するEPC(設計・調達・建設)やプロジェクト管理
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日本企業の関与を検討
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【最大 250億ドル】
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キーウィット(Kiewit)
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エンジニアリング、調達、建設サービス
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日本企業の関与を検討
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【最大 250億ドル】
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GEベルノバ
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ガスタービン、蒸気タービン、発電機など大型電力機器
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HVDC送電、変電所ソリューションなどを含む送電網の電化・安定化システム
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日本企業の関与を検討
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【最大 250億ドル】
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ソフトバンクグループ
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大規模電力インフラ構築のための仕様策定、設計、調達、組立、統合、運用、メンテナンス
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【最大 250億ドル】
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キャリア(Carrier)
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電力インフラに不可欠な冷却装置、空調システム、冷却液配分ユニットなどの熱冷却システム・ソリューションの供給
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日本企業の関与を検討
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【最大 200億ドル】
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キンダー・モーガン(Kinder Morgan)
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天然ガス送電およびその他の電力インフラサービス
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日本企業の関与を検討
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【最大 70億ドル】
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セクション2.AI向け電源開発
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ニュースケール/ENTRA1エナジー
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AI向けの電源開発(ガス火力、原子力)
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セクション3.AIインフラの強化
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三菱電機
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データセンター向け発電システム(発電機、送配電システム等)
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UPS、チラー(IT冷却)、受変電システム、非常用発電機などデータセンター機器の供給
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米国でのサプライチェーン強化
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【最大 300億ドル】
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村田製作所
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MLCC(多層セラミックコンデンサ)、インダクタ、EMI抑制フィルタなどの先進電子部品
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リチウムイオン電池の知見を活用したバックアップ電源・ESS(エネルギー貯蔵システム)向けバッテリーモジュール
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AC-DC/DC-DCコンバータ、リチウムイオン製品、バッテリーモジュール等
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米国サプライチェーン強化
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【最大 150億ドル】
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パナソニック
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エネルギー貯蔵システム(ESS)その他電子機器・電子部品の供給
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米国サプライチェーン強化
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【最大 150億ドル】
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参考として、同じ「AIインフラの強化」セクションには東芝、日立製作所、フジクラ、TDKも列挙されているが、これらには金額の明示はない。
セクション4.重要鉱物等
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ファルコン・カッパー
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米国西部での銅製錬・精錬施設の建設
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日本のサプライヤーやオフテイカーによる関与を検討
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【20億ドル】
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カーボン・ホールディングス
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アンモニアおよび尿素肥料のグリーンフィールド新設プラント建設
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日本のサプライヤーやオフテイカーによる関与を検討
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【最大 30億ドル】
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エレメントシックス・ホールディングス
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高圧・高温(HPHT)によるダイヤモンド砥粒製造施設の建設
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日本のサプライヤーやオフテイカーによる関与を検討
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【5億ドル】
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マックスエナジー
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米国南部の船舶航路を浚渫・拡幅し、10万トン級の原油タンカーが出入り可能な水深にする航路改善プロジェクト
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米国産原油の輸出を促進
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日本のサプライヤーやオフテイカーによる関与を検討
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【6億ドル】
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ミトラケム
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リチウム鉄リン酸塩(LFP)生産施設の建設
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日本のサプライヤーやオフテイカーによる関与を検討
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【3.5億ドル】
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ウェスチングハウス案件について
AP1000とは何か(=大型炉)
技術の性格
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AP1000はWestinghouseが販売する加圧水型原子炉(PWR)で、いわゆる第3世代+(Generation III+)の大型商用炉。1基あたり出力は1,100MWe級クラス。
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特徴は「受動的安全性」。つまり、停電や外部ポンプ喪失時でも、重力・自然循環・圧力差など"受動的"な仕組みで炉心を冷やす安全設計をしている点が、規制当局(NRC)承認の肝。
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すでに商業運転実績がある:
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中国(4基稼働済み)
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米国ジョージア州のVogtle 3号機・4号機が稼働入りし、AP1000としての「アメリカ国内運転実績」が現実にできた。これが極めて大きい。ワールド・ニュークリア・アソシエーション
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規制状況
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米原子力規制委員会(NRC)は、このAP1000の標準設計認証を延長し、現在は2046年まで有効という扱いになっている。つまり「この設計は米国で安全審査をクリア済みで、長期にわたって建ててよい」という状態になった。info.westinghousenuclear.com
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これは"明日着工OK"という意味ではない(サイトごとに建設認可は別途必要)が、ベース設計が確立・延命されたことは、スケジュールと金融(プロジェクトファイナンス)に決定的な意味を持つ。
ビジネスとしての意味
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米国政府(トランプ政権側)は、AP1000複数基を米国内で一気に展開する合意を「約800億ドル規模($80bn deal)」としてWestinghouseとまとめたと報じられている。The Washington Post
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日米ファクトシート側の「最大1000億ドル」という数字は、この米国側の"複数炉建設パッケージ"を含む、さらなる拡張余地を見ていると読める。つまり上限を1000億ドル級(≒10兆円超)としている。Washington Post
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日本企業(例:三菱重工業、東芝、IHI)は、
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一次系・二次系の大型機器、蒸気発生器、圧力容器、タービン島、配管・バルブ、建設EPCの一部、運転・保守サポートなど、従来からの重電・原子力エンジ系の守備範囲を担える。
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ここでのポイントは、すでに実用化済みのAP1000が"量産モードに入る"という前提が、今回の政治合意の中核になっていること。これは、原子力が「AI時代の電源」として再評価されているから。Washington Post
まとめると:AP1000は「大規模・既存型・量産フェーズ入りした米国ベースロード電源を、日本の重工・重電が一緒に増設していく」というシナリオ。
SMRとは何か(=次世代炉)
ここが本丸です。
SMR(Small Modular Reactor)の基本イメージ
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SMRは「小型モジュール炉」。1基あたり出力を数十MW〜数百MWに抑え、工場でモジュール化して大量生産し、建設コストと工期を大幅に下げる狙い。
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従来の1,000MWe級大型炉(AP1000のような)と比べ、小回りが効き、系統の弱い地域や産業拠点(データセンター、製鉄所、水素プラント等)に"分散配置"できる電源として期待される。Reuters
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特にアメリカでは、AIデータセンターの電力需要が激増しており、「化石燃料だけではCO₂、再エネだけでは系統安定性が足りない、だからベースロードでCO₂をほぼ出さない原発を、もっとフレキシブルに建てたい」という現実的なニーズが出ている。Washington Post
WestinghouseのSMRラインナップは2段構え
SMRと一口に言っても、Westinghouseには2つの文脈があると考えるべき。
(A) AP300
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AP300は、Westinghouseが"いま本気で売ろうとしている"SMR。
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定格は約300MWeクラス(330MWeと説明されることもある)。技術的にはAP1000の炉心・受動安全システムを単機ループ化して小さくした設計で、「AP1000の実機と同じ技術・同じ安全設計哲学」をベースにしている。NRC
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重要:これは"1から新概念を発明した新型炉"ではなく、"AP1000をスケールダウンしてモジュール化したもの"。
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だから、規制側(NRC)とのやり取りでも「AP1000と同じ安全設計・同じ系統・同じ主要コンポーネントである」ことを武器に、許認可の期間短縮と投融資しやすさを売りにしている。
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規制状況:
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NRC(米原子力規制委員会)は、WestinghouseとAP300の事前協議(pre-application)を進めており、WestinghouseはAP300の設計認証を取るための技術パッケージ・ライセンス戦略・タイムラインを提示済み。NRC
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目標感としては、この数年内に設計認証(Design Certification)をとり、2030年代前半の運転を狙えると説明している。これは"商業化ロードマップあり"のSMR。
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(B) 旧Westinghouse SMRコンセプト
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Westinghouseは2010年代から225MWe級のSMR(小型PWR)コンセプトを持っていたが、当時は顧客が獲得できず、2014年頃に開発リソースを止め、AP1000に人員を戻したという経緯がある。ウィキペディア
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つまり「WestinghouseのSMR」という言葉には昔の未商用化案も含まれる歴史がある。ただし現在は、AP1000技術派生のAP300がフラッグシップになっている。NRC
なぜSMRが日米ファクトシートに書かれるほど重要なのか
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系統安定とAI需要
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データセンター(AI学習+推論)需要が、米国の電力系統を壊し始めていると言われている。AIは24時間まわる巨大な電気食いの産業プロセスなので、スポット的に大量の安定電源が必要。Washington Post
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従来の大型炉(AP1000)を都市圏や内陸にどこでも置けるわけではない一方、SMRであれば、産業団地やエネルギー集積地、あるいはかつての石炭火力サイトのリプレースなどに据え付けやすい、という"ローカル電源"の価値がある。Reuters
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建設リスクの金融化がしやすい
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超巨大プラントを一発ドンと建てるのではなく、300MWe級の標準化ユニットを量産していくモデルは、資金を分割・案件を分散・スケジュールを短縮しやすい。
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これはインフラ投資を金融商品化しやすくし、官民ファイナンスを呼び込みやすい設計になる。AP300はまさにここを狙っている。
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日本の重工・重電が"フルセットで入れる"
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SMRは、原子炉本体だけでなく、蒸気タービン、一次冷却系、圧力容器、格納容器、補機類、そして建屋・配管・整備計画までをモジュール化し、量産する思想。
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ここに日本企業(例:三菱重工業・東芝・IHIなどの原子力プラント機器、建設EPC、メンテナンス力)がはまりやすい。ファクトシートに「サプライヤー・オペレーターとしての関与を検討」と書かれたのは、まさにそこ。
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要するに、AP300級SMRを「日本製部材+日本式品質保証の塊」として米国内に量産配置する、という絵まで見える。
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1.イントロダクション
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・無料版ChatGPT・Gemini の特徴と制約
2.ユースケース別の活用法
・ニッチ市場調査(インドの豆腐流通状況)
・海外金融市場レポートの調査(ドイツ証取の自動車セクター値動き)
・現地語による情報収集と翻訳要約(台湾華語によるTSMC 給与水準)
・M&A 候補企業の探索(ドイツのロボティクス企業買収候補)
・EU 規制の要点把握(EU サイバーレジリエンス法の概要)
・各国・各業界の動向トラッキング(特定国特定業界の情報収集)
・防衛・戦争リスクに関する情報収集(例:ドローン戦術米中比較)
3.まとめと留意点
・情報の信頼性・出典確認の重要性
・無料版AI でできること/できないこと
・実務への応用と今後の展望
4.質疑応答
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