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変わりゆくIT部門の役割 ― DX貢献への期待と現実のギャップ

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ガートナージャパンは2025年6月9日、日本企業におけるデジタル・トランスフォーメーション(DX)の取り組みとソーシング動向に関する最新の調査結果を発表しました。

この調査は2025年3月に国内企業のIT調達担当者を対象として実施されたもので、DXを「デジタル技術(AI、IoT、アナリティクスなど)やデータを活用し、製品・サービス、ビジネスモデルの最適化や変革を推進・実現すること」と定義し、企業の取り組みの実態と課題に迫る内容となっています。

DXの普及が前提となりつつある現代において、IT部門の役割やイン・アウトソーシングの在り方を見直す必要性が高まっています。今回は、Gartnerの調査結果をもとに、日本企業のDXの進展状況、IT部門の役割の変化、ソーシング戦略の課題、そして今後の展望について取り上げたいと思います。

日本企業におけるDXの取り組みの現状 ― 新規ビジネス創出まで広がる変革の波

調査結果から明らかになったのは、日本企業のDXへの取り組みが全方位的に広がっていることです。回答企業の7割以上が、提示された8つのDX目的すべてに対して何らかの取り組みを進めていると答えており、DXはすでに企業経営における基本的な課題となっています。既存ビジネスの効率化や強化といった従来型のテーマだけでなく、新規ビジネスの創出や新たな価値提供を狙う挑戦も、着実に進展している状況が浮かび上がりました。

また、どの取り組みにおいても、一定数の企業ではIT部門が主導的な役割を果たしていることが特徴的です。既存ビジネスのコスト削減やオペレーション効率化、基盤整備といった領域では、IT部門の主導割合が特に高く、デジタル基盤を支える部門としての役割が鮮明になっています。一方で、新規ビジネス創出などの分野では、事業部門や他部門が主導するケースも目立ち、IT部門は側方支援としての存在感を高めています。これは、DX推進の現場での役割分担が多様化しつつあります。

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出典:Gartner 2025.6

変わりゆくIT部門の役割 ― DX貢献への期待と現実のギャップ

DXの進展に伴い、IT部門の役割にも変化の兆しが表れています。調査によると、現時点でIT部門が最も注力しているのは「既存ビジネスを支えるシステムの開発、運用・保守」や「持続的な改善、効率化」であり、これに取り組む企業は62%にのぼります。一方で、「DXへの間接的/直接的な貢献」に注力しているとする企業は29%にとどまっています。

しかし、今後最も注力したい役割として「DXへの貢献」を挙げた企業は45%に増加しており、IT部門が従来型の保守・運用中心の業務から、DXを支える戦略的な役割へシフトしようとする意識が高まっていることが読み取れます。

このギャップの背景には、IT人材の不足や既存業務の負担増といった構造的な課題があります。Gartnerは、これらの課題を乗り越え、IT部門が真にDXを牽引する存在となるためには、役割の見直しと新たな能力の獲得が求められると指摘しています。

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出典:Gartner 2025.6

内製化の限界とソーシング戦略の見直しの必要性

DX推進の現場では、IT業務の内製化と外製化のバランスが大きな課題となっています。調査によると、自社ビジネス変革に密接に関わるIT戦略やシステム導入企画においてさえ、大部分を内製化できている企業は38%にとどまっています。システムの設計・開発・実装、運用保守、IT機器管理、セキュリティ、ヘルプデスクなど、他のIT業務に関してはさらに内製化率が低く、社外ベンダーや外部リソースの活用が避けられない状況です。

こうした中、IT部門と外部リソースの関係性の再構築が求められています。Gartnerの中尾氏は

従来のようにITベンダーに丸ごと任せるのではなく、DXを前提とした新たなイン・アウトソーシング戦略の策定が不可欠です

と述べています。その際、ビジネス目標に照らし、IT部門の役割を明確にしたうえで、生成AIなど最新テクノロジや多様なサービスを含めた選択肢を俯瞰し、最適解を模索する必要があります。また、多様化する外部ベンダーや人材の管理能力を強化することも、これからのITリーダーに求められています。 

今後の展望 ― DXを支える新たなIT部門像の構築に向けて

今回の調査は、日本企業のDXが単なるスローガンを超え、具体的な実装段階に進んでいることを示しています。一方で、IT部門はその役割の転換期に差しかかっており、既存業務の効率化からDX貢献へのシフトをいかに実現するかが問われています。

今後、IT部門が果たすべきは「戦略的パートナー」としての役割の確立です。そのためには、イン・アウトソーシングの最適化だけでなく、社内外のリソースを一体化させるオーケストレーション力が必要です。生成AIなどの新技術の活用、外部人材やサービスの選定眼、そして多様なステークホルダーを巻き込む推進力を備えたIT部門の構築が、企業のDXを真に成功に導く道といえるでしょう。

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