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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

大バズり:北京のヒト型ロボット運動会で日本のロボティクス関係者が注目すべき10の技術

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8月15日から北京で開催された「世界ヒト型ロボット運動会」が複数のテレビメディアで取り上げられており、世間の注目の高さが窺われます。「目で見てわかりやすい」ロボットの機能の現在がよく表れており、一般メディアも取り扱いニュースソースなのでしょう。これでヒト型ロボットに対する日本社会の認知も進み、日本の関係者にとっても良いことだと思います。

以下では日本の報道からはわからない、ロボティクス技術の中身について、中国のロボット関連専門媒体などから抽出した、注目すべき10のポイントを書き出しました。AIはChatGPT 4o + Deep Researchを使っています。ChatGPT 4oではこの関連のトピックについて長らく対話してきたので、それが下敷きとなって、ちょっとしたやりとりでもごく深い情報を引き出すようになっています。

私としては、特に赤字の部分を興味深いと思いました。

いずれにしても、中国のヒューマノイドは軍民両用のデュアルユース技術の上に成り立っており、私は、PLAの部隊として戦場で動く様を重ねて見ています。

1. 高トルク駆動関節アクチュエータ

宇樹科技(UBTech)の全身型ヒューマノイド「H1」ロボットでは、自社開発の高出力サーボモータM107を各関節に搭載し、膝関節でピークトルク360N·m(股関節220N·m、足首45N·m、腕75N·m)を発揮しているcyberrobox.comH1は全体で19自由度(脚部10自由度+腰1+両腕各4自由度)を備え、これら高トルク駆動により人間に匹敵する運動性能と爆発的な力強さを両立している。すべての駆動機構(サーボモータ・減速機・制御器)は自社製で、性能面で強みを持つcyberrobox.com。このような高密度・高出力のアクチュエータ技術は、迅速な姿勢変換や急激な加速・減速を要する競技種目(短距離走や跳躍など)での性能に直結している。

2. 軽量構造設計と高次元自由度

H1ロボットは先進的な軽量素材を採用し、身長約1.8mながら総重量わずか約47kgに抑えられているcyberrobox.com。この軽量化設計により、高トルク駆動でも動力対重量比を最大化し、運動性能と省エネルギー性を両立している。19自由度に加え、脚部の自由度と各関節の可動範囲を最適化することで人間らしい歩行・走行が可能となっており、競技場の凹凸や段差に対しても安定した姿勢制御が実現できる。軽量フレームと高自由度設計の組み合わせは、ハードウェア面での大きな技術アドバンテージとなっている。

3. 電源システムと長時間稼働

H1ロボットには15Ah、67.2Vのリチウムイオン電池が搭載され、連続で約1時間の運動稼働が可能であるcyberrobox.com。これにより1500m走行などの長距離競技や複数種目への連続出場に対応できる。一方、北京人形机器人创新中心の「天工2.0」ではデュアルバッテリーのホットスワップシステムを自社開発し、稼働中にバッテリを交換しても動作を継続できる革新的な設計を実現したncsti.gov.cn。この二系統バッテリと高度な消費電力制御技術により、天工2.0は極めて優れた総合エネルギー効率と長時間連続稼働能力を獲得している。こうした電源システムの工夫は、マラソン競技や工業現場での長時間作業など、持続稼働を要する応用への展開を可能にする。

4. 知覚センサー群による環境認識

競技用ヒューマノイドには360度全方位センサーが搭載されているのが特徴である。H1には3D LiDARと深度カメラが組み合わされ、周囲環境の高精度3次元点群マップを構築して障害物回避や局所ナビゲーションに活用しているcyberrobox.com。また、多数の視覚・深度センサやIMU(慣性計測装置)を複合的に用いており、照明変化や振動のある競技場でも安定した自己位置推定が可能である。群舞やサッカーのような多ロボット協調では、各機体が他機の位置を把握する必要があり、ビジョンによる相対位置推定や屋内GPS等も活用してセンチメートル単位の精度で隊列維持を行っているbjnews.com.cn

5. 自律ナビゲーションと視覚処理

北京人形机器人创新中心開発の人形ロボット「天工Ultra」は、競技中に完全自律ナビゲーションを実現しており、大会唯一の遠隔操作なしで走り切った機体であるbjnews.com.cn。同ロボットは車載カメラやLiDARでトラックの白線を認識し、リアルタイムに走路をトラッキングして安定した速度で走行経路を自動計画したbjnews.com.cn。この技術革新により、「天工」はトラック競技において走路逸脱がなく、選手がコーナーでの曲線走行時にも動的に判断を下せる。自律ナビには高度な視覚処理アルゴリズムと経路計画技術が組み合わされており、未知の環境でも人手介在なしに競技タスクを遂行できる点が最大の特徴である。

6. 動作制御アルゴリズム(足運動・歩行プランニング)

競技会の注目種目である短距離走や跳躍では、ロボットの爆発的な動力性能と安定した動作計画が要求される。北京人形センターによれば、「天工2.0」は凹凸や階段、斜面などの複雑地形に対しても足の歩幅や姿勢を即時に調整する適応歩行制御を実現しているncsti.gov.cn。また、宇樹科技は長距離走に向けてH1の歩行アルゴリズムを改良し、より安定したランニング姿勢を達成した。競技用ロボットは通常の歩行制御に加え、歩行周期やタイミングを動的に変更する高度なモーションプランニング(逆運動学・軌道最適化など)を組み合わせ、転倒しない範囲で最大速度を追求する。さらに、100m障害物競走では石畳や砂利床、段差など多様な路面への対処が不可避であり、モーションコントロールにおけるリアルタイム制御能力が特に試されるbjnews.com.cnncsti.gov.cn

7. 群体協調制御(ダンス・サッカー)

群舞やロボットサッカーでは複数台による高度な協調動作が求められる。例えば、鹿明机器人(Lumos Robotics)の群舞では、各機が厳密な時間同期と低遅延通信により編隊ダンスを実現したbjnews.com.cn。これにはカメラや屋内GPSで他機の位置を把握し、衝突を避けつつ隊形を維持するセンチメートル級の位置決め技術が不可欠である。また、動作中は路面摩擦の変化を検知して歩行姿勢を調整するなど、センサーの高速応答とデータ処理性能も重要となるbjnews.com.cn。3対3および今回新たに導入された5対5ロボットサッカーでは、情報共有・タスク割当・経路計画・動作同期といった多機協調アルゴリズムが鍵となる。これらの種目は、単一機の速度だけでなくチーム戦術や群知能の実装力を鍛える技術的試金石となっているfinance.sina.com.cnbjnews.com.cn

8. 深層学習・マルチモーダルAI技術

ロボットにはAI(人工知能)技術の応用も進んでおり、各社は深層学習モデルや大規模言語モデルを統合している。北京人形センターは汎用大型多モーダルモデルなどの具身知能技術を発表し、ロボットの空間認識や意思決定に組み込んでいるstdaily.com。またダンスなどの表現力向上のために、AIを用いた自動振付生成システムも開発されているbjnews.com.cnこのシステムでは音楽のテンポや文化背景を解析して動作シーケンスを作成し、ロボットに動的かつ美的な演技を実行させる。さらに、各ロボットは学習済みの深層制御ネットワークを利用して自己平衡や動作最適化を行っており、人間同様に学習による能力向上が進められている。

9. ソフトウェア基盤(ROS等と独自システム)

ソフトウェア面では、北京人形センターの「天工」プラットフォームがROS(Robot Operating System)ベースで開発されており、ロボット本体制御モジュール(body_control)やロボット記述、リモコン通信などのコードがオープンソースで公開されているx-humanoid.com。これにより、研究者や他社も同一プラットフォーム上でアルゴリズム開発が可能になった。他の企業チームは主に自社開発の制御システムを使用しており、商用ユニットの組み込みOSや独自プロトコルを使い分けていると推測される。全体として、共通のROSベース統合環境と各社の専有スタックが混在しており、競技会でのソフトウェア互換性や連携機能の構築にも注目が集まっている。

10. 初導入の競技形式と応用可能性

本大会では5対5ロボットサッカーが世界初開催され、完全にAI制御のフォーメーション戦となったfinance.sina.com.cn全選手が自律動作で参加し、チーム戦術や戦略的プランニングの実装が求められる新競技である。また、群舞や応用シナリオ(工場、物流などの場面)も取り入れられ、競技種目を通じてロボットの技術成熟度を多角的に検証した。これらの技術的トライアルを経て得られたノウハウは、将来的に産業用・サービス用ヒューマノイドへの展開に繋がると期待される。

参考資料: 宇樹科技製H1ロボットの技術解説cyberrobox.comcyberrobox.com、大会レポートfinance.sina.com.cnbjnews.com.cnbjnews.com.cn、北京人形机器人创新中心発表資料stdaily.comx-humanoid.com等。

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