オルタナティブ・ブログ > 経営者が読むNVIDIAのフィジカルAI / ADAS業界日報 by 今泉大輔 >

20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

【AI活用海外市場調査】インドの地方都市で進む「EV三輪タクシー」充電ではなく"電池交換"がユニーク

»

Alternative2025Oct28b.png

日本の報道ばかり見ていると、海外の情報がほとんど入ってきません。欧米経済紙の報道は日経新聞等で読むことができますが、中国やアジアの情報はないに等しいです。

どうすればよいのでしょうか?

ChatGPT 5を駆使することで、そうした情報の日照りのような状況を脱出することができます。

とにかくひたすらChatGPT 5で調べて見て下さい。従来のようなGoogle検索をするやり方ではなく、例えて言えば...「世界最大最強の図書館の超人的な司書で、知らないものは何もない、想像を絶する司書さんである」と考えて見て下さい。そうすれば、ChatGPT 5から引き出せる情報の限界は、自分の想像力だけである...ということがわかってくるでしょう。とにかく何でも引き出せます。言語の壁もありません。

以下では題材として、中国地方都市でEV三輪タクシーが普及している現象を取り上げます。

インド地方都市で進む「EV三輪タクシー」の現実:充電ではなく"電池交換"が都市交通をつくり変えている

インドでは、ガソリンやCNGで走る三輪タクシー(オートリキシャ)が、生活インフラそのものといっていいほど日常的に使われています。いま、その足回りが急速にEV化しています。

ただし、日本のイメージする「EV=バッテリーを積んで夜間にゆっくり充電」ではありません。

現地で実際に起きているのは「バッテリーをその場で入れ替える(スワップする)ことで、ほぼ給油並みのダウンタイムで稼働し続ける三輪タクシーの経済圏」です。インドのEV化は「充電網」ではなく「交換網」から進んでいます。これは、地方都市・セカンドティア都市(いわゆるTier-2、Tier-3)におけるモビリティと物流の構造そのものを変えつつあります。ET Edge Insights

本稿では、Ola ElectricSUN MobilityPiaggio Indiaの3社に焦点をあて、この電池交換エコシステムの仕組み、なぜ"地方都市"で機能するのか、そして日本企業にとってどこがチャンスなのかを整理します。

1. なぜインドのEV三輪タクシーは「バッテリー交換方式」なのか?

インドのEV三輪タクシー(いわゆるe-rickshaw、電動オート)は、都市内の短距離輸送・宅配・ラストマイル配送の主役です。ドライバーの稼ぎは「いかに稼働時間を落とさず走れるか」に直結します。

フル充電に1~3時間かかるEVよりも、電池交換方式なら10~15分で再出発でき、ドライバーの稼働率と日当(運賃売上)は3割以上改善するという分析も出ています。Bain

ここで重要なのはインフラの発想です。

  • 日本や欧州のEVインフラ:高速充電スタンドをつくる(高出力電源・系統側投資が重い)

  • インドの三輪タクシーインフラ:街中の"スワップ・キオスク"に立ち寄り、カートリッジ式バッテリーを入れ替える

つまり、電力会社レベルの大規模投資を待たずに、リヤカーサイズのステーションをどんどん置いていける。これは「電力インフラが脆弱な地方都市でも拡大できる」という意味になります。実際、インド国内では既に約2,600か所のバッテリー交換キオスクが稼働しており、特にデリー周辺から地方都市へ広がっています。インド政府および業界団体推計では、2026年3月末までに2.6万拠点、2030年までに約11万拠点クラスまで拡大が必要になる、といった需要見込みが示されています。The Economic Times

このインフラ増殖ペースそのものが、驚きです。

2. 市場の土台:インドEV需要の爆発的拡大と"地方化"

インド全体のEV販売台数は、2016年の5万台規模から2024年には約208万台へと急拡大しました。これは世界でも最速級のイノベーション浸透カーブです。ET Edge Insights

そしていまは、ムンバイ・デリー・バンガロールのようなメガシティだけではなく、インド政府や主要事業者はTier-2・Tier-3都市(州都や産業都市レベル)への展開を最優先テーマに位置づけ始めています。Ola Electricは、地方都市向けの販売・サービス網を拡大するために「Network Partner Program」を発表し、Tier-2/3都市でもEVを売れる・保守できる地域ディーラーモデルを一気に増やしていると公表しています。ibsa.org.in

つまり、もはや「EV=大都市の富裕層のもの」ではなく、「EV三輪タクシー=中小事業者の稼働資産」というフェーズに入ったということです。

3. プレイヤー別に見る:誰が何を握っているのか?

(1) SUN Mobility

SUN Mobilityは、インド発のバッテリー・スワッピング専業企業です。電動2輪・3輪(特に商用eリキシャ/eオート)を対象に、着脱式バッテリーパックと「交換ステーション(スワップ・キオスク)」の両方を提供しています。目的は明確で、「EVを安く導入して、止めずに走らせること」。sunmobility.com

特徴は2つあります。

  1. バッテリーを"車両から切り離してサブスク化"するモデル

    • ドライバーは車体そのものは購入しても、バッテリーは都度レンタル/サブスク的に利用できる。初期コストが下がる。

  2. スワップ所要時間は2分程度

    • 従来は数時間かかっていた充電待ち時間を、給油並みまで短縮できるという訴求がなされている。ETEnergyworld.com

SUN Mobilityはすでにインド国内でスワップ網を展開し、物流(Amazon India等)や配車・配送ビジネスとも連携してきました。PR Newswire
さらにこのモデルはインド国外(フィリピンなど東南アジア圏)にも輸出されつつあり、インド式"交換インフラ"がASEANにも波及し始めています。Piaggio Indiaと組んで、フィリピンの三輪市場(トライシクル相当)にも電池交換式EVを持ち込む計画が報じられています。Wide Magazine
つまりSUN Mobilityは「バッテリー×ステーション×運用モデル」を輸出できる存在になりつつある。

(2) Piaggio India

Piaggioはインドで強い三輪商用車メーカー(リヤカー的な貨物三輪/人力輸送のオートリキシャ両方)です。Piaggio IndiaはSUN Mobilityと組み、交換式バッテリー対応のEV三輪を標準装備として市場投入する取り組みを続けています。ETEnergyworld.com

ここが重要です。インドでは「車両メーカー」と「エネルギー(バッテリー)インフラ」がセットで売られる。Piaggioは、本体(車両)+SUN Mobilityの交換ステーション網をひとつの"ビジネスパッケージ"として提示しはじめており、これは日本のタクシー車両販売モデルとは全く異なります。

さらにPiaggioは、配車アプリやラストマイル配送企業(例:Rapidoなどのライドシェア・バイクタクシー企業)とも連携し、特定都市にまとめてEV三輪を大量導入し、同時にバッテリー交換ステーションを面として張るという、エリア丸ごと転換モデルを進めています。具体的には、ハイデラバードで100基超、バンガロールで200基超のスワップ拠点展開を2024年末までに進めるという報道があり、南インドの都市圏で1,000台規模のEV三輪を一気に走らせるという計画が出ています。electrive.com
→ これは「都市単位のEV化」を、充電網ではなくスワップ網で押し切るやり方です。

(3) Ola Electric

Ola Electricはインド最大級のEVスクーター企業で、同社はもともと配車プラットフォームOlaから派生し、モビリティ×エネルギーを垂直統合しようとしています。Ola Electric

Olaは2輪だけでなく、三輪の電動オートリキシャ(e-autorickshaw)領域にも参入を進めており、バッテリー交換モデルを組み込む構想が確認されています。Olaは過去のスワップ実証の中で、従来の鉛バッテリー搭載eリキシャをリチウムイオン+スワップ式に改造し、ドライバーが自分のバッテリーを所有せず、ステーションでQRコード管理されたバッテリーを入れ替えて走り続けるモデルを運用していますQuartz
さらに同社は「地方都市向けディーラーネットワーク」を一気に拡張し、Tier-2/Tier-3都市にもEVを売り・維持できる体制(Network Partner Program)を推進中です。これは"大都市だけでのショールーム戦略"から明確に舵を切っている動きで、いわば「EVをローカルの商売道具として普及させる」方向です。ibsa.org.in
→ Olaにとってバッテリー交換は、単にテクノロジーではなく「地方の自営業ドライバーが止まらず稼げる=販売の決定打」になっている。

4. これは何を意味するのか?──日本企業への示唆

ここまでの話は、単に「インドおもしろいね」で終わらせる話ではありません。日本企業にとっては、3つの示唆があります。

示唆1:EVは"車両ビジネス"ではなく、"エネルギー流通ビジネス"になっている

インドのEV三輪市場では、車両メーカー(Piaggio)、エネルギー供給(SUN Mobility)、運行プラットフォーム(Ola / 配車・デリバリー企業)がセットで都市交通を塗り替えています。これ自体がひとつの「ローカル・モビリティインフラ産業」になっている。electrive.com

日本企業が「車両を輸出できるか」で考えていると、入口を間違えます。実際の価値は、

  • 交換ステーションをどこに置くか

  • 電池のライフサイクルをどう管理するか

  • サブスク課金や稼働率データをどう回収するか
    に移っている。

つまり、参入余地は「エネルギー供給・運用・可視化のプラットフォーム」の側にもある。

示唆2:地方都市が"最初の採算エリア"になっている

インフラ整備が遅れている地域ほど、既存の内燃機関タクシーが高コスト・不安定で、EV+電池交換のほうがドライバーにとって実利が大きい。だからまず地方都市から一気に置き換わる。ET Edge Insights
これは「まず大都市で普及→あとで地方へ」という欧米型の拡大パターンではありません。
逆にいうと、アジア・アフリカ・中東のローカル都市でも同じロジックが通用する可能性が高い。

実際、Piaggio IndiaとSUN Mobilityは交換式三輪EVモデルをフィリピンにも持ち込もうとしており、インド発モデルがASEANに輸出されているという事実は、日本から見るとインパクトが大きいはずです。Wide Magazine

示唆3:インフラは「数千拠点→数万拠点→10万拠点」というスケール前提

インド国内では、すでに約2,600のバッテリー交換ステーション/キオスクが稼働しており、2026年3月までに2.6万、2030年には11万超が必要になるという見込みが示されています。The Economic Times
このスケールは、日本の「急速充電スタンドを少しずつ増やす」感覚からは想像しづらいレベルです。
ここには、

  • ステーション設計・量産

  • 運用ソフト(認証・課金・在庫管理)

  • バッテリーの安全・リサイクル管理
    といった領域で、ハード・ソフト両面のB2Bビジネス余地があります。

5. まとめ:インドEV三輪タクシーは「地方都市の電池交換インフラ戦争」である

・インドではEV三輪タクシーが生活の移動インフラかつ配送インフラになっている。
・条件は「いかに止まらずに、走り続けられるか」。答えは充電ではなく、電池交換。Bain
・SUN Mobilityは電池+交換網そのものを売る会社として成長。Piaggio Indiaは交換前提のEV三輪を都市単位で投下。Ola Electricは地方都市にも展開する販売・運用ネットワークを持ち込んでいる。electrive.com
・交換ステーションはすでに数千拠点規模、今後は数万~10万拠点級が必要と見積もられている。The Economic Times
・そしてこのモデルは、インド国内だけではなくフィリピンなど他の新興国市場にも輸出され始めている。Wide Magazine

これは、単なる「インドのローカル交通の話」ではありません。
アジアの地方都市の移動・配送・エネルギーインフラが、一気に"電池交換前提"で再設計されるという話です。

日本企業にとっては、EV本体というよりも、

  • 交換ステーションの設計・量産・保守

  • バッテリー資産管理とサブスク課金モデル

  • 稼働データを使った車両/ドライバーの最適配置

  • 交換済みバッテリーのセカンドライフ/リサイクル処理
    こそが事業機会になります。

「地方都市の三輪タクシーEV化」は、インドではすでに"社会インフラの置き換わり"として進行中です。


【セミナー告知】

SSKセミナー - 新社会システム総合研究所

AI を活用した海外市場調査と情報収集ノウハウ

〜ニッチ市場から規制・地政学リスクまでを迅速に把握する最新手法〜

2025年11月 5日(水) 10:00~11:30

講師:株式会社インフラコモンズ 代表取締役 今泉 大輔

会 場 : 会場受講はなしでライブ配信、および、アーカイブ配信(2週間、何度でもご視聴可)

開催日:2025年11月 5日(水) 10:00~11:30 

受講料:1名につき 27,500円(税込)

申込と詳細はSSKセミナーのページをご参照下さい。

https://www.ssk21.co.jp/S0000103.php?gpage=25519

講義内容

企業が海外事業を展開するうえで、信頼性の高い市場調査や規制情報の把握は欠かせません。しかし、従来の有料データベースや専門調査会社への依存はコスト・時間の両面で大きな負担となってきました。

本セミナーでは、生成AI を用いた新しい海外市場調査のアプローチを紹介します。具体的には、ニッチ市場の流通構造の把握、金融レポートや調査資料の要点抽出、現地語による情報収集と翻訳要約、M&A候補企業や投資動向の探索、EU 規制の要点整理、業界や国ごとのトレンドモニタリング、さらに防衛・地政学リスクの動向把握など、多岐にわたるユースケースを取り上げます。

各テーマごとに情報源の選定、生成AI を活用した効率的な調査手順、出典確認の方法を具体的に解説し、参加者は終了後すぐに自らの業務へ応用できる知見を得ることができます。経営企画・海外事業・新規事業・調査部門など、日常的に海外情報を扱う方に最適の内容です。

1.イントロダクション

 ・海外市場調査における生成AI 活用の可能性

 ・無料版ChatGPT・Gemini の特徴と制約

2.ユースケース別の活用法

 ・ニッチ市場調査(インドの豆腐流通状況)

 ・海外金融市場レポートの調査(ドイツ証取の自動車セクター値動き)

 ・現地語による情報収集と翻訳要約(台湾華語によるTSMC 給与水準)

 ・M&A 候補企業の探索(ドイツのロボティクス企業買収候補)

 ・EU 規制の要点把握(EU サイバーレジリエンス法の概要)

 ・各国・各業界の動向トラッキング(特定国特定業界の情報収集)

 ・防衛・戦争リスクに関する情報収集(例:ドローン戦術米中比較)

3.まとめと留意点

 ・情報の信頼性・出典確認の重要性

 ・無料版AI でできること/できないこと

 ・実務への応用と今後の展望

4.質疑応答


従来、調査会社に発注すると100万円〜500万円かかっていた海外市場調査を、必要な時に、必要とする人が、直接手を動かして調査する事ができるようになるノウハウを伝授します。

調査のコスト削減ができる意味も大きいですが、業務の現場で必要が出てきた都度、フレッシュな海外情報を手元に入手できること。また、追加の情報ニーズがあればそれもすぐに入手できるという俊敏性が、過去には得られなかったものです。

これにより海外事業に関する意思決定が飛躍的に精度の高いものになります。

ふるってご参加下さい。

Comment(0)