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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

パリAIアクションサミットの全体像とAI各社の「持続可能性」施策(Deep Researchによる調査)

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パリで開催されていたAIアクションサミットは、昨日の夜7時のNHKニュースの冒頭でも紹介されていました。フランスで開催されていますし(フランス語の政府発表や報道をカバーする必要があります)、多岐にわたるサミット関連の情報等のほとんどは英語で配信されていますので、ここは、日本語でまとまった資料が欲しい所です。

最近使えるようになったOpenAIのDeep Researchを使って、プロのリサーチャーとしての視点を加えてチューニングをかけつつ、調べさせてみました。

共同宣言全文(末尾)もあり、AI主要各社及びStargateプロジェクトの「持続可能性」に関する取り組みの報告もあって、参照資料のリンク付きですし、現時点では決定版のレポートではないかと思います。長くなりますが、資料として完結させる意味で、この一本で全部お届けします。

AIアクションサミットがAI主要各社に及ぼす影響

2025年2月にパリで開催されたAIアクションサミットは、主要なAI企業であるOpenAI、Google、Microsoft、ソフトバンクの戦略やプロジェクトに多大な影響を及ぼしました。特に、ソフトバンクの「クリスタル」プロジェクトや、OpenAIとソフトバンクの共同プロジェクトである「Stargate」への影響が注目されます。

各企業のAI開発戦略の変化

  • OpenAI: サミットにおいて、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏が参加し、AIの持続可能な開発と国際協力の重要性を強調しました。 reuters.com

    さらに、OpenAIはパリに新たなオフィスを開設し、フランスおよびヨーロッパ市場での存在感を強化しています。 lemonde.fr
  • Google: サミットに参加したGoogleのCEO、サンダー・ピチャイ氏は、AIの倫理的開発と持続可能性に関する議論に積極的に参加しました。 reuters.com

    Googleは、AI技術の開発と実装において、ヨーロッパの規制やガイドラインに適応する戦略を採用しています。
  • Microsoft: Microsoftは、AIの国際的なガバナンスと倫理的基準の確立に向けた取り組みを強化しています。 reuters.com

    同社は、AI技術の開発と展開において、持続可能性と倫理を重視する戦略を採用しています。
  • ソフトバンク: ソフトバンクは、AIおよびロボティクス分野への投資を積極的に進めており、特にPittsburghに拠点を置くロボティクススタートアップ、Skild AIへの投資を検討しています。 ft.com

    この投資は、ソフトバンクのAI戦略の一環として、ロボティクス分野でのプレゼンスを強化することを目的としています。

国際的なAIガバナンスへの対応

サミットでは、AIの国際的なガバナンスと倫理的基準の確立が主要な議題となりました。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、AIの持続可能な開発とクリーンエネルギーの活用を強調し、フランスがAI開発においてクリーンな電力供給を活用する戦略を示しました。 reuters.com

各企業は、これらの議論を受けて、自社のAI開発戦略やプロジェクトにおいて、国際的なガバナンスと倫理的基準を考慮する必要性を認識しています。

サミットでの議論や合意の影響

サミットでの議論と合意は、各企業のAIプロジェクトの進行や方向性に直接的な影響を及ぼしました。特に、AIの持続可能な開発とクリーンエネルギーの活用に関する議論は、各企業が自社のAIプロジェクトにおいて環境への配慮を強化する動機となりました。例えば、フランス政府はAIインフラへの€1090億の投資計画を発表し、クリーンエネルギーを活用したデータセンターの構築を推進しています。 ft.com

このような動きは、各企業のAIプロジェクトにおける環境戦略に影響を与えると考えられます。

全体として、パリAIアクションサミットは、主要なAI企業の戦略とプロジェクトに多大な影響を及ぼし、特に持続可能性と国際的なガバナンスに関する議論が各社の方向性を形作る要因となりました。

AIサミットに関連した欧米経済メディアの報道

エネルギー消費の削減と環境負荷軽減

各社の持続可能性関連方策

主要AI企業は、大規模モデルの学習やデータセンター運用による膨大な電力消費を抑えるため、ハードウェアと電力源の両面で対策を講じています。特に再生可能エネルギーの活用エネルギー効率の高い計算基盤の導入が進められています。

  • OpenAI: OpenAIは米国で進める巨大AIインフラ計画「Stargate」を通じ、効率的なデータセンター構築に注力しています。ソフトバンクやOracleと提携したStargateは4年間で5,000億ドル投資し、まず1,000億ドルを即時投入して米国内に最新AI向けの大規模計算インフラを整備する計画です。このプロジェクトではArm(省電力チップ設計)やNVIDIAなどが技術パートナーとなっており、エネルギー効率の高い計算基盤の採用が謳われています。実際、Arm社CEOは「高性能かつ省電力な計算技術がCristal(後述)の発展に不可欠」であると述べ、効率的な半導体技術の重要性を強調しています。またOpenAIは、モデル訓練にMicrosoftのAzureクラウドを活用し続ける中で、Azureの再生可能エネルギー利用も取り込むとされています。これらにより、AIモデルの学習・運用時の電力当たり性能を高め、環境負荷の抑制を図っています。

  • Google: Googleは「2030年までに全世界のデータセンターを24時間365日カーボンフリー電力で運用する」目標を掲げ、再生可能エネルギーの直接調達を進めています。例えば2024年には米エネルギー企業Energixとの長期契約を結び、まず2030年までに1.5GW相当の太陽光発電をGoogle向けに供給する計画です。この取り組みによりAI処理を支えるデータセンターの電力をクリーンエネルギーで賄い、ネットゼロ目標の達成を目指しています。同時に、Googleは自社開発のAI専用チップTPUによって計算効率を向上させています。TPUはGPUに比べ電力性能比が高く、最新世代のTPU v4では前世代比でワット当たり2.7倍の性能向上を実現しています。​cloud.google.com

    さらにDeepMindのAIを用いたデータセンター冷却最適化では、冷却エネルギーを最大40%削減し全体の電力使用効率を15%改善した実績もあります。こうしたハード・ソフト両面の対策で、AIサービス拡大による環境負荷の低減に努めています。
  • Microsoft: Microsoftもクラウドデータセンターのグリーン化と高効率化を推進しています。2020年に「2025年までにデータセンターと事業運営で消費する電力の100%を再生可能エネルギーで賄う」目標を公表し、各地で大規模な電力購入契約(PPA)を締結しています​。blogs.microsoft.com

    さらに2030年までにカーボンネガティブ(排出量より除去量が多い状態)を達成する計画で、排出削減技術への10億ドル投資やサプライチェーン全体の脱炭素にも取り組んでいます。AIインフラ面では、Azureクラウド上にエネルギー効率の高いGPU/FPGAクラスターを構築する他、独自AIチップ開発(プロジェクト"Athena"と報じられる)により演算あたりの消費電力低減を図っています。また革新的な電力源として、核融合ベンチャーHelionとの提携で将来のクリーンエネルギー確保にも動いており、AI需要増にもクリーンに対応しようとしています。これらの施策でAIトレーニングや推論による電力消費増に先手を打ち、環境への負荷軽減に努めています。
  • SoftBank: ソフトバンクは自社グループのAI基盤整備において、省電力技術と再生エネルギーの活用を重視しています。今回OpenAIと共同開発する企業向けAI「クリスタル(Cristal)」では、傘下のArm社の省電力プロセッサを基盤に据えることで、高効率なAI処理を実現するとしています。孫正義CEOも「クリスタルの全社導入で業務を刷新する」と述べており、大規模導入に伴うエネルギーコスト増を抑えるためにも効率性が重要になります​。datacenterdynamics.com

    ソフトバンクは日本国内で分散型AIデータセンターの整備を進めており、地域ごとに再生可能エネルギー源を活用する余地もあります。実際、ソフトバンクグループは震災後に大規模太陽光発電事業に乗り出した経緯もあり、AIインフラでも再生エネ電力の調達を模索しているとみられます。さらにソフトバンクはOpenAIらと進めるStargate計画でも財務面の主導を担っており、1GW級のデータセンター建設にも関与しています​。capacitymedia.com
    。これは電力需要と一体のプロジェクトであり、中東パートナー(UAEのTIIやMGXファンド)とも協調して大規模なクリーン電力の確保や効率的運用モデルを検討していると考えられます。こうした取り組みを通じ、ソフトバンクはAI時代のインフラ拡大と環境配慮の両立を図っています。

社会的責任と倫理的ガイドライン

AIの持続可能な発展には、社会への責任倫理的なAI運用が不可欠です。各社とも自社のAI開発・提供がもたらす影響に配慮し、倫理指針やガバナンス体制を整備しています。また各国の規制やガイドラインにも沿う形で自主規制や透明性向上の措置を講じています。

  • OpenAI: OpenAIは「すべての人類に恩恵をもたらす安全なAGIの実現」を掲げたチャーターを持ち、AIの暴走リスクや偏りへの対策を組織原則としています。またGoogleやMicrosoft、Anthropicとともにフロンティアモデル・フォーラムを結成し、最先端AIの安全な開発に関する情報共有やベストプラクティス策定を進めています。政策対応面では、OpenAIのAltman CEO自ら各国政府と対話し、安全策の必要性と適切な規制枠組みを訴えてきました。例えば英国のAI安全サミットや韓国のソウルAIサミット(2024年5月)では、OpenAIを含む主要企業が「リスクが軽減できないAIモデルは開発・提供しない」との誓約や、安全管理策の透明化に合意しています​。gov.uk

    gov.uk
    さらにモデル開発前に危険な能力を特定・評価する「準備態勢評価(Preparedness)」フレームワークにも取り組み、社会に悪影響を及ぼす可能性のある機能の事前検出を図っています。これらにより、急速に進化するAIの倫理的制御と説明責任を果たそうとしています。
  • Google: Googleは2018年に「AI原則」を定め、AIの社会的利益への貢献、公平性の確保、安全性の担保、説明責任など7項目のガイドラインを公表しました​。forbes.com

    殺傷兵器への不利用など明確な禁止事項も含め、社内の研究開発はこの原則に従うよう管理されています。実践面では、Google DeepMindが「Frontier Safety Framework」という先端AI安全プロトコルを策定し、将来的に顕在化しうるリスクをプロアクティブに洗い出すルールを導入しました。また、社内に倫理審査チームを置き、AIモデルのバイアス検証や人権への影響評価を行っています(※近年一部の倫理研究員の退社問題も報じられましたが、引き続き体制整備を強化)。さらにGoogleは欧州GDPRやAI規制案にも先んじて対応し、2023年には生成AIのコンテンツに透かしを入れる識別技術(SynthID)の開発など、規制遵守とユーザー保護を見据えた技術策も講じています。こうしたガイドライン整備と技術的措置によって、AI開発の透明性・公平性を担保し、社会からの信頼確保に努めています。
  • Microsoft: Microsoftは「責任あるAI」を企業理念に掲げ、AI倫理に関する包括的な原則と運用体制を整えています。公表されたAI倫理原則では、公平性、信頼性・安全性、プライバシー・セキュリティ、包摂性、透明性、アカウンタビリティ(説明責任)の6つを重視しています​。microsoft.com

    社内にはAether委員会(AIと倫理責任に関する委員会)や責任あるAIオフィスを設置し、製品開発プロセスでの倫理チェックや従業員研修を実施しています。また2023年にはOpenAIやGoogleと共に自主的なAI安全措置を米政府に約束し、高度AIの第三者検証やサイバーセキュリティテストの受入、脅威となり得るモデルの報告を行うことに同意しました。さらにMicrosoftはAI for Goodプログラムを通じ、環境保護やアクセシビリティ向上など社会課題解決にAIを役立てる取り組みも進めています。規制面ではEUのAI法案にも準拠すべく準備を進め、リスクの高い用途への対応策や文書化義務をプロダクトに反映させつつあります。これらを通じ、技術革新と倫理的配慮を両立させる姿勢を明確にしています。
  • SoftBank: ソフトバンクは**「責任あるAI」をグループの持続可能性戦略の最重要課題の一つに位置づけ、ガバナンス体制を強化しています​。group.softbank

    group.softbank
    2023年4月に生成AI利用に関するガイドラインを制定し、2024年4月にはグループ行動規範に「責任あるAI」の項目を追加して、従業員が遵守すべきAI利用の指針を明文化しました​。group.softbank
    加えてグループ横断のAIガバナンス検討ワーキンググループを設置し、各社のベストプラクティス共有やガバナンスモデルの構築を進めています​。group.softbank
    主要子会社のソフトバンク株式会社(通信事業)では2022年にAI倫理規定**を策定し、2024年4月には外部有識者を含む「AI倫理委員会」を発足させました​。group.softbank
    group.softbank
    AIサービス企画・開発時のチェックリスト整備や全社員向け教育も実施し、客観的かつ効果的なAIガバナンス体制の確立を図っています​。group.softbank
    このように企業文化として倫理的AI活用を根付かせるとともに、国内外の規制動向(例:経産省のAIガバナンス指針案やG7のAI原則)に沿った対応を取ることで、社会的責任を果たそうとしています。

大規模AIプロジェクトごとの持続可能性戦略

ソフトバンクの「クリスタル (Cristal)」

ソフトバンクとOpenAIの提携により発表された**「Cristal Intelligence(クリスタル)」**は、日本企業向けにカスタマイズ可能な高度AIエージェントを提供するエンタープライズAIプロジェクトです​。group.softbank

このプロジェクトは単にAIソリューションを販売するだけでなく、持続可能なAI活用基盤を構築する戦略が取られています。

  • エネルギー効率とインフラ: CristalはOpenAIの高性能モデル(o1シリーズ)を基盤としつつ、ハード面ではArm社の省電力コンピューティング技術を活用します。Armのエネルギー効率の高いプロセッサはクラウドからエッジまでAIエージェントを展開する鍵と位置づけられ、クリスタルの計算需要を支える上で電力効率を最大化します。ソフトバンク社内でもクリスタル導入により1億件以上の業務を自動化するとしており​、datacenterdynamics.com

    省電力インフラで膨大な処理をさばくことが不可欠です。ソフトバンクはクリスタルを稼働させるため、国内に分散配置するAIデータセンター網を計画中であり、地理的に分散することで電力網への負荷分散や再エネ電力の地域活用を促す狙いもあります。加えて、データセンターを日本企業のデータの近くに置くことで冷却効率の向上や余剰熱の地域利用など環境面の工夫も期待できます。
  • データ主権とセキュリティ: 持続可能な開発には社会的信頼の確保も重要であるため、Cristalは企業ごとのデータを安全に統合し、各社専用のAIエージェントを構築します​。group.softbank

    訓練データには機密情報を含まないよう配慮し、日本国内のサーバーで顧客データを保護する取り組みも検討されています。これは欧州GDPRなど各国のデータ主権要請に応えるもので、AI活用における倫理・法令順守を徹底する戦略です。ソフトバンクは2024年に社内にAI倫理委員会を設けたように​、group.softbank
    クリスタルの提供に際しても倫理ガイドラインに沿った運用(例えば不適切な回答の抑止策や利用企業へのAI倫理トレーニング提供)を組み込むとみられます。こうした措置により、クリスタルは環境面だけでなく社会的持続可能性(信頼・安全)も担保したAIソリューションとなるよう設計されています。
  • 運営モデル: ソフトバンクとOpenAIは「SB OpenAI Japan」という折半出資の合弁会社を設立し、クリスタルを日本の大企業に提供します​。group.softbank

    datacenterdynamics.com
    年間30億ドル(約4,500億円)もの投資をソフトバンクグループ全体で行い、自社グループで先行導入することでスケールメリットを生み出します​。group.softbank
    この大規模投資によってソフトウェア面の最適化(各社ニーズに合わせ無駄な計算を省くカスタマイズ)や、人材育成(AIエージェント活用を推進できる人材の社内育成)にも注力でき、結果として効率的で無駄の少ないAI活用が可能になります。さらに、日本市場で実績を積んだ後はグローバル展開も視野に入れており、その際も各国の規制や電力事情に合わせた持続可能戦略を適用できるよう柔軟な設計としています。

OpenAIとソフトバンクの「Stargate」プロジェクト

**「Stargate」**はOpenAI主導で進められる史上最大規模のAIインフラ構築プロジェクトで、ソフトバンク、Oracle、米政府系ファンドMGXなどが共同出資しています。目的は今後の先端AIモデルの開発・運用に必要な計算資源を大規模かつ持続可能な形で確保することであり、その戦略は技術面・運用面の双方で表れています。

  • 大規模かつ効率的なAIインフラ: Stargateは米国テキサスから建設を開始し、全米各地に複数の超大型データセンターキャンパスを展開する計画です。投資総額5,000億ドル規模という前例のないスケールで、数十万の雇用創出と米国のAI産業競争力強化が期待されています。これほどの規模において環境・持続性を担保するため、最新技術による効率化が追求されています。例えば、NVIDIAとOpenAIの長年の協業関係を活かし最先端GPUを大量投入すると同時に、前述のArmベース省電力技術や光インターコネクト技術などを導入し、大規模化による電力効率低下を抑える設計です。Google DeepMindによる報告では、大規模AIスーパーコンピュータ「TPU v4」でも光学的な再構成ネットワークでスケーリング時の効率低下を克服している例があり、Stargateでも同様の最適化が図られるとみられます。さらに、Oracleのクラウド技術との協働で、データセンター運用をソフトウェア面から最適化し、リソースの動的配分による省電力運用(必要なときに必要なだけ計算資源を稼働)を実現する戦略です。

  • クリーンエネルギーの活用: 巨大データセンター群の電力需要に応えるため、Stargateは電力インフラとの連携も重視しています。OpenAIはStargate構想発表と同時に、電力・用地・建設・機器などインフラ関連企業との連携を呼びかけており、特に電力供給では地域の再生可能エネルギー開発とも歩調を合わせる可能性があります。実際、フランス政府が対抗策として発表した類似プロジェクト(パリAIサミットで公表)では、UAEやMGXが支援しギガワット級のデータセンター建設に約300〜500億ユーロを投じる計画が示されています​。capacitymedia.com

    これは再生エネ発電所と一体となった取り組みと報じられており、同じ出資者を擁するStargateでも再生可能エネルギーの調達・併設が考慮されていると考えられます。アメリカ国内でも電力コストの低いテキサスは風力・太陽光が豊富で、Stargateキャンパスに隣接して大規模蓄電設備や自前のクリーン発電設備を設けることで、電力網への負荷軽減と安定調達を図る戦略が取り得ます。「Notre-Dame方式」(大規模プロジェクトの特例的迅速化)をデータセンターにも適用すべきとマクロン大統領が述べたように、規制緩和によりクリーン電力インフラとの統合開発が促進されれば、Stargateも長期的に持続可能な運用が可能となります。
  • 安全性と国際協調: Stargateは単なる計算施設ではなく、国防・経済安全保障上の戦略資産とも位置づけられています。プロジェクト発表では「米国および同盟国の国家安全保障を守る戦略的能力を提供する」とうたわれ、これは悪意あるAI利用を防ぎつつ味方に有利なAI基盤を確保するという意味合いです。したがってモデル開発には厳格な安全管理が組み込まれ、軍民双方での倫理基準遵守が図られます。加えて「人類全体の利益のためにAIを発展させる」というOpenAIの理念も共有されており、参加各社は国際的ガイドライン(例: 英国Bletchley Park宣言やG7作業部会の原則)に沿った安全措置を講じています。具体的には、開発する最先端モデルに対し第三者機関によるレッドチームテストを受け入れる、安全性に関する報告を定期公開する、といったコミットメントが既に表明されています​。gov.uk

    Stargateは各国政府とも連携しグローバルなAIガバナンス整備に貢献する姿勢であり、持続可能な(人類にとって有益で安全な)AIエコシステムの中核を担う戦略プロジェクトと言えます。

国際的なAIガバナンスとの整合性

パリAIサミットを含む近年の国際会議では、AIの急速な発展に合わせたグローバルなガバナンス枠組み作りが議論されています。フランス・米国・英国はいずれもアプローチは異なれど、AI開発を「持続可能」で「安全・包摂的」に進める方向性を打ち出しており、主要AI企業は自社戦略を各地域の方針と調和させています。

  • フランス/EU: 2025年パリAIサミットでホスト国のフランスは「AI革命を包摂的かつ持続可能なものにする」という共同宣言文を各国に提案しました​。reuters.com

    マクロン大統領はEUの規制をビジネスフレンドリーに見直す考えも示し、ノートルダム大聖堂再建になぞらえ大胆な規制緩和によるAI・データセンター推進策(「ノートルダム方式」)に言及しました。この流れを受け、GoogleやMicrosoftなど米IT企業も欧州での投資を拡大しています。例えばGoogleはフランスにおけるAI研究拠点やクラウドデータセンター建設を進め、サミットに合わせて高品質データ共有やオープンソース支援に4億ドル拠出する**「Current AI」パートナーシップに参加しました。Microsoftも欧州のAI規制案(AI法)に建設的に関与し、自社のAIサービスが高リスク分類された場合の対策準備を公表しています。OpenAIは当初EU規制に懸念を示したものの、現在は対話を通じモデルの透明性向上や法順守に取り組んでいます。ソフトバンクも欧州展開を視野に、各国のAI戦略動向を研究しています。特にフランスとは投資面で連携があり(例:フランスのAIスタートアップに出資)、EUの持続可能性基準や人権保護規範を尊重する姿勢です。欧州委員会も主要企業とのパートナーシップに前向きで、「包括的で持続可能なAI」**という欧州の理念は各社の企業ミッションにも取り込まれつつあります。
  • 米国: アメリカでは政権によってAI政策が揺れましたが、現在は競争力強化を優先する戦略が顕著です。トランプ政権は2025年に就任後、前政権のAIガードレール(安全規制)を撤廃し、国家主導での大規模AI投資に舵を切りました。これに呼応して誕生したのがOpenAI主導のStargateプロジェクトであり、政府の後押しも受け「史上最大のAIインフラ計画」として打ち出されています。MicrosoftやGoogleも米国内での先端AI研究に巨額投資を続け、NVIDIAやIBMなどとともに米国の半導体・クラウド産業を底上げする形で政府と協調関係にあります。もっとも、全く無規制というわけではなく、2024年にはホワイトハウス主導で主要AI企業に対し自発的なAI安全確約を取り付けました(前述のようなモデルテストや報告のコミットメント)。OpenAI・Microsoft・Googleはいずれもこれに署名し、連邦政府とは安全面で協力しつつ高速なイノベーションを追求しています​。gov.uk

    また米国では連邦レベルの包括的AI法はまだ無いものの、各社は将来の規制を見据えて内部ガバナンスを強化しています。例えばMicrosoftは社内原則を外部提言(例えば米商務省NISTのリスク管理フレームワーク)にも適合させ、Googleも米議会の動向に合わせ透明性レポートの充実を図っています。ソフトバンクにとって米国は主要市場ではありませんが、出資するOpenAIやArmが米国事業を行うため、米国の緩和的環境下で技術開発を加速しつつ、その成果を他地域でも活かす戦略です。総じて米国では**「まず開発を促進し、その中で自主的に安全策を講じる」**という方向性に企業が歩調を合わせており、持続可能性のうち経済的側面(技術競争力の維持)を重視した動きと言えます。
  • 英国: イギリスはグローバルなAI安全ガバナンスのハブとして積極的な役割を果たしています。2023年11月の第一回AIセーフティサミット(ブレッチリー・パーク)では各国政府と企業が集まり、AIリスクに関する初の国際宣言を採択しました。これを受け、2024年5月のソウルAIサミット(英国・韓国共催)では16社のグローバルAI企業(OpenAI、Google/DeepMind、Microsoftなど)が「フロンティアAIモデルの安全管理」に関する新たなコミットメントを発表しています​。gov.uk

    gov.uk
    この合意では「十分にリスクが低減できない高度AIは開発・提供しない」「AIガバナンスの責任構造を明確化し、安全対策を公開する」ことなどが盛り込まれました​。gov.uk
    各社は英国政府と連携しつつ、自社のAI安全計画やガバナンス体制を公開し始めています。例えばGoogle DeepMindはFrontier Safety Frameworkを更新しテスト項目を明示、OpenAIもモデル評価報告書を充実させています。英国はまた、先端AIの評価施設を国内に設ける構想を打ち出し、OpenAIやMicrosoftは協力の意向を示しています。ソフトバンクもブレッチリー宣言に賛同の姿勢を取りつつ、日本の視点から国際議論に参加しています(孫氏はG7広島AIプロセスにも言及)。英国発のこれらガバナンス枠組みは非拘束的ながら実効性のある自主規制として各社の戦略に組み込まれており、国際協調の下で持続可能なAI開発を進める土台となっています。

以上のように、主要AI企業はそれぞれのプロジェクトと事業活動において、環境への配慮(グリーンな計算インフラ)と社会への配慮(倫理・ガバナンス)を両輪とし、各国の政策目標とも整合的な持続可能性戦略を展開しています。パリAIサミットで掲げられた「包摂的で持続可能なAI革命」というビジョンは、各社の具体的行動計画に反映されつつあり、今後も国際協調の下でその実現が図られていくでしょう​。reuters.com

2025年2月・パリAIアクションサミット共同声明(全文)

以下は、2025年2月10日・11日にフランス・パリで開催された「AIアクションサミット」において採択された共同声明「人々と地球のための包摂的で持続可能な人工知能に関する声明」(Statement on Inclusive and Sustainable Artificial Intelligence for People and the Planet) の全文日本語訳です​。 elysee.fr

共同声明(日本語訳)

  1. 参加者 - 2025年2月10日および11日、フランス・パリにおいてAIアクションサミットが開催され、100を超える国々から政府首脳、国際機関、市民社会、民間部門、学術・研究コミュニティの代表が一堂に会しました​。elysee.fr

    AI技術の急速な発展は主要なパラダイムシフトを引き起こしており、我々の市民や社会に多面的な影響を及ぼしています。「人々と地球のためのパリ協約」(Paris Pact for People and the Planet)の精神および各国が自らの移行戦略に責任を持つべきとの原則に則り、私たちは優先課題を特定し、持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた進捗を加速することで公共の利益を促進し、デジタルデバイドを解消するための具体的な行動を開始しました​。elysee.fr
    我々の行動は、科学ソリューション(各国の枠組みに準拠したオープンなAIモデルに重点を置く)、そして政策基準という3つの主要原則に根ざしており、いずれも国際的な枠組みに沿ったものです​。elysee.fr
  2. エコシステムの多様性 - 本サミットは、AIエコシステムの多様性を強化することの重要性を明らかにしました​。elysee.fr

    本サミットを通じて、AIを人権に基づき人間中心に据え、倫理的で安全かつセキュアで信頼できるものとするための、開かれたマルチステークホルダーの包括的アプローチが打ち立てられました​。elysee.fr
    また、不平等を是正し、開発途上国におけるAIの能力構築(キャパシティ・ビルディング)を支援する必要性と緊急性も強調されました​。
  3. 優先事項の確認 - 国連総会決議、グローバル・デジタル・コンパクト、UNESCOのAI倫理に関する勧告、アフリカ連合の大陸規模AI戦略、経済協力開発機構(OECD)、欧州評議会および欧州連合、ならびにG7(広島AIプロセス)やG20といった既存のAIに関する多国間イニシアチブを踏まえ、我々は以下の主要な優先事項を確認しました​。


    • AIへのアクセス向上とデジタル格差の是正:デジタルデバイドを縮小するため、世界中でAIへのアクセスを促進すること​。
    • 開かれた包摂的で信頼できるAIの確保:すべての人にとってAIが国際的な枠組みも踏まえて開放的・包摂的で透明性が高く、倫理的で安全かつセキュアで信頼できるものとなるよう保障すること​。
    • AI分野のイノベーション促進:AIの開発に必要な環境を整備し、市場の過度な集中を避けることで産業の回復と発展を促進し、AIにおけるイノベーションを活性化すること​。elysee.fr

    • 労働の未来への積極的対応:労働の未来や労働市場に対してAIが望ましい形で影響を与え、持続可能な成長の機会を創出できるよう、その活用を促進すること​。elysee.fr

    • 人類と地球にとって持続可能なAIの実現:AIを人々と地球のために持続可能なものとすること​。elysee.fr

    • 国際協力とガバナンス強化:国際的なAIガバナンスの調整を促進するため、各国間の協力を強化すること​。elysee.fr

    こうした優先事項を実行に移すために、以下の措置を講じます​。


    • 公共目的のAIプラットフォーム:参加国の創設メンバーは、大規模な「公共目的のAIプラットフォームおよびインキュベーター」を立ち上げました​。elysee.fr
      これは既存の公共・民間における公共目的のAI関連の取り組みの断片化を減らし、それらを支援・拡充することでデジタル格差に対処することを目的としています。公共目的のAIイニシアチブは、データ、モデル開発、オープン性と透明性、監査、計算資源、人材育成、資金供給および協力といった分野でのデジタル公共財、および技術支援・能力構築プロジェクトを継続的に支援します​。elysee.fr
      これにより、すべての人のため、すべての人によって、すべての人に資する信頼できるAIエコシステムの共創と促進を図ります​。
    • AIとエネルギー:本サミットでは、マルチステークホルダー形式によって初めてAIとエネルギーに関する課題が議論されました​。 この議論を通じ、持続可能なAIシステム(ハードウェア、インフラ、モデル)への投資促進のための知見共有、AIと環境に関する国際的議論の推進、国際エネルギー機関(IEA)と連携したAIのエネルギー影響に関する監視機関(オブザーバトリー)の設置の歓迎、そして省エネ型のAIイノベーションの紹介といった成果が得られました​。elysee.fr

    • 雇用への影響と知見強化:我々は、雇用市場におけるAIの影響について共有知識を強化する必要性を認識しています​。elysee.fr
      そのため、オブザーバトリーのネットワークを構築し、職場や教育・訓練におけるAIの影響をより的確に予測するとともに、AIを活用して生産性、技能開発、品質や労働条件、そして社会的対話を促進することを目指します​。elysee.fr

  4. 包摂的ガバナンス - 我々は、AIガバナンスに関して包摂的なマルチステークホルダー対話と協力が必要であることを認識しています。​elysee.fr

    安全性、持続可能な開発、イノベーション、人道法および人権法を含む国際法の尊重、人権の保護、ジェンダー平等、言語の多様性、消費者保護、知的財産権の保護といった課題を統合的に考慮するグローバルな議論の必要性を強調します​。elysee.fr
    また、AIガバナンスが議論されているさまざまな国際フォーラムでの取り組みや議論に留意します​。elysee.fr
    国連総会で採択されたグローバル・デジタル・コンパクトに沿い、参加各国はAIガバナンスに関するグローバル対話独立した国際AI科学パネルの立ち上げに対するコミットメントを再確認するとともに、現在進行中のガバナンスに関する取り組みを調整し、補完性を確保しながら重複を回避していくことに合意しました​。elysee.fr
  5. 信頼と安全の強化 - AI技術の恩恵を活用して我々の経済と社会を支えていくためには、信頼性と安全性の向上が欠かせません​。elysee.fr

    我々は、AIの安全確保に関する国際協力を進展させる上で重要な役割を果たしたブレッチリー・パークAI安全サミットおよびソウル・サミットの貢献を高く評価し、これらの場で打ち出された自主的コミットメントに留意します​。elysee.fr
    今後もAIによる情報の健全性(情報の完全性)へのリスクに対処し、AIの透明性に関する取り組みを継続していきます​。elysee.fr
  6. 今後の展望 - 我々は、キガリ・サミット、タイ王国とUNESCO(国連教育科学文化機関)が主催する第3回AI倫理グローバルフォーラム2025年世界AI会議、そしてAI for Goodグローバル・サミット2025といった今後予定されているAI分野の重要な節目に期待を寄せています​。elysee.fr

    これらの機会に、我々がこれまで表明してきたコミットメントのフォローアップを行い、引き続き持続可能で包摂的なAIに沿った具体的行動を取っていく所存です​。elysee.fr

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