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APACのIoT市場は2029年に3,550億ドルへ――成長の鍵は製造と公共サービス

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IDCは2025年6月23日、「Worldwide Semiannual Internet of Things (IoT) Spending Guide」を発表しました。

IDC: Asia/Pacific* Internet of Things Spending to Reach $355 Billion in 2029

IDCの発表によると、アジア太平洋(以下APAC)地域のIoT関連支出は2025年に2,410億米ドルへ達し、2024年比12.5%増となっています。さらに、年平均成長率(CAGR)12.6%で拡大し、2029年には3,550億米ドルに到達する見通しです。IDCでは、製造、政府、流通、電力などが市場をけん引すると指摘します。

デジタル変革を加速させる鍵として、センサーを中心としたハードウェア投資と通信サービスの伸長が示され、APAC企業の競争力向上が期待されています。

成長軌道に乗るAPAC IoT市場

IDCが描く成長曲線は、アジア太平洋域内でのデジタル化需要の高まりを反映しています。人口規模が大きく、スマートファクトリーや都市インフラの近代化が進む中国やインドでは大規模なプロジェクトが動き出しています。

ASEAN各国でも、リモート監視やエネルギーマネジメントにIoTを組み込む動きが加速し、地域全体の成長を底上げしています。

企業は運用コスト削減と迅速な意思決定を両立させるため、センサーから取得したリアルタイムデータをAIで解析し、需要予測や保守計画に活かす戦略を取っています。12%台というCAGRは、景気変動の影響を受けにくい"基盤投資"としてのIoTの強さを物語っています。

製造・公共部門が支出を主導

2025年時点で、製造、政府、流通、電力の4業種だけでAPAC全体のIoT支出の半分超を占めます。製造では産業機械の稼働監視やライン制御の高度化が進み、品質保証の自動化ニーズも高まっています。

政府領域は公共安全と都市サービスの効率化を目的に、交通管制や災害対応にIoTを実装中です。

流通では在庫可視化や需要連動型の棚補充が広がり、電力・ガス各社は漏えい検知や需要予測でコスト削減を図ります。

医療と運輸は今後5年間で最速の支出拡大が見込まれます。遠隔診療デバイスやスマートロジスティクスの投資が、本格的な普及段階に入りつつあるといいます。

ハードウェア主導からサービス強化へ

2025年の支出構成ではハードウェアが6割を超え、センサーや通信モジュールの導入が依然として市場を支配します。今後は通信事業者が提供する接続サービスやSaaS型プラットフォームが、最も高い成長率を示す見通しです。

企業はデバイスだけでなく、AI・分析機能やセキュリティを実装した統合サービスを重視し始めているといいます。IPv6/5G対応ネットワークの整備が進むことで、低遅延かつ大容量のデータ伝送が可能になり、クラウド側のリアルタイム分析と現場オートメーションを組み合わせる動きが加速します。セキュリティ分野ではゼロトラストアーキテクチャの採用が進み、攻撃対象の急増に備えた多層防御が必須とされています。

地域別トレンドと政策インパクト

2025年の支出シェアは中国が60%強を握り、インド、韓国が続きます。中国では製造強化策「新型工業化」がスマートファクトリー投資を後押しし、中央・地方政府の補助金がIoT普及を下支えしています。

インドは「Digital India」やPLI(生産連動型インセンティブ)政策が機器製造と通信インフラ拡大を促進し、地方都市にまでIoT実装が波及し始めました。

韓国は半導体と車載分野の強みを生かし、AI連携の広域IoTプラットフォーム整備に注力しています。

インドネシアやベトナムも公共インフラ近代化と産業高度化を掲げ、政府主導のスマートシティ計画が市場の新たな原動力となっています。各国の政策競争がAPAC全体の技術標準やエコシステム形成を加速させる構図です。

今後の展望

IoT市場の拡大が示すのは、データ駆動型経営が企業価値を左右する時代への移行です。APAC企業はAI解析や量子暗号通信など先進技術を組み合わせ、リアルタイムなサービス提供で差別化を図る必要があります。

ハードウェア主体の投資から、データ統合・分析・セキュリティを一体化したサービスへのシフトが進む中、エコシステムを制するプレーヤーが中長期的な競争優位を築くでしょう。日本企業もグローバルサプライチェーンの高度化やスマートファクトリー海外展開を通じ、新たな市場機会を獲得することが期待されています。

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出典:IDC 2025.6

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