オルタナティブ・ブログ > ITソリューション塾 >

最新ITトレンドとビジネス戦略をわかりやすくお伝えします!

優秀な人材は、なぜあなたの会社を辞めてしまうのでしょうか?

»

「給料も上げたし、待遇も改善したはずなのに、なぜエース級の社員が辞めてしまうのか」

もし経営者やマネージャーであるあなたがそう悩んでいるとしたら、それは「優秀な人材」が何を求めているのか、その本質を見誤っているからかもしれません。

SaaSの普及、そして生成AIの台頭によって、ビジネスのルールは劇的に変わりつつあります。この変化の中で、優秀な人たちが会社に求めているものは、従来の「安定」や「社内での出世」とは全く異なるものに変質しています。

今回は、なぜ優秀な人材が会社を去ってしまうのか、その深層心理と企業が取るべき対策について考えてみたいと思います。

unnamed-3.jpg

1. 会社ではなく「社会」に評価されることを目指している

かつて、社員にとっての評価者は「上司」であり「会社」でした。しかし、優秀な人材にとって、その基準はすでに時代遅れです。

彼らは、社内の人事評価シートの点数よりも、「市場価値」や「社会的な評価」を重要視しています。彼らは常に外部のコミュニティや勉強会に顔を出し、世の中の「デファクトスタンダード(事実上の標準)」に触れています。そこでは、会社の肩書きではなく、個人のスキルや発信力が問われます。

つまり、彼らは「会社のモノサシ」ではなく「世の中のモノサシ」で自分を客観視しているのです。

実際、IT業界における人材の流動性は非常に高い水準にあります。独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2023」においても、IT人材の獲得競争が激化しており、スキルを発揮できる場を求めて人材が移動する流動化の傾向が指摘されています。 また、レバテックの「ITエンジニア転職白書」等の民間調査でも多くのエンジニアが転職を経験していることが示されていますが、さらに重要なのは彼らが抱える「不安」の中身です。

パーソル総合研究所の「ITエンジニアの就業意識に関する調査」によれば、エンジニアが抱えるキャリア不安の第1位は「自分の技術やスキルの陳腐化(46.5%)」でした。

彼らにとって最大のリスクは、一時的な給与の不満などではなく、技術が古くなり市場価値を失うことなのです。

彼らは、会社にこだわらずとも、確かなスキルさえあれば社会で評価され、転職が容易であることを知っています。だからこそ、自分の成長の可能性を最優先し、その機会を奪うような(=スキルが陳腐化する恐れのある)会社であれば、躊躇なく辞めてしまうのでしょう。

もしあなたの会社が、閉じた社内の論理や慣習を押し付け、「外の世界」を見ることを制限しているとしたらどうなるでしょうか? 彼らは「ここにいては未来がない」と冷静に判断し、より自分が成長できる場所へと去って行くでしょう。

2. 自由を奪い、成長の機会を阻害する「古い環境」

優秀なIT人材は、最新のテクノロジーを使いこなすことが、自分の能力を最大化する手段であることを知っています。

かつてはSaaSの活用がその試金石でしたが、現代においては「生成AI」や「AI駆動開発」への対応がリトマス試験紙となっています。

優秀なエンジニアやクリエイターは、GitHub CopilotやChatGPTといったAIツールを駆使し、圧倒的なスピードと品質で成果を出すことを「当たり前」としています。彼らにとってAIは、面倒なルーチンワークを排除し、より本質的で創造的な「ビジネス・デザイン」や「アーキテクチャ設計」に集中するためのパートナーです。

しかし、セキュリティを理由に、利用できるクラウドサービスや生成AIツールに厳格な制限をかけている企業は少なくありません。

もちろん、企業にとってセキュリティは重要です。ただ、その多くは「何を守るべきか」「どのように守るか」を技術的に十分に吟味しないまま、「なんとなく心配だから使わせない」という漠然とした不安だけで禁止しているケースも散見されます。

リスクを具体的に評価し、適切なガードレール(安全策)を講じて活用するのではなく、思考停止して「全面禁止」を選ぶ。こうした「事なかれ主義」のメンタリティが根強い企業は、優秀なエンジニアにとって息苦しい牢獄のようなものです。

「AIなんて信用できない」「うちは伝統的な自前主義だ」と言った瞬間、優秀な人材は失望します。それは単にツールが使えない不便さへの不満ではなく、「合理的でない理由で自分の成長の機会を奪われ、翼をもがれること」への絶望感によるものです。

3. 「優秀さ」と「多様性」はセットである

また、忘れてはならないのが、優秀な人材と「多様性」には高い相関関係があるということです。

ずば抜けた成果を出す人は、往々にして独自の感性を持ち、既存の枠組みにはまらない行動をとることがあります。彼らは会社という枠を超えたコミュニティに関わり、SNSなどでの発信力も高く、個人の名前で勝負できる人たちです。

そうした人材に対し、画一的な勤怠管理や、「空気を読め」というような同調圧力をかけていないでしょうか?

「みんなと同じやり方で」

「外部活動より社内業務を優先して」

こうしたマネージメントは、彼らの個性を殺すことに他なりません。優秀な人材を活かすためには、彼らの「異物としての強み」を認め、評価できる柔軟な制度と度量が必要です。彼らの常識を受け入れることは、結果として社内の「変化に関心のない層」にも刺激を与え、組織全体の底上げにもつながるはずです。

4. 人材育成ではなく「経営戦略」の問題

SaaSやAIによって、従来のSEや営業の仕事(コードを書かない管理業務や、御用聞き営業)は、急速に自動化・効率化されつつあります。これからの時代に残るのは、「AIにはできない高度な知的生産」や「新しいビジネスの創出」といった領域です。

この変化に対応できず、相変わらず「人月商売」や「御用聞き」のスタイルから抜け出せない企業に、優秀な人材は未来を感じるでしょうか?

彼らが辞めていくのは、単に給料の問題ではありません。

「この会社には、テクノロジーを活用して社会を変革するビジョンがない」

そう見透かされているからなのです。

これは人事部が担当する「人材育成」の問題ではなく、経営者が取り組むべき「経営戦略」の問題です。

優秀な人材をつなぎ止める唯一の方法。それは、企業自身が本気で変わり、彼らが「ここでなら社会にインパクトを与えられる」「最新の武器を使って自由に成長できる」と思えるような、挑戦的なフィールドを用意することに他なりません。

あなたの会社は、彼らにとって「居続ける理由」のある場所になれているでしょうか?

「システムインテグレーション革命」出版!

AI前提の世の中になろうとしている今、SIビジネスもまたAI前提に舵を切らなくてはなりません。しかし、どこに向かって、どのように舵を切ればいいのでしょうか。

本書は、「システムインテグレーション崩壊」、「システムインテグレーション再生の戦略」に続く第三弾としてとして。AIの大波を乗り越えるシナリオを描いています。是非、手に取ってご覧下さい

【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版

生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。

=> Amazon はこちらから

神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO

IMG_9926.jpegunnamed-2.jpg
八ヶ岳南麓・山梨県北杜市大泉町、標高1000mの広葉樹の森の中にコワーキングプレイスがオープンしました。WiFiや電源、文房具類など、働くための機材や備品、お茶やコーヒー、お茶菓子などを用意してお待ちしています。

8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。

Comment(0)