SIerの事業変革は本当にできるのだろうか 2/2
昨日のカンファレンスで確信したこと
昨日、「AI駆動開発カンファレンス 2025・秋」というイベントに参加しました。現地とオンラインを合わせ、3,000名もの参加者が集まったそうです。IT界隈でこれほどの盛り上がりを見せるコミュニティ・イベントは、最近では寡聞にして知りません。
これは、この分野への関心が非常に高いことは言うまでもないですが、それ以上に「技術の急速な発展にいち早くキャッチアップし、その動向を捉えておかないと大変なことになる」というエンジニアたちの焦りのような熱気を感じました。
カンファレンス主催者の冒頭の挨拶で、「AIが書くコードの品質も短期間のうちに劇的に向上した。もはや人間がコードを書く時代は終わりつつある」というメッセージがありました。AI駆動開発の最前線にいる当事者(エンジニア)の言葉として、非常に重みのあるものでした。
これに続く、WindsurfやDevin、Factory.aiといった先進的なAI開発ツールのファウンダーやCEOたちによる基調講演も、この言葉を裏付ける内容でした。特に印象に残ったのは、「人間の役割は、AIが仕事をするためのReadiness(準備作業)になる」という指摘です。
コードを書くことやテストすることに労働力を提供する工数ビジネス(人月ビジネス)が、時間の問題で消滅することは、もはや疑う余地がありません。これにどう対処するかをSIer、特に、工数ビジネスへの依存度の高いSES事業者や下請事業者は、喫緊の課題として向きあう必要があるでしょう。
では、どうすればいいのか
昨日のブログ(1/2)の最後で、私はこの変革のキーワードとして「時間差の利用」と「自律的組織への転換」の2点を挙げました。本日は、この2点について具体的に考えていきます。
1. 時間差の利用:AI移行期に生産性を極大化する
まず「時間差の利用」についてです。
短期間のうちに、コード生成やテスト作業は「技術的には」AI駆動開発ツールに置き換わるでしょう。しかし、ユーザー企業もSIerも、この変化に明日から即応することは容易ではありません。
その理由は、既存システムの複雑な依存関係、長年の商習慣に最適化された業務プロセス、そして何よりも、全社的なスキルセットの移行やAI生成物に対する検証体制の確立には、どうしても時間がかかるからです。
この「技術的な可能」と「組織的な受容」の間に生まれる「時間差」こそが、変革を目指す事業者にとってのチャンスとなります。
この時間差を利用するエンジニアは、今までと同じ方法で開発を行いません。使い慣れたIDEをベースにしたCursorやWindsurfのようなAI駆動開発ツール、あるいはローコード/ノーコード開発ツールを徹底的に駆使します。
これにより、生産性を何%や何割といったレベルではなく、「何倍」にも高め、少ない人数で多くの案件を短期間のうちにこなせるようにします。このようにして収益率を高めつつ、新しい技術へのキャッチアップが遅れている、あるいは内製化が難しいユーザー企業の「今すぐ解決したい」というニーズを確実に取り込み、少数精鋭のエンジニアでも高い生産性で高収益を維持することを目指すのです。
しかし、これはあくまで移行期の戦術です。AIが完全に普及すれば、この「時間差」は消滅します。従って、より本質的な変革が、次の「自律的組織への転換」です。
2. 自律的組織への転換:AI時代の「判断軸」を育む
AIがプログラムコードを生成する。そんな未来が現実のものとなりました。この技術革新は、開発現場に大きな変化をもたらしています。
経験豊富なエンジニアがAIを「優秀な相棒」として活用する一方で、経験の浅いエンジニアは、AIが生成した品質の低いコードを吟味できないまま量産してしまう、という新たな課題が生まれています。
このスキル格差は、AIが提示するコードの「良し悪し」を判断する「判断軸」の有無に起因します。AIはコードが使われる文脈や将来の保守性までを深く理解しているわけではありません。経験豊富なエンジニアは、長年の経験から培われた知識(=判断軸)に基づきAIを使いこなせますが、その軸を持たない初心者はAIに振り回されてしまうのです。
この深刻な課題を解決し、すべてのエンジニアがAIの恩恵を受けられるようにするには、エンジニアの育成方法を根本から見直す必要があります。
もはや、エンジニアに求められるのは「コードを書く」という知的力仕事ではありません。AIの生成物を見極める「目利き」となり、知的力仕事から解放された時間を「テクノロジーを前提としたビジネス構想力」の発揮に充てることです。そのためには、アジャイルやクラウド・ネイティブといったモダンIT環境を土台とし、コンピュータサイエンスなどの「原理原則」を深く理解し、それを対話やコミュニティ活動を通じて実践的に伝承していく、といった全く新しい育成戦略が不可欠です。
しかし、このような高度な「判断軸」と「構V」を兼ね備えた人材を、旧来のビジネスセンスや経験値しか持たない人間が育てることは困難です。
だからこそ、経営者は彼らに明確なミッションやビジョンを示し、その実現方法を現場が自ら考え行動できる「自律的な取り組みを促す組織」を作ることが不可欠になります。新しい時代のテクノロジーやメソドロジーに自発的に挑戦したいと考える人材にチャンスを提供し、積極的に支援するためにも、組織や報酬の制度も従来のやり方にこだわらず、ジョブ型やポスティング制度などをうまく使い、新しいことに取り組もうとする人材を生み出し、挑戦を支援していくべきです。
おわりに
もちろん、以上のような取り組みは「簡単ではない」という人もいるでしょう。長年の慣習を変え、既存のビジネスのやり方を否定することには痛みが伴います。
しかし、技術革新によって自分たちの事業が存続できなくなった後で、どうやって生きていくのかをゼロから模索するほうが、よほど「簡単ではない」未来ではないでしょうか。
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