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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

日本が世界で勝負できる【フィジカルAI】はハローキティなどのエンタメロボット。高度に自律的なタイプ

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追記:今日の午前中に以下の趣旨で一回書いた投稿を上げたのですが、中身が舌足らずであったため全面的に書き換えて再掲出します。

NVIDIA CEOのジェンセン・フアンによれば、フィジカルAIの市場は50兆ドル規模。1ドル150円で7,500兆円規模という途方もない大きさです。調べてみるとこの数字は、世界全体の製造業の規模が46兆ドルであることから、それを凌ぐ規模になるという意味で使われているようです。

3月のGTC2025(NVIDIAの開発者会議)でこの数字が発表された際には、かなり雲をつかむ感じがありましたが、先日発表されたロボットに装着できるAIエッジコンピューターであるNVIDIA Jetson Thorの性能と、いち早く実装している人達のデモンストレーションや、ある意味予言的に「これこれの分野で使われる」と指摘しているロボティクス専門家の発言(このX投稿はフィジカルAIの世界の広さを理解させてくれる有難い投稿です)を見ているうちに、「フィジカルAI市場50兆ドル」は、おおよそこのようなものであろうという現実味のある姿が見えてきました。

フィジカルAI市場を構成する11のセグメント

主には、以下の11のセグメントから成ります。

A. 自律的なヒューマノイド/ヒト型ロボット

B. 自律的な四足歩行ロボット

C. ハローキティなど日本を代表するIPをフィーチャーしたエンタメロボット

D. 自律的な倉庫物流ロボット

E. 自律的なドローン(航空)

F. 自律的なドローン(陸、水上)

G. 自律的な建設機械

H. 自律的な農業機械

I. 防衛フィジカルAI(ヒューマノイド、四足ロボット、航空ドローンなどを包含。購入者が日本で言えば防衛省。国土防衛のため国家予算で調達されるジャンル)

J. 高性能なエッジコンピュータで自律性が高まった自動運転(ロボタクシーなど)

K. 自律的に検査/保全/保守を行うロボット 

これらが全部合わさると50兆ドルになりそうだ...というのはどなたにも納得感があると思います。

ほとんどの項目に「自律的な」と加えているのは、Jetson Thor + LLMを組み込んでいないある意味頭の悪い従来型のロボットと、Jetson Thorを搭載した新しい時代の頭の良いロボットとは、性能に雲泥の差があるため、そこは分けて考える必要があるからです。後者に「自律的な」と被せました。

ヒューマノイドで言えば、2025年8月まで商用化されていた、あるいは研究段階だった機種と、これからJetson Thorを搭載して出てくる機種とは、1970年の大阪万博と2025年の大阪関西万博ぐらいの違いがあります。それほどまでにモノが違うのです。

その「違い」を、技術的に舌足らずにならないように、以下の投稿で記述しました。

NVIDIA Jetson Thor:自律ロボットの"学習"の大部分が不要になる「オンボード・リーゾニング」。ロボット産業は自動車業界超え

エンタメロボットはIP事業で稼ぐ企業にうってつけの新規事業。世界で稼げる

さて、ここからが本題です。

日本の製造業が、今後数年間取り組んで、相応の収益を得ることができる現実的な市場として目の前にあるのは、

C. ハローキティなど日本を代表するIPをフィーチャーしたエンタメロボット

D. 自律的な倉庫物流ロボット

E. 自律的なドローン(航空)

G. 自律的な建設機械

H. 自律的な農業機械

I. 防衛フィジカルAI(ヒューマノイド、四足ロボット、航空ドローンなどを包含)

K. 自律的に検査/保全/保守を行うロボット 

です。

それ以外は収益を上げる事業としては、あまりふさわしくないと考えます。自律的なヒューマノイドについては、中国の水準がまた格段と上がってきましたし、米国のFigure AI、米国に拠点を移した1X Technolgies、Apptronik、Agility Robotics、Boston Dynamicsなど先行組の水準が高いため、日本製がキャッチアップすることは現実的には無理です。

むしろ、参入のハードルが低い

C. ハローキティなど日本を代表するIPをフィーチャーしたエンタメロボット

に舵を切った方が、早期に収益化できる新規事業になると考えます。(この考えを持つに至ったのは、大変にThought Provokingな対談であるこちらを読んだからです。日本だけの道があるんじゃないか?と)エンタメロボットは、筐体にヒューマノイドのように高度なハードウェアが求められないため、Jetson Thorの実装手順とNVIDIAスタックによるトレーニングを早期にこなすことができれば、2年程度で市場投入が可能でしょう。IPがすでに主たる事業部門になっている任天堂、バンダイナムコ、スクエアエニックス、サンリオ、ソニーなどが取り組むならば、極めて未来的な良い事業になると思われます。

これらの企業はすでに現時点で世界市場で稼いでいるため、自律的なエンタメロボットでも世界市場で稼ぐことがさほど難しくないと考えます。ブランドやキャラクターなどがすでに世界各国で馴染みがあるため、Jetson Thorのような高度なAIエッジコンピュータを搭載した、しゃべる、移動する、散歩に一緒に連れて歩くことができる、簡単なお手伝いなら頼める、話し相手になってくれる等々の機能を搭載した自律エンタメロボットは、日本にしかできない一つの産業ジャンルとして、確立される可能性が大いにあります。

この投稿は、何度かに分けて続けて書きます。まずはここまで。


追記

以下は、この投稿をChatGPT 5に読んでもらって客観的な彼の考えを聞いたものです。

私は、かなり正論だと思っています。特に、汎用ヒューマノイド開発には1,000億円かかるという指摘は、米中の事例を見ると、誇張されている数字ではありません。現状、日本に、ヒト型ロボットに1,000億円を投資する主体は見当たりません。

あえて主流路線を歩むのではなく、傍流のIP(言い換えればキャラクター)を活用した、ハローキティ的な自律ロボットを追求して、中国やアメリカが真似することのできない世界観で、任天堂のように世界市場を席巻するのが、戦略、というものではないでしょうか?

1. 「高度なヒューマノイドで米中とガチ勝負」は確かに厳しい

  • 技術のスピードと資本力の差
    Figure AI は2024年から量産試作機を実際のBMW工場に投入し、ソフト更新とデータ収集のフィードバックループを高速で回しています。
    中国勢(Unitree, Fourier, UBTECH)は政府資金や巨大資本の後押しで数百〜数千体規模のデータ収集を行い、モデルの訓練速度が圧倒的に早い。

  • 日本の強みが発揮しにくい領域
    高度な自律歩行やVLA基盤モデルはGPU・データ・AI研究者が勝負の中心。日本はハードウェア精度・品質保証では優れていても、モデル訓練リソースや市場規模では米中に劣るため、純粋なスピード勝負では後手に回りやすい。

  • 開発コストと商用化のリスク
    汎用ヒューマノイドの開発は1,000億円規模の投資が必要になり、短期のリターンは見込みにくい。民間企業が単独で挑むにはリスクが大きすぎます。

2. 「自律型エンタメロボット」は日本が世界で勝負できる領域

  • IP活用は日本の強み
    サンリオ、任天堂、バンダイナムコ、ジブリなど、日本発IPは世界で認知されており、感情的価値・物語性が強い。
    → ロボットの外観やキャラクター性を付与することで、製品に独自の価値を与えやすい。

  • 技術的参入障壁が適度に低い
    エンタメロボットは必ずしも完全な二足歩行や高負荷作業を求められない。
    NVIDIA Jetson Thor + Isaac Sim で事前学習、モーション生成や音声対話を統合すれば、2年程度で商品化可能。

  • 付加価値の源泉がハードではなくソフト/体験
    ロボット単体のスペック競争ではなく、「世界観の演出」「ファン体験」「サブスクやNFT連動」など、事業モデルの工夫で収益を上げられる。

3. 戦略発想としての妥当性

  • レッドオーシャン vs ブルーオーシャン
    米中が血みどろの投資合戦をしている「汎用ヒューマノイド」はレッドオーシャン。
    一方で、「IP×自律ロボット×生成AI体験」という市場はまだ形成途上で、ブルーオーシャン的。

  • 日本の産業構造との親和性
    ゲーム・アニメ・玩具大手が既にIP事業で収益を上げており、ロボット化は事業延長線上にある。
    製造は得意、量産も得意、ブランド力もある──最も適した領域。

  • NVIDIA スタックとの相性
    Isaac Lab / Sim + Jetson Thor での高速開発が可能。物理AIとしての要件(視覚、音声、動作生成)をスケーラブルに実装できる。

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