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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

度肝抜くBYDのSDV戦略。日本向け軽自動車EVにも搭載は必至。日本のメーカーはむしろレトロさを!

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追記:

結局、BYDの高度なスマートカー/インテリジェントカーは、NVIDIAのCEOジェンセン・フアンが言う「フィジカルAI」の自動車版、先取りバージョンだと言えます。


Gemini Proの非常に高性能なDeep Researchに中国語メディアを博捜させて、BYDのSDV戦略(自動車のスマート機能戦略)をあますことなく報告させました。2万字近い綿密な調査報告書です。

【調査報告書2万字弱】スケールが大きすぎるBYDのSDV戦略とNVIDIA Drive Thor。多くのスマート機能は現行車種に搭載

見逃せないのがBYDの高度なスマート機能(SDVによって実現するアプリケーション)の多くが、NVIDIAの先端的な車載コンピュータNVIDIA Drive Thorによって実現しているということです。これによりNVIDIA Drive Thorを搭載していないメーカーのクルマとは一線を隠す広範囲かつ深みのあるスマート機能を実現しています。

恐るべきは安価な車種にもこういったスマート機能が搭載されていること。これはつまり、日本に来年頃から投入される軽自動車規格のEVにも搭載される可能性が大いにあるということです。

上記の2万字近い調査報告書から、Google NotebookLMの高度なテキスト処理機能によって読みやすい要約を得ました。(意味論的に優れた要約となっています。これはChatGPTを上回る知的な要約かも知れません。完全に大部な調査報告書の中身を理解した上で要約が生成されています。それにより人間が読んで意味がスーッと入ってくる要約になっています) 以下に掲げます。


BYDのSDV(ソフトウェア定義車両)戦略は、「整車智能戦略」と呼ばれる包括的なビジョンを掲げ、ソフトウェアとハードウェアの全面的な統合を通じて車両の価値を最大化することを目指しています。

その主な特徴は以下の通りです。

1. 「整車智能戦略」による車両全体の知能化

創業者の王伝福氏が「自動車産業の前半は電動化、後半は知能化」と提唱した方針に基づいています。
2024年1月の「BYD Dreams Day」で正式発表され、車両の知能化を車内インフォテインメントや運転支援だけに留めず、車両全体にわたることを目指しています。
BYD独自の電子プラットフォームである「璇玑(スアンジー)アーキテクチャ」を介して、パワートレインやシャシー制御を含む電動化システムとAI・ソフトウェアを高度に融合させ、中央の「車載ブレイン」でミリ秒単位の意思決定を行う仕組みを構築しています。これにより、安全性、快適性、パーソナライズ性能を飛躍的に高めることが可能となります。

2. 強力な垂直統合能力と「自研+合作」戦略

バッテリー(ブレード電池)から半導体(IGBTなど)まで自社で垂直統合し、高いコスト競争力を実現しています。
11万人を超えるR&D人員のうち5千名以上がスマートドライブ領域のエンジニアであり、ハード・ソフトのフルスタック自社開発体制を整えています。
一方で、先進運転支援システムにおいては、NVIDIAの高性能車載演算プラットフォーム「DRIVE Orin」や次世代チップ「Drive Thor」を積極的に採用するなど、外部の最先端技術も柔軟に取り入れる「自社開発と協力パートナーの両輪」戦略(「自研+合作」)を推進しています。これは、技術的課題への対応とグローバル競争力強化のためのバランスの取れたアプローチです。

3. 先進運転支援システム「天神之眼(God's Eye)」の展開と「智驾平権」

レベル2+相当の高度運転支援(NOA:Navigate on Autopilot)を実現するプラットフォームで、2023年7月に「騰勢(Denza) N7」で初披露されました。
車種クラスに応じてA(最上位)、B(中上位)、C(普及型)の3種類のハードウェア構成を用意し、LiDAR搭載数や演算チップを変えることでスケーラブルな適用を可能にしています。
特に注目されるのは、2025年2月に発表された「全民智驾(スマートドライブ全民享受)」戦略です。これは、7万〜20万元(約140万〜400万円)という幅広い価格帯のBYDブランド車21車種に、天神之眼C仕様(カメラ中心)の高度運転支援システムを一斉に標準搭載するというもので、高級車の特権だった自動運転技術の大衆化を目指しています。
高速道路や都市高速での自動ナビ走行(NOA)をコア機能とし、日常の通勤ルートを学習する「記憶領航(MNOA)」や、スマートフォンから呼び出し可能な自動駐車「代客泊車(AVP)」機能なども実現しています。
安全性にも強く言及しており、「1000km以上の介入無し自動運転」を目標に掲げるなど、高いシステム信頼性を追求しています。

4. 車載ソフトウェアプラットフォーム「DiLink」によるユーザー体験の向上

BYDが独自開発したインフォテインメント・コネクテッドカー統合システムで、オープンソースのAndroid OSをベースに深度カスタマイズされており、スマートフォン並みに柔軟で拡張性の高い車載ソフトウェア環境を提供しています。
数百万ものスマートフォン向けアプリが車載画面で利用可能であり、地図ナビ、音楽、動画、SNS、ゲームなどを車内で楽しめます。
大型回転式タッチスクリーンを特徴とし、音声アシスタント「小迪(XiaoDi)」による音声操作やARナビゲーションも拡充されています。
「Diプラットフォーム」「Diクラウド」「Diエコシステム」「DiオープンAPI」の4層で構成される包括的なエコシステムとして、車内だけでなくクラウドサービスや外部開発者コミュニティとも連携し、ソフトウェアを通じてユーザー体験を継続的に進化させています。
「DiFan Club(迪粉汇)」というオーナー向けSNSやeコマースプラットフォームを統合したBYD公式アプリを提供し、車両の操作からサービス予約、コミュニティ交流、デジタルキー共有まで「ワンストップ」で利用できる包括的なデジタルサービス生態系を構築しています。
Qualcomm(クアルコム)社と協力して最新の高性能コックピットSoCを搭載し、スマートフォンに匹敵する快適なUIと高速な応答性を実現しています。

5. 高度なクラウド連携とOTA(Over-the-Air)アップデート能力

BYDは中国国内で最も早く全車OTAアップデートに対応したメーカーとされており、購入後もソフトウェア更新によって新機能追加や不具合修正が可能です。
OTAの対象はインフォテインメントだけでなく、パワーウィンドウ、エアコン、ブレーキ、エンジンやモーター制御ユニットにまで及び、車両のほぼ全ての機能がソフトウェア定義・制御されています。前述の天神之眼Cの一斉普及もOTAによるソフトウェア提供で実現しています。
2010年代初頭から提供してきた「BYD Cloud」サービスは、現在ではBYD公式アプリに統合され、スマートフォンから車両の状態確認、遠隔操作(エアコン事前稼働、遠隔カメラ「千里眼」など)、アップデート開始に至るまで完結します。(今泉注:BYD CloudはAmazonのクラウドサービスAWSの上で実現している。これは世界展開を前提としての選択
L2以上のADAS搭載車を累計440万台以上販売し、中国最大の車両クラウドデータベースを構築しており、収集される走行データやユーザー操作ログは運転支援アルゴリズムの機械学習やサービス改善にフィードバックされます。

6. 価格戦略と圧倒的な市場展開力

垂直統合によるコスト削減効果をユーザーに還元する方針で、同クラスの競合車より割安な価格設定で豊富な装備を提供しています。
「規模の経済でテクノロジーの民主化を進める」典型例であり、販売ボリュームの拡大がさらなる価格競争力強化につながる好循環を構築しています。
この戦略により、BYDは2023年に年間302.3万台を販売し、NEV(新エネルギー車)販売で世界トップの座を確立しています。

これらの特徴により、BYDは電動化で築いた基盤の上に、ソフトウェアとハードウェアの融合による車両価値の最大化を追求し、国内外で圧倒的な競争力を示し始めています。


今泉による補足

日本の自動車メーカーの方々には信じられないかも知れませんが、BYDはこの「智能化」(インテリジェント化/スマート化)のためにR&D要員5,000名を投入しています。同社のR&D要員は全体で11万人規模です。これはおそらく世界の自動車メーカーで最大規模です。

こうした大部隊によって具現化されたスマート機能が日本に投入される軽自動車規格のEVにも確実に搭載されます。

おそらく日本の自動車メーカーが逆立ちしても勝てないスマートな機能群が搭載されたスマート軽EVとして日本にお目見するはずです。

日本の自動車メーカーは下手にこの高度なスマート機能群と戦うのではなく、競争平面を変えて、

むしろ「アナログ」、

むしろ「古き良き時代の日本の軽自動車」、

むしろ「レトロ」、

「やっぱり日本の自動車メーカーにしかできない軽自動車」といった、ひねった路線でBYDを迎え撃つべきだと考えます。

BYDのSDV戦略の詳細は以下の報告書で微に入り細に渡って論じられています。

【調査報告書2万字弱】スケールが大きすぎるBYDのSDV戦略とNVIDIA Drive Thor。多くのスマート機能は現行車種に搭載

また、キーとなっているNVIDIAの自動車搭載中央コンピュータDrive Thorについては、その基本的な理解のために必要な以下の投稿を上げています。

【1分でわかる】NVIDIA DRIVE Thorとは何か? - なぜこの"チップ"が自動車の未来を左右するのか

日本の『車載ソフトウェア』はNVIDIA自動車搭載中央コンピュータDrive Thorの洪水を泳ぎ切れるか?

なぜ、AI半導体のNVIDIAが自動車の未来構築に関与するのか? - 関係者が知らないとマズいNVIDIAの野望

なぜBYDは"最強"なのか?その答えは『NVIDIA DRIVE Thor』で実現するSDV戦略にあった

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