国内サービス市場は8兆円超の成長軌道に──AIとクラウドがけん引
IDC Japanは2025年6月23日、国内サービス市場の2024年の実績と今後の予測を発表しました。IDCによると、2024年の国内サービス市場規模は前年比7.2%増の8兆8,166億円に達し、2029年には12兆1,651億円にまで拡大する見通しです。この成長の背景には、企業のデジタル化支援需要の高まり、クラウド移行の加速、そしてAIの活用拡大などがあり、市場は大きな変革期を迎えています。
今回の記事では、IDCの最新データに基づき、国内サービス市場の現状と成長の要因、マネージドサービスやサポートサービスの動向、そして今後の展望について取り上げたいと思います。
デジタル化とクラウド移行が牽引するプロジェクトベース市場の躍進
国内サービス市場の成長を支えている中心的な存在が、コンサルティングやシステム構築を担うプロジェクトベース市場です。2024年の同市場の規模は前年比10.4%増の3兆5,728億円となり、2029年には5兆5,159億円に達すると予測されています。この市場の年平均成長率は9.1%と、他のサービス分野を上回る水準です。
その背景には、企業のレガシーシステム刷新やクラウド基盤への移行、さらにはデジタルイノベーションの実現に向けた新システム開発需要の拡大があります。企業は、AIやデータ分析、IoTといった新たなデジタル技術を業務やビジネスモデルに組み込み、競争力を高めようとしています。こうした動きは、従来のシステムの枠を超えた新たなシステム開発や高度なコンサルティング需要を生み出し、プロジェクトベース市場を力強く後押ししています。
マネージドサービス市場の成長とアウトソーシングの多様化
マネージドサービス市場も堅調な拡大を見せています。2024年の市場規模は前年比5.2%増の4兆1,380億円となり、2029年には5兆3,065億円に達すると見込まれています。成長率こそプロジェクトベース市場に比べて控えめですが、企業の運用負担軽減や業務効率化への期待が当市場を支えています。
中でもマネージドクラウドサービスやサービスプロバイダー向けのコロケーションサービスの需要が高まっているほか、人事、財務、調達といったコア業務の外部委託も市場を拡大させる要因となっています。日本企業が持つ「内製志向」にも変化が見られ、運用や保守といった領域で、信頼できる外部パートナーとの連携がより積極的に進められている状況です。
SaaS活用の進展とサポートサービス市場の動向
サポートサービス市場も、安定した成長を続けています。2024年の市場規模は前年比4.3%増の1兆1,058億円であり、2029年には1兆3,428億円に達すると予測されています。年平均成長率は4.0%と緩やかですが、SaaS型のパッケージソフトウェア活用が広がる中で、ソフトウェアサポートや保守サービスが着実に市場拡大を支えています。
企業がクラウド型のソフトウェアを積極的に採用する流れは、IT部門の運用負荷を軽減するだけでなく、ベンダーに対してもサポートや保守の質とスピードを一層求める結果となっています。そのため、サポートサービス市場では、より高度な技術支援や運用ノウハウの提供が重要になりつつあります。
国内サービス市場が直面するリスクと可能性
国内サービス市場は今後も成長を続けると予測されていますが、その道のりは決して平坦ではありません。IDCの吉井誠一郎氏が指摘するように、米国トランプ政権による関税政策が日本のIT投資に与える影響は、無視できないリスクです。IT機器やクラウドサービスのコスト上昇は、企業の投資計画やサービス需要にブレーキをかける可能性があります。
一方で、AIの活用拡大は市場の成長に大きな追い風となっています。生成AIを含む先進的なAI技術が、業務効率化や新たな価値創出の中核として期待され、プロジェクトベース市場を中心に新しい需要を生み出しています。企業にとっては、AIをいかに戦略的に組み込み、実装・運用していくかが競争力を左右する重要な課題になっています。
今後の展望
今後、国内サービス市場はAI、クラウド、デジタル変革の進展とともにさらなる成長が期待されています。特にプロジェクトベース市場は、生成AIや自律型システムの導入、データドリブン経営の本格化を背景に、新たなビジネス変革を支援する取り組みが活発化していくでしょう。
マネージドサービス市場では、クラウド運用やコア業務の外部委託が一層進むと予想され、ベンダーにはセキュリティやコンプライアンスへの対応力が強く求められます。また、サポートサービス市場においても、SaaS時代にふさわしい高付加価値のサービス提供が競争の鍵となります。
一方で、外的リスクとしての国際情勢や貿易政策の変動、円安の進行などがITコストに影響を与える可能性は引き続き注視していく必要があります。市場成長のチャンスを確実に捉えるためには、国内外の環境変化に柔軟かつ迅速に対応する戦略が企業およびサービスベンダーに求められています。
出典:IDC Japan 2025.6