【海外市場調査のニーズとChatGPT 5】「すぐにレポートが欲しい」と言うクライアント
海外進出を果たす際や海外市場向けの新製品を準備する際に、どうしてもその国の市場を調査する必要が出てきます。私も少し前までそういう海外市場調査を行う会社に在籍していたので、クライアントの様々なニーズはわかります。
ある時、歴史ある素材メーカーの事業部長から「特殊な素材Xの欧州におけるリサイクル市場について調べてくれ」というオーダーをいただきました。
もちろんオーダーを頂いたことはうれしいのですが、問題は納品までの期間でした。調査の軸は2軸。2本のレポートを「1ヶ月で提出できるなら発注する。できなければ発注しない」という条件でした。その事業部長は明らかに意思決定権を持っており、欧州で素材Xに関する何らかの事業展開が頭にあったのでしょう。意思決定をするためのレポートを求めていたようです。しかし調査に2ヶ月〜3ヶ月かかっていたのでは意思決定のタイミングを逃します。そのため1ヶ月という限定付きで我々に言ってきたのでしょう。
1ヶ月でン百万円の調査案件は調査屋にとってはデカい
この時はまだChatGPTも何も存在していなかったので、私はいつものようにGoogle検索をフルに駆使して、普通の人が調べられない所まで深く下りて、英語文献をできるだけ多く収集しました。そうして咀嚼してクライアントの問題意識に合わせてレポートを書き、なんとか納期に間に合わせることができました。通常ペースの仕事の速度を100とすると、300ぐらいな感じで仕事をしました。でなければ間に合わなかったからです。
レポートの内容には喜んでいただけたようです。ということでその時の調査会社には、たった1ヶ月の仕事で結構な金額の代金が振り込まれました。時間をカネで買うというタイプのオーダーでした。通常なら短くても2ヶ月、普通なら納品まで3ヶ月は欲しいという調査案件でした。
「手でやるタイプの調査」にかかる時間
このように「レポートをできるだけ早く仕上げて欲しい」というニーズは、多くの企業が持っていると思います。普通、調査会社では、短くても1ヶ月程度の納期を設定します。調査を「手で行う」からです。システマティックにサンプリングしたパネル消費者にアンケートを投げて解答を収集するタイプのマーケティング調査では、最短1週間、場合によっては翌営業日に納品することもあると思いますが、私が携わっていた海外市場調査は「手でやるタイプの調査」です。
別名デスクトップ調査、または文献調査とも言われますが、現代ではほとんどがGoogle検索のプロフェッショナル技術がモノを言うインターネット調査が主流になります。普通の人では絶対に探し出せない文献・資料を特殊な検索テクニックによって見つけ出して、それを咀嚼分析してレポートを書きます。
例えば、以下で紹介したEU規制の文献のうち、クライアントの問題意識にあった資料を英語文献の海の中から抽出する検索テクニックです。かなり高度な脳の中の処理とGoogle検索テクニックとを複合させて目指す資料を見つけ出します。
【EUデータ法】対応しなければいけない日本の5つの業種と具体的な対応のチェックリスト
そういう「手でやる調査」はもちろん時間がかかります。ツールはGoogle検索であるとしても、調査をするための方法論を見つけたり、調査対象を特定したりする準備作業もあります。勉強も必要になります。頭の中でその問題に関するマップを作る作業も不可欠です。探し出す作業にも相応の時間がかかります。そんなこんなで、普通のペースで仕事をしていると、A4 30ページぐらいの調査成果物であっても、納品まで1ヶ月かかる代物なのです。急げと言われても、寝ないで仕事をすれば急ぐことはできますが、また土日出勤すれば納期は短縮できますが、手でやる調査の総時間が少なくなる事はありません。
猿の骨が宇宙船になった"Deep Research" by OpenAI
この状況を根本的に変えたのが今年前半に発表されたChatGPTの"Deep Research"です。手でやるタイプの調査屋からすると、キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」で猿が投げた骨がいきなり21世紀の宇宙船になったかのような、パラダイムシフトでした。
↓「2001年宇宙の旅」のオープニング、51秒あたりから骨→宇宙船に歴史がひとっ飛びする有名なシーン。
ChatGPTのDeep Researchが出てきた時の衝撃を、私はもちろんこのブログでも書いていて、以下がそれです。
OpenAIのDeep Researchはあたかも日立製作所本社の優秀な調査スタッフ【ChatGPTディープリサーチ】
という事で、骨がいきなり宇宙船になったものですから、上で書いた300%稼働で1ヶ月で納品した2本のレポート(数百万円)とほとんど同じ仕事を、30分で済ませることができるようになったのです。
これで、歴史ある素材メーカーの事業部長から「早く納品して欲しい」と言われれば、「最短翌営業日に納品できます」と言えるようになったのです。
これだけのポテンシャルがあるChatGPT + Deep Researchですが、その超絶威力はほとんど知られていません。
今使えるChatGPT 5は、さらにその上を行きます。しかし、そのさらに超絶な超絶威力についても、ほとんど知られていないのです。
【セミナー告知】
SSKセミナー - 新社会システム総合研究所
AI を活用した海外市場調査と情報収集ノウハウ
〜ニッチ市場から規制・地政学リスクまでを迅速に把握する最新手法〜
2025年11月 5日(水) 10:00~11:30
会 場 : 会場受講はなしでライブ配信、および、アーカイブ配信(2週間、何度でもご視聴可)
開催日:2025年11月 5日(水) 10:00~11:30
受講料:1名につき 27,500円(税込)
申込と詳細はSSKセミナーのページをご参照下さい。
https://www.ssk21.co.jp/S0000103.php?gpage=25519
講義内容
企業が海外事業を展開するうえで、信頼性の高い市場調査や規制情報の把握は欠かせません。しかし、従来の有料データベースや専門調査会社への依存はコスト・時間の両面で大きな負担となってきました。
本セミナーでは、生成AI を用いた新しい海外市場調査のアプローチを紹介します。具体的には、ニッチ市場の流通構造の把握、金融レポートや調査資料の要点抽出、現地語による情報収集と翻訳要約、M&A候補企業や投資動向の探索、EU 規制の要点整理、業界や国ごとのトレンドモニタリング、さらに防衛・地政学リスクの動向把握など、多岐にわたるユースケースを取り上げます。
各テーマごとに情報源の選定、生成AI を活用した効率的な調査手順、出典確認の方法を具体的に解説し、参加者は終了後すぐに自らの業務へ応用できる知見を得ることができます。経営企画・海外事業・新規事業・調査部門など、日常的に海外情報を扱う方に最適の内容です。
1.イントロダクション
・海外市場調査における生成AI 活用の可能性
・無料版ChatGPT・Gemini の特徴と制約
2.ユースケース別の活用法
・ニッチ市場調査(インドの豆腐流通状況)
・海外金融市場レポートの調査(ドイツ証取の自動車セクター値動き)
・現地語による情報収集と翻訳要約(台湾華語によるTSMC 給与水準)
・M&A 候補企業の探索(ドイツのロボティクス企業買収候補)
・EU 規制の要点把握(EU サイバーレジリエンス法の概要)
・各国・各業界の動向トラッキング(特定国特定業界の情報収集)
・防衛・戦争リスクに関する情報収集(例:ドローン戦術米中比較)
3.まとめと留意点
・情報の信頼性・出典確認の重要性
・無料版AI でできること/できないこと
・実務への応用と今後の展望
4.質疑応答
従来、調査会社に発注すると100万円〜500万円かかっていた海外市場調査を、必要な時に、必要とする人が、直接手を動かして調査する事ができるようになるノウハウを伝授します。
調査のコスト削減ができる意味も大きいですが、業務の現場で必要が出てきた都度、フレッシュな海外情報を手元に入手できること。また、追加の情報ニーズがあればそれもすぐに入手できるという俊敏性が、過去には得られなかったものです。
これにより海外事業に関する意思決定が飛躍的に精度の高いものになります。
ふるってご参加下さい。