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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

純国産ヒト型ロボを目指す早稲田大学、テムザック、村田製作所、SRE HDによる京都ヒューマノイドアソシエーション誕生

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いつも見ているヒューマノイド関連ニュースのフィードに村田製作所などが名を連ねる「京都ヒューマノイドアソシエーション」が設立されたというニュースが流れました。

プレスリリースがありましたので、以下でシェアします。

早稲田大学・テムザック・村田製作所・SREホールディングスによる新団体「KyoHA(京都ヒューマノイドアソシエーション)」設立~日本発・純国産ヒューマノイドロボット開発へ~

2025/06/30

株式会社村田製作所
代表取締役社長 中島 規巨

2025年7月、早稲田大学、株式会社テムザック、株式会社村田製作所、SREホールディングス株式会社は、日本のヒューマノイドロボット産業の再興を目指す新団体「KyoHA(京都ヒューマノイドアソシエーション)」を設立します。日本の高度なハードウェア技術を結集し、純国産のヒューマノイドロボット開発を推進することで、日本のロボット開発競争力を高めていきます。

■設立の背景

近年、米国の巨大テック企業や、中国のIT・EV・ロボット企業を中心に、ヒューマノイドロボット開発が急速に進展しています。日本はかつてのロボット先進国としての存在感を示していかなければなりません。
加えて、日本国内では自然災害や労働力不足といった社会課題が深刻化しており、ロボティクス技術への期待が高まっています。特に、人間に近い動作性能を持ち、極限環境下でも活動可能な「ヒューマノイドロボット」は、次世代の機械システムとして注目されています。
しかし、AIやソフトウェアの進化が進む中で、ハードウェア領域における国産開発体制や産業としての統合的な取り組みは未整備の状況です。こうした課題を打破すべく、モノづくりの都・京都にて、日本の技術力を結集する新たな産業連携の枠組みとして「KyoHA」が誕生します。

■活動目的と内容

KyoHAは、以下の5つの柱を中心に活動を展開します。

1. ハードウェア開発の国産連携体制構築
精密部品、アクチュエーター、センサー、油圧制御など、日本が誇る高度な技術を連携させ、ヒューマノイドロボットのハードウェア開発に特化した産学連携ネットワークを構築します。

2. 第1フェーズ:レスキューロボットの開発
災害現場や崩落現場など、過酷な環境下で人命救助・災害対応を担うヒューマノイドロボットの実装を目指し、社会課題の解決と技術検証を両立させます。

3. 京都を中核としたサプライチェーン構築
製造・試作・検証・導入までを見据えた国産サプライチェーンの再設計を行い、持続可能な産業基盤を京都から構築します。

4. 経済的波及効果と産業競争力の強化
ヒューマノイドの普及は多様な業種との連携を促進し、国内外における日本の産業競争力を強化します。

5. ソフトウェア・AIとの連携による価値最大化
ハードと連携するAIや制御技術の進化により、柔軟で賢く動けるヒューマノイドの実現を目指します。

■今後の展開と設立メンバー

本団体は2025年中に一般社団法人として設立を行い、2026年度内には第1弾の開発・実装に向けた具体的施策を発表予定です。
現在、以下の企業・機関が設立メンバーとして参画しています。
早稲田大学
株式会社テムザック
株式会社村田製作所
SREホールディングス株式会社
加えて、多数の企業・団体との連携に向けた対話が進行中です。産業界・学術界を横断する"ヒューマノイドのための日本連合"として、広く参画を募ってまいります。

中国のヒューマノイドは配膳ロボットから始まっている

日本からヒューマノイド/人型ロボットを開発する動きが出てくるのは大変に喜ばしいことだと思います。中国のように、すでに星の数ほどもあるヒューマノイド開発用部品メーカーのエコシステムがあり、完成体のメーカーでもUnitreeやHBTCHのような世界的な知名度がある企業が複数ある状況とは異なり、日本のヒューマノイドはまだ世界的には存在感がないような状況です。(注:実は川崎重工がKaleido 8というヒューマノイドを開発中であり、このブログではまだ紹介する機会がなかったですが、かなりの完成度に達しているようです

産業ロボットでは日本は長年の技術の蓄積があり、世界シェアの過半を占めている訳ですが、その間隙を縫って中国がヒューマノイドで世界的な地位にまで上り詰めてしまいました。

中国が現在のように異様とも思える速度でヒューマノイド完成体メーカーが複数競い合うことになった背景には、数年前の「配膳ロボット(サービスロボット)」のブームで中国各地にサービスロボット企業が乱立。それに呼応してアクチュエータや関節部品などを開発製造する部品企業も無数に誕生。それらの巨大なエコシステムがBoston Dynamicsなどのヒューマノイド・アーリーアダプター企業を見て、「これからはヒューマノイドだ!」と一挙にヒューマノイド市場に乱入した結果...が現在であるという記述をどこかで読みました。

理工系、理数系の人材が毎年百万人単位で市場に出てくる中国では、自動車部品製造メーカーのエコシステムだけでも日本では考えられないほどの分厚さがあり(全て中国語メディアで報じられている世界なので日本には情報がほとんど出てこない)、それに準じる状況がロボット部品製造エコシステムでも存在しています。深圳の電子機器部品エコシステムの星雲のような状況についてはある程度知られていますが、ロボット部品のエコシステムについてはほとんど知られていません。

そこで「目に見える商品」であるAI搭載の四足歩行ロボットがポコっとYouTube動画で話題になったり、UnitreeやHBTECHの二足歩行ロボットのアクロバティックな動作が動画SNSを賑わせることになります。その背景にはロボット部品メーカーの数十社ではきかない分厚いエコシステムがある訳です。

日本は産業ロボットの技術蓄積と精密電子部品の技術蓄積を活用した全く新しいロボットアプリケーションで世界に出るのが望ましい

EV製造でも全く同じ図式があります。EVの部品製造メーカーのエコシステムがエンジン車部品メーカーのエコシステムと同じ地域的広がりを持っており、小米や華為のような通信機器系メーカーがEV事業を立ち上げようと思うと主要な部品はすぐに揃ってしまう状況があります。

さらに昨今のAI系ソフトウェア開発の分厚い産学共同体があるため、Software Defined Vechicleのシステム開発でも日本では考えられないぐらいの人材の分厚さ、開発の速さがあります。全て中国語メディアという言語の壁の向こうで展開している、日本ではほとんど報じられることがない産業動向です。

この投稿でも書きましたが、そうした中国の動きと日本企業とが競争をしようと思っても、部品エコシステムの分厚さが違うため、また理工系・数理系人材の数が2桁は違うため、あまり賢明ではありません。日本には日本の戦略があって然るべきです。

度肝抜くBYDのSDV戦略。日本向け軽自動車EVにも搭載は必至。日本のメーカーはむしろレトロさを!

そこで出てくるのが、日本が世界トップの位置にある産業ロボット/サービスロボットの延長線で、AIを搭載した(=実質的にNVIDIAのロボット開発用技術スタックで開発するということになります。消去法的に)四足歩行ロボット/二足歩行ロボット/車輪移動ロボット/その他の有意味なロボットを開発し、世界市場に打って出る。中国企業や米国のテスラ、Figureなどが絶対に発案しないものを。(こういう視点で見ると川崎重工のコルレオには目を見張るポジショニングがあると言えます)そういう意味で、大変に僭越ながら、テムザックがこのアソシエーションに参画しているのは非常に好ましいと思います。

ヒト型/ヒューマノイドにこだわると中国企業や米国企業に"キャッチアップして"、同じ市場で戦うことになるためうまくありません。競争平面を戦略的にずらす必要はあるかと思います。

また、日本の産業ロボットの強みを活かすと同時に、日本の精密電子部品がiPhoneの高性能を実現していることに表れているように、中国企業には逆立ちしても作れない日本の電子精密部品、ロボットで言えば各種のセンサー群において、日本企業が大いに存在感を示すことができると思います。そういう意味で、やはり大変に僭越ながら、村田製作所がこのアソシエーションに参画しているのは、大変に意味があると思います。村田製作所のウェブサイトを見に行って、ヒューマノイド/AI搭載ロボットに使うことができる先端的なセンサー部品があることを確かめたことがありました。まだ記事にはできていませんが、非常に価値があると思います。

そうして本ブログでは何度も繰り返し投稿で主張していますが、現在のAIを組み入れたロボティクス開発は、NVIDIAのIsaacNewton、などのNVIDIA技術スタックを最大限に活用することで、現在進行形で進んでいるロボティクス世界競争に伍していける速度が得られます。

以下の投稿はNVIDIAのロボット開発技術スタックの百貨店的なまとめとして書いた記事です。ぜひ参考になさって下さい。技術的に正確になるようにChatGPTの力をフルに使って書いています。

NVIDIAがGTC2025でお披露目した茶目っ気のあるAI搭載ロボット「Blue」の技術詳細とフィジカルAI

Figureのヒューマノイドが超高速でOptimusをキャッチアップしたのも、NVIDIAの技術スタックを使っているからです。それに対してテスラは独自のFSDベースのロボティクスにこだわるあまり、やや失速している感があります。(なお中国のヒューマノイドに関して言うと、ちょっと見バク転などで人目を引いていますが「脳」の部分がNVIDIA先端製品が得られないがために知能指数が低い状況があり、Figureが世界市場に出てくると自然淘汰されると見ています)

まとめれば、競争平面を米国等のヒューマノイドからずらした上で、NVIDIAの技術スタックで超高速でシミュレーションを繰り返して完成度を上げていく。それが日本の産業ロボットの延長線にあるロボットアプリケーションで、村田製作所の超高精度センサー群を用いて米国には真似のできない商用性が打ち出せる...。そういう方向性になるのかなと思っています。僭越ながら書かせていただきました。

(BYDのここ最近の勢いを見ているだけに、中国とは違う路線を見出すべきだと思います)

(また、Figureにはこれから現れる投資金額が想像を絶するレベルになりますから、これと競争するのもよろしくありません)

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