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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

第2章 アメリカが先に経験した"業務停止の地獄" - 出荷業務を止めないランサムウェア対策

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今泉追記:

このシリーズ(出荷業務を止めないランサムウェア対策)は、書籍執筆機能もあるChatGPT 5に書かせています。公開に当たり編集者として細部を修正などはしますが、基本的には彼だけで書いています。ChatGPTやGeminiに書籍を書かせるノウハウは一言では伝えづらいもので、何度も何度も試行錯誤しないと自分が狙った書籍クオリティが出せるようにはなりませんが、彼をしっかりとコントロールできると、ある程度のクオリティは出せるようになります。特にテクノロジーに関する膨大な調べ物が必要になるジャンル、歴史に関する膨大な調べ物が必要になるジャンルなど、執筆に当たって1ヶ月単位の調査が必要になるものでは抜群の執筆性能を示します。

第1章 『アサヒ事件が映した"依存構造の崩壊"』アサヒグループHD ランサムウェア被害の概要 - 出荷業務を止めないランサムウェア対策


第2章 アメリカが先に経験した"業務停止の地獄"

現代のビジネスにおいて、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)攻撃は企業活動を瞬時に麻痺させる「地獄」となり得ます。事実、アメリカではコカ・コーラクラフトハインツP&Gといった消費財の大手企業でさえ、その猛威を経験しました。彼らはサイバー攻撃によって機密データを奪われたり、業務システムを停止させられたりし、事業継続の危機に直面したのです。

本章では、米国企業が先んじて味わった"業務停止の地獄"の実態を紐解きます。具体的な事例から、単一障害点(SPOF:Single Point of Failure)の可視化と痛み、バックアップ破壊による復旧不能のリスク、そしてIT障害がOT(運用システム)に波及して工場出荷や製造が止まる現実について考察します。

章の最後では、「ではなぜ彼らは再び立ち上がれたのか?」という問いを投げかけ、次章のSPOF排除戦略への橋渡しとします。

米国消費財大手を襲ったランサムウェアの実例

まずは、米国の著名な消費財企業が経験したランサムウェアや業務停止インシデントを振り返りましょう。コカ・コーラでは、2025年5月にロシア系とみられるEverestランサムウェア集団から「内部システムに侵入し社員の個人情報を盗み出した」との犯行声明を受けましたscworld.com。攻撃者は旅券や査証のスキャン画像、給与明細など959名分の従業員データを入手したと主張。コカ・コーラのような世界的企業であってもサイバー犯罪者の標的から逃れられないことを社会に理解させました。

また、クラフト・ハインツ(Kraft Heinz)でも2023年にランサムウェアグループ「Snatch」からの攻撃を受けた疑いが浮上し、機密情報流出の可能性が報じられていますcybersecuritydive.com。幸い同社は「影響は旧式のマーケティングサイトに留まり、社内システムは正常稼働中」と公表し、大規模な業務停止には至りませんでした。しかし、"自分たちも標的になり得る"という警鐘となったことは間違いありません。

さらに、P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)は直接の社内侵入こそ免れたものの、重要な物流システムの停止という間接的な被害を受けています。2024年11月、P&Gが利用する外部の物流管理ソフト(Blue Yonder社の輸送管理システム)がランサムウェア攻撃に遭い、同社を含む複数企業で受注出荷業務に混乱が生じましたsupplychaindive.com。P&Gでは、この物流システムが止まった影響で受注残が四半期売上高の0.7%相当に達する事態となりました

しかしP&Gは非常時対応策として、わずか12時間で社内に手作業による代替システムを構築し、Blue Yonderと同等の基本機能を再現することで危機を乗り切ります。結果的に受注した製品の100%を出荷でき、四半期業績へ大きな影響を残さずに済んだのです。この例は、サイバー攻撃による業務停止の危機に対し迅速な対応策が奏功した稀有なケースと言えるでしょう。

以上の事例から浮かび上がるのは、「どんな大企業でも業務停止の地獄に陥る可能性がある」という現実です。特にランサムウェアは、企業規模に関係なく侵入し、データ窃取やシステム暗号化によってビジネスの中枢を直撃します。米国の消費財大手が被害に遭ったこれらのケースは、日本企業にとっても対岸の火事ではなく、自社の脆弱性を見直す鏡となるでしょう。

SPOF:見えざる単一障害点が突きつけた痛み

こうしたインシデントを経て明らかになったのは、企業システムに潜む単一障害点(SPOF)の存在と、その崩壊がもたらす痛みです。SPOFとは、ひとつの要素が故障・停止しただけでシステム全体が機能不全に陥ってしまう弱点のことです。平時には意識されにくいものの、サイバー攻撃によりその"見えざる急所"が突如露呈します。

P&Gのケースでは、物流管理を他社のクラウドサービスに大きく依存していたこと自体がSPOFでした。Blue Yonder社のシステムという単一点が止まるだけで、P&Gのみならずスターバックスなど多数の企業が出荷業務を寸断されかけたのですsupplychaindive.com。もしP&Gが迅速に代替策を講じなければ、受注残が増大して製品出荷が滞り、事業継続に深刻な支障が出ていたでしょう。言い換えれば、「外部委託の物流システムに依存する」という構造自体に重大な単一障害点が潜んでいたわけです。この教訓を受け、P&Gは冗長化や代替プロセスの重要性を再認識したと推察されます。

また、社内システムに目を転じてもSPOFは存在します。たとえば企業全体を一元管理する基幹システムやネットワークは便利な反面、"諸刃の剣"です。世界規模で事業を展開する企業ほど、一つの認証基盤(例えばActive Directory)や一元化されたERPに依存しがちですが、そこが攻撃で倒れると全世界の拠点が連鎖停止する恐れがあります。実際、ある調査では製造業の61%がサイバーインシデントを経験し、その75%で操業停止が発生、さらにその43%では停止期間が4日以上に及んだことが報告されていますcybersecuritydive.com。このような長期停止に陥る背景には、「代替システムが無い」「手作業で凌ぐ手順が整備されていない」といった備えの不備、すなわち単一障害点への対策不足が潜んでいるのです。

コカ・コーラ社の事例でも、表面上はデータ漏洩事件に留まったものの、その背後には「地域拠点のシステム資格情報が抜き取られ、本社ネットワークへの入口になり得た」というような構造的リスクが浮かび上がりましたscworld.com。仮に攻撃者が本社の生産管理システムや流通システムまで到達していれば、飲料製造や出荷が一斉にストップする悪夢のような事態も起こり得たのです。言い換えれば、「中東拠点システムの脆弱性」という一箇所の破綻が、全社規模の業務停止という痛みにつながりかねなかったのです。

このように、ランサムウェアの猛威が暴いたのは、企業活動を支える見えざる一本の糸が切れた時の脆さでした。SPOFの可視化は痛みを伴いますが、その痛みから学ぶことで初めて次の対策(糸を二重三重にして切れにくくする工夫)が生まれるのです。

バックアップ破壊と復旧不能の悪夢

ランサムウェア被害が深刻化する要因としてもう一つ見逃せないのが、「バックアップ破壊」による復旧不能のリスクです。多くの企業は平常時からデータのバックアップ(複製保管)を行い、万一システム障害が起きてもバックアップから復元すれば業務を再開できるよう備えています。しかし巧妙化した攻撃者は、その命綱であるバックアップを真っ先に断ち切る戦術を取ります。

サイバー犯罪者は一旦ネットワーク内部に侵入すると、まずバックアップデータやバックアップサーバを探索します。そして管理者権限を奪取し、可能な限りバックアップを削除・暗号化してしまうのですblog.min.io。これにより被害企業は人質に取られた本番データだけでなく、「最後の砦」であるバックアップも同時に失い、自力では復旧不能の状態に追い込まれます。実際、「攻撃者がネットワークとストレージへのアクセス権を得た場合、あらゆるバックアップを削除して被害者が復元できないようにする」と指摘する専門家もいます。このようなバックアップ無力化の手口は身代金要求をより確実に成功させるための常套手段となっており、企業にとっては悪夢以外の何物でもありません。

バックアップ体制に潜む構造的脆弱性も浮き彫りになりました。従来、バックアップ戦略はサーバ故障や人為的誤消去に備えるものでしたが、相手が意図的に破壊を狙ってくる状況は想定外でした。オンラインで接続されたバックアップシステムは便利な反面、攻撃時には真っ先に破壊されるリスクがあります。またバックアップデータが改ざんされ、いざ復元しても正常に動作しないケースも報告されています。「バックアップがあるから大丈夫」という前提が覆される----これがランサムウェア時代における新たな現実です。

例えば、2021年に世界的に猛威を振るったある破壊型マルウェア攻撃では、被害企業の一部で全社のITシステムとバックアップが同時に機能不全に陥りました。その結果、数週間にわたり通常業務が再開できず、一から数千台のサーバやPCをセットアップし直す羽目になったといいます(典型的な「復旧不能の地獄」です)。このような経験から米国企業は、「バックアップはオフラインまたは攻撃耐性の高い形で保管しなければならない」という教訓を血の滲むような痛みと共に得ました。つまり、バックアップそのものが単一障害点になってはいけないのです。

IT障害が製造現場を止めた現実

サイバー攻撃によるITシステム障害が、現場の製造ラインや物流を止めてしまう----かつては想像上のシナリオに思えた事態が、現実に次々と起こっています。情報技術(IT)と運用技術(OT)の境界が曖昧になり、工場の機械制御や出荷業務もITネットワークに依存する現在、IT障害がそのままOT障害に直結するケースが増えているのです。

米国第2位のビールメーカーであるモルソン・クアーズ社は、その典型例です。2021年3月、同社はサイバー攻撃により大規模なシステム障害が発生し、ビール醸造の製造ラインが世界各地で停止、製品の生産と出荷が滞りましたcybersecuritydive.com。被害後、「通常水準への業務回復に向けて進展した」としつつも、北米・欧州の複数工場で依然として遅延が発生していることを認めています。同社は公式レポートで「サイバーインシデントにより醸造、製造、出荷に混乱が生じ、復旧のため昼夜を問わず対応中」と報告しました。その影響は深刻で、第一四半期の生産・出荷量の一部(ビール換算で180万〜200万ヘクトリットル)が後年度へ持ち越され、約1億20百万~1億40百万ドルの収益が一時的に先送りとなったとされています。まさにITへの攻撃が工場稼働停止というOT領域の地獄に直結したケースでした。

同様に、食品大手ドール社では2023年2月にランサムウェア攻撃を受け、北米の食品加工プラントが一時全面停止し、各種製品の出荷が止まるという事態に陥りましたbitdefender.com。社内メモには「本日、当社の工場は稼働を停止し、全ての出荷を保留しています」とまで記されており、全米各地のスーパーでサラダなど同社製品が棚から消える事態となりました。ドール社は即座にサイバー専門家と協働して封じ込めを図り、「影響は限定的」と発表しましたが、少なからず実際の生産と物流に寸断が生じたのは紛れもない事実です。

食料・飲料業界は24時間稼働の工場が多く、IT機器にパッチ(更新プログラム)を適用するための停止時間を確保しづらいという特有の事情がありますcybersecuritydive.com。そのため脆弱性が残りやすく、結果として攻撃を許し製造ラインが止まるリスクが高いと指摘されています

実際、2021年には世界最大の食肉加工企業JBS社がランサムウェア「REvil」により食肉の処理工程を一時停止させられ、最終的に1100万ドル(約15億円)相当の身代金を支払って業務再開にこぎつける展開となりましたbitdefender.com。このように、サイバー攻撃はデジタル情報だけでなくリアルなモノの流れをも止めるのです。工場が静まり返り、トラックが倉庫から出せず、小売店の棚が空になる----それが「業務停止の地獄」が現実世界に及ぼすインパクトなのです。

ではなぜ彼らは再び立ち上がれたのか?

ここまで見てきたように、米国の大手企業でさえサイバー攻撃により一時は業務が麻痺する地獄を経験しました。しかし注目すべきは、彼らがその後立ち上がり、事業を再建した点です。モルソン・クアーズ社は数週間で醸造ラインを復旧させ、失われた生産を取り戻しましたcybersecuritydive.com。ドール社もサプライチェーンを再稼働し、市場への製品供給を再開しています。またP&Gは危機の只中で迅速に代替システムを構築し、四半期業績への影響を最小限に抑えましたsupplychaindive.com。彼らはいかにしてこの試練を乗り越え、再び立ち上がることができたのでしょうか?――この問いに対する答えこそが、次章『第3章:SPOF排除戦略』のテーマです。そこで私たちは、単一障害点を排除し、事業継続性を確保する戦略について詳しく探っていきます。

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