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なぜ成熟度の高い組織はAIで成果を上げられるのか?

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2025年6月30日、ガートナーは「AI成熟度が高い企業の45%は、AIプロジェクトを3年以上運用している」とする調査結果を発表しました。本調査は2024年第4四半期に米国、英国、フランス、ドイツ、インド、日本の計432社を対象に実施され、企業におけるAIおよび生成AIの導入状況と課題が明らかになりました。

Gartner Survey Finds 45% of Organizations With High AI Maturity Keep AI Projects Operational for at Least Three Years

社会全体で生成AIを含むAI技術の活用が進む中、多くの企業は「AIの価値を持続的に生み出す」ことに苦心しています。短期的な成果に終わるプロジェクトが散見される一方で、AI成熟度が高い企業では、AIプロジェクトが長期にわたりビジネスに貢献していることが調査で示されました。背景には、データ品質の確保、信頼の醸成、専任リーダーの配置など、AI活用に向けた組織的な取り組みの差が存在しています。

今回は、AIプロジェクトの持続性を左右する成熟度の違い、データと信頼の課題、専任AIリーダーの役割、そして今後の展望について取り上げたいと思います。

AI成熟度がもたらすプロジェクトの持続性

ガートナーの調査によれば、AI成熟度の高い企業の45%が、AIプロジェクトを3年以上運用しています。これは、低成熟度の企業の20%と比較すると、その差は歴然です。成熟度の高い企業は、AIプロジェクトを単なる試験的導入にとどめず、長期的に価値を生み出す戦略的資産として位置づけていることがうかがえます。

その背景には、事業価値と技術的実現可能性を基準にAIプロジェクトを選定し、ガバナンスとエンジニアリングの両面で堅牢な体制を構築していることが挙げられます。これにより、短期的なブームに左右されず、継続的な価値創出を可能にしているのです。

データ品質と信頼が成功のカギ

AI導入において、成熟度を問わず共通の課題として浮かび上がったのが「データの可用性と品質」です。高成熟度企業の29%、低成熟度企業の34%が、この点を主要課題に挙げています。データはAIの根幹を成すものであり、質の低いデータは誤った予測や分析を引き起こし、事業リスクを高めるため、データ品質の確保が求められています。

また、ガートナーは「信頼の構築」がAI導入成功の分岐点になると指摘しています。高成熟度企業では57%が「ビジネス部門がAIを信頼し、積極的に活用している」と回答しましたが、低成熟度企業ではこの割合は14%にとどまりました。信頼の醸成は、AIの価値を事業に根付かせ、持続的な成果を引き出すために重要です。信頼を築くには、透明性の高いAI設計、説明責任の確保、ユーザー部門との協働が必要となるでしょう。

専任AIリーダーが牽引する戦略的AI活用

調査結果では、AI成熟度の高い企業の91%が「専任AIリーダー」をすでに配置していることが明らかになりました。こうしたリーダーは、AIイノベーションの推進(65%)、AIインフラの整備(56%)、AIチームの育成(50%)、AIアーキテクチャの設計(48%)といった重要な役割を担っています。

加えて、高成熟度企業の約60%が「AI戦略、ガバナンス、データ、インフラの機能を中央集約化」しています。この中央集約型の取り組みは、AIリソースの最適配分や効率的な実装を後押ししています。専任リーダーを中心に、AIを全社的に戦略資源として位置づけ、ガバナンスと実行力を一体化している点が、成熟度の高い企業の強みといえます。

AI効果を最大化するための指標の整備

高成熟度企業では、AIプロジェクトの価値を「数値」で管理しています。調査によると、63%の企業がROI分析やリスク要因の財務分析、顧客インパクトの定量評価を行っており、これが持続的な価値創出に直結しています。指標を持つことは、AIの効果を可視化し、経営層の意思決定を支えるとともに、プロジェクトの改善につながっています。

こうした指標の整備は、AIに対する社内の信頼感向上にも寄与します。数値で効果を示すことで、AIの導入が「試験的取り組み」から「事業の中核」に移行するのです。

今後の展望

AIの価値を長期にわたり引き出すためには、いくつかの重要な課題への対応が求められています。

まずは、データ品質と可用性の強化です。AIの精度や信頼性はデータに依存するため、社内外のデータガバナンス強化やデータ統合基盤の整備が必要となるでしょう。

次に、信頼を軸としたAI活用の深化です。生成AIの進展に伴い、説明可能性や倫理性への関心が高まる中、透明性の確保とガバナンス強化が一層重要となります。専任リーダーを中心としたAI推進体制が、社内外の信頼獲得のための基盤を提供することが求められています。

そして、AI活用の全社戦略化が進む中で、戦略、データ、インフラの一元管理を強化し、全社的な連携による価値創出が求められています。今後、AIの価値を持続可能な形で事業に定着させるためには、これらの取り組みを着実に進める必要があるでしょう。

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出典:ガートナー 2025.6

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