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ガートナー、「Hype Cycle for Sales Transformation 2025」発表 「AI Agents for Sales」は過度な期待のピーク期に

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Gartnerは2025年10月30日、営業組織の進化をテーマにした年次分析「Hype Cycle for Sales Transformation 2025」を発表しました。本レポートでは、AIエージェント、感情AI(Emotion AI)、顧客のデジタルツイン(Digital Twin of a Customer:DToC)という3つの先端技術が、営業変革を推進する中核要素として位置づけられています。

Gartner Hype Cycle Reveals How AI and Digital Advancements Are Primed to Aid Sales Transformations

Gartnerは、購買行動のデジタル化が進むなかで、営業責任者(CSO)が従来の営業モデルを再構築する動きが加速していると指摘しました。生成AIや自動化技術を基盤とする「デジタル知能の導入」と「組織的適応力の強化」が、新たな競争優位の鍵になるという見解です。

今回は、同レポートが描くAIとデジタルの進展がもたらす営業変革の方向性、3つの注目領域、そして今後の展望について整理します。

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出典:Gartner 2025.10

営業の変革が迫られる背景

企業の購買プロセスは、もはや「対面営業」から「デジタル主導」へと軸足を移しています。Gartnerによれば、B2B購買の約80%がオンライン情報収集から始まり、営業担当者が介在するのは意思決定プロセスの最終段階に限られるケースが増えています。

こうした環境下では、営業組織は単に製品を販売する存在ではなく、顧客体験全体を設計し、データに基づいて顧客の意図や感情を把握する役割が求められています。そのため、AIを活用して「売る仕組み」を最適化する動きが世界中の企業で進展しています。

GartnerのShayne Jackson氏(VPアナリスト)は「営業変革は終わりのないプロセスになりつつある」と語り、AIとデジタル統合を中心とした適応的な営業組織への移行が急務であると強調しました。

営業AIエージェント:自律的に売上を創出する「デジタル営業人材」

最も注目されているのが「AI Agents for Sales」です。現在はハイプ・サイクル上で「過度な期待のピーク期(Peak of Inflated Expectations)」に位置づけられています。

AIエージェントとは、生成AIや大規模言語モデル(LLM)を活用し、営業活動における意思決定や行動を自律的に行うソフトウェアです。これまでのAIアシスタントが「補助的存在」であったのに対し、AIエージェントは「自ら考え、提案し、実行する営業パートナー」として進化しています。

たとえば、顧客データや商談履歴を解析して最適なタイミングで提案を自動生成したり、顧客の反応を学習して次のアクションを選択したりすることが可能です。これにより、営業担当者は人間ならではの交渉力や信頼構築に集中できます。

一方で、現時点では過度な期待も存在します。生成AIの限界やデータ品質の課題、責任の所在など、現実的な導入課題も多く残っています。とはいえ、主要プラットフォーマー各社が投資を拡大しており、今後3年で実用フェーズに移行する可能性が高まっています。

感情AI:顧客心理を読む新しい「営業感覚」

「Emotion AI」は、音声や表情、言語トーンなどから顧客の感情状態を推定する技術です。現在は「幻滅期(Trough of Disillusionment)」に位置し、初期の過大評価を経て、より現実的な応用が模索されています。

たとえば、コールセンターで顧客の声の抑揚を解析し、ストレスや満足度を推定する活用が進んでいます。一方で、欧州のAI規制(EU AI法)では教育分野での感情検出を禁止するなど、倫理・プライバシー面での制約が導入の障壁となっています。

しかし、顧客との信頼関係を築くうえで感情理解は不可欠です。今後は音声認識や自然言語理解と統合し、営業支援ツールとして安全かつ効果的に感情を読み取る仕組みが整備されると見込まれます。AIが「数字では捉えきれない感情」を理解することで、営業活動の質が一段と高まる可能性があります。

顧客のデジタルツイン:仮想顧客が示す"購買の未来予測"

「Digital Twin of a Customer(DToC)」は、実在する顧客をデジタル上に再現する仮想モデルで、ハイプ・サイクルでは「黎明期(Innovation Trigger)」に位置づけられています。

企業はこれまで製品や設備のデジタルツインを活用してきましたが、DToCは「人」に焦点を当て、顧客の行動・嗜好・購買履歴をリアルタイムに再現します。これにより、企業は顧客がどのような条件で購買意欲を高めるかをシミュレーションでき、最適な提案やキャンペーン設計を行うことが可能になります。

実際、先進的な小売・通信・金融業界では、DToCを活用して「購買行動の再現実験」を行う試みが始まっています。たとえば、AIが顧客の生活環境データをもとに、将来の購買シナリオを再現し、需要を事前に予測する仕組みです。

ただし、データの取得と活用には高い透明性が求められます。プライバシー保護を前提に、信頼性あるデータ連携とAIガバナンスを構築することが成長の鍵となります。

今後の展望

AIとデジタル技術による営業変革は、単なる効率化を超え、企業の「価値創造の中枢」へと進化しています。AIエージェントが営業現場の自律性を高め、感情AIが顧客理解の深度を拡張し、DToCが未来の購買行動を可視化する――この3領域の融合が、次世代営業モデルを形づくる原動力になるでしょうか。

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