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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

【仕組み解説】最強のインパクト!「AI CEOヒューマノイド熊谷正寿」を発表したGMOグループ

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朝、Xを眺めていたらいい意味で度肝を抜くニュースが流れてきました。

日本初、ヒューマノイドロボットでAI・CEOを実体化!
GMOインターネットグループ、AI・CEO 「ヒューマノイド 熊谷正寿」を実現

これは日本の産業人的な発想からすれば「ウソか!?」「冗談なのか?!」となるニュースかも知れません。しかしイノベーション的見方からすれば、「おお!GMOグループすごい!熊谷正寿氏すごい!」となるニュースです。日本のロボット導入に漂う暗雲を吹き飛ばしてくれる、エポックメーキングな大発表になる可能性すらあります。(日本の会社の)社長に切り込むのがいいセンスです。

プレスリリースからポイントを抜き出してみます。

独自LLMでパートナー(従業員)の意思決定を加速するプロジェクト「GMO Brain AI プロジェクト」。日本の会社が社内で使える、社員を「AIパワード社員」にするための独自の日本語対応LLM(言語がわかるAI)をずっと開発していたのだと思われます。

「ヒューマノイド 熊谷正寿」は、投げかけられた質問に対し、熊谷正寿の思考やフィロソフィー、「GMOイズム」に基づいて回答するAI・CEOだそうです。

・中国の今や最大のヒューマノイド/ヒト型ロボット会社となったUnitreeの商用ヒューマノイド製品「Unitree G1」をベースとしています。これは日本でも買えます。

ヒューマノイドに限らず、ロボットが人間世界で意味のある動作/仕事ができるようになるためには「学習」が最大のカギです。何を学習するか?何で(どういうデータで)学習するか?ここがヒューマノイドを含むAIロボット業界全体で、世界規模の最大課題となっています。GMOは、会議全内容をデータとして蓄積することを社内ルールとしているそうです。熊谷正寿氏の発言、判断もデータとして持っており、これを「ヒューマノイド 熊谷正寿」の学習に使うのです。以下はそれに関する熊谷正寿氏の背景説明。

現在当グループでは、「GMOイズム・GMO流会議術10カ条」に基づき、すべての会議でAIによる録画・議事録作成をおこなっています。これらは、単に業務効率化を図るだけではなく、これまでに会議で私が発言し判断した内容などをAIが理解出来るデータとして蓄積することを真の目的としており、「GMO Brain AI プロジェクト」と地続きの取り組みです。こうして、蓄積した膨大なデータを将来的にAI・CEO「ヒューマノイド 熊谷正寿」に学習させ、あらゆる判断を適切におこなえるよう進化させる予定です。

「ヒューマノイド 熊谷正寿」が日本のロボット業界に与えるインパクト

第一。日本のロボット業界的にもこれのインパクトは強烈です。まず、ユースケースとして「社長」がAIを搭載したヒト型ロボットになる宣伝効果が絶大です。「ウソなのか!?」「冗談なのか?!」と最初思わせる認識爆弾が凄まじいです。導入効果が発表されて、日本の社長達に「おお、これは実効性があるものなのだ」と思わせることができれば、「では、ウチでも導入してみようじゃないか?」となります。社長の分身ができ、社長の時間拘束と場所拘束がラクになるからです。社長はその間、長期休暇を取ってどこかのリゾートでゆったりできます。

第二。日本の企業社会はご存知のように「自前主義」が伝統としてあり、これがために自動車の自動運転でも世界最後尾グループ、ヒト型ロボットでも世界最後尾グループにいます。残念ながら...。GMOグループの「AI CEOヒューマノイド熊谷正寿」は今や中国最大のヒューマノイド会社となり、株式公開も間近のUnitree(IPO推計時価総額70億ドル)が市販しているヒューマノイドモデル、改造も可能な「Unitree G1」を使っています。これにより自前主義の開発ではオフィス内で自律的に動くことができるヒューマノイド開発まで、あと2年はかかるところを、ぎゅっと短縮して、「いま」動くヒューマノイド筐体を活用できています。これは目からウロコです。筐体は中国から買って来ればいい。そういう割り切りが、日本最速の会社に意味ある人型ロボットを実現しています。

以前にGMOの技術ブログでUnitreeのG1をいじっている研究者がいることを確認しました。おそらく彼らを中心としたグループがG1の改造をおこなって「AI CEOヒューマノイド熊谷正寿」の実現にこぎつけたものと推察します。推測すると、3〜4名のプロジェクトだと思います。今回の発表を機にGMOには「どういう体制で開発したのか?」問い合わせが殺到すると思います。

第三。ヒューマノイドの「脳」をどうするか問題。端的にはG1に搭載されている脳に当たるエッジコンピュータをそのまま使って中身を総入れ替えする方法。あるいは最先端か1世代前のNVIDIA製AIエッジコンピュータ「Jetson」を搭載して、何もかもをフレッシュで高機能なAIにする方法。2通りあります。GMOがどちらをやったのか不明ですが、G1はJetson Orinに対応しているという記述もあり、後者で行ったのかなと推測します。やっている最中に最新モデルJetson Thorが発表され、大急ぎでJetson Thor対応をしている可能性があります。「頭の良さ」が全然違うからです。また人間的な動きがより滑らかになります。自律性が高まります。こうしたJetson Thor対応を「ひと目に触れるプロジェクト」でやっている会社は皆無ですから、GMOのヒューマノイド開発は日本の第一線に躍り出ることになります。端的には、「市場に出ている最先端デバイスを組み合わせて最先端のヒューマノイドを実現し、早く製品として市場に出してしまうアプローチ」の正しさが証明された格好になると思います。第二で挙げた自前主義の否定でもあります。そうでもなければ世界最先端に追いつけません。

第四。ロボット学習用の「データ」は、実は社内にあったというインサイトを世に知らしめた点で画期的です。ロボット開発ではどこもデータを探して躍起になっています。先日も米国ヒューマノイド最大手Figure AIが、自社製ヒューマノイドFigure 02により高度な動きをさせるために、「人間の多種多様な動作を動画に撮って、それをヒューマノイドに見させて学習する方法論」で行くことを発表しました。同社CEOのX投稿で明らかになりました。人間の動画でAI搭載のロボットが学習するという方法論は、従来の模倣学習(人間がロボットのハンドなどを動かして、その人間の動きから学習させる手法。学習精度は高いが時間とコストがかかる)やシミュレーション学習(仮想空間上に学習環境を再現し、AIデータセンターの超高速無限計算により桁数の違うシナリオを生成して学習させる手法。学習コストは安いが人間のリアルワールドでの"些細な動き"が学習できない)にはない、コストメリットと学習精度メリットの両方をバランスよく保つ方法論として期待されます。これは実はイーロン・マスクが今年半ばに言っていたのと全く同じ方法論です。(どこで言ったか引用できませんが)これは、GMOの「実は社内にあったデータを活用する行き方」にかなり近い発想です。実は人間の動きこそが意味あるデータであって、それを録画してロボットに学習させれば良いという"割り切り"がブレークスルーです。GMOの「実はロボットにとっても意味のある重要なデータは社内にあった」発見は、日本のロボット業界全体にもブレークスルーをもたらしてくれると思います。建設業界の建設現場にあるデータ、自動車製造業界の生産ラインにある労働者の稼働データなどなど。例えば現在ある現場のデータをAIに分析させてロボットに意味がある学習データの欠落部分のみシミュレーションする等で、学習の短縮化ができます。学習においても日本にしかできないブレークスルーが起こり得ます。

AI時代の王道「Minimum Viable Product(MVP) approach」

いずれにしても、ヒト型ロボット/ヒューマノイドが、日本の目に見えるオフィスで商業的に価値がある行動をする...それを実運用で見せることは、イノベーションの浸透的にめちゃめちゃ意味があります。

動くものを、経済価値があるものを、できるだけ早くに市場に投入して、失敗しても失敗から学んで、毎日改善を重ねていく手法は、リーンスタートアップの「Minimum Viable Product(MVP) approach」の手法であり、その毎日の改善結果が積み重なると、開発速度の二乗効果を持つようになります。これはOpenAI CEOのサム・アルトマンなども言っているIterative Deployment(反復的導入)です。すぐに市場に出す。市場の反応を見ながら細かく毎日改善を重ねる。それがあるので、OpenAIの現在の姿があります。AI時代の王道です。



【セミナー告知】

SSKセミナー - 新社会システム総合研究所

AI を活用した海外市場調査と情報収集ノウハウ

〜ニッチ市場から規制・地政学リスクまでを迅速に把握する最新手法〜

2025年11月 5日(水) 10:00~11:30

講師:株式会社インフラコモンズ 代表取締役 今泉 大輔

会 場 : 会場受講はなしでライブ配信、および、アーカイブ配信(2週間、何度でもご視聴可)

開催日:2025年11月 5日(水) 10:00~11:30 

受講料:1名につき 27,500円(税込)

申込と詳細はSSKセミナーのページをご参照下さい。

https://www.ssk21.co.jp/S0000103.php?gpage=25519

講義内容

企業が海外事業を展開するうえで、信頼性の高い市場調査や規制情報の把握は欠かせません。しかし、従来の有料データベースや専門調査会社への依存はコスト・時間の両面で大きな負担となってきました。

本セミナーでは、生成AI を用いた新しい海外市場調査のアプローチを紹介します。具体的には、ニッチ市場の流通構造の把握、金融レポートや調査資料の要点抽出、現地語による情報収集と翻訳要約、M&A候補企業や投資動向の探索、EU 規制の要点整理、業界や国ごとのトレンドモニタリング、さらに防衛・地政学リスクの動向把握など、多岐にわたるユースケースを取り上げます。

各テーマごとに情報源の選定、生成AI を活用した効率的な調査手順、出典確認の方法を具体的に解説し、参加者は終了後すぐに自らの業務へ応用できる知見を得ることができます。経営企画・海外事業・新規事業・調査部門など、日常的に海外情報を扱う方に最適の内容です。

1.イントロダクション

 ・海外市場調査における生成AI 活用の可能性

 ・無料版ChatGPT・Gemini の特徴と制約

2.ユースケース別の活用法

 ・ニッチ市場調査(インドの豆腐流通状況)

 ・海外金融市場レポートの調査(ドイツ証取の自動車セクター値動き)

 ・現地語による情報収集と翻訳要約(台湾華語によるTSMC 給与水準)

 ・M&A 候補企業の探索(ドイツのロボティクス企業買収候補)

 ・EU 規制の要点把握(EU サイバーレジリエンス法の概要)

 ・各国・各業界の動向トラッキング(特定国特定業界の情報収集)

 ・防衛・戦争リスクに関する情報収集(例:ドローン戦術米中比較)

3.まとめと留意点

 ・情報の信頼性・出典確認の重要性

 ・無料版AI でできること/できないこと

 ・実務への応用と今後の展望

4.質疑応答


従来、調査会社に発注すると100万円〜500万円かかっていた海外市場調査を、必要な時に、必要とする人が、直接手を動かして調査する事ができるようになるノウハウを伝授します。

調査のコスト削減ができる意味も大きいですが、業務の現場で必要が出てきた都度、フレッシュな海外情報を手元に入手できること。また、追加の情報ニーズがあればそれもすぐに入手できるという俊敏性が、過去には得られなかったものです。

これにより海外事業に関する意思決定が飛躍的に精度の高いものになります。

ふるってご参加下さい。

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